６

――いい授業ができなくなっている――

　俺は、眠られぬ夜を過ごした。
　俺は、あらぬ、いや、現実に起こっていそうな妄想に、胸をかきむしられていたのだ。
　真理が、３人の少年たちと戯れているシーンが、頭の中に思い描かれるのだ。
　真理と３人の少年たちのあいだは、すでに、ただならぬ関係にある。
　俺は、真理が、３人の少年たちと、代わる代わる、セックスをしているシーンが頭の中を駆け巡り、俺は、それを消そうとするのだが、意思に反して、そのシーンを消し去ることができないでいた。
　真理は、いやしい顔をした少年たちが、腰を上下に振るたびに、あえぎ声を漏らしているのだ。
　俺は、頭を抱え、苦しみ、眠りに落ちることができなかった。

　それでも、朝になると、俺はボーッとした頭を抱えながら、学校に向かった。
　１時限目は幸い、授業がなかった。自販機の缶コーヒーを２本、飲んだ。
　２時限目は、高１の進学クラスのリーダーへ行った。
　俺は、寝不足のせいなのだろう、頭が朦朧としていた。それを押し隠すように、俺は、生徒たちに、偉そうなことをしゃべっていた。
「“ｈ”というのは、英語ではエッチだが、フランス語では、アッシュという。しかし、フランス語では、このアッシュは無声子音なのだ。だから、英語で、ｈｏｎｅｓｔという、正直なという単語でも、ホネストとは言わず、ｈの子音は無視して、オネストと発音する例があるんだな」
　俺は、時間つぶしに、そんな偉そうなことを言いながら、そのあと、リーダーの教科書で、蜂蜜というｈｏｎｅｙの単語が出てきたところで、それを「オニー」と発音してしまったのだ。
　俺は、顔が赤くなった。あわてて、「ハニー」と訂正した。しかし、両の腋に冷や汗を掻いていた。
　３時限目、英作文の授業のとき、俺は、からだがしんどくて、立っておれなくなって、すでにやったことのある英作の練習問題を、生徒に前に出てやらせた。ある生徒が英文を黒板に書き終える。俺は、椅子に座ったままだった。そして、次の生徒に、黒板の前に立たせ、黄色のチョークで、その英文の添削をさせていた。そして、なぜ、添削した方が正しいのか、その理由を、添削した生徒に言わせていた。
　５時限目、グラマーの授業のときは、教科書に載っている英文法の練習問題をアレンジした問題を生徒自身に作らせ、それを、隣同士で交換させて、解答をさせ、しかも、互いで採点までさせていた。完全な手抜きの授業だった。

　授業のない、空き時間、俺は、ボーッとして、窓の外を見ていた。
　夕方になると、ローソンで、夕飯のおかずを買った。飯だけは、電気釜で炊こうと思った。
　いつもなら、俺は、朝も、コーヒーメーカーで、コーヒーを沸かし、トースト、スクランブル・エッグ、トマト、きゅうり、レタス、りんご、バナナなどで、しっかりと食事を執っていた。
　夕食も、独身の同僚たちと、食堂やレストランで、まともな食事をしたり、自炊でも、オムレツやハンバーグなどは作っていた。むろん、煮魚、焼き魚も、自分でやっていた。
　しかし、このところ、そういう自炊ができなくなっていた。
　同僚たちとしゃべるのも、おっくうだし、うちに帰って、料理をする元気もないのだ。
　時々、真理のことを想う。しかし、想うと嫉妬で苦しくなる。それで、できるだけ、真理のことは想わないようにした。しかし、真理のことが想われる。それをまた、想わないようにする。そんなことの繰り返しで、頭が疲れ、疲れた頭では、真理の顔も、ぼやけ、真理への嫉妬の気持ちも、ぼやけてくるのだ。
　しかし、そのぼやけた頭になりながらも、なにか、熟睡できないのだ。

