２　愛人

　翌日、麗子は何事もなかったように、香織と家を出た。

　とにかく、香織を幼稚園には行かせなければならない。今後のことはそれから考えようと思っていた。
　いざとなれば山下がいる。西崎が暴力団であろうと、山下の権力にはかなうまい。山下は最早、暴力団を使う側の人間である。

　ただやはり、事が事だけに、山下に相談するのは気が引けた。このまま何もなければ自分の胸だけにしまっておこうと思っていた。

（もし何かあっても、香織と一緒でさえなければ・・・・）

　麗子は昨日のことを思い出していた。西崎の逞しい肉棒、暴力感に満ちあふれたセックスを、また味も分からず所在無さ気にしていると、西崎はすぐに戻ってきた。

「西崎さん、『これ』って・・・。」

　三谷は聞き返そうとして言葉を止めた。西崎の手にはロープ付きの手錠が握られていた。

「だから、『これ』だって。」

　西崎は麗子の両手首にガチャリと手錠をかけた。麗子の鼓動が高まっていく。

「ちょ・・ちょっと、西崎さん？・・・」

　麗子はなんとか西崎を思いとどまらせようと、愛想混じりの困り顔をして見せた。しかし西崎はお構いなしだった。

　麗子の手首にしっかりとはめられた手錠に付いているロープを、ぶら下がり健康器に引っかけると、「ほいっ」という掛け声と共に引っ張った。

「あ！・・・」

　両手はロープに引っ張られて上がり、麗子は吊し上げられて爪先立ちになった。

　三谷と小山は呆然とそれを見ていた。目の前で、真っ青なシルクのキャミワンピ姿の、『あの』山下麗子が吊し上げられている。エロティックなレースの付いたキャミソールの、両側に深いスリットの入った恐ろしく短い裾から、吸い込まれそうなほど美しい脚が、肉付きのいい腿ときゅっと締まった足首を見せ付けるようににょっきりと伸びている。

　二人とも、麗子のことは知っていた。男を誘う十分な色気のある童顔に、素晴らしいプロポーションのボリュームのある身体。
　そしてそれを強調するかのように、十代のギャルが着るような派手でエロティックな格好をして歩いている山下麗子は、『エロママ』として近所で有名だった。

　男達はみんな麗子に釘付けになった。しかし、女達は違う。色気を振りまく麗子を女達は毛嫌いする。彼女に話しかけただけでも近所の奥様軍団に何を言われるか分かったものではない。

　しかし、西崎が絡めば話は別だ。この界隈で西崎と揉めようなどという家はない。例え何かの弾みでばれたとしても、西崎に誘われたといえば全てを濁すことができる。三谷は生唾を飲んだ。

「西崎さんてば・・・」

　麗子は興奮していく自分に気づいていた。二人の『他人』の手前、表面上抵抗しているにすぎなかった。
　三谷と小山は気まずそうに、それでも確かに淫欲を孕んだ目で、麗子の身体を眺めている。

　西崎は吊し上げた麗子をそのままにしてダイニングテーブルに座ると、缶ビールをプシュッと空けた。

「まあ、飲みなよ。」

　西崎がビールを勧めると、二人は立ったままビールを手に取り、また麗子に釘付けになった。ただ、見られている。言い訳しようのない姿を眺められている。

（ああ･･･そんなに見られたら・・・）

　二人の『ご主人』達の頭の中を考えると、羞恥心が嫌というほど沸き上がり、コントロールできない官能が身体を襲う。

　麗子はどんな顔をしていいのか分からなかった。目を逸らす。しかしまた二人を見てしまう。
　彼らの、自分の身体を舐めるように凝視する猥褻な表情を、確かめたくなってしまう。そして彼らの刺さるような視線が、性感を刺激する。

