―――僕は罪人のように逃げ帰る―――

　僕は、バスルームで、急に目隠しをはずされた。目の前がクラクラっとする。思わず目を瞑り、バスルームの床にうずくまった。
　気がつくと、水の音がする。バスタブにお湯が溜められていく音のように思えた。僕は、おそるおそる目を開けながら、体を起こしていった。少女がいた。その少女は、何事もなかったような顔をして、湯につかっている。僕は恥ずかしくなって面を下げた。まるで、さっきまで夢を見ていたような。さっき、自分がこの少女のオ○ッコを飲んだことなど、なかったような。
　少女は、鼻歌でも歌っているかのように、バスの湯につかって、からだを洗っているようだ。
　少女は、バスルームに、突っ立ている僕の方を見ていなかった。僕は、さっき恥ずかしい格好をしたところを見られ、もう、アバラ骨の出た、痩せぎすのからだを少女に見られても、恥ずかしさは感じなかったはずだ。
　しかし、少女に無視されるのは、一層、つらかった。
　実際、僕は、少女のオ○ッコを飲んだのだ。好きでもなければ、そんなことできるはずもないではないか。
　しかし、バスの湯につかっている少女は、そんな僕の心をまるで、忖度していないようだった。
　少女は、バスから上がり、突っ立っている僕の姿など、眼中にでもないように、さっさと、バスルームを出ていった。
　僕は、バスルームにひとりになり、やっと落ち着きを取り戻していた。
　ボディ・ソープを使い、からだを洗った。そして、シャンプーで頭を洗い、シャワーを浴びた。そして、少女が湯を抜いていなくて、僕は、湯につかって、からだを暖めたいと思い、そのまま、無意識のうちに、湯の中に身を沈めていた。
　とても、甘酸っぱいにおいがした。その甘美な、少女の体臭を溶け込ませたお湯で、僕は顔を洗っていた。少女の体臭が鼻孔から入り、僕の脳味噌を蕩けさせている。
　僕は、長いあいだ、湯につかっていた。湯が冷め始めている。僕は、湯から上がった。　バスルームから出ると、タオルを探した。バスタオルはなかったが、小さな顔を拭くタオルが一枚、洗面台の横の棚にあり、僕は、ほっとした。それでからだを拭いた。
　おそるおそる、ベッドルームとおぼしき部屋に向かう。
　ベッドがある。
　覗くと、少女は眠っていた。
　そばを見ると、僕の、脱ぎ捨てたものがあった。
　僕は、そっと、それらを全部丸めて抱え、ベッドルームを静かに出て行った。
　そして、僕は、トランクス、Ｔシャツ、ソックス、ジーンズ、シャツ、腕時計、ケイタイと身につけていった。そして、抜き足差し足で、玄関とおぼしきあたりをめざして進む。玄関のドアを開けて、外に出た。外は暗かった。時計を見ると、午前２時を過ぎていた。
　僕は、マンションの住所表示を確認し、ケイタイで、タクシーを呼んだ。

　あくる日、僕は、しかし、定刻には、学校に着いていた。
「おはよう」
　僕は、英語科の後輩に声をかけた。
「ああ、牧村先生、おはようございます。あれっ、先生、今朝は元気ないですね。いつもは、とても元気なのに」
「そうか。チト、夕べは、ＢＳで、ドラマ、見すぎたようだ」
「先生、何、見たんです？」
「韓国のドラマ、冬のソナタ」
「あっ、牧村センセでも、ああいう、メロドラマ、見るんですか？」
「バァーカ、あれは、メロドラマなんかじゃない、立派な恋愛ドラマさ」
「そうですかね、あれって、クサイですよ、演技が」
「そうか？」
　もう、僕は、後輩には付き合わなかった。
　実際、からだがけだるかった。授業に行っても、自分で覇気がないのがわかった。
　授業のない、休憩の５０分のときも、僕は、缶コーヒーを飲みながら、ボーッとして時間を過ごしていた。
（でも、真里のやつと、結局は、セックスせずに済んでよかったな。もし、肉体関係を持ってしまっていたら…。抜き差しならぬことになっていた…）
　何とも迫力のない授業をこなして、僕は、がっくりとしながら、夕方６時に校門を出た。そして自分のアパートに向かっていた。一眠りしてでないと、夕飯を食べる気にならないと思った。
　歩道を歩いていると、ケイタイが鳴った。
　見ると、メール着信だった。開いてみる。
「７時にカラボに来い」
　真理からだった。不思議だった。僕は真理にきらわれたと思っていた。あんなことをし、そして、あれから無視されたのだから。
　僕は、それでも、真理からリアクションがあって、少し、気持ちが明るくなっていた。
　で、僕は、歩道を歩きながらＲｅ：をした。
「僕も話がしたい。ファミレスはどう？」
　また、真理から返信メールが。
「あそこでは面が割れる。カラボに来い」
　僕は、逆らえなかった。ともかく、真理の顔が見たかった。真理に会いたかった。
「はい」
　僕は、返信をして、アパートに急いだ。そして、背広を脱ぎ、普段着に着替えた。
　僕は、学生時代には免許は取ったものの、車はなかった。それでタクシーを呼んだ。