　公立高校とは違う。俺の私立高校では、半ドンの土曜日も４時間授業で、俺には３コマの授業がある。睡眠不足のせいで、青息吐息で教室に出かける始末だった。
　やっと、日曜日が来た。
　俺が目を覚ましたときは、昼を回り、午後の１時だった。
　それでも、俺は洗濯機だけは回した。腹が減ったので、食パンを３枚、チューブのマーガリンを塗りたくって、牛乳を飲みながら、かじった。
　そして、洗濯物を、物干し竿に干さないまま、俺は、また眠りに落ちていた。
　ケータイが鳴っている。
　俺は、目を覚ました。見ると、メールではない、それで、俺は、ケータイを開いて、耳に当てていた。
「はい、牧村です」
「おれ、オレだよ、おれ！」
　真理だと、すぐ、わかった。
　俺は、なんで、真理が電話をしてくるんだ？、と不思議に思いながら、しかし、何か、頬がゆるんでくるような。
「……」
　俺は、うれしくて、声が出てこない。
　あんな無様な格好で、マンションを追い出され、結局、真理のために、何もしてやれなかったのに…。それなのに、真理がケータイをしてきてくれた…。
「おい、おまえ、聞いてんのかよぉ〜」
「あぁ…」
「元気ねぇーなぁー」
「ぁぁ…」
「どうしたんだ？」
　俺は、思いもかけぬことを言っていた。寝起きで、頭がボーッとしていたのだろう。
「好きな女に、きらわれてしまった…」
「なに？」
「好きな女がいて、その女に、きらわれてしまった…」
「へぇーっ、おまえに、そんな女がいたのか？」
「いた！」
　俺は、何だか、気負っていた。
「それは、知らなかった」
「それで、今、僕は、元気が出ないんだ」
「カラオケ、歌う元気も、ないってか？」
「まぁ、そんなところかもしれない…」
「じゃ、おまえ、寝てろ」
「あっ、待って！」
「何だ？」
「今、どこにいる？」
「カラボの前」
「行ってもいい？」
「……」
「会いたいんだ、君に、僕は…」
「おまえなぁー、好きな女のことは、どうするんだ」
「あいつのことはいい。今は、君に会いたいんだ」
「じゃ、勝手にしろよ」
「すぐ行くから、待っていて！」「必ず、待っていて」「僕は、会いたいから」
　俺は、叫んでいた、しかし、見ると、ケータイはすでに切られていた。