　西崎はおもむろに立ち上がると、ゆっくりと麗子の後ろに立った。
　麗子の心臓が期待に高鳴る。

　後ろから伸びた西崎の両手がキャミソールの上からなぶるように乳房を揉みしだく。柔らかい生地から今にも乳房がこぼれ落ちそうになる。

「あ・・・」

　麗子は甘い吐息を漏らした。その声と、とろけるような表情の色香に我慢できなくなったのか、二人はゆっくりと麗子に近づいてきた。

「ダメだよ。見るだけ。」

　西崎の落ち着いた声に二人は立ち止まった。

　明らかに『期待を裏切られた』という表情を浮かべる二人を気にもせず、西崎は片方の手で麗子の桜色に紅潮した太股を撫でながら続けた。

「触ったら俺、奥さんに言っちゃうよ。」

　二人は立ちつくしていた。西崎に言われてしまったら、何一つ言い訳が通じなくなる。

「つまんなかったら、帰ってもいいけど。」

　二人は残念そうに後ろに下がりながらも、それでも帰らずに、他人に陵辱される近所の美人妻の痴態を見守った。

　西崎は黙ってビールを飲みながら麗子の蜜壺を愛撫し、肩や背中を舐めあげた。

　誰もしゃべらなかった。二人も黙ったまま眺めていた。その沈黙の中で、ただただ絶え間なく突き刺さる視線に晒されながら、麗子は淡々と犯されていった。

　西崎は一時間ほど麗子をなぶり続けた。その間に麗子は、キャミソールのまま身体にローションを塗りたくられ、ピンクローターでイかされた。

「はあ･･･はあ･･･」

　麗子がイクと、西崎は黙ってスタスタと歩き出し、トイレに入ってしまった。

　部屋には、三人が取り残された。

　三谷と小山は、グチャグチャにされた末、イかされたばかりの、汗とローションにまみれたエロティックな身体と、興奮にピンク色に染まる麗子の頬を、舐めるように眺めていた。

（ああ･･･すっごい見られてる・・・）

　恥じらいにうつむいた長いまつげ、厚い唇、ハの字に歪む眉毛、その色気に溢れた表情を見ているだけでも、己の男根が痛いほど固くなり、先から染み出した液がヌルヌルとパンツを濡らしてゆく。

『ここで自分で処理してしまいたい』という衝動に駆られるが、さすがにお互いの手前、それはできない。

　暫くして西崎が用を済ませて帰ってきた。西崎は手錠を外して麗子を降ろすと、キャミソールとパンティーを乱暴に剥ぎ取った。そして、今更ながらに恥じらって手で身体を隠す麗子を尻目に自分も全裸になった。

　色鮮やかな仁王の入れ墨に空気がさらに張りつめる。西崎は麗子を仰向けに押し倒し、覆い被さった。

　胸を隠していた麗子の両手を開いて床に押しつけ、愛液溢れる蜜壺に逞しい男根を押しつける。濁った目が凶暴極まりない光を放って麗子の表情をじっと観察している。

　麗子はその目に感じた。ゆっくりと肉棒が侵入していく。

「あ････」

　蛇に睨まれた蛙のように、ゆっくりと、確実に自分が『喰われていく』のを感じる。
　肉棒が根本まで入ったとき、西崎の目がニヤリと笑った。支配者が奴隷を嘲る笑いだった。

　西崎は色っぽく喘ぐ麗子の表情をキスできる距離で眺めながら、ゆっくりと腰をグラインドさせた。

「ああ・・・んぁ・・・」

　思わず声が漏れる。視界の隅に、二人の『他人の夫』がいる。

　腰を動かす度に密着した二人の汗まみれの身体が擦れあい、乳首をニチャニチャと刺激する。そして圧倒的な威圧感を孕んだ肉棒がゆっくりでありながらも確実に麗子の性感帯を責めたてる。
　その、そこいらの男にはできない、何十人も女を抱いたことのある男だけができる微妙な腰使いに、麗子は自分の身体がみるみるとろけていくのを感じた。

