１　高校デビュー

「そして次の日、とうとうお前は、ヤンキーの先輩に呼び出されたのだ。」

　田所のナレーションが入ると、また記憶が移り変わる。

（そう・・・次の日・・・）

　次の日、麗子は二年生の加藤という、学校のヤンキー連中のリーダーの先輩に呼び出された。

　麗子が呼び出された図書室に入ると、ヤンキー連中を従えた加藤が、椅子の上にふんぞり返っていた。その取り巻きの中に、昨日麗子達を陵辱した二人の男がいた。
　加藤はニコリともせずに麗子を上から下までジロジロと見た。
　
「お前が山崎麗子か。いい女だな。」

　麗子は何と言っていいか分からなかった。あの男達がいるということは、昨日のことだろうか。

「お前、今日から俺の女な。」

　唐突に加藤が言った。麗子は一瞬状況が掴めなかった。そんな麗子の意志などお構いなしに加藤は勝手に話を続ける。

「・・・て言うことは、お前らは俺の女に手ぇだしたってことになるなぁ。」

　加藤はそう言って立ち上がると、昨日麗子を犯した二人の男の顔面をいきなり殴った。

「うがぁ！・・・」

　麗子は咄嗟に顔を背けた。

　顔を抑えて崩れ落ちる男達に、加藤はその上から椅子で殴りつけた。鈍く、残酷な音が響く。

「ちょ！・・ちょっと待って下さい！」

　男達が泣きながら懇願するのを加藤はまるっきり無視して椅子で殴打し続けた。椅子の鉄パイプが骨に当たる、なんとも不快な音がする。周りの連中もそのあまりの迫力に手が出せない状態だった。青ざめた顔でただ呆然と見ている。

　恐怖に硬直した麗子の足下に、血まみれになった男達が放り投げられた。麗子は恐怖に口を押さえたまま身動きもとれなかった。

「この通りだ、麗子。お前に嫌な思いさせたやつは、みんな殺してやるよ。その代わり、お前は俺に絶対服従だ。」

　加藤はそう言うと、麗子の肩に腕を回した。麗子は胃にくるような重苦しい不安を感じていた。

「じゃ、行こうか。」

　ぞろぞろと図書室を出ると、グループは麗子を連れて廊下を闊歩した。保健室の前に来ると、授業中であるはずの一年生が一人立っていた。

「どおもっス。」

　一年生が挨拶をすると、加藤は軽く頷いてドアを開けた。

「うぃーっす。」
「オース。」

　中にいた三年生がこっちを振り向いた。

「！」

　麗子は息が詰まるほど驚いた。保健の白井先生が、ベッドに這い蹲り、白衣のまま少年達に尻から犯されていた。

「ああ･･･あぁあ･･･」

　先生は少年の腰の動きに合わせて桃色の吐息を漏らしている。

　加藤は麗子をそのベッドのそばへ連れてくると、白井先生の横に押し倒した。

「いいねえ、美人ぞろいで。」

　先生を犯している男が笑った。

「よいしょっと・・・」

　加藤が麗子の上に覆いかぶさり、制服を脱がし始める。白井先生の顔が、麗子のすぐ横にあったが、麗子に構っているような余裕はなさそうだった。目を閉じ、生徒の陵辱の快感にひたすら耐えている。

（先生・・・）

　暗い、陰湿な空気だと麗子は思った。しかし、不思議にも、その、胃を掻き混ぜるような緊張の中に、甘ったるいものを感じる。

　恐怖に硬直した身体に加藤が触れるたび、心地よい官能が敏感になった神経を襲う。白井先生の歪む顔の美しさが、更に麗子の『性』への甘い好奇心を掻き立てる。

　麗子は逆らわず加藤に犯された。一つのベッドの上で、二人の美女が少年達の横暴な性欲を大人しく受け入れていた。

　噂はあっと言う間に広がり、次の日から麗子の高校生活はガラリと変わった。

　加藤への恐怖から、一般生徒は誰も自分から麗子に関わらなくなった。その代わりに、今まで話したこともないようなヤンキー少女達が、麗子に親しげに話しかけるようになった。
　麗子は加藤の性奴隷になる代わりに、ある種の女王様的な生活を約束されたのだった。