――真理に関わっていくことが止められない――

　俺は、すばやく着替えを済ませ、タクシーを呼んで、カラボに向かった。
　カラボの入り口のところに、女の子がいた、ベターッとコンクリートの床に、お尻をつけて、座り込んでいて。何というきたない格好だと思って近づいてみると、その女の子は真理だった。
「どうしたんだ、真理、そんなところで」
「ああ」
　真理は、ひどく元気がない。さっきのケータイの声の感じは、元気そうだったのに。
　俺は、真理が、何か具合がわるそうで、気だるそうに見えたので、真理の額に手を当ててみた。
「おまえ、熱があるじゃないか」
「大丈夫だよ、このくらい」
「いや、休んだがいい、帰ろう」
　俺は、勝手に、ケータイで、カラボの前にタクシーを呼んだ。
　タクシーに乗ると、真理は、俺の肩によりかかってきて、そして、目をつむっていた。
　真理は、風邪を引いているのだ。俺は、真理に寄りかかられても、タクシーの運転手さんの視線が気にならなかった。真理のことが心配で、真理の肩に、手をやってもいた。
　俺は、真理のマンションに着くと、俺の肩を貸してやって、真理をベッドルームに連れて行き、寝かせてやった。
　体温計で測ると、熱は、３７．５度くらいだった。多少、俺は安心した。
　そして、バス・ルームから、タオルと水桶を持ち出し、ダイニング・ルームに行って、冷蔵庫から氷を取り出した。
　俺は、眠っている真理の額に、冷たい水で絞ったタオルを置いてやった。
　真理は眠っている。
　俺は、時計を見た。午後６時前だった。もう１時間ぐらい居たら、帰ろうと思った。
　俺は、ベッドルームの絨毯の上に仰向けになって、寝転がった。真理がそばにいる。とても、幸せな気分だった。時々、真理の方を見た。軽い寝息を立てて、寝ている。
　俺は、安心したせいか、眠りこけていた。
　と、ケータイが鳴っている、俺は、上半身を起こし、ポケットに手を突っ込んだ。
　俺のケータイではない。
　横を見上げると、いつの間にか、真理が目を覚まし、ピンクのケータイを耳に当てている。
「ああ、今、うちに居るんだよ」
「ちょっと、外はなぁー」
「少し、けだるいんだよ〜」
　真理が、ケータイの向こうの相手と話をしている。
　俺は、その相手が、このあいだの３人の少年たちではないかと思い、頭を抱えていた。もし、あいつらと顔を合わせれば、俺は冷静ではいられない。
「ああ、わたしは、ちょっと、外へは出られなくてね」
「あんたたちが、こっちに来てくれると、ね」
　真理は、まだ、ケータイで話をしている。
　と、真理はケータイを切り、目をつむる。
　俺は、やつらが来ると思った。
　あいつらと、手を切らさなくては、と俺は思った。
「真理、寝ているのに、すまないが、また、あいつらが、このマンションに来るんだろ。もう、いいかげんに、彼らとの付き合いはやめないか？」
「……」
　真理は目を開けない。
「お願いだ。規則正しい生活をし、高校生らしい生活に戻ろうよ」
　俺は、ベッドの横に正座をし、真理に、懇願するように、頭を下げていた。
「おまえは、わたしの従兄でも、何でもない」
　真理の声がした。顔をあげると、真理は、仰向けに寝ていて、目を瞑っていた。何か、顔の表情を見る限りでは、たいぎそうであった。
「わかっている。でも、僕は心配なんだ、君のことが。今、君は風邪を引いている。まさか、このあいだの連中が、ここへ来るンじゃなかろうね」
「来るよ、わたしのダチが」
「今すぐ、ケータイで、断われよ」
「いやだ、やつら、やって来るよ、もうすぐ」
　俺は、頭に血が上った。
「あいつらと付き合って、何のメリットがある！」
「ダチとの付き合いに、メリット、デメリットなんか、考えるかよ」
　真理が、こちらを向いて、しゃべった。
　俺は、真理の、どんよりとした目を見ながら言った。
「たのむ、今日は、君の体調がわるいんだ。君はからだを休めた方がいい。今日だけは、僕の頼みを聞いてくれ」
　俺は、頭を下げた。
　真理からの返事はない。
　俺は、もう怒っていた。警察沙汰になってもいいと思った。
　実際、今週、俺は、学校でろくな授業をやっていないのだ。警察に呼ばれ、調書を取られ、校長が俺の身柄を引き取るに来る。そして、職員会議の議題に、俺の処罰のことが、諮られるだろう。
「僕は、許さない。僕は、彼らに、帰ってもらう」
　俺は、正座を解き、立ち上がった。真理は目を開けて、天井を見ていた。
　俺は、ベッドルームを出て、玄関の上がり口のところに立った。やって来る彼らを玄関先で、撃退するつもりで。
　相手は３人だ。高校生あるいは、有職少年もいるのかもしれない。３人を相手にするのに、本当は、野球のバットか何かが手に欲しかった。しかし、それでは卑怯だ。素手で立ち向かうべきだろう。しかし、自信がなかった。足の膝が、ガクガクと震えている。
「おい、おまえ、何、やってんだ」
　後ろを振り向くと、シーツを頭からかぶった、真理が立っていた。
「君は、寝ていなくっちゃ」
　俺は、真理に言った。
「おまえ、何、やってんだ」
「いや、僕は、このあいだの、３人がやってきたら、君が風邪で休んでいるからと、帰ってもらうつもりなんだ」
「馬鹿、勝手なこと、すんなって！。あたしのダチだよ。しかも、さっき、ケータイで、あたしが、来いって、言ったんだよ」
「あいつらの、どこがいい」
「いい奴らだよ、みんな。あたしと遊んでくれるし、心配もしてくれるし」
「遊んでくれるって、それは、あいつら、おまえと、セックスしたいだけじゃないのか」
「……」
　真理は、大きく、目を見張っていた。
「このあいだ、だって、そうだ。あの日、僕が、このマンションから逃げ出したあと、君はあいつらと、セックスして楽しくやったんだろぉ？」
「そんなこと、おまえの知ったことか」
「３人と、やったのか？」
「おまえは、馬鹿か？、それとも、イロ気違いか？」
「真理、お願いだ、教えてくれ。おまえは、そんなに彼らのことが好きなのか？」
　俺は、玄関の板の間に、膝をつくようにして、真理に懇願していた。
　と、ピンポーンと、チャイムが鳴った。真理は、俺の横をすり抜け、玄関のチェーンをはずそうとしている。
　俺は、やめさせようと、真理の背中に、飛びつこうしていた。が、すでに遅く、ドアが開かれる、そして、３人、いや、女の子が３人、玄関に飛び込んできた。
　俺は、思考が止まったように、玄関マットのところで、突っ立っていた。

