２　淫夢

「・・・ふーっ・・・」

　松本は大きく息をついた。心臓がドキドキしている。

　麗子の色気に頭の中をグチャグチャに惑わされているのは最早疑いようがなかった。
　落ち着いて頭の中を整理することにした。

（あの女、どういうつもりだ・・・）

　松本は腑に落ちなかった。

（どうもおかしい。娘の話もろくろく聞かないで、人をからかいやがって・・・もしかして・・俺を誘っているのか？・・・）

　心臓がドクンと大きく鳴った。松本は大きく頭を振った。

（いやいや、どうせ俺の反応を見てバカにしようとしてるだけだ。・・・お前みたいなバカ女にバカにされて堪るか）

　松本は落ち着こうとしたが、心臓はまだ落ち着かない。麗子を犯している自分の姿が頭に浮かんで離れない。

（騙されるな！恥をかかされるぞ！・・・騙されるな！）
「どうもすみませんでしたあ。」

　松本の心臓が落ち着かないうちに麗子が戻ってきた。松本は麗子を見ないようにした。

(くっ･･･)

　麗子が入るや否や、教室中にエロティックな匂いが広がった。それは尋常ではなかった。どうやらこの女は、トイレに行ったついでに大量に香水を吹き付けてきたらしい。

（何考えてんだ、どういうつもりだ・・・）

　松本はエロス一色の教室内の空気に、思考が回っていなかった。ただ、その色香に耐えていた。
　麗子が座った気配を確認して、松本は顔を上げた。

「！」

　バックリと開いた胸元、裾から覗くへそ、ミニスカートから伸びる組んだ脚は尻の付け根から指の先まで、露出した肌全てが、ヌメヌメと鈍くいやらしい光を放っているのである。

　何のローションかオイルかは知らないが、たっぷりと塗りつけられ、胸などは麗子が少し腕を寄せるだけでクチュクチュと音をたてる程である。

　松本は思わず麗子の顔を見た。当の麗子はトロンとした気怠そうな薄笑みを浮かべて松本を見ている。

　普通なら何か言わずにはいられない程異常な出で立ちだが、触れたら負けだと松本は思った。

（・・・こいつは何か言って欲しいんだ・・・俺の反応を見てやがるんだ・・・）

　松本は必死で自分に言い聞かせた。この女の思い通りになってはならない。

　閑静な秋の昼下がり、誰もいない教室の中、心臓の音だけがやけに大きく頭に響き、目眩がするほどの淫らな緊張が襲ってくる。

　松本の頭の機能が全て止まった。

「・・・胸・・・何か塗ってるんですか？・・・」

　松本は訊いた。それはまるで自分の言葉ではないように頭の中に響いた。

「・・・どして？」

　女は探るように少し間を置いて色気たっぷりの声で言った。負けを認めた松本に追い打ちをかける。

　麗子もすでにスイッチが入っていた。自分から男を惑わすことなどご無沙汰していた。それどころかそんな行為があったことさえ忘れていた。
　答えの見つからない毎日のストレスが、麗子を自分優位の甘い世界に誘い、導いていた。

「・・・だって、なんかヌメヌメしてますよ・・・・・・エロい感じに。」

　そう言ってしまって松本は麗子の顔を見た。『そう言って欲しかった』と言わんばかりに、女の身体は見る見る色っぽく紅潮していく。
　松本は急いで視線をはずした。じっと見ていたら、取り憑かれてしまいそうなほど、目の前の女は妖艶だった。

「・・・トイレで塗ってきたの・・・裸になって・・・隈無く全身に・・・」

　誘うようにそう言った麗子が両腕を組んで胸を寄せると、乳房の触れ合った谷間でまたクチャリと音がした。

　女は快感を噛み締めるように微笑を浮かべている。
　ドクン、ドクン。松本は心臓の音の中を泳いでいた。

「・・・お前・・・ヤらせろよ・・・」

　松本は弾けそうな心臓の鼓動の中、一世一代の台詞を発した。それは、例えて言うなら初めて恋心を抱いた異性に告白をするときの緊張に酷似していた。

　相手が機嫌を損ねれば夢は終わる。しかし、相手が受け入れれば夢が叶うのだ。さっきの負けを取り戻し、妄想の通り、この女を罵りながら心ゆくまで陵辱できるのだ。

　真っ白になった頭の中で、松本は別の自分になりかけていた。学生の頃、あのエロ女どもを取っ替え引っ替えヤりまくっていた男達、市民プールでこの女を犯し、小便をかけていた男達。
　松本は心の奥底で実は憧れていたその傍若無人な男達に、今自分がなろうとしていた。

　女は松本が自分の色香に降参したことを確かめると、ゆっくりと立ち上がった。

「！・・・・」

　完璧な美女だった。これほど頭の天辺から足の先まで完璧に美しい女がいるだろうか。見た目だけではない。一つひとつの仕草が、驚くほど松本の性欲を刺激する。松本は、改めて麗子の『女』のレベルの高さに驚嘆した。

