３　校内陵辱

「そして、春が来て、お前は二年生に、加藤は三年生になり、下克上が起きた。」

　ナレーションは続く。

「新しく入学してきた一年生の不良が、加藤を金属バットで殴打し、病院送りにしてしまった。」

　麗子は朧気な意識の中、微かな声で田所に問いかけた。

「・・・どうしてそんなことまで知っているの？・・・」

　不可解だった。この男はまるで自分の目で見ていたかの様に正しい麗子の記憶を辿る。
　男が自分で見ていたというのなら。どこかしらで麗子の記憶に出てこなければおかしい。

　麗子にはそのころ田所を見た記憶はない。校内で起きた出来事など、田所が把握できるはずはないのである。

「高校にな、仲間を一人潜り込ませたんだ。高校生になれば必ず目覚めると思ったからな。檜山先生っていただろ。あいつだ。」

　田所は『簡単なことだ』と言わんばかりにさらりと言った。

「中学にも入れようかと思ったんだがな、まあ中学なら暴走と言うレベルまではいかないと踏んでいた。それに、極めて敏感な年頃だからな、何に違和感を感じるか分からない。絶対に途中でばれるわけにはいかないからな。
　その点高校なら性欲が目覚めたときに一気に没頭できる機会がいっぱいある。それこそつまらないことに敏感になっている暇もないくらいにな。
　あとはその、真っ直ぐ突っ走って加速する性欲が、『どういう方向』に走っていくかを監視する役が必要だったのだ。」

　麗子は呆然と男の言葉を受け入れた。全てはこの男の手のひらの上での出来事だったということを、認めざるを得なかった。それは、極めて不思議な気分だった。

　麗子はそのまま、再び記憶の旅に入った。

　下克上を起こした一年生は佐竹といい、加藤の所属するチームと対立している暴走族の一員だった。

　学校内の勢力地図は激変した。今まで大手を振って歩いていた二、三年生の不良は、佐竹率いる一年生グループの顔色を窺いながら、下を向いて歩かなければならなくなった。

　麗子は焦りを憶えた。加藤がいなくなった今、当然麗子の後ろ盾は何もない。今まで加藤の威を借りてわがまま放題していたことに対する、他の生徒達の報復を麗子は恐れた。

　再び安全な地位に戻るためには、今校内で一番力のある佐竹の女になるしかない。それは当然人道的に愚劣な行為ではあったが、やらなければ助かる道はない。

　もちろん、佐竹が自分を受け入れてくれればの話だったが、麗子は自分の美しさに自信があった。

　佐竹が我がもの顔で二年生の廊下に来たとき、麗子は恥も外聞もなく一つ年下の佐竹の足下に跪いた。周りの生徒達はその麗子の不可解な行動に目を見張った。

「私をあなたの女にして下さい！・・・お願いします！・・・」

　十分に大人びた麗子の肢体が、まだ子供のあどけなさを残す一年生の足下に土下座する様は、まさに下克上と言わんばかりの陰湿な色気を放っていた。
　そのあまりに恥知らずな行為に、周りで見ていた二年生達は怒りを噛み締めた。

　佐竹は麗子を受け入れた。学校中の麗子に対する反発は格段に上がった。一年生は麗子を嘲笑い、二、三年生は『裏切り者』と言わんばかりに麗子を睨んだ。だが、佐竹がそれを受け入れた以上、やはり面と向かって麗子に逆らうことは、誰にも出来なかった。麗子は、切り札を掴んで、身の危険を何とか逃れたのだ。

　麗子は佐竹を失うわけにはいかなかった。もっと強い男が現れれば、また美貌を武器にその男に媚びればいいが、ただ捨てられてしまっては、他の生徒達にどんな報復をされるか分からない。そんな思いから、麗子の佐竹に対する奉仕は節操がなかった。

　あらゆるところで犯された。駅のトイレ、路地裏、授業中の教室の後ろで先生や生徒の前で犯されたこともあった。

　麗子は佐竹の奴隷と化した。恥をかこうと、後ろ指を指されようと構わなかった。それしか佐竹を繋ぎとめる方法はなかったのだ。

４　残虐非道

「お前は、佐竹に命令されればどんな男の男根も口にした。その代わり、一般生徒に対しては容赦なく厳しかった。弱いものを徹底的に見下していた。」

　夢の中で佐竹の陵辱に没頭していた麗子は、田所の声に無理矢理次の記憶へと飛ばされた。

　ある日、教室で女友達と談笑している麗子に男子生徒がぶつかった。

「ちょっと、痛いわねあなた、」

　麗子はその少年を睨み付けた。クラス中がシーンとして麗子を見た。

「ご、ごめんなさい・・・」

　少年は即座に頭を下げた。

　明るい金髪に、濃く長いいまつげ、程よく厚くみずみずしいピンクの唇が映える。そして、その『女王』麗子の冷たい眼差しは、神々しいまでに美しかった。

　少年はクラスのイジメられっ子だった。佐竹という強い男の女である麗子にとって、そういうタイプの男は虫けら以下にしか見えなかった。
　麗子はカツカツと恐ろしくヒールの高いサンダルを鳴らして少年の目の前まで歩み寄った。

　麗子は教室でもヒールを履いていた。それが佐竹の指示である以上、教師でさえ見て見ぬ振りだった。

　麗子は腕組みをして、自分より背の低い同級生を見下ろした。隣に並ぶと、とても同級生には見えない。麗子の色気は日々の性行為によって更に熟し、最早高校生とは思えないほどに洗練されていた。

