２　慕情

「こりゃあ、たまんねえな・・・。」

　目の前に露呈された麗子の身体の美しいラインに、男たちは感嘆した。

　大量のローションがグチャグチャに染み込んだ薄い夏物のセーラー服が、スラリとした身体にピッタリと張り付き、形のよい乳房、つんと立ったピンクの乳首、張りのある腰、白い紐パンからにょっきりと素晴らしい曲線を描いて伸びる白く美しい脚を艶かしく演出している。

「裸よりよっぽどエロいぜ・・・。」

　男が満足そうに笑った。

「おい！！こっちこいよ！！」

　ひとしきり麗子を視姦した後、男が思い出したように叫んだ。麗子は男が叫んだ暗闇を見つめた。

　暗闇の中から、人影がこっちへ歩いてくる。どうやらもう一人仲間がいたらしい。
　その人影は、ゆっくりと近づいてくると、ライトの光の中に姿を現した。

　麗子は目を疑った。男は、幼馴染の中村だった。

「中村くん・・・。」

　信じられなかった。あれほど麗子の身を心配してくれていた中村である。麗子はそっけなく返してはいたが、実は、心の奥では中村を誰よりも信頼していたのである。その中村がここにいる理由が、麗子にはわからなかった。

「どうして・・・・。」

　中村はうつむいたまま答えない。

「まあまあ、こっちこいよ。」

　男が親しげに中村を中央へ迎える。中村は下を向いたままだ。その表情は暗い。麗子は中村の表情から真意を読み取ろうとした。

「どうよ。初恋の人のエロ姿。」

　男たちはヒヒヒと醜く笑う。麗子はドキリとした。中村に告白された淡い思い出が甦る。

「お前に一番にさせてやるよ。ほら。」

　男は嘲り笑いながら、中村を前に突き飛ばした。中村は悲壮感に溢れた顔で、立ち尽くしたままだ。

「中村ぁ・・。お前分かってんだろうなあ。お前のために俺たちアブねえ橋渡ってんだぜ。いい加減にしろよ。」

　男は笑うのをやめ、脅迫じみた声で言った。中村の表情が更に悲壮になる。

「あんまりグダグダしてると、俺、おしおきしたい気分になっちゃうかもよ？」

　今にも泣き出しそうな表情のまま、中村はゆっくりと麗子に近づいた。こんな中村の顔を、麗子は今まで見たことがなかった。麗子にも、熱いものが込み上げてくる。

「正面じゃ俺たち見えないじゃん。後ろにまわれよ。」

　中村はきっと自分の心の中で暖めていたものを、何かの弾みで彼らに話し、脅され、利用されたのだろう。

　その、『心の中で暖めていたもの』は、決してこんなことではなかったはずだ。中村はそんな男ではない。しかし、彼自身どうすることもできなくて、葛藤と自己嫌悪で潰れそうになっているに違いないだろうことは、麗子には痛いほどよく分かった。

　彼の純情をめちゃくちゃに踏みにじり、ここまで追い詰めてしまったのは、この男達ではなく、変わり果ててしまった麗子自身かもしれない。

（中村君・・・）

「うしろから、おっぱい揉め。」

　男がはしゃぎながら叫ぶ。

「おっぱいって言うなよ！はずかしいなあ！！」

　少年たちが無慈悲にはしゃぐ。

「オッパイオッパイ」

　中村は麗子の後ろへ回ると、ローションが卑猥に染みたセーラー服の上から、形のよい、豊満な乳房にゆっくりと手を当てて、揉みしだいた。

「んん･･･」

　中村の中で、空しさと性欲がぐちゃぐちゃに入り乱れているはずだった。

　麗子は始めて中村の手の感触を感じた。その手から体温とともに中村の無念が伝わってくる。

（ごめんね・・・中村君・・・）

　彼の行為に対して、怒りはなかった。彼とて正常な男子である。むしろ性欲の対象に自分があってくれたことを、麗子は愛おしいと思った。憎むべきは、ガラスのように繊細な彼の心を踏みにじる、この男達である。

「うおおっエロい！」

　ローションでグチャグチャになった麗子のセーラー服が、中村の手でしわが伸ばされ、くっきりと麗子のピンク色の乳首を浮き立たせる。

「もっと動かせ！！揉め揉め！！」

　中村は揉んだ。息遣いが荒い。太ももに勃起した中村の男根を感じる。

「あぁ･･･あん･･」

　自分は所詮汚れ切った女である。だから、これでいい。しかし中村はそうではない。そんな中村が、悲しくて愛おしかった。

「よーしよーし、お前、もういいよ。」

　男が言ったが、中村は聞こえてないようだった。中村は半べそのまま、麗子の首筋を舐め上げた。

「ああっ・・・」

　麗子は感じた。

「もういいって言ってんじゃん。」

　男はツカツカと近づいてくると、中村を麗子から引き剥がして思いっきり殴りつけた。

『バキッ』という殺伐とした音と共に、中村が地面に転がった。麗子は反射的に顔を背けた。胸をナイフで切り裂かれたような痛みが走った。