５

　―――僕は化粧をされて女の人に――

　僕は、真理の手で化粧をされていく。
　化粧が終わったらしい。満足そうな真理の顔が僕のすぐそばにあった。
　そんな真理の顔に、僕は、満足し、心の中で微笑んでいた。
（真理、こんな僕だけど、君のこと、好きだよ）
　僕は、心の中でつぶやいていた。
　そして、僕は真理の手で、頭に、おんな物のかつらを被せられた。
　僕は、恥ずかしくて、自分では鏡が見れなかった。
　しかし、前を見ると、真理は笑っている。
「おまえ、よく似合っているよ」
「そうかな？」
「おまえに、着物を着せてみようかな。わたしのかあさんの着物、おまえに着せてみたいんだよ」
「えっ！？」
「いやなのか、おまえ！」
「そんな、はずかしいことを」
「いや、やるんだ」
「しかし、こんなガリガリのからだだし、胸もないし……」
「大丈夫だよ。おなか、引っ込んでいるから、さらしの布を巻こうよ。それにね、胸がないんなら、ブラのカップの中に、このふきんを詰めて、ブラジャーしてみようよ」
「いやだ」
　僕は、しきりに首を横に振っていた。

　そのとき、ケイタイが鳴った。
　真理がケイタイに出ている。
「はい」
「……」
「うん、いいよ」
　僕は、ダメダメというように、首を横に振っていた。ケイタイの相手は真理の友達だろう。しかも、僕のカンだと、その友達というのは、男友達にちがいない。僕は、嫉妬で胸が疼いていた。
「ちょっと、待ってよ」
　すると、真理はケイタイを保留にしたらしい。そして、俺に向かって言った。
「するのか、しないのか、はっきりしろよ。わたしは、他のダチのところに遊びに行きたいんだよ」
「するする、相手するよ。だから、出て行かないでよ、お願いだから」
　僕は必死で訴えていた。真理を今、男友達のところへやりたくない。
　真理は微笑んだ。
　そして、再び真理はケイタイに向っていた。
「おっまったせぇー。今さ、取り込み中だからさ、また、あとで、デンワするよ」
　見ると、真理は電源を切っていた。
　そして、真理は僕に向かって言った。
「じゃ、おまえ、着付け、やるんだな？」
　僕は、しっかりと、首を縦に振っていた。真理を引き止めるためには、僕は何でもやろうと思ったのだ。
　僕は、『友達は女か男か、その友達とは、どういう付き合いをしているんだ？』と真理に聞きたかった。しかし、それを聞くと、真理の機嫌がわるくなりそうに思われて、その言葉を、おなかの中に飲み込んだ。
　真理は、僕を立たせ、背伸びをしながら、僕からトレーナーをぬがせ、シャツを取った。そして、とても真剣そうな顔して、ジーンズのベルトをゆるめ、引き抜いている。そして、口元をすこし、ゆがめながら、僕のトランクスを下へ引っ張った。
　と、真理の目に、怒りの色が走ったような…。
　なぜだろう、と僕は思いながら、僕の下に視線を下ろした。なんと、僕の真ん中のモノが、勃（お）っ立っているのだ。真理は、僕が立っているのを見て怒ったのだろうか？
　しかし、それは、僕には自然なことだった。真理が好きなのだ、その真理の前で立たないということ事態が不自然なことなのに。
　真理は、僕に怒ったように言った。
「なんか、コレ、邪魔になるな」
　しかし、真理はひざまずきながら、僕のおなかのところに、さらしの布を巻いている。僕の硬くなったモノは、おなかの下腹部にくっついていたので、真理はそれを指で下の方へ折り曲げ、オ○ンチンとおなかの間にさらしの布を通して巻いている。
「おまえも、膝をついて、ここへ座れ」
　見ると、真理は、ブラジャーのカップに、何か、布切れを詰め込んでいる。
　僕は、胸にブラジャーを宛がわれた。後ろにホックがついているらしく、真理が僕にからだを寄せてくる。真理の匂いがする。とてもいい匂いで、僕は、目をつむった。
　そして、僕は、肩に着物が被されているような。
「さぁ、ちょっと、立ってみろよ」
　僕は、立った。女物の着物が肩に掛かっている。真理は、僕に着付けをしてくれた。そして、帯を締めてくれた。最後は、親指と他の四本の指とが別々に納められる、真っ白い足袋を、両方の足に履かされた。
　真理は、着物姿で立っている僕の周りをうろついている。
「まぁ、まぁ、かな？。でも、ちょっと、お尻がちいさくて、なんか、変だな。お尻と胸のバランスがわるいなぁー」
　真理は、また、帯を解いているのだ。そして、着物をほどいている。
　そして、真理は、僕の後ろに回り、僕のお尻の肉の上に何か、布地を置き、さらしの白い布で、それを止めている。
　さらしの布が、僕の股ぐらの間をくぐり抜けるとき、とても気持ちがよかった。
　そして、僕は、また、着物を着せられ、帯を締められた。
「うんうん、胸とお尻のバランスが良くなったよ。それに、おまえ、なで肩だし、女っぽくなったよ」
　真理は機嫌が良さそうであった。僕は恥ずかしさもあったが、真理が満足している様子なので、うれしかった。そして、これが真理の言う人形遊びなのかと思った。むしろ、これでは、大人の女の着付け教室みたいだなぁ、と、心の中では苦笑していた。
「さぁ、おまえ、ベッドに寝ろ」
「はい」
「いやに、おとなしいじゃないか、今日は」
「じゃ、今日は、この手に、手錠はなし、ですよね」
「それは、おまえの態度しだいさ。タイド、わるけりゃ、また、手をしばり、足をしばってやる」