「真理、風邪、引いたんか！」
「ホイホイ、ローソンで、肉マン、買ってきてやってぜ」
　女の子たちは、そんなことを言いながら、俺なんかを無視して、どんどん玄関を上がってくるのだ。そして、俺を押しのけるようにして、いつのまにか、廊下を走っていた。
　俺は、しかし、ほっとしていた。女の子たちだったからだ。女の子たちなら、性的な遊戯はしないだろうと思った。
　真理は風邪気味なのだ、そんなからだで、性的な遊戯に耽れば、決して良くない。
　俺は、玄関先に散らばっている運動靴の中から、自分の靴を見つけた、そして、それを履いて、外に出た。
　時計を見ると、午後の８時を過ぎている。でも、外食店の閉店までには、少し時間がある。外で食事をして、アパートに帰ろうと思った。
　マンションを離れ、中華料理店かレストランを探して、道路を歩いていた。そのとき、ケータイが鳴った。
　真理からだった。
　受信のボタンを押し、耳に当てる。
「おい、おまえ、何、やってるんだよ」
　真理の怒ったような声が耳に飛び込んでくる。
「いや、僕は、帰ろうとしている」
「何で？」
「君の友達が、見舞いに来てくれたんだろ。僕なんか、邪魔になる」
「けぇっ、こんな時ばっかり、遠慮しやぁがぁって。女のダチなら良くて、男のダチなら、いけねぇのかよぉ〜」
「そういうわけじゃない。いい友達なら、男だろうと女だろうと…」
「そうか？。ちがうだろぉが。おまえは、女の子ならいいが、男の子はいけねぇんだよ」
「僕は、そんなことは言っていない。女の子であろうと、男の子であろうと、まともな友達なら、いいんだ」
「まとも、ってなんだ？」
「高校生らしく、変な遊びなんかしないで、学校にきちんと通い、今のうちに勉強しておくべきことを、ちゃんと勉強するってことだよ」
「おまえに、そんなことを言う資格があるのかよ」
「資格とか、権利とか、そういうことじゃなくて、僕は、君のことが心配で」
「あたしは、高校、やめたんだ。おまえなんかに心配してくれなくても、いいんだよ〜」
「しかし、僕は、君のボーイフレンドの一人だし…」
「何、言ってんだ、勝手なことを。あたしは、おまえなんか、ボーイフレンドにした覚えはないんだよ」
「でも、君は、キスしてくれたじゃないか」
「馬鹿。キスされたぐらいで」
「それに、フェラもしてくれたし」
「ああ、そんなら、おまえ、あたしのセフレにでも、なりたいのか？」
「いや、そんな！」
「じゃ、おまえ、あたしの何になりたいのさ」
「恋人に」
「おまえは、アホか！。てめぇは、何様のつもりでいるんだよ〜。いい年、こいて」
「ごめんなさい。でも、君のこと、好きなんだ、とっても」
「本当か？」
「はい」
「じゃ、戻って来い！」
　俺は、道を引き返していた。
　道々、俺は、言い訳をしていた。３人の少女たちに早く帰ってもらうよう、俺は、説得に行くのだ、と。
『真理の体調がわるいのだ、早くひとりにしてやって、ゆっくり寝かせてやろうよ』
　俺は、少女たちに、そう言うつもりだった。

