１．ランジェリーショー

「沙希ちゃん、もうちょいお尻上げて・・・」
　カメラを構えている拓也が沙希に支持すると、沙希は、つんとお尻を持ち上げる。ピンクのシースルーのベビードールにストリングショーツ。お尻を持ち上げると、丸い形のいいお尻の双丘がつるんと顔を出す。その先には、ガラス越しに何人かのギャラリーがいた。
　沙希は、由香里のランジェリーショップのイベントでモデルのバイトをしていた。
　由香里の店は、地下の商店街の一角なのだが、もうひとつ、オフィス街の真ん中のごく普通なオフィスビルにもある。こちらは、高級なランジェリーやビキニが主で、普段は、あやしいグッズは置いてない。撮影はそこの最上階、催し物会場で行われていた。
　会場には、もちろん商品が並んでいたが、中央にステージが作られていて、何回かランジェリーショウが催され、その合間に、ショウに出るモデルを使って、商品のカタログ写真を撮っているのだ。会場の奥の一角が、ガラス張りの間仕切りで仕切られ、撮影はそこで行われている。数人が中を覗いていた。
　モデルは沙希の他にもう１人、亜佐美がいた。
　１人が撮影している間にもうひとりが着替えるようだ。会場は、お馴染みさんで溢れている。たいていの男性が女性づれで来ている。中には、数名の女性を連れてきているお店のマネージャーらしき人もいた。

「あら、真希ちゃん」
　由香里は、真希を見つけると、真希のところに寄ってきた。
「由香里さん、お久しぶり」
　真希も、由香里に挨拶した。
「大盛況ですね」
「おかげさま」
　由香里は、笑った。
「撮影まで、ショーにしてるんですね」
「まぁね。女の子のショッピングは時間かかるでしょ。男はひまだからね」
「なるほど・・・さすが・・・ですね」
「沙希ちゃん・・・どう？」
「いい子ですね。わたし、気に入っちゃいました。ビデオも撮るって言ってましたよ」
「雅紀が？」
「ええ・・・彼も、気に入ったみたいですよ」
「あらあら・・・うちの専属にしようと思ってたのに・・・」
　由香里が笑った。
「ねぇ、真希ちゃん。もうすぐ、ショーだけど見てく？」
「ええ」

　数人のモデルが、ランジェリー姿でフロアからステージに上がる、ごく当たり前な、ランジェリーショウが終わると、店内の照明が少し落ち、ステージ上にスポットが当たった。
　そこに大きな布を掛けられたカーとが２つ運ばれて置かれた。
　男性が２人、それぞれ布をゆっくり持ち上げる。カートの足に固定された、２本の足が見える。
　足首から・・・膝の裏・・・・太股・・・。さらに持ち上げる。二人とも丸い形のいいお尻が晒された。左の女性は股間に一筋の真珠の玉。右の女性は、鎖が２本。
　男達は、念入りに、その股間にクリームを塗りたくると、今度は、くるっとカートを回し、布で覆われた顔のほうを客席に向けた。
　布を上げると・・・フェイスマスクで鼻意外の顔面全てを覆われた顔が出てきた。マジックテープで口の部分だけあけることができる。男達は、口の部分を開けた。左の男が、太目の双頭ローターを右の男が細めの双頭バイブを持ち出し、それぞれ、彼女たちの口に差し入れる。彼女らは、それに舌を這わせた。
　もう一度、それぞれ横を向かせると、左の女性のアナルに細めのバイブ、右の女性の中に太目のローターが挿入され、二人のカーとは、徐々に近づけられ、それぞれ飛び出しているもう一方の部分をお互いに挿入された。上下に２本、ゆっくりとお互いのお尻がくっつくまで奥深く差し込んで、スイッチが入れられた。
「･･････ああ･･････ああ･あ･ああ・・・・・・ああああ・・・・・・・」
　しばらくすると、二人の女性の口からあえぎ声が漏れ始めた。
　男達は、布でかくされた彼女らの腕を真っ直ぐ前に伸ばし、カートを押す手の部分にテープで固定して、そこに布を掛けた。
　その布の陰で、彼らが何をしているのか、客席からは見ることはできないが、彼らは、女たちの頭を両手で固定し、腰を前後させている。
「ふ･･ぅぐわぁ・・・・・ぐ・・ふわぁ・・・」