　真理は部屋のカーテンを閉めている。そして、ライトを落とした。部屋の中が暗くなった。
　僕は、ベッドの上に仰向けに寝ていた、まるで、女のように、足をしっかりと閉じながら。
　シーツに真理の体臭が染み付いている。少し青臭いが、僕の好きな真理の匂いだった。
　と、僕の唇に、唇が。しかし、真理でないような。僕は目を開ける。やはり、真理だ、僕の顔の上にいるのは。しかし、唇の上が妙にくすぐったい。何か毛が当っているような。よく見ると、真理は、なんと、口の上に、口ひげを付けているのだ。
　僕は安心して目を閉じた。近くにいるのは真理であることがわかったから。それに、真理は上半身がはだかであった。真理のきれいな上半身が、目を閉じても、脳裏に焼きついている。
　そして、上半身はだかの真理に、人造の口髭がアンバランスで、しかし、それが妙に、エロチックに僕には写るのだ。
『なぜ、くち髭なんかを』と思ったとき、僕は、真理がおとこになり、おんなになった僕を犯そうとしているのではないかと、思った。
　僕は、真理の言うなりになろうと思った。
　頭の中に、真理の男ともだちのことが思い浮かんだ。しかし、彼の格好も、彼の顔も像が実を結ばないのだ。
　真理が、しきりに、僕の、借り物の乳房を、着物の上から揉んでいる。だんだんに、上から押さえられると、僕は、少し頭がおかしくなった。男の乳房に快感などあろうはずはないと、僕は思っていた。
　そして、真理は、僕の胸の、着物の併せのところに手を入れ、ブラジャーの上から僕の胸を揉んでいる。僕は、何だか、頭の中がジーンとし、蕩けてる。
　ブラジャーの上からなのに、生身のひらべったい僕の乳房が、もっと強い感触を求めているのだ。僕は、仰向きになりながら、胸を上へ突き出すように、身もだえしているのだ。
　真理は、僕のブラジャーを取っていた。そして、僕の、まるで、小さな乳首を剥き出しにし、ほとんどない胸の肉を指で揉み上げている。と、その乳首にくちびるを付けられてしまった。
　僕は、思わず、「ウッ」と声が漏れそうになった。
　僕は、大好きな真理に舐められている、という感じがして、うれしく、手を上げて、真理の肩を抱きしめたくなった。
　ためらいながら、からだの脇にそろえて置いていた手を、上へ持っていこうとしている。
「おい、おまえなぁ、おとなしくしてろ。おまえは、動くんじゃねぇよ」
　真理の声がした。
　僕は、上げかけていた手を、また、ベッドの上のシーツのところに戻した。
　真理は、また、僕にキスをしながら、僕の素肌の、ぺっちゃんこの乳房を手のひらで揉んでいるのだ。
　僕は気持ちよかった。そして、真理のキッスが、この上もなく、うれしかった。
　手を使えない僕は、首を持ち上げるようにして、真理のくちびるを受け、真理のくちびるを吸っていた。
　腕で真理を抱けないもどかしさ。しかし、そのもどかしさをすべて、真理のくちびるに求めた。もう、真理のくちひげさえも、僕に違和感を感じさせなかった。
