≪序章≫

　光々と照らされた小さなステージ上に、不安そうに立ち尽くす一人の少女。
　まだ、あどけない顔立ち、華奢な身体つき、セーラー服がよく似合っている。
　幾分、体が震えているかのようにも見える。
　ステージの前には、これから始まるであろう最高のイベントを、今か今かと待ち望む中年男性たちが、固唾をのんで待っている。

　福永美香、池畑中学校1年。彼女と出会ったのは、つい三ヶ月ほど前のことだった。
　仕事を終え、帰宅すると、玄関には、何足ものスニーカーが散乱していた。
　リビングからは、何人かの若い声がしている。
　息子の友達が来ているようだ。
　リビングに入ると、男の子が２人、女の子が３人、所狭しと、何やら、話しこんでいる様子。
「ただいま。お友達かい。」
「うん、同じ班の子。発表の打ち合わせ。」
　息子のクラスでは、時たま、一つのテーマを与えられ、その研究成果を発表するという授業がある。
　受験一色の教育かと思っていたが、最近では、こういった授業も行われているようだ。
　レポート用紙には「環境破壊」とか「生物循環」とかいった文字が垣間見えた。
　最近、話題となっている「エコ」についてであろうか。
　食事をしながら、子供たちを見ていた時、ふと一人の女の子に目がとまった。
　どこかで見覚えのある少女だった。（そうか、あの子かぁ）

　私は、商店街近くで、フォトスタジオを開業している。
　フォトスタジオと言っても、昔でいう「写真屋」に少し毛の生えたようなものだ。
　デジタル時代になった今では、写真の現像だけでは商売は成り立たず、週2回、素人相手の写真教室を開いたり、学校の理科の授業で、ピンホールカメラの実演をしたり、色々と、趣向を凝らした商売をしなければならない時代である。
　学校や町のイベントの撮影や、ポスター制作も、こちらから営業に出かけて行って、やっと発注を受ける有様。
　写真屋が、営業に奔走するとは、おかしな時代だ。
　成人式やお見合い写真も、昔に比べれば、ずいぶん少なくなった。
　時代は変わったものだ。

　夕方、店の前を下校していく小中学生達。
　その中に、ひときわ目を引く少女がいた。
　そう、あの子である。
　小柄ではあるが、すらっとした姿勢。セーラー服がよく似合い、まさに「少女」の名にふさわしい感じだ。
　垢ぬけた感じもなく、清純そのもの。そんな感じの少女である。
　顔立ちも、美人といった感じではないものの、今流行りのアイドルグループにいそうな感じ。
　往年のアイドル、松○聖子を彷彿とさせる。
　まさに、中年好みの少女である。

　息子の班は、男女３人づつの６人のようだ。
　見ていると女の子2人がリーダーシップをとっている。
　男3人がたじたじと言った感じである。
　その中で、彼女は、みんなの話を聞きながら、ニコニコと笑っている。
「アハハハ・・・」明るい笑い声である。
　笑った顔も、少女らしく実に明るい笑顔である。
　ついつい彼女に見入ってします。
（そういえば最近こんな子にはお目にかかっていなかったなぁ）


