１　拉致

　夜の十二時、麗子は友達と別れて家路についた。家の前まで来ると、高校生っぽい少年が二人、近づいてくる。麗子は少年達を訝しげに睨んだ。

「山崎麗子さんだよね。」

いかにもヤンキー風の若者であるが、このころの麗子には、普通の人が話しかけてくる方がよっぽど怪しかった。

「誰？」

　高飛車に聞き返す。佐竹がいる限り、ここいらで麗子より上の立場の人間はいない。

「俺たち、木山三高のモンだけど、佐竹君に、あんた連れて来いって言われてるんだ。」

　達は麗子のあまりに破廉恥なセーラー服の着こなしと、その色気の迫力に気圧されしたのか、緊張しながら言った。麗子は腕を組んだ。

「なんで？」
「パーティーしてんだよ。すっげえやついっぱい来てるぜ。山北の葛西くんとか、三浦くんとか、隆心高のあの榎本とか・・。」

　聞いたことのある名前ばかりだった。特に隆心高の榎本といえば、佐竹と同じ一年生で高校を仕切ったという有名人だった。麗子はまだあったことはない。

「それで、佐竹くんが麗子さん紹介したいって・・・。」

　麗子は、少年達を訝しげに見回して少し考えた。

「いいわ、連れてって。」

　麗子を佐竹の女と知ってて騙すはずがない。

　極太のマフラーが竹やりのように天を突いている、派手な紫色の車が止まっている。典型的な暴走族の車だ。麗子は少年達にいざなわれて、その後部座席に乗り込んだ。

　車は埠頭へ入った。だだっ広い埠頭の中をゆっくりと巡回する。
　
「なに？ここ。ここでやってんの？」

　麗子は納得いかなかった。今まで佐竹と付き合ってきて、こんなところでパーティーをしたことはない。

「あれーー・・。どこだったっけなーーー。」

　男はゆっくり確かめるように車を走らせている。麗子はイライラしてきた。

「あ！いたいた！」

　男がそう言うので前方を見ると、ヘッドライトに一人の男が映った。手を振っている。車はそこで止まった。

「じゃ、降りて。」

　助手席の男が先に降りて麗子の側のドアを開けた。

「・・・・」

　麗子は腕組みしたまま、不満げに車を降りた。

　埠頭は、薄暗く、広々として静まり返っていた。大きな倉庫が立ち並び、各々の入り口につけられた白熱灯が、重い鉄の扉を黄色く照らし出している。

　パーティーのにぎやかさなど微塵も感じない。アスファルトの上を生暖かい風が、海水の匂いを乗せて緩やかに通り過ぎている。

「どこなのよ。」

　麗子は美しい金髪が風で流れるのを指で掻き揚げながら、キョロキョロと辺りを見回した。半裸の制服がヒラヒラと色っぽくその風に漂ってはいるが、その顔は不快感で溢れている。

　男達は、ニヤニヤとしている。運転してきた男は麗子の目の前に歩み寄ると、無造作にナイフを出した。

「な・・・なによ・・・。」

　麗子に一瞬で緊張が走る。うろたえる麗子の手を、もう一人の男が後ろに回して手錠をかけた。

「！」

　麗子は問いかけるようにナイフの男を見た。

「これから麗子さん犯しまーす。」
「ガハハハハ。」

　背筋に寒いものが走る。しかし、それと同時に自分の『ステータス』に対する侮辱への怒りが沸き起こった。

（何言ってんの？・・・こいつら・・）

　麗子は恐怖心を隠して、あくまでも高飛車に言った。

「あんたたち、私が誰だか分かってないの？」

　男達は一瞬目をギラつかせた。

「山崎麗子さんでーす。ちまたのオナペットナンバーワン。」
「こんなことして、知らないわよ。」
「ああ、佐竹だっけ？もう、あいつやっちゃおうと思って。だって、俺、麗子さんとやりまくりたくてしょうがねえんだもん。」

　男は苛立たしげに言った。佐竹に勝てるつもりだろうか。

「馬鹿じゃないの？あんたたち。」

　麗子は精一杯強がった。少年達は佐竹の名に動じない。それは麗子にとって初めてのことだった。

「もう、おしゃべりはいいや。こっちこい。」

　少年たちは、倉庫の大きな扉の前に麗子を連れてくると、麗子の両手を紐で倉庫のドアに括りつけた。
　麗子は、キリストのように張りつけにされたまま、敵意丸出しの視線を男に向け続けている。

「調子に乗りやがってよ、エロ女が・・・。」

　男は、その麗子の反抗的な目に苛立ったのか、吐き捨てるように言った。

　キャバクラ嬢が着るような、猥褻なセーラー服姿の麗子の身体を、三人はじっと眺めた。

　シャギーの入った金髪の美しい髪、細いチェーンのアクセサリー類が、高校生とは思えない色気を醸し出している。少年達は、改めてまじまじと見る、日本人離れした麗子の美しさに、生唾を飲んだ。

「ようし、パーティーパーティー！！」

　男たちが、口々に奇声を発してはしゃぎながら車に戻る。

「！」

　ヘッドライトが点された。真っ暗な闇の中、強力な光に照らし出される麗子。これだけの明かりなら、一〇〇ｍ先からでも縛られた麗子の姿が見えるだろう。逆に麗子の方からは強い逆光で暗闇の部分がまったく見えない。

　こちらの痴態は丸見えであり、こちらからは全く向こうが見えない。そのあからさまに不公平な状態に、『拉致された』という屈辱が否応なく沸き起こる。

（誰に見られても、拒否できない・・・）

　麗子はその緊張感に、一気に心臓が高鳴るのを感じた。

　男たちは車の中からビデオカメラと、それぞれの手に水鉄砲を持って戻ってきた。

「発射！」
「！」

　一人が発した水鉄砲の中身が、麗子の露出した胸元に命中する。命中した液体は粘り気を持ち、ゆっくりと纏わり付くように麗子の白い肌を下降してゆく。

（ローション？・・・）

　流れた液体がセーラー服に染み入って、ノーブラの乳首が透けてくる。

「うわっエロっ！！」
「ヒューヒュー」

　それを見た男たちははしゃいで、続けざまに液体を放った。
　次々に命中するローションが麗子の身体を淫らに濡らしていく。

（ああ・・・何？この感覚・・・）

　麗子はその屈辱感に、今まで感じたことのない甘ったるい感覚を覚えて、焦燥した。

「スカートは透けねえな。脱がしちゃえ。」

　主犯格の男が言うと、子分達は喜んで麗子のスカートを脱がした。