　カラオケボックスに着いた。７時１０分前だった。
　内に入って、カウンターを覗くが、真理はまだ来ていないようだった。
　待たされた。７時半に、真理はやってきた。
　なぜか、僕は、相好を崩していた。
　カウンターで予約して、缶ビールとつまみを買って、指定の部屋に入った。
　僕は、部屋に入り、真理とふたりきりになると、下半身が膨らんでいた。
　それを悟られぬように、僕は、缶ビールのプルフタを引き開けながら、乱暴に言った。
「おまえなぁー、やっぱ、これから先のこと、真面目に考えようや」
　偉そうに、言いながら、僕は、内心、ビクビクしていた。
「ナマ、言うんじゃ、ねぇーよ」
　僕は、真理の勢いに負けたくなかった。
「しかし、僕はこれで、君のこと、心配してるんだ」
「けぇ、そんなこと言って、夕べのざまはなんだよ」
「僕は、やってはいないよ」
　僕は、目に涙が出そうなぐらい、気負って、真理に逆らった。
「が、センコウよ、おまえ、マンションに黙って入ってきただろぉが。そいでもって、わたしを裸にして、あそこ、舐めただろう？」
　僕は、ヒヤリとした。しかし、真理の気迫に負けまいとして、しゃべった。
「いや、そうじゃない。僕は、確か、君に案内されて」
「ウッセーッ！。わたしは、あそこ、舐められたんだよ〜。そいで、わたし、くすぐったくて、お○ッコ、漏らしそうになったんだからぁー。あれは、完全な、わいせつ行為だよ、未成年者に対する」
「おいおい、待ってくれよ。僕が望んでやったことじゃないさ、あれは」
「あれは、ということは、あれをしたこと、おまえ、認めるんだな」
「……」
「ともかく、教師たるものが、ああいうことをしたんだ。教員としちゃ、失格だよな」
　僕は、急におそろしくなっていた。
　確かに、セックスはしていない。しかし、セックスをしたと同じような、わいせつ行為を、この少女にした、ということがわかってきたのだ。
　教師が、いたずら半分に、女子トイレを覗いた、それ以上の、わいせつ行為だと、僕は思い知らされた。
　僕は、自然と頭を垂れていた。
「いや、わるかった。確かに君に誘われたとはいえ、そういうことをことわるのが、成人としての務めだ」
「しかも、おまえは、教職にある身だろぉーが」
　僕は、頭を下げていた。何も、いい考えが浮かばないのだ。
「おまえなぁ、あやまるだけじゃなくて、何かしろよ」
「例えば、何、お金とか？」
「お金はいいよ。おやじのやつ、お金、くれるから」
「じゃ、僕は、これからの君の身の振り方を、考えてあげるよ。僕は他の私立高校の先生を知っているんだ。どこか、編入試験を受けて、入ろうよ」
「高校に、入る気はない」
「じゃ、大検でも受ける勉強をしたら。僕が教えてあげるよ」
「てめぇに、数学とか物理は、無理だろぉが」
「いや、君とだったら、もう一度、数学や物理の教科書を勉強するよ、一応、僕だって、高校のときは、やったこと、あるんだから」
「いや、勉強はしたくない、当分は、な」
　僕は、真理にほとほと手を焼いていた。しかし、こうして、真理のそばにいるだけで、真理の甘酸っぱい体臭が届き、僕の理性を弱めていた。それに、真理は短いスカートをはいているし、シャツはＴシャツで、どうしても、目は真理の胸のふくらみに行ってしまうのだ。
　僕は、自分の中に、淫蕩な血があるのだと悟っていた。
　そういうものが、僕を優柔不断にしているのだ。僕は、自分に怒ったように言った。
「もし、君がフウゾクに勤めるようになったら、もう教職は辞めるよ、責任を取って」
「それじゃ、おそいんだよ、今、辞めてよ。明日、学校へ辞表を出しなよ」
「でも、年度途中で辞めたら、なかなか、補充の先生がいないよ」
「そんなこと、知るか！」
「ともかく、しばらくは、学校には黙っていてよ。そうしておいて、僕は、君の将来のこと、考えるからさ」
「そんな、勤めながら、わたしのこと、面倒みれるわけ、ないじゃん」
「みる、みる、みるよ。もし、だめなら、その時に、学校を辞めるから」
「ほんとう？」
「うん、ほんとうだよ」
　真理は、少し、機嫌を直してくれたみたいだった。
　僕は、真理のために、缶ビールを開けてやった。渡すとき、僕は、大胆にも、真理の手を取っていた。
「なあ、真理、あんなことして、わるかった。でも、責任は取るから」
　僕は、真理の目を見つめた。真理も見つめていた。真理の目は光っていた。しかし、僕は、真理の目の色を読み取ることはできなかった。ただ、にくしみの色はなかった。
　僕は、手を伸ばし、真理の肩に手を置いた。真理は、その手をふりほどこうとはしなかった。それで、僕は、手に力を入れた。
　そして、真理を引き寄せていた。真理のくちびるを僕は奪っていた。真理が抵抗した。しかし、僕は、昨夜、手を縛られ、好きな真理のことを両手でしっかりと抱きしめることができず、その欲求不満がまだ残っていた。その鬱積した気持ちを吐き出さずにはおれなかった。
　だから、強引だった。真理を押し倒していった。そして、真理のからだの上にのしかかっていた。そして、上半身を抱きしめていた。狂ったように、真理を抱き、真理の耳元で、叫んでいた。
「好きなんだ、好きなんだ、だから、抱かせて欲しい、力いっぱい、君を抱きしめたいんだ」
　真理は、ぐったりとなった。抵抗を止めている。
　僕は、真理のからだから発せられる少女の肉体の甘さに、理性が溶かされ、執拗に、下半身を真理の下半身へこすりつけていた。とても気持ちがよくなった。さらに、腰をゆすった。
　と、僕は、ウッと叫び、真理のからだに、しっかりと、しがみついていった。

