そうこうしているうちに、俺は、謹慎期間が過ぎ、職場復帰を果たした。
　俺は、廊下で１−３のクラスの生徒たちにも出会った。しかし、１カ月という時間があって、多少は冷静になっていたらしい。俺は彼らを無視した。俺は英語が好きなのだ。生徒指導のことは、生徒指導主任の先生に任せることにした。それに、進学クラスの生徒たちは、謹慎が明けた俺になついてくれた。進学クラスの連中のためにも、俺は、俺自身の個人的なプライドみたいなものを捨てることにしたのだ。
　しかし、気になるのは、真理からのメールだった。バレるとまずいなと思っていた。しかし、俺は、注意深く、私的なことは書かず、英語のことしか、書かないようにはしていた。たまに、学校の廊下で真理と出会った。しかし、真理はメールを交換し合っているようなそぶりは見せなかった。ほっとするような、何か物足らないような気分だった。

　俺は、謹慎の身が解けたとはいえ、土曜日の夜になると、胸が騒いだ。その胸の騒ぎを止めるには、もうそのインターネット喫茶に足を運ぶ以外にはなかった。
　俺は、１１番ボックスにいて、真理は隣の１２番ボックスにいた。そして、俺たちは、また、それから、近くのカラオケボックスに行くのだった。
　カラオケボックスでふたりきりになると、俺は、変な気持ちになりはじめていた。
　実際、選曲しているとき、歌本をのぞきこむように、真理が近くに身を乗り出してくるのだ。
「おお、これがいいよ、センセの声に合ってると思うよ」
　俺は、やつの兄貴なのだ、そう思っても、兄貴ではいられなくなるのだ。
　なんか、やつに、おんなの匂いを感じるようになった。
　俺は、言った。
「おまえなぁー、俺はこれでも教師なのよ。だから、あんまり、馴れ馴れしくするんじゃねぇーの」
　真理はむくれた。そして、悲しそうな顔をした。俺は、同情する。やりきれない思いがする。どうすればいいのか、俺は悩む。歌も歌わず、じっと、頭を抱えていた。
「なによ、どうしたん？」
「どうもしないよ」
「どうもしないって、なんか、顔色、わるいよ」
「すまん、疲れてるみたいだね、結構、俺、根を詰めて、仕事しているからな」
「うんうん、わかるよ、わたしにも。意外に、センセ、真面目なところ、あるもんね」
「そうか、俺は、真面目か。そうだ、真面目が一番だ。真面目にやってりゃ、そのうち、年金もつくようになる、退職金もたくさん、もらえるようになる。予備校の先生より、やっぱ、今のところが、安定はしているもんな」
「なに、それ？」
「うん、まぁ、一度な、１−３のクラスの生徒、もう一度、なぐったら、学校、首かな、と思ってるのよ」
「なぐりたい？」
「ああ、なぐりたいね。世の中、甘くはないのよ。自分のいやなことでも、ちゃんとやれるような人間になってもらいたいからな」
「きらいなこと、いやいや、やるのは、かんべんしてもらいたいな」
「それが、甘えというもんさ。ったく、いまどきの高校生は、やりたくないことは、てんで、やろうとしないんだからな」
「自分の好きなことやって、何がわるいのかな？」
「ばか、ちったぁー、将来のことも考えろ、って。おまえだって、くだらん小説なんか、書いてよ〜。それより、入社試験の問題集をやったり、採用面接の受け方の本を読んだ方がましよ」
「センセも、ヤッパ、くだらねぇなー」
「いいよ。そうやって、おまえは、おまえのくだらねぇー人生を歩んでいくんだ」
「放っといてよ」
「ああ、放っておくよ。俺は、おまえたちの人生の教師じゃねえのよ。俺は、単なる受験英語の技術を教える機械の歯車のひとつさ」
　見ると、真理が泣いていた。何か、俺はひどいことを言ったのだろうか。そんなひどいことは言っていないはずだ。仮に、言っているにしろ、俺は、真理に言っているのではなく、俺自身に言っているのだ。真理に非難される謂れはなかった。