　真希は、相変わらず過激な由香里のショーに舌を巻きながら、ショーが終わるのを待った。
「真希さん・・・どうして・・・ここに？」
　沙希が、驚いて大声を出した。
「後で説明するわ。さっ・・・食事に行こ」
「真希さん、俺は？」
　横にいたカメラマンの拓也が、間に割り込んできた。
「そうね、拓也も行こうか」
「ええ？・・・知り合いなんですか？」
　沙希は、唖然とした顔で二人を見つめた。

２．過去

　真希は、拓也に運転させ、食事に向う車の中で、これまでのいきさつを全て話した。
「なんだ・・・そういうことだったんですか？」
　意外にも、沙希の反応は、それだけだった。
「･･･怒った？」
「ううん。別に・・・」
「どうしたの？なんか元気ないみたい」
「いえ・・・」
　そうは、答えたが、あきらかに沈んだ表情だ。
「あのぉ・・・」
　おもむろに沙希が問いかけた。
「何？」
「今日のショーに出てた男の人・・・あの人達も・・・ＮＯＡｈの人ですか？」
「ううん。うちのモデルじゃないわ。由香里さんが手配したんじゃないかな・・・・」
「そうですか」
「どうかした？」
「・・いえ・・・」
　沙希は、言葉を濁した。
「深雪さんとこのショーで見たことあるよ。あの連中」
　拓也が、口を挟んだ。
「知ってるんですか？」
　急に沙希の声が高くなった。
　深雪の店は、かなりハードなＳＭショーで有名なクラブだ。もともと、由香里がやっていた店なので、ＮＯＡｈも付き合いがないわけではない。
「インディーズのＡＶを撮ってるらしいけど・・・まぁ、いわゆるハメ撮りってやつ・・・」
「どうしたの・・・」
　今度は拓也が沙希に訊いた。
「いえ・・・・」
　相変わらず、沙希は、言葉を濁す。

「もしかして・・・・ひどいめにあったとか？」
　しばらく沈黙した後、急に拓也が言った。
「あいつら・・・監禁ものが主なんだけど・・・・」
「沙希ちゃん・・・・やられたの？」
　真希が、沙希の顔を覗き込んだ。
「・・・いえ・・・でも、・・・・」
　また、沙希は口を閉ざした。
「拓也、食事さぁ・・・やめて飲みに行こう」
「いいっすよ」

　真希は、個室になった居酒屋に沙希を連れて行った。
「ちゃんと、食事もできるわよ。和食だけど・・・・」
「ごめんなさい・・・なんか気を遣わせちゃって・・・」
「いいの、いいの。嫌なことを思い出したんなら・・・・飲んで、忘れちゃいましょ」
「拓也、あんたに任せるから・・・適当に注文して・・・」
「了解」
　さっそく、拓也は、品書きを広げた。
「真希さん」
「何？」
「さっきのことですけど・・・」
「いいのよ。言いたくないことは言わないで・・・誰だって、思い出したくないことのひとつやふたつ、みっつよっつ、あるものよ」
「わたし・・・援交してたんだ」
　沙希が、ポツリと話し出した。
「うち、両親が離婚して、母子家庭で・・・けっこう貧しくて・・・だからってわけでもないけど・・・」
　真希は、黙って聞いた。
「高２の頃、何回かやって・・・、そしたら、４０くらいのおじさんに気に入られて・・・。そのおじさんと月に２回くらいのペースで会うようになって・・・」
　沙希は、真希を見て、両肩を少し持ち上げて見せた。
「そのおじさんに、朝、電車で会ったの。びっくり」
「偶然？」
「ううん、いつも同じ電車に乗ってたみたいなんだけど、他人だったし・・・気づかないでしょ。しかも、同じ駅から乗ってたの・・・」
「ふーん」
「そのおじさん、ちょっと変で・・・・私を見つけると、寄り添ってきて・・・触ったの」
「痴漢？」
「うん。それから・・・毎日・・・」
「毎日？」
「時間ずらしたり、車両変ったりしたんだけど・・・援交、ばらすって・・・今思えば、そんなことしたら自分が捕まるわけだから、ばらせっこないんだけど・・・」
「そうね・・・」
「・・・痴漢されてるのを見られてたの」
「誰に？」
「クラスの男の子・・・・援交もばれた」
　拓也も真希も、ただ黙って聞いた。
「痴漢女って呼ばれて・・・。誰とでも寝るって・・・。ひどいこともされた・・・」
　暗く沈んだ沙希の表情は、年相応の顔に変っていた。