　僕は、顔を赤くしていた。
　と、真理が、下から、笑っていた。
「出したの？」
「ああ、出てしまったよ」
「バァーカ、子どもみたいだな。パンツに出したのかよ」
「そうみたい」
「きったねぇーなぁ。ちょっと、ティッシュ、買ってくるわ」
　真理は起き出して、カラオケの部屋を飛び出して行った。
　僕は、しょんぼりと、床の上にべったりと尻を落として、座りこんでいた。

―――とめどなく淫蕩の血が湧き出てきて―――

　真理が部屋に戻ってきて、僕は、真理の手で、ジーンズを下ろされた。そして、仰向けにされ、トランクスまで、足首のあたりまで一気にずり落とされて。
　真理に、しなびたモノを見られるのは、いやだったのに。
　真理が、汚れたモノを拭いている。そして、トランクスにくっついたものも、ティッシュで拭き取ろうと、ゴシゴシやっているようだ。
「はい、おわり！」
　真理の快活な声がして、僕は、上半身を起き上がらせた。
「すまなかった、でも、ありがとう」
「おまえも、若いなぁー、年、いくつだった、けぇー」
「２８かな」
「えっ、わたしより、１２もぉー」
「そうだよ」
「だったら、もうちょっと、しっかりしなよ」
「面目ない」
「そんなんじゃ、結婚しても、まともなセックス、できないじゃん」
「いや、酒を飲むと、けっこう、長持ちすると思うよ、それに…」
「なに？」
「いや、何でもない」
「おまえなぁー、言いかけて、やめるんじゃ、ねぇーよ」
「つまり、その、まぁ、好きな女の子だと、つい、ソウロウ気味にはなるわけで、おとこというものは」
「バァーカ、なんで、そういうことになるのよ」
「いや、結構、僕は、君のこと、好きだし、ちょっとのことで、興奮してしまうみたいだし…」
「どこが？」
「どこが、と言われても、何となく、雰囲気的に」
「おまえ、雰囲気で、女のこと、好きになるのか？」
「いや、君には、僕にはないものがあるし」
「なんだ、そりゃ？」
「つまり、僕にはない、野性的な魅力というか」
「バァーカ、そりゃ、下品なだけじゃ」
「そうかな？」
「が、わたしは、あんたなんか、きらいだよ、言っておくけど。ダサイし、カッコわるいし」
「そうか、そうだろうな。まぁ、そりゃ、しようがない。けど、何でも、相談には乗るからね」
「けぇ、まあ、自分で、そう思ってろ」
　僕は、床を見ていた。ここまで来たのだ、仕方がないと思った。真理とセックスして、真理を妊娠させたわけでもない。まだまだ、自分には、真理のためにしてやれることが、何か、あるはずだと思った。
「真理、僕、腹が減ったよ、どっかへ、飯を食いに行かないかい？」
「減ってないけどなぁー。まぁ、何か、今日は、歌、歌う気分になれんし、まぁっ、いいか」
　僕たちは、カラオケボックスを出た。僕は、真理と手はつながなかったが、一緒に並んで歩き、中華料理店に入った。個室が空いていて、そこに入り、そして、飲茶セットを注文した。
　腹が減っていないといいながら、真理はよく食べていた。僕は、腹が減っているのに、なぜか、ギョーザとかシューマイとか、並んでいても遠慮があって食べずにいると、真理だけが、どんどん食べていってしまう。で、僕は、仕方なくビールを飲み、皿に残った、チンゲン菜など、野菜系のものを食べていた。デザートも、ふたつとも、真理に平らげられてしまっていた。
　中華料理店を出ると、僕は、真理に言った。
「また、メールしてくれよな。できるだけ、都合つけるからさ」
「あれぇ、もう帰るわけ？」
「でも、今日は、君だって、僕に相談できるような、具体的なプランが、ないんだろぉ？」
「そんな。わたしの相手、してくれなくっちゃ」
「相手？」
「そう、話し相手よ」
「でも、何の話があるのかな？」
「タクシー、呼ぶよ。そいで、わたしんちに行こうよ」
　僕には、それをことわる勇気がなかった。やはり、居られるものなら、ずっと真理のそばに居たかった。
　真理がケイタイでタクシーを呼ぶのを、よせ、とは、とても言えなかった。

