≪布石≫

　今日も店先で彼女を待つ。それが私の毎日の日課となった。
　毎日声をかけてくるクラスメイトの父親。不自然に思もわれても不思議はない。
　どう思っているのかわからないが、いつも笑顔で答えてくる。
　まぁ、いいだろうと言い聞かせる。
　今日、一歩前進を仕掛けてみることにした。
「お帰り。」
「暑いねぇ。お客さんからアイスクリームもらったんだけど、食べていかない。」
　いきなり言われても戸惑どうかもしれないと思いつつ、一か八か誘ってみた。
　やはり、戸惑っている様子だ。
ﾍ別として、この子の処女を見てみたい。そう思った。）
　何とか、説得できないものか。どう切り出せばいいのか。
　私には、これまで何人もの少女を説得した経験と実績がある。
　ただ、これまでは、見ず知らずの少女であり、断られても、それはそれでもよかった。
　どうしてもその子でなければいけないわけではなく、あたって砕けろだった。
　しかし、この子は違う。絶対ものにしたい。この子でなければだめだ。
　しかも、絶対失敗はできない。なぜなら、息子のクラスメートであり、知人の娘なのだから。
　説得に失敗すれば、後が厄介になる。
　もし、彼女の口から、私の裏稼業が発覚すれば、学校や家族、世間になんと言われるか。
　いや、法的にも、ただでは済むまい。
　失敗はできない。時間をかけてでも、慎重に説得しなければならない。
　今日、一気に説得する気はない。ただ、少なくともきっかけを作らなければ、次に誘うきっかけを。
「あっ、これ？これねぇ入学記念の写真だよ。」
　わざとそばに置いていた写真を手に取り話を進める。
　実際に彼女がその写真を見ていたかどうかは問題じゃない。
　いかにも、彼女が写真を見ていたと思ったふりをして話し続ける。
「何年か前に、入学記念にって、撮りに来た子のなんだ。」
「可愛く撮れたから、見本に使わせてもらってるんだ。よく撮れてるでしょ。」
「美香ちゃんは、記念写真とか撮ったの？」
　首を振る彼女。
「そう。美香ちゃんも、人生の節目節目に、記念写真撮っておくといいよ。」
「大人になってから見ると、結構いいもんだよ。」
「その人の人生の記念に、最高の写真を撮ってあげるのが、おじさんの仕事なんだ。」
（何をかっこいいことを言っているのか。）
（しかし、ある意味、私の裏稼業も、その子にとって人生の記念になっているはずである。処女を写真に残すなんて、普通ではありえない。まさに、人生の記念である。）
　テーブルのデジカメを取り彼女に向けてみる。
「えっ」って感じでこちらを見ている彼女。
　すかさずシャッターを切る。もう一枚切る。
　最近は、パソコンですぐにプリント可能である。便利になったものだ。
　プリントした写真を彼女に見せる。
「ほら、可愛く撮れてるよ。」「これでも、おじさん、写真の腕はプロ級なんだぞ。」
「もし、よかったら、今度本格的に撮ってあげようか？二階にスタジオあるの知ってるでしょ？」
　この写真館は、一階が店舗、二階が撮影スタジオ、三階がレクリエーションホールになっている。
　はっきり言って、おやじの遺産である。おやじもよくぞこんな建物を建てたものだ。
　今の私には、とても建てられそうに無い。維持するのがやっとである。
　が、そのおかげで裏稼業もやりやすい。裏家業の撮影は３階で行っている。
　ステージも用意してあり、撮影会にはうってつけである。
　2階では、写真教室もしているので、駐車場に何台かの車が止まっていても、不審には思われない。
「おじさんも商売だから、ほんとはお金がいるんだけど、美香ちゃんならサービスしとくよ。」（馬鹿なことを）
「アイドルみたいに撮ってあげるから、よかったらまた、おいで。」
　はたして、反応はあるのかどうか？いつもの私にしては、歯切れが悪い。達成感がまるでない。