　僕は、首を上げ、胸を起こしながら、激しく真理の唇をそして舌を吸っていた。
　真理のくちびるが、僕の胸を這いずり回っている。そして、真理は、手で、下腹部の周りに巻かれたサラシの上に、仰向けに横たわっているオ○ンチンを撫でているのだ。真理の触り方がいいのか、それとも、好きな真理に犯されているという思いがするなのか、僕は、気持ちよくて、うめいていた。
　腰が自然に浮き上がり、両足が突っ張ってくる。
「ああ、いけない、いけない」
「ばか、こんなことぐらいで、イクんじゃねぇーよ」
　真理の声がする。
「ダメダメ、わたし、もう、だめ」
　僕は、女のようなセリフを口走っている。
　真理は、僕の体の下の方に移動したらしい。そして、僕の足を広げた。真理は、僕の足の間に、からだを入れようとしている。
　僕は、僕の硬くなったオ○ンチンの裏側を舐められていた。まるで、僕は、蟻がオ○ンチンの裏側を這い登ってくるような錯覚に陥り、一瞬むずがゆさを感じたが、すぐに気持ちよくなり、何か、オ○ンチンの先っぽから、白い透明な液がにじんでくるような気がした。
　そして、真理の舌先が裏側を往復するうちに、オ○ンチンがさらに膨らんでいくのだ。
「もう、ダメダメ、イク、イッちゃうーよー」
「がまんしろ！」
「ダメーッ！」
　僕は、突き上げてくる狂おしい快感に、お尻を高く突き上げ、何かを天に向かって発射したくなっている。
　掴むものがなく、僕は、両脇のシーツをしっかりとにぎりしめていた。
「ドクドクドクーッ」
　僕は、心臓の音以外の、僕自身のうめき声が登ってくるのを耳で聞いていた。
「あっ、てめぇー、サラシをよごしゃがぁって！」
　真理の声がした。僕は、目が開けられないでいた。
　しかし、もう、出てしまったのだ。
　放出してしまった後の快感の余韻と、早く出してしまった反省とで、僕は、目に涙をにじませていた。
「ああーっ、せっかく巻いたサラシが…」
　真理の声に僕は、目を開けた。真理は、ベッドの上にしゃがみこんでいた、さも、がっかりしたように。真理の口の上の、くちひげが垂れ下がっている。
　僕は、ぐったりと寝たままで、言った。
「ごめんなさい。でも、もう、がまんできなくなって」
「ウッセーッ、んだよ」
　真理は、背を向けて、ベッドルームを出てしまった。
　僕は、寂しくなった。
　しかし、僕は、股のあたりがヌルヌルとしていて、気持ちわるくなり、上半身を起こした。そして、ティッシュ・ケースを探した。そして、ティッシュで、股ぐらやオ○ンチンを拭いた。
　見ると、おなかに巻いたサラシの下腹部のあたりの布地にも、白い液の固まりのようなものが付着している。それも、拭き取った。
　すぐにこのさらしの布を水洗いすれば、きれいに取れるかもしれない、そう思いながら、しかし、僕は、真理が居なくなり、元気をなくしていて、ベッドの上に再び、仰向けになって、寝転がっていた。