「真理、おまえに言ってるんじゃない、俺は、俺のことを言っているだけだ。おまえは、おまえが選んだ道を行けばいいよ。俺は、おまえにとっては、兄弟ではない。赤の他人だ」

　それからも、不思議なことだが、真理からメールは来た。俺は、返信をしなかった。これ以上関わると、やばい気がしたのだ。実際、やつは進学クラスの子でも、担任の子でもない。俺には、真理の面倒を見る義務もないのだから。そして、俺は、土曜日のインターネット喫茶に行くことも止めた。実際、お金もかかるからだ。自宅にパソコンも、コーヒーメーカーもあるのだから。
　すると、ある日、緊急の職員会議が開かれた。俺は、やりかけていた仕事もあったのに。　しかし、議題に上っていたのは、１−３の新庄真理のことだった。
　真理が、カラオケボックスで、他校の男子生徒と不純異性交遊をしていたというのだ。俺は、ドキッとしていた。俺と真理とのことがばれるのではないかと心配した。職員会
議での話し合いの模様は、もう、俺の耳には届かなかった。
　俺は、神聖な会議の場で魂を失っていた。頭の中には、強姦される真理の姿があった。一人の男に頭の上から、両腕を取られて。もう一人の男には胸をはだかれ、乳房をもま
れていた。そして、三人目の男に足を開かされ、凌辱されていた…。
　ふと、われに返ると、３人の高校生とセックスをしていたという真理は、その職員会議で、退学処分と決められていた。

　俺は、その夜、真理にメールをしていた。「会いたい」と。そして、時間と喫茶店を指定しておいた。そして、時間になり、俺は茶店に行った。しかし、真理は現れなかった。
　がしかし、あくる日、真理からメールがあった。前に真理と行ったことのあるカラオケボックスが書いてあった。
　そこで、俺は、真理と再会したのだ。
　俺は真理を責めた。
「どうして、あんなこと、しでかしたんだ？」
「しかたがなかったんだ…」
「しかし、退学になってしまったんだぞ」
「まぁっ、これから、ゆっくり考えるよ、これから先のことは」
　俺は、真理の頬を打っていた。
「何、すんのよ」
　俺は、ハッとなってしまった。
「てめぇなぁ、学校に訴えてやる」
　真理ににらまれていた。その真剣なまなざしに、俺は青ざめていた。実際、退学となったとはいえ、モト生徒とカラオケボックスで会い、暴力を振ったとなれば、いいかげんなことではすまされない。
「わるかった。悪気はなかった」
「ゆるさない、ゆるさない」
「おまえのことが、心配だったんだ、そんなこと、わっかってるだろぉが！」
「わからない、わからない。学校にいいつけてやる、暴力教師だと」
　俺は、アホ臭くなって、帰ろうと思った。実際、わけのわからぬ話だ。俺としては、真理のことが心配でやって来たのだ、あいつのメールで、ここに呼び出されて。
「俺は、おまえがどうしているかと、心配で心配で。それで、メールで喫茶店に来いと言ったんだ、それをおまえは来なかった。１時間半も、あそこで、俺は待っていたんだぞ」
「そんなん、あたしは、外に出ていて、メール、見ていなかったもの。で、今日、ここへ来てって、メールしたじゃないの。それを何よ、ひっぱたいて」
「叩いたのは、わるかったよ、あやまるよ。しかしなぁ、おまえ、なんで、あんなことしたんだ？」
「ばぁ〜か、そんなん、あたしの勝手じゃん」
「そんなことをしているうちに、男の子たちがやがては、おまえのことを相手にしなくなる。そして、挙句の果ては、やくざな男の情婦にされ、フウゾクの世界でしか生きられなくなるんだぞ」
「いいもん、なりゆきよ、そんなこと」
　真理が部屋を出て行った。帰ったのだろう。俺は、引き揚げようと思った。かわいそうだが、これ以上関わると、俺の職業人としての地位が危うくなると思ったのだ。
　立ち上がって、ドアのところに行ったとき、真理が胸に缶ビールやつまみを抱えて部屋に入ってきた。そして、俺はまた、部屋の中に戻されてしまっていた。