　少年を含むクラス中の生徒が、麗子の美しさと威圧感に萎縮していた。仲間のヤンキー女達はニヤニヤと成り行きを見守っている。
　
「あなた、私に触りたくてわざとぶつかったでしょ。」

　麗子がそう言うと少年は弾かれたように否定した。

「そ、そ、そんなこと、な、ないよ・・」

　その瞬間麗子の平手が少年の右頬に飛んだ。バシッと容赦のない強烈な音が響く。

「ヒューッ麗子カッコイイ！」

　仲間の女達が笑うと、麗子は屈託なく笑った。

「ごめんねえ、痛かったあ？一回やってみたかったのよ〜。」

　麗子は少年の肩を掴んで、うつむいている彼の顔をのぞき込んだ。

　ひとしきり笑いが納まると、麗子は続けた。

「じゃあ、土下座して貰おっかな。いや、土下座じゃ済まないわね、動物みたいに仰向けになって。『降参』って。」

　麗子は女神のように爽やかな笑顔で少年に言った。しかしその奥にサディスティックで陰湿なエロスが鈍く光っている。
　ヤンキー達がまた囃し立てる。
　
「それいいー。見たーい。」

　追い詰められて震えている少年に麗子はだめ押しをした。

「あなた、私に逆らってどうなるか分かってるんでしょうねえ。」

　その言葉は、少年のような力のないものにとって、これ以上ないほどの強迫観念を与えた。それは少年に限ったことではなかった。
　クラス中が水を打ったように静まり返る。それほどに校内の王である佐竹は、そしてその女である麗子は脅威だった。

　麗子は快感を愉しんでいた。クラスの連中の自分に対する感情は分かっていた。しかしそれでも、ここまでやっても、誰も何一つ麗子に文句を言えないのである。
　自分の美貌の勝利だと麗子は思っていた。そして、相手を罵り、辱める行為は、勝者の特権だと思っていた。

　少年はゆっくりと麗子の足下に屈み込んだ。そんな恐怖の中でも、ミニスカートからすらりと伸びた麗子の真っ白い脚は、少年にとってこの世のものとは思えないくらい美しかった。
　肌理の細かい、吸い付くようなもち肌の生脚を眺めつつ、少年は跪き、そのまま仰向けになった。

　麗子のあまりの横暴さと、女王様的な美しさの迫力に、他の生徒は息を呑んだ。

「キャハハハッ、この人ホントにやってるぅーっ。」

　麗子は上品に口を押さえて笑った。

「ねえねえ、そっからだと麗子のパンティーよく見えるでしょう。うれしい？」

　仲間達が囃し立てる。麗子は半ベソ掻いて仰向けに横たわった同級生の周りを、半裸のセーラー服で色っぽくコツコツと歩いた。太ももが剥き出しのミニスカートがヒラヒラと揺れる。

　教室内は異様な緊迫感に包まれていた。先日、麗子が一年生の教室で、こともあろうか授業中に佐竹とセックスをしたという噂は、あっと言う間に全校に広まっていた。
　そんな、まさに佐竹の奴隷である女が、今度は自分より弱いものを奴隷にし、愉しそうに辱めている。麗子の、自分の恥を顧みない傍若無人な行為に、皆が沸々とわき起こる怒りを抑えていた。

　しかしそれでも、そんな麗子の洗練された立ち居振る舞いに裏付けされたエロティックな色気だけは、誰もが認めずにはいられなかった。それほどまでに麗子の美しさは他の女生徒と比べて突出している。

　麗子は、少年の股間を銀色に光るサンダルの先で軽く踏みつけると、ゆっくりと擦った。
　少年の男根が硬く興奮していくのを、麗子はサンダル越しに感じた。
　少年はギュッと目をつぶって生き恥に耐えている。麗子はニヤリとした。
　
「やだー！信じらんなーい！この子、勃起してるうー！」

　麗子がしなやかな身体をブリっこっぽくくねらせて言うと、ヤンキー女達がどっと笑った。
　
「きたねー！こいつ最悪ー！」
「キャハハハ！恥ずかしー！」

　少年の上に嘲笑の笑いが雨のように降る。その目に、麗子の女神のような美しい笑い顔が映った。

　次の日、麗子はいつもどおり教室で友達とくだらない話ではしゃいでいた。その美しい尻の下で、少年は四つん這いで彼女の椅子になっていた。

　誰も反抗することは出来なかった。それが、佐竹の女であるということであり、『強者の特権』であった。

　麗子はこのころから、疑問を感じ始めていた。自分は性行為に対するモラルが、あまりにも低いように思えた。抵抗がないのだ。それは無秩序なヤンキーグループに身を置く他の女生徒達の中でも、麗子だけが突出している。同じように、小学校、中学校、高校と成長してきて、『他人とあまりにも違う』というその原因が、麗子には思い当たらなかった。

　確かに、自他共に認める美貌を持ち、男好きするプロポーションをもつ麗子は、他の人よりも、性行為目的で男が接触してくることは多い。しかし、そのプロポーションも、麗子自身が気を使って維持している。それは、権力のためとか、優越感のためとかいうよりは、純粋に自分自身の性欲のためのように思えた。

　しかし、そんな疑問も、毎日の堕落しきった悦楽の中では、些細なことだった。『好きだからやる』その頃の麗子の荒んだモラルには、それで十分だった。