　――僕は結局、臆病者で、逃げ出していて――

　僕は、ベッドで軽く眠っていたらしい。
　何か隣で話し声がする。
　僕は理性を取り戻したような気がした。
　僕は、俺になった。

　俺は、ベッドルームを出て、そっと廊下を歩き、声のする方に歩み寄った。
　声は、男の子の声だ、しかも、一人ではない。２，３人は部屋にいるような。
　俺は、はっとした。
　真理が退学処分になった時のことを思い出していたのだ。真理は、カラオケボックスで、３人の少年たちと、不純異性交遊をしたのだ。
　俺は、その時の少年たちが、このマンションに来ているのではないかと思った。
　部屋で行われている話の内容はわからない。しかし、俺は、少年たちが真理を脅迫しているのではないかと思った。そして、彼らに、真理と手を切らせるべきだと思った。
　俺は、ベッドルームに戻り、急いでかつらを取り、服に着替えた。そして、バスルームに入って、顔を洗った。
　俺は、先ほど話し声のしていた、居間らしい部屋に戻った。
　そして、俺は、ノックをした。返事がない。しかし、俺は入った。やはり、男の子が３人いた。みんな私服だった。
「何だよ、おまえ！」
　真理の声がした。しかし、俺は真理の方を見なかった、真理のことは無視していた。
「君たちは、高校生だろう、こんな夜更けに人の家になんか来ないで、勉強したらどうだ」
「てめぇーは、誰だよ」
「俺は、真理のいとこの牧村というものだ！」
　少年のひとりが、真理に聞いた。
「真理、ほんとかよ？」
「ちがうよ！」
　真理を見ると、口をゆがめながら、憎々しげに少年の一人に告げている。
「ともかく、俺は、真理のいとこで、真理の後見人なんだ。俺は父親代わりに真理の面倒を見ている。もう、遅いから君たちは帰りなさい」
「ウッセーッ、おまえ、何様のつもりだ」
　真理が俺の方を向いて叫んでいる。しかし、俺は真理を無視して３人の少年たちをにらんでいた。
「てめぇな、いい加減なこと、ぬかすんじゃねぇぞ」
　少年のひとりが立ち上がった。
「いい加減なことは、言っていない。俺は正真正銘、真理の保護者だ」
「で、てめぇ、俺たちが、何か、真理にしたとでも、言うんかい」
「そうじゃない。もう遅いから、帰りなさい、と言っているだけだ」
「じゃ、てめえに、そんなことが言える権利とやらを見せてもらおうじゃ、ねぇか」
「これが、そうだ」
　俺は、少年をぶんなぐった。
　少年が床にしりもちをつく。そして、飛び上がって向かってきた。意外に力が強い。俺は、肩を捕まれ、後ろに押し倒された。そして、馬乗りにされている。やつが、なぐろうとしている。そのこぶしをつかまえ、俺は、やつをひっくり返し、すばやく、今度はやつの馬乗りになった。しかし、俺は、後ろに引っ張られて、床の上に仰向きに倒されていた。残りのふたりの少年が加勢をしたらしい。
　俺が起き上がると、ふたりの少年に両側から、両方の足を取られ、押さえ込まれている。そして、背の高い少年の、ニャッという顔が正面に見えたかと思うと、目の前に火花が飛んだ。俺の足は拘束され、不自由だったが、俺は、正面の少年に立ち向っていこうとしていた。
「やめろ、わたし、警察、呼ぶよ」
　真理の声に、俺は、ひるんだ。しかし、正面の少年に、また、一発、こぶしをくらった。
　俺は、そばに立っていた真理に言った。
「頼む、警察は、呼ばないでくれ」
「だ、ろうが。言わんこっちゃない！」
　真理が顔を崩しながら、ニヤッと笑ったような。
　俺は、そんな、みくにい真理の顔は見たくなくて、顔を下に向けた。
「おい、あんたたち、この男、家からたたき出してよ」
　真理の声が耳に入る。
「よし、きた」
　少年たちの威勢のいい声も。
　俺は、警察と聞いて、急に力が抜けてきた。相手は４人なのだ。しかも、俺は、真理の家にいるものの、いとこではないのだ。警察官がこのマンションに来れば、その警察官にいくら抗弁しようと、警察署に連れて行かれることは間違いがないのだ。警察署で事情聴取を受ければ、何もかも言わなくてはならなくなる。
　俺は、少年たちに廊下を引きずられ、玄関から追い出された。
　俺は、マンションを出た。
　ともかく、警察沙汰にならなかったと、ほっとして、ヒリヒリとするので、口元をぬぐった。手を見ると、血がべっとりとついていた。
　俺は、周りの人にみっともない顔を見られるのがいやで、ハンカチで口をぬぐいながら、マンションを足早に離れていった。
　俺は、自分のアパートに帰っていた。
　しかし、寝付かれない。真理を最後まで守ってやれなかった悔いがあった。それ以上に、たぶん、俺があのマンションを出たあと、真理が３人の少年たちと、また、みだらな性的な遊戯をしているのではないかと、嫉妬の嵐が胸に渦巻き、頭の中が狂いそうになるのだった。