　俺は、ビールを飲みながら聞いた。
「どうして、そういうことになるのかな？」
「深くは考えてなかったよ、ただ、あいつらが、酒に酔って、あたしも酔っ払っていて、いつのまにか、あいつらに、いいようにされただけだから」
「うそをつくな。おまえが誘い、おまえだって、そうしてもらいたかったんだろぉが」
「あんたも、普通のオジンと変わらねぇな、エッチな小説の読みすぎだよ」
「俺は、だまされない。３人の男の子にもみくちゃにされて、何も感じなかったというのか？。俺は、ともかく、そんなことは、信じないからな」
「あたし、酒に酔っていて、朦朧としていたし、わかんないよ」
「だいたい、男の子たちと、密室で、わけがわからなくなるまで、酒を飲んだ、ということ自体が、おかしいのよ」
「だって、あたし、さびしかったし。誰も、あたしのこと、構ってくれないし」
「親がいるだろぉが。それに、おまえには、確か、いもうともいたはずだ」
「あんたも、結局、メール、してくれなかったし」
「ばか、俺みたいなオジンが、なんで、おまえのメル友になんか、なれるのかよー」
「だって、年なんか、関係ないじゃん」
「常識ってものがある。おまえは、おまえの年齢にふさわしいやつと付き合うべきだ。だいたい、話が合わんだろぉが」
　俺は、かなりハイピツチで缶ビールを開けていたらしい。理性がなくなりつつあった。
「世の中、セックスだけじゃない。セックスは、生活の中のごく一部なのだ。セックスにおぼれるような生活をしてはいかんのだよ」
　俺は、そう言いながら、視線を真理に向けていた。真理は、目に光のある女の子だった。しかし、それだけではなかった。学校の勉強はできないかもしれないが、魅力的な子なのだ。そんな女の子だったからこそ、俺は、いつも気になっていたのだろう。
「安易に、好きでもない男の子とセックスをしたら、いかんよ」
「いや、けっこう、３人ともイカしていたよ」
「で、結局、おまえ、３人とも全部、やらしてやったのか？」
「わかんないよ。まぁ、入れ替わり立ち代り、乗っかってきただけで」
　俺は、しんみりとしてしまった。実際は、やられたのだろう。最初は、やはり、痛かったろうなと俺は真理に同情しはじめていた。
「まぁ、おまえのからだは、おまえ自身がいたわってやらなくてはな」
　俺も、どうかしている。俺は、それから、真理とカラオケをしていたのだ。時間延長までしていたのだ。
　俺は、真理と去りがたくなっていた。しかし、俺は言った。
「そんじゃ、真理、今日はこれで終りだ。まぁ、俺には何もできんが、気晴らしになるんなら、メールしてこいよな」
「あれっー、まだ、いようよ。まだ、早いよ〜」
「いや、帰る。これ以上、おまえと一緒にいた日にゃ、俺は、普通の、エッチなオジンになってしまう」
「へぇっ、センセなんか、こわくないもーん、エッチなことしたら、あたし、しばいてやるから」
　俺は、冗談半分に、真理に近づき、肩を抱こうとした。と、頬を打たれた。頭の中が、ジーンとしびれた。不思議と頬に痛さは感じなかった。
　俺は、膝から崩れ落ちた。そして、立っている真理の足にしがみついていた。
「お願いだ、真理、今日のことは、誰にも言わないでくれ」
「いやだ、学校の校長にタレ込んでやる。元教え子をカラオケボックスに呼び出して、頬をなぐり、エッチなことをしようとした、と」
　俺は、真理が冗談を言っているのだと思った。それで、俺は、冗談を続けるつもりになっていた。
「お願いだ、そんなことをされたら、俺は、学校を首になる。そんな懲戒解雇にでもなったら、俺は、もう予備校の教師にもなれない。俺の未来はなくなる。後生だ。だから、そんなことはやめてくれ」
「いやだ、あしたになれば、あたしの頬には青いアザがついているだろう、だから、それをデジカメに撮って、学校に送りつけてやる」