　タクシーの中で、僕は、おとなしくしていた。横の真理を見遣ると、真理は外をながめていた。とても寂しそうな顔をして。
（真理にも、親がいるだろうに）
　と、僕は、胸を痛めていた。
　真理の母親は亡くなっていた。父親は建設業の社長をしていて、後添えの人をもらっているらしい。でも、その父親とて、娘が高校を退学になったのだ。心を痛めているにちがいないと思った。
　僕は、真理の将来のことで、父親に会うことになるかもしれない、と思っていた。しかし、こんなことをしていて、真理の父親に会うことができるのだろうかと、不安になった。
　マンションに着いた。部屋に入り、昨日入ったことのある応接間に入ると、僕は、真理に抱きついた。
「ダメだよ、バカ」
　真理は抵抗した。しかし、僕は、しっかりと真理の上半身を抱こうと力を込めようとしていた。しかし、少女は馬鹿力を発揮して、僕の腕から逃れた、と、僕は、頬をぶたれていた。
（痛くない、どうして？）
　僕は、頬に痛みを感じず、頭の中がジーンとしびれた。めまいがして、僕は、膝から、絨毯の上に、崩れ落ちていた。
　僕は、目に涙がにじんでいた。
　どうして、こうも、こいつのことが好きなんだろう、どうして、こいつの体が欲しいのだろう。
　僕は、僕のからだの奥に棲む、淫蕩な性を軽蔑しつつ、それを押さえ込めない自分がみじめに思われた。
　僕は、顔を絨毯に押し付けるように、しゃがみこんでいた。
「おい、おまえ、どうしたんだよ」
「どうもしないよ」
　僕は、顔を上げずに、真理に答えている。
「おまえなぁー、ただで、ここまで来たんじゃ、ねぇーんだよ。わたしの遊び相手にと、連れて来たんだからな」
「いいですよ。もう２時間くらいなら、お相手が」
「そうか、そうか。じゃ、わたしのお人形さん遊びに付き合ってもらおうかな」

　僕は、うつ伏せにしていた顔を起こされそうになった。あわてて、ジーンズからハンカチを取り出し、目をぬぐった。そして、おとなしく、真理に手を引かれていった。
　別の居間に入った。そして、僕は、鏡台の前の椅子に座らされていた。
「おまえ、白い肌しているし、いい顔してるから、今日は、女になってもらう」
　僕は、驚いた。
（どうして、オレが、いい男かよ）
　でも、真理に、僕の顔立ちを、誉められているようで、うれしかった。そして、照れていた。
「おまえ、なんだ、女になるのが、そんなにうれしいのかよー」
「いや、何か…」
「なんだ？」
「そのぉー、つまり、僕はそんな二枚目じゃないのに」
「バカ、二枚目なんて、言ってるんじゃない、うぬぼれるな！」
「はい」
　真理は、冷たい液を僕の顔に塗っている。僕は、化粧なんかしたこともないし、何がなんだか、わからない。化粧水で、僕の顔をまず、洗顔しようとしているのだろうか？
　それから、丸っこいスポンジのようなもので、肌色のものを塗られているような。肌の目をきめやかにする、ファンデーションなんだろうか？。
　それから、パフのようなもので、軽く膚をたたくように、白いものを塗り当てられていく。
　真理のくちびるが近づく。真理は自分のくちびるを舌で舐めるように、僕のくちびるに、真っ赤な口紅を塗っている。その真理のくちびるの微妙な動きに、僕は、真ん中のモノがビクッと立ち上がり、これ以上真理のくちびるをながめていると、気が狂いそうになりそうで、目を閉じた。
　リップ・スティックの硬い先っぽが、僕のくちびるをなぞっていき、それが心地よい感触を脳に伝え、僕は、頭の中が、しびれてきた。そして、真ん中のモノも硬さを増してくるのだった。