　――少女たちはいかがわしいビデオを見ていて――

　俺は、また、真理のマンションの部屋の前に立っていた。
　インターホンを押す。返事がない。
　俺は、ドアのノブを回してみた、開いている。
　ドアを開くと、女の子たちの靴が乱れて、まだ、ある。少女たちは部屋の中にいるようだった。
　話に夢中で、インターホンが鳴っているのも気が付かないのだろうか？。
　そんな風では、真理のからだに障る、と俺は思った。少女たちをいさめるつもりになって、俺は、玄関を上がり、居間につながる廊下を歩いて行った。
　居間のドアを開ける、が、部屋が暗い。
　が、テレビが点いていて、４人ばかり、人がいた。
　俺は、入り口で、突っ立ったまま、テレビの画面を覗いていた。
　なんか、おかしい、普通のテレビではないような。
　目をこすってみた。
　何か、肌の黒い人が、肌の白い人にくっついているような。
　画面に、黒い、馬のような太い○ニスが大写しになる。俺は、目を丸くしながら、こいつら、いかがわしいビデオを見ていると、気が付いた。
「君たち！」
　俺は、大きな声を出した。
「おまえ、黙ってろ」
　暗がりの中で、真理の声がした。
「しかし…」
「おまえも、おとなしく、座って、見てろ、今、いいところなんだから」
　俺は、居間の絨毯の上に腰を下ろし、首をうなだれていた。
　しかし、外国人らしい女の、さわがしい、あえぎ声が耳に入る。
　俺は、苦しみながら、『早く、この場を去らなくては』と思っていた。
　しかし、女の子４人すら、諭すことができない自分が哀れで、身動きできないのだ。
　頭痛がしてきて、俺は、頭を抱えていた。
　部屋が少し、静かになったような。
　と、俺は、足首をつかまれたような。顔を上げると、真理の顔が。その顔がゆがんでいて、恐ろしい。俺は、思わず、目を瞑った。真理の目は夜叉のようだった。
　俺は、足に何かを巻かれたような。目を開けると、真理の頭が。
「なにを…」
　しているんだ、という言葉が口から出てこない。不思議に思っていると、俺は、後ろから誰かに、さるぐつわをされていたのだ。
　猿ぐつわを解こうと、手を伸ばす、しかし、その手が押さえられ、手が合わされ、ガチャリと手錠のようなもので、前の手が拘束されていた。そして、後ろに倒されていた。
　　
　僕は、肩を押さえられていた。そして、胸を押さえられていた。そして、両足を押さえつけられていた。
　僕は、腹筋に力を込め、起き上がろうとした。
　しかし、三方から力が込められている。
　上半身だけでも起こそうと、僕は思った。
「おまえ、おとなしく、しろ！。さっきは、あたしの言う通りになると、言っただろぉがぁ」
　真理の声がする。
「そういう意味じゃない」
　僕は、しゃべろうとするのだが、言葉が出てこないのだ。
「おとなしく、しねぇと、警察、呼んで、不法侵入者だと言って、突き出してやるからな」
　僕は、部屋には、少女たちだけだと思った。少女たちの力なら、何とか、この状況から抜け出せると思った。しかし、あまり暴れて、少女たちを傷つけるのはよくないと、躊躇した。その気の緩みのすきに、俺は、アイ・マスクすら、掛けられていた。
　僕は、少女たちに暴力を振るうつもりはなかった。腹筋に力を込めた、まず、上半身を起こそうとして。
　が、冷たいモノが、おなかに当たっている。
　ビクッとして、おなかから、力を抜いた。
　冷たいモノが下腹部から直線的な筋で上がってきて、ベリベリという、布を裂くような音が、耳元に届いて来るのだ。
　おなかが、少し、ひんやりとしたような。
　何が起こっているのか。力を入れることができない。俺は、自分の頭が、絨毯の上に、ベッタリと落ちるのを感じた。頭の中が冷えてくる。
　すると、僕のジーンズのベルトが、誰かの手で緩められ、そのジーンズが下へ下へと、ずらされていくような。
　僕は、「何をするんだ」と声にならぬ声を上げて、足首に力を入れ、首を起こした。が、股ぐらに冷たいモノの感触がして、僕は、ビクッとなった。その金物のようなモノが、ベリッと音を立てた。股がスーッとしてくる。
　僕は、トランクスが刃物かなにかで、引き裂かれたような気がし、胸にスーッと冷たいものが走った。