　俺は、冗談を続けていた。
「お願いだ、真理。俺のことを助けると思って、それだけはやめてくれ」
「じゃ、あたしのこと、何でも聞くか！」
　俺は、ポカーンとなっていた。こいつは、頭がおかしいんじゃないかと思った。そうなのだ、小説なんぞを書く女の子は、本当に、ちょっと、頭がおかしいのだ。
　しかし、その頭のおかしい子に、俺は、なんと、付き合っていたのだ。
「何でも、とは言わない。しかし、君の要求にはできるだけ応じよう、幸い、貯金もあるし。俺には、情けないことだが、英語という言語を教える技術しかないのだ。それ以外のことは俺には何もできない。どうか、俺のメシのタネだけは、奪わないでくれ」
「なさけねぇーやつだな、おまえってやつは。それだけでしか、生きられないのか！」
「生きられないな、俺には、それしかない」
「じゃ、土下座してあやまれ」
　俺は、まだ、冗談を続けていた。芝居をしているのだと思った。そして、ふたり芝居を続けていた。
　俺は、酒に酔っていたのだ。そして、真理の魅力に酔っていた。
　俺は、正座をし、深々と頭を下げた。
「真理、ゆるしてくれ。君をなぐったりして」
「なんで、なぐった？」
「焼けたから」
「焼けた？」
「君が、３人の高校生に抱かれたと聞いて、僕は、頭の中が真っ白になった」
「馬鹿、なんで？」
「君のことが好きだったから。頭の中に嫉妬の渦が巻いて」
「だったら、なぜ、メールをしてこなかった？」
「これ以上好きになったら、君を不幸にする、そして、僕もダメになると思ったから」
「なぜ、ダメになる」
「君に溺れてしまう。そして、仕事が手につかなくなる。そして、僕は学校を首になる」
「おまえは、そんなに能なしなのか！」
「そうです。英語以外は何もできない」
「この能無し野郎！」
「どうか、女王さま、この哀れな奴隷を、どうか、解放してやってくださいませ」
「どこへ行く？」
「学校を追われたら、行くところはどこにもありません。しかし、さりとて、死ぬることもできません。そんな勇気などないのです。だから、どこか、農家の下僕にでも使ってもらい、三食のメシにだけはありつきたいと」
「では、おまえは、わたしの下僕となるのじゃ」
「えっ？！」
　土下座していた僕は、左肩を足蹴りにされ、けたくられ、床に仰向けにされていた。
　おそろしい女の顔が一瞬見えたとき、顔を足で踏まれていた。

　足で踏まれているのだ。その足をどけるべきだった。しかし、僕はよけられない。頭の中がしびれ、とろけそうになっているのだ。
「やめてください」
　僕は、自分でもびっくりしていた、それは、若い男の声になっているのだ。俺は、２８歳なのだ、しかし、俺は、１６歳の少年のような声を出しているのだ。恥ずかしくて、顔が赤くなる。
「ゆるさない、わたしはおまえを。無能なくせに、わたしをひっぱたいたおまえを！」
「ゆるしてください、ゆるしてください」
「わたしはおまえの職を奪ってやる、そして、公園のベンチでしか寝ることのできない浮浪者に落としめてやる」
　放浪者。寒空のもと、着るものもなく、食べるものもない。しかし、僕には、それが最もふさわしい生き方のような気がしてきた。
　しかし、現実の僕は、そうはなりたくないと、目の上の女に懇願していた。
「お願いです、そんなことにはならないように、どうかご慈悲を」
「いいえ、おまえは、教師を首になるのです」
「どうか、そんな垂れ込みだけはなさらないで」
「では、わたしの言うことを聞くのだな」
「はい、女王さまの仰せのままに」
「では、おまえは、わたしの部屋についてくるのじゃ」

　俺は、うつろな目をしながら、床から立ち上がった。女のうしろについていく。カウンターで俺はサイフを出し、精算を済ませた。通りに出て、俺は、タクシーを拾った。女が先に乗り込み、俺は後に続いた。俺は、行き先を尋ねることすらしなかった。ただ、運転手の視線と耳だけがこわかった。俺は、教え子の少女を誘惑しようとしている教師ではない、と叫びたかった。そして、元教え子と教師という間柄であるということを悟られたくなかった。俺は、黙って、両手を膝に置き、じっと耐えていた。