　ひとしきり愉しむと、西崎は麗子を四つん這いにさせた。そして、テーブルに置かれていたローションを手に取ると、麗子の尻に垂らした。

「んん・・・・」

　ぬめりとした感触が、臀部から腿へ、アナルから蜜壺へと流れる。西崎の指が慣れた手つきでアナルを愛撫する。

「んん･･･」

　期待と興奮に身体が熱を増す。西崎は麗子のアナルをグチャグチャと愛撫すると、ピンクローターを宛ってスイッチを入れた。

「あ！・・・あぁあん！・・・」

　ピンクローターはまるで座薬を入れるようにアナルに滑り込んだ。西崎は快感に悶える麗子の尻を強引に押さえ込むと、そのまま再び蜜壺に肉棒を差し込んだ。

「ああ！・・ん！・・ん！・・」

　三谷と小山は、人妻が、凶悪な入れ墨男の肉棒とピンクローターにグチャグチャに陵辱される地獄のような様を、ただ、黙って見ていた。

　行為が終わると、西崎は二人を帰らせた。そして、身支度する麗子に言った。

「今日の、ビデオを撮ったから。」

　麗子は少しの間、テレビをつけてビールを煽る西崎の横顔をぼうっと見ていた。
　ビデオがあろうがなかろうが、写真があろうがなかろうが、最早関係なかった。身体はもう西崎の虜になっていた。

「・・・西崎さん、私を可愛がってくださる？」

　思いがけない麗子の言葉に西崎は振り向いた。

「じゃ、・・・また。」

　麗子はしおらしくにっこりと微笑むと、指で『バイバイ』をして部屋を出た。

　昼下がりの帰り道、麗子は思った。結局はあの、四年前と同じところに行き着いてしまった。香織という存在があってさえ抑えられない漆黒の欲望。その恐るべき強さ。やはり、敵うわけはなかった。

（もう、諦めよう・・・）

３、　色欲の毎日

　それからというものほぼ毎日、麗子は西崎達のオモチャにされた。

　西崎だけではなかった。西崎は、小林と嘉島にも麗子を振る舞った。二人は喜んで麗子に飛びついた。
　特に小林は執拗だった。ときには麗子の家にまで押しかけ、欲望の限りを尽くし、麗子を困らせた。

　ただ、それ以外の父兄には、決して麗子を触らせなかった。自分たちが麗子を弄ぶのを相手に見せつけるだけだった。
　それは「西崎グループは『あの』山下麗子さえ思い通りにできる」という力誇示の一環のようだった。

　麗子は完全に西崎の愛人だった。父母会に行くと、麗子は西崎の膝の上に座らされた。
　沢山の父母や幼稚園の先生達が怪訝そうな顔をしている中、西崎は平気で麗子の身体をいじくり、麗子もかまわず西崎に甘えた。しかし、意見するものは誰もいなかった。

　状況は麗子にとって決して悪いものではなかった。西崎の後ろ盾がある限り、誰も麗子に逆らわないし、香織もいじめられなかった。
『触らぬ神に祟りなし』。マサト達の時と同じだった。『暴力』こそが自分のすがるべきものだと麗子は悟っていた。

　麗子はスケベな西崎のご機嫌をとるために気を使った。運動会の時などは、もちろんノーブラ、ノーパンに、よれよれに伸びて生地の薄くなったティーシャツ、薄いピンクの短パン、色気のあるアクセサリーをつけ、甘い香水を目一杯振りかけて参加した。

　西崎は喜んで、色々な競技に麗子を出場させた。小林や嘉島が、下品に囃し立て、園児と父母の見ている中で麗子を辱めたが、麗子はそれにも笑顔で手を振った。

　それを見ていた他の父兄達は、表向きは不快感を顕にしていたが、麗子の色ボケで恥知らずな姿が、他の父兄の陵辱願望を刺激しないわけはない。
　混雑しているところへ行けば体中を触られ、トイレに行けばストッキングをかぶったどこかの父兄に犯された。
　麗子はなすがままに犯され、その刹那的な快感を喜んで受け入れ、貪った。

　自暴自棄になっていた。どうしていいか分からない自分の人生を考えることに疲れていた。犯され、辱められているときが一番幸せだった。

　ただ、香織や山下に対する罪悪感は、常に麗子を苦しめ続けていた。そのせいか、麗子は『ご主人』のいるときは、香織を決してその家へ遊びに行かせなかった。