　女は座っている松本の後ろへ回ると、肩越しに首に抱きついて、長い舌で松本の頬をゆっくりと粘っこく舐めた。松本の体に電撃が走る。

「・・・お願い・・・舐めさせて・・・」

　女は耳元で、熱い吐息を吹きかけるように言った。

　松本は返事に詰まった。それは想像するだけで射精してしまいそうなほどの甘美な誘惑ではあった。が、自分はこれからこの女を支配しなければならない。
　この瞬間から、この、男の性欲の化身のような身体を持った人妻を奴隷にしなければならない。そのためにはそう簡単にハイハイ言うことを聞いてしまうわけにはいかなかった。

　松本の毎日の自慰行為によって培われた異常なまでの麗子への拘りが、松本の本能を縛る。しかし麗子は松本の、というより『そういう男』の意識の『鎖』の解き方を、経験により熟知していた。

「・・・お願い・・・お金払うから・・・どうしてもあなたのをしゃぶりたいの・・・お願い・・・」

　劣等感によって前へ進めないものには、自分がへりくだることで相手の『価値』を上げる。麗子の、足元にひれ伏して懇願するような言葉が、松本の心の鎖をいとも簡単に溶かした。

「・・・しゃぶれよ・・・」

　松本は『命令』した。が、実際には、『麗子に命令しやすい状況にしてもらった』ということに、松本は気づいていない。自分に陶酔していた。

『とうとうこの女を奴隷にした』。それはきっとひと目でも麗子を見たことのある男達が渇望してやまないことに違いない。
　その優越感は松本が今まで経験したことのない想像を絶するものだった。

（うふふ・・・この子その気になってるわ・・・かわいい・・・）

　麗子はにっこりと微笑むと、松本の足下にしゃがみこんだ。

　松本はゆっくりと脚を開いた。女はしおらしく女座りに座り直して、松本のズボンのジッパーを下ろしだした。そして血管が浮き出るほどそそり立った松本の肉棒を優しく導き出した。締め付けから解き放たれた開放感に男根が一層硬さを増す。

「凄ーい・・・大きー・・・」

　麗子は素晴らしい料理を前にしたセレブのように、暫く手で愛撫しながら松本の男根を眺めると、ゆっくりとピンクの唇を近づけていった。

　松本の緊張がピークに達する。『クチョリ』と柔らかい音を立てて、女の口が己の肉棒を包み込んだ。

「ああ！・・・あああ・・・」

　凄まじいまでの快感に松本は堪らず声を上げた。

「ああ！おいしい！・・・凄いわ先生ん！・・・んん！・・・」

　麗子は恍惚の表情で、夢中でしゃぶりだした。

　奴隷になっている自分の姿が好きだった。そして、美しい自分を奴隷にしたつもりで悦に入っている貧相な男の余裕のない表情も好きだった。

　その感覚は、男と自分とのギャップが大きければ大きいほど上がっていった。
　貧相な男、凶暴な男、醜怪な男、卑劣な男、横暴な男、何でも良かった。完璧な美しさを持ちながら、人に見下され、蔑まれる『下等な男』に、更に見下げられている自分。

　麗子は客観的に見たその姿に、暴力的な快感を覚えた。それは、『アブノーマル』であるが故の快感だった。『ナンセンス』であるが故の快感だった。

　夢中でむしゃぶりつく麗子の巧みなテクニックに松本は興奮した。

「はあ・・・おれのチンチンうまいかよ・・え？奥さん・・・てめえはほんとにスケベな女だなあ！・・・」

　松本は、年上であり、社長婦人であり、自分の預かる園児の母である麗子を罵った。気が狂うほどの優越感が鳥肌になり、罵倒する度に体に電気が走る。

　強烈な快感だった。そしてその快感によって敏感になった肉棒を、罵倒されて興奮する女の絶妙な舌使いが刺激する。女の興奮も、更に遠慮なくエスカレートする。

「はあ！・・おいしいです・・」

　麗子は口を放すと、手で優しく男根をしごいた。ピンクのマニキュアが色っぽく塗られた長く美しい麗子の指に、すでに染み出した自分の汁が付着している。

「先生の・・この大きいのの先から出る、ネバネバした汁が！・・・ああ！・・・」

　麗子はそういうと尿道を舌でチロチロと舐めた。

「！」

　鳥肌が立つ快感が再び松本を襲い、肉棒が更にまた膨張してゆく。そして次に口に含んだ瞬間、

「うおお！・・おっ！・・」

　男の叫び声と共に、麗子の口の中で太い肉棒がピクピクと痙攣し、熱い液体が発射された。

「んん！んふう！んふん！」

　ドクッドクッと肉棒の先から噴出された男の子種達が、麗子の口内を支配してゆく。エロティックな快感が頭の中に広がる。

　麗子はそれを全部飲み干すと、射精したばかりの肉棒を、ヌメヌメの胸に擦り付けた。黒いシルクのブラウスはすでにオイルを吸って汚らしくしみ、更に松本の淫欲を煽る。

「・・・ああっ！・・ああ！」

　麗子は恍惚の悲鳴を上げた。松本は、クチャクチャと女の胸から伝わる快感に敏感になった男根を刺激されて痙攣した

「・・・ああ！また立ってきたわ・・・先生凄ーい！ああっ！・・先生！」

　麗子は松本の、再び堅くなった男根をまた口に含んだ。