　麗子は今まで自分の性欲に不安を感じてきた。明らかに周りと違う淫らな自分に悩んできた。そんな麗子にとって、日常的に異常行為がはびこる不良の世界は、居心地の悪いものではなかった。

　加藤は、大きな暴走族に入っており、地元の暴力団にも顔の利く札付きだった。誰も加藤に逆らうものはいなかった。
　麗子が街を歩いていると、加藤を知っているヤンキー達は他校生でも必ず頭を下げていった。十六歳の麗子は、その優越感を素直に感じていた。

　しかし加藤に逆らえないのは麗子も同じだった。やれ化粧をしてこい、ヒールの高いサンダルを履いてこい、スカートをもっと短くしろ、セーラー服の胸元を開けろ、丈を短くしろなどと、加藤は事細かに麗子の『見栄え』に注文をつけた。
　麗子は言われるがまま、加藤の望む姿で学校へ行くしかなかった。

「ただでさえ高校生とは思えないほど成熟したお前の体に、その格好はどこから見てもキャバクラ嬢だったな。ヤンキーデビューって訳だ。」

　田所はクククと笑った。

　他の生徒も、先生も、何も言わなかった。『加藤の女である麗子の機嫌を損ねようものなら、どうなることか分かったものではない』。そんな空気が学校中に広まっていた。

　そんな格好で通学していたのだから、当然の事ながらよく痴漢にも遭った。通学電車の中ではほとんど毎日だった。麗子は抵抗しなかった。

　麗子の性の目覚めは、押さえつけていた期間が長かっただけに激しかった。それに、加藤の毎日に及ぶ性行為が手伝って、麗子の『性行為』は日常的になり、それに対する麗子のモラルも日に日に堕ちていった。つまり、性行為に対する罪悪感や、頓着が薄れていったのである。

　父親は、麗子が高校に入ってから、あまりうるさく言わなくなっていた。
　父に対する後ろめたさは、確かにあった。父は何も言わないが、変貌した麗子の姿に失望しているに違いないと思っていた。しかし、性欲は止まらなかった。

　そんな迷いと、屈折した生活の中で、服装だけでなく、だんだんと麗子の人間性自体が変貌していくのは極自然なことだった。

　相手など誰でもよかったが、しかしそれに関しては加藤の目が光っていたのでそうそう好き勝手もできなかった。唯一、痴漢に遭うことだけが、麗子に許された加藤以外の性欲処理だったのだ。

　麗子は加藤の女という大きなバックステータスのせいもあって、徐々に不良少女のグループのリーダー的存在になっていった。

２　自分との決別

「山崎・・・。」
　
　ある日、休み時間廊下を歩いていた麗子を、男の声が呼び止めた。振り返ると、そこに立っていたのは幼なじみの中村だった。

　麗子は黙ってうつむいた。中村とは、中学時代、よく遊んだ。やさしくて、頼りになる男だった。二回ほど告白されたが、麗子は断っていた。父親の目が光っていたということもあったが、正直そのころの麗子には、恋愛というものに対する憧れはなかった。
　しかし、今、自分はヤンキーの女になり、言うなりにエロスを振りまいている。そんな変わり果てた姿を、中村に見られるのは心が苦しかった。

「・・・何？」

　麗子が気まずそうに聞くと、中村もうつむいた。

「お前・・・変わったな。大丈夫か？」

　中村の声に、麗子はノスタルジーのような暖かい懐かしさを感じた。

「別に・・・大丈夫よ。」

　麗子はわざとあっけらかんと返した。沈黙が流れる。

「・・・なんかあったら、俺に言えよ。」

　中村は、やっとそう言うと、きびすを返してスタスタと歩いていった。

　麗子は、中村の存在を遠く感じていた。自分とは『住んでいる世界が違っている』と思った。明るく爽やかな表の世界に住む中村と、暗く陰惨な裏の世界に住む自分。しかし、戻りたいという気持ちはなかった。

　麗子は自分が『色気』という武器を持っていることを知っていた。その力は、手に負えない不良を虜にし、クラスの者や、他校の生徒、ときには先生達でさえも跪かせる。周りの者にとって、『加藤の女』である麗子の類まれなる色気は、強盗の突きつける銃のように、ヤクザの握る抜き身の短刀のように強力な威圧感を放っていた。

　麗子はまだ、その強力な力を誇示し足りなかった。