≪美香≫

「今日中にやらないといけないの？雨降ってきたし、遅くなるわよ。」
　心配した母親が声をかけると、子供たちは窓を見て、
「ヤバ！帰ろ。」「あと、カズ君に任せた。よろしく。」一斉に帰り仕度をはじめた。
「お父さん、トシ君と美香ちゃん送ってってよ。」
「遠いのかい。」
「ちょっと距離あるから。」
　私は、立ちあがってガレージの方へ向った。
　バックミラーごしに、後部席の彼女と視線が合った・・・そんな気がした。
　不覚にも「ドキッ」とするのもを感じた。
　私は、何を考えているのか。自分の浅ましい考えを否定しようとしが、どうにも気になって仕方がない。
　トシ君が下りると、車内は二人きりに。
「君は名前はなんていうの」
　私の問いかけにドキッとした表情で、「美香」と一言。
「美香ちゃん？苗字は？」
「福永」
「大沼町の福永さんって、ひょっとして区長さんとこの子？」
「はい。」
「この間、グランドゴルフで、おじいさんに会ったよ。」
「区長は初めてだから大変だって言ってみえたよ。」
　普段からおとなしいのか、おじさんと二人きりで気まずいのか、あまり話にのってこない。
　いや、むしろこちらの方が、意識しすぎて気まずい感じだ。あまり会話が弾まない。
（こんな可愛らしい子を、撮影会に出すことができたら・・・きっと評判は高いぞ。）
（それよりも何よりも、この子が、羞恥に震える姿を見てみたい。）
（何を、馬鹿なことを考えているのか。この子はまずいだろう。まして、地元の子はまずいだろう。）
　これまで、ずっと地元は避けてきた。
　隣町の青田中学や三郷中学、それに池畑高校の生徒は、何人か出演させてきた。
　確かに、このあたりで、出演させていないのは、地元、池畑中学だけである。
（それに、この子は、息子と同じクラスの子じゃないか。それは、まずいだろう。）
（確か、父親は、県庁勤めだと聞いている。きっとこの子もまじめな子だろう。）
（しかし、これほどの少女は、最近いなくなってきている。）
　今や、中学生ですら、性体験をする子が多くなってきているという。
（この子は、性体験はあるのだろうか？見た感じは、明らかに処女だ。そうあってほしい。）
　友人に誘われ、再び裏稼業に関わりを持って、早10年がたとうとしている。
　この10年間、年に数人の少女を「撮影会」に出演させてきた。
　しかし、意識的に地元は避けてきた。
　まして、身元がハッキリわかっている少女はいなかった。
（しかし・・・・・これほどの少女は・・）
　私の中で、何かが燃え上がり、葛藤が続いた。

　やたらと外が気になる。
　彼女が、店の前を通るのは午後四時頃だ。
　あれから、夏休みに入り、彼女を見かけることがなかった。
　夏休みが明け、今日から通常どおりであるはずだ。
　わざと外に出てみる。普段掃除をしたことのない、ショーウインドウを拭いてみる。
　まだか。なぜだかドキドキしてくる。落ち着かない。何度か、出たり入ったりしてみる。
　たまたま、他の店からは死角になっており、見えていないはず。
　見えていれば、不審に思われるのか。そんなことはない。店先を掃除しているだけだと言い聞かせる。
　来た！彼女だ。
　遠くからでも、少女のオーラが出ている。そんな気がした。
「お帰り。」わざとらしく声をかけてみる。
「こんにちは」返事が返ってきた。笑った、ニッコリと笑っていた。そう見えた。
　嬉しかった。気に入られていると思った。少なくとも嫌われてはいない。そう思った。
　やはり、セーラー服が似合っている。
　白の半そで、襟と袖に黒の2本ライン、黒のスカーフが映える。
　中学生時代から、この制服が好きだった。
　中2のときに同じクラスの子が好きだった。
　その子も、小柄で、制服が似合っていた。
　何となく似ているような気がする。
　膝小僧が見える程度のスカートの丈。白のソックスに白のスニーカー。
　まじまじと全身を見た。まともに、全身を見たのは初めてだった。
　身長は150cmくらいか、いやもう少し低いか？
　胸も膨らみ始めたくらいか。
　太ってもなく痩せてもない。ちょうどいい感じだ。やはり中年好みだ。
　一瞬のすれ違いざま、全身を観察した。気づいてはいないだろう。

　家に帰って、息子に聞いてみた。
「今日、美香ちゃんって子に会ったよ。明るい子だねぇ」
「うん、明るいよ。いつも笑ってるよ。」
　クラスの男子には、人気のある子らしい。男子の人気度No2の女の子だそうだ。
(No2 ?　No1でもいいじゃないか。私だったら、間違いなくNo1だ。）
　成績もよく、真面目なんだそうだ。
「お前、好きなんじゃないのかぁ？」
「ええっー・・！」
　それ以上息子の答えを聞くのが怖くなった。
（惚れたのは、お前だろう。）