　少女のマンションに着いたらしい。俺は、運転手にお金を払っていた。

　部屋に入る。女が振り向いた。眉がつりあがり、目がランランと燃えていた。僕は膝の振えを止めることができないでいた。少女が別の部屋に消えた。
　僕は、ほっとして、そして、ひざまずいていた。あたまが金縛りに合っているような。頭を手で抱え、そして、絨毯の上に額をこすりつけていた。
「おまえ、ふるえているのか」
　頭の上から、女の声がした。
「いいえ」
　女の手が僕の胸にあてがわれた。僕の胸は確かに震えていた。
「うそをつくな」
「すみません、少し、寒いのかもしれません」
「フン」
　僕は、頬まで、震えているのがわかった。
「おまえ、こわいのか」
「はい、おそろしくて」
「何という、臆病者なのだ、おまえは。これまで何をしてきた？」
「ただ、飯を食うために、英語の勉強ばかりを」
「それだけか」
「はい。小さいときから、からだが弱くて。幼稚園では、本読みやお遊戯会しか楽しくなくて。小学校に入っても、運動会のかけっこはいつもびりで。中学校のときは、障害物競走で、網の中から出られなくなって。高校のときは水泳で水を飲み、おぼれかけてしまって。大学のときは、マンションと大学のみを往復していて。勉強でしか僕は生きられないと思っていました」
「それで、社会人となっても、ソフトボールのゆるい球ですら三振してしまうってか」
「わたしには、何もないのです。強いてあるといえば、英単語の６０００語とわずかな英文法の知識のみ」
「おまえには、その程度のものしかないのか」
「わたしは生まれついての不器用もの、好きな英語の勉強でしか生きられぬと、それだけにしがみついて、やってきたのです」
「しかし、それで、よくも、おまえはこれまで生きてこれたものよ」
「ですから、そんなわたしをいじめられても、あなたの恥になるだけですよ」
「いや、そんな何もない男に、頬をぶたれたのだ、わたしはおまえをゆるさない」
「あやまります、すでに、もう何回も、あなたに僕は頭を下げています」
「その程度のことで、わたしの受けた恥辱は晴れぬ。さぁ、目隠しを」
　僕は、言われるままに、女に目隠しのマスクを掛けられていた。目の前が暗くなる、不安、いや、不安はなく、むしろ、頭がジーンとして、しびれてくる。
　僕は、女の手によって、シャツとインナーをぬがされていた。そして、立たされ、ジーンズを。そして、トランクスを。僕は、足をガタガタと震わせているのだ。女が僕の後ろに回ったようだ。手が後ろに回される。ガチャリと音がした。そして、僕は後ろ手に手錠をはめられているのに気がついた。足がふるえ、ひざがふるえ、尻がふるえ、胸がふるえ、顔の頬がふるえ、僕は、がっくりと、膝をついてしまった。
　僕は、髪の毛を引っ張られ、顔を起こされているようだ。
「さぁ、わたしに奉仕をしてもらうぞ」
「何でしょう」
「わたしの趣くままに」
「しかし…」
「わたしの言うことを聞け！」
「聞けば、おゆるしいただけますか？」
「ああ、場合によってはな」
「お願いです、わたしの教師としての職をなくさないで。それをお約束くださるなら、わたしは…」
「それもこれも、そなたの心がけしだいじゃ」
　僕は、こっくりと頭を縦に振った。
　僕は、後ろの髪の毛をつかまれ、前に向かされていた。と、顔が柔らかいものに触れた。女の太もものようであった。とてもいいにおいがした。僕は、くちびるを伸ばすようにして、くちづけをした。目は見えぬ。しかし、すべすべとした肌の感触が脳髄にまで伝わる。と、僕は、僕の下半身がビクッとおっ立って行くのがわかった。