≪裏家業≫

　私は、学生時代に、ある撮影スタジオでアルバイトをしていた。
　家業の写真屋を継ぐことは暗黙の了解としていたが、それだけでは物足りず、
できることなら、プロの写真家になれないものかと思い、勉強も兼ねてのアルバイトであった。
そんな折、先輩から、ヌード撮影の助手をしないかと誘われた。若かった私は、「ヌード」という言葉に、即座に反応し了承した。
　しかし、それは、ただのヌード撮影ではなかった。
　素人の少女を言葉巧みに脱がしていき、そして、普通では絶対に人前で見せることのない、きわどいポーズを取らせていく。そして、性器を中心に、少女のすべてを撮影するというものであった。
　本人も、了承の上で、ある程度は覚悟はしているものの、いざとなると、かなり恥ずかしいらしく、中には、途中で泣きだしてしまい、無理やり性器を吐き出しにされ撮影されていた少女もいた。
　最初は戸惑った。「こんなの有りかよ。」そう思った。
　当時、童貞を卒業したばかりの私にとって、刺激的な風景であった。
　ヌードもさることながら、あられもないポーズで、性器を露出している姿は、目をくぎ付けにした。
　スタッフ達に「お前、勃起してんじゃねぇの？」とからかわれ困惑した。
　実際、勃起していた。何も言えなかった。
　やがて、その少女たちの痴態に歓喜を覚えるようになっていき、気づいた時には、その世界にどっぷりとハマってしまっていた。
　そうして、撮影された少女は、やがて、中年男たちの待つ撮影会へと出演させられるのである。
　オヤジたちの前で、全てを晒し、写真に撮られていくのである。
　もちろん、公にできることではなかった。
　危ない仕事であることは分かっていた。
　しかし、やめようとは思わなかった。
　結局、プロの写真家への道は閉ざされ、私の学生時代は過ぎていった。

　大学卒業後、実家に戻った私は、家業の写真屋を継ぎ、平凡な毎日を過ごしてきた。
　縁もなく、なかなか結婚できなかった私も、30代後半にやっと結婚。
　子供もでき落ち着きかけたころ、かつての友人から連絡があった。
　また、例の撮影会をしないかということだった。
　あれから20年近くもたっており、今や父親となり家族持ちの私には、思い出してはいけない過去であった。
　断るつもりで、友人と会った。
　彼は、私が断るであろうことを見過ごしていたかのごとく、誠心誠意（この場合、「誠心誠意」という言葉が適切であるかどうか疑問であるが）説得に執心した。
　彼は、決して私を脅迫すような言葉は言わなかった。
　もし、脅迫をしかけてくるようであったら、逆に脅してやろうと思っていた。
　彼は、淡々と、私を説得しようとした。そして、一枚の写真を見せられた。
　衝撃が走った。そこには、一人の少女が制服のスカートを捲りあげ立っていた。
　しかも、スカートの下は何もつけていなかった。高校生だろうか？
　美少女とも思える少女が、スカートを上げ、下半身を見せていたのである。
　当時は、少女と言いながらも、女子大生が中心であった。
「竹の子族」や「不良」といった言葉が流行し、少女たちも、スレたファッションをした。
　今から思えば、清純のかけらもなかったのではないか。
　しかし、写真の少女はそうではなかった。正に清純そのものであった。
　彼に言わせれば、最近は中高生が好まれるのだそうだ。
　ＪＫとかＪＣとか言うのだそうだ。
　しかも、清純であればある程良いという。
　モデルは、全て性体験未経験者、いわゆる「処女」だという。
　男性に裸体を見せたことのない少女が、中年たちに、その処女の体を見せるのである。
　本人も了承しており、決して性行為などはしないという。
　当時のような、いわゆる売春や援助交際の斡旋ではないという。
　当時のモデルは、ＳＥＸ経験者も多く、撮影の後、売春行為をしていた者もいた。
　今は違うという、あくまでも、「撮影会」なのだという。
　だからと言って、犯罪行為ではないとは言えまい。
　一度「撮影会」に参加してみろと言ってきた。
　いけないことだと思いつつ、あの写真の少女が目に焼き付いていた。
　迷った挙句、行くことにした。
　衝撃だった。
　そこでは、清純そのままの少女が、下着を脱がされ、中年男たちの前で、「処女」をさらされていたのである。
　中年男たちは、カメラを構え、ひたすらその痴態を撮影したり、ステージにかぶりつき一心に見入る者もいた。
　さまざまのスタイルで、思い思いの欲望を消化していた。
　私の中で、昔が蘇り、いつの間にか、その光景に、浸かっていく自分がいた。