２　面接

「卒業後、お前は生命保険の会社に就職した。
　卒業して性癖が変わるかと思ったが、生活は荒れたままだった。
　俺は焦った。お前は完全なマゾヒストにしなければならない。しかしお前はサディスティックな部分を多く持って成長を続けていた。
　美しく、男からの寵愛を受けやすいお前だけに、これが一番のネックになることは分かっていた。
　俺はクスリの開発を急いだ。しかしその間にもお前は自分の美を武器に性欲を貪り続けた。」

　麗子は会社に向かっていた。今日が初出勤だった。道々、面接の時のことを思い出していた。

　麗子は面接というものをよく知らなかった。男はみんな色気のある格好の方が好きで、どんな場所であってもそれは変わらないと思って疑うことなどなかった。

　面接の日、麗子はスーツこそ着ていたが、思い切り色気のあるメイクをし、銀のアクセサリーを所々につけて会社へ出向いた。

　麗子の考え方は必ずしも間違いではない。しかし、男というのは、単独ではそうであっても、他人の中ではそれを隠そうとするものである。

　面接官達はしかめ面で麗子を見た。内申書は問題ないようになっているはずだった。そのためにあの教師に何度もいい思いをさせてやったのだ。麗子は重苦しいその雰囲気に不安を感じた。
　ふと、一人の面接官と目が合った。三十半ばくらいのやり手っぽいその男は、腕組みしたまま麗子をじっと見ていた。面接が終わり、後日、採用の通知が来た。

　麗子は会社に着くと、まっすぐ『主任室』という部屋に行った。『そこに来い』と言われていた。

　中に入ると、すでに麗子と同じ新入社員らしい二人の若い女性が来ていた。
　二人とも麗子に負けず劣らず派手な身なりである。その向こうに、面接の時のあの男が座っていた。

（やっぱりあの人が私を採ったんだ・・）

　麗子は挨拶して中に入った。麗子が来たのを確認して男が口を開いた。

「おはよう。君たちのような優秀な人材に我が社に来て貰って嬉しい。早速仕事の説明をさせてもらう。
　君たちにやってもらう仕事は我が社の保険のセールスだ。各家庭へ行って契約を取ってくる。君らの家にも来たことがあるだろう。あれだ。
　だが、保険業界も戦争だ。はっきり言って、我が社には素人が目の色変えて飛びつくような特典はない。そうなれば勧誘時に色々な特典をつけて顧客を得ていくしかない。」

　麗子は聞き流していた。そもそも入ってさえしまえばそれでよかった。あとは適当にやるだけだ。
　他の二人もそう思っているのか落ち着きがなかった。男はそんな空気を感じたのかニヤリとした。

「しかし実際、今までのサービスのやり方では顧客を掴むのは難しくなってきている。そこで俺は特別班を作ることにした。それが君たちだ。はっきり言おうか。カラダを使って客を取ってこい。」

　三人は顔を見合わせた。

「給料は固定給だが、成績優秀者三名まで毎月特別賞与が出る。その気になれば月百万くらい稼げるぞ。
　それと、『特別班』というのはあくまでも手段の問題だ。君たちの所属はセールス部、三十名ぐらいの部署で、君たち以外は昔からやっているようなおばさん連中ばかりだ。
　基本的には同じ仕事をし、同じように成績を争う。その過程でお前達は得意の色気を使えと言うことだ。ちなみにそれが出来ないなら君たちはいらない。
　君たちは、実はまだ仮採用だ。今月末の成績を見て本採用するかどうか決めることになってる。
　カラダを使わなくても成績を上げられると言うのならそれもよし。以上。あとの細かい仕事は担当者に聞け。」

　男は言いたいことだけ言うと、さっさと部屋を出ていった。

　麗子の社会人生活が始まった。三人はそれぞれ別の地域を担当した。一週間も経つと、麗子はすぐ仕事に慣れた。

　平日の昼下がり、麗子は高級住宅の玄関のベルを鳴らした。ドアが開き、三十代くらいの男が出てきた。

「どうもー。今お時間よろしいですかー？」

　黒いスーツ姿の麗子が媚びるように頭を下げると、胸元からフリル付きのピンクのキャミソールが見えた。
　男はドギマギしながら麗子を中に入れた。

「私、保険のセールスやってるんですけどー、とりあえず内容だけチャチャっと説明させてもらっていいですかー？」
「は、はあ。」

　男は保険など全く興味はなかったが、『説明を聞くだけならただだ。この女を少しの時間眺めるのは、悪くない』と思い、玄関先に座り込んだ。

　麗子は一通り保険の説明をした。その間中、男は麗子の胸元と太ももを凝視していた。

「・・・いや、保険は違うこと入ってるから・・・」

　最後まで説明を聞き終えて、男はお決まりの断り文句を言った。そう言われるのは初めから分かっている。ここからが勝負だ。

「・・・今ー、お家の方とかいらっしゃいますぅ？」

　麗子は探るような、小さな声で言った。

「いや、私一人ですけど・・・」

　男は麗子の言いたいことが分からなかった。

「実はー、私、今日契約十個採ってこないとクビになっちゃうんですよー。だからー、もし契約してもらえるならー、私に出来ることでお礼したいと思ってるんですけどー。どうですかぁ？」

　麗子は媚びるような目つきを、男に向けた。

「私に出来ること・・・って？」

　男の顔に緊張が走る。

「だからー、もしよかったらでいいんですけどー、ちょっとエッチなこととかー・・・私、それしか出来ないしー・・・。」

　麗子は自嘲気味に笑って見せた。

「エ・・・エッチな事って・・・」

　男の戸惑い顔に、麗子は『脈あり』と睨んだ。最も、オトコ相手に脈のなかったことなどないが。
　麗子は男の股間に手を宛てて、色っぽくしなを作って見せた。

「え・・・でも・・・」

　男はうろたえたが、抵抗が中途半端だった。

「私も時間無いからー、いやだったらしょうがないけどー、口でしてあげよっかなーって・・・。」

　麗子が両手でジッパーを下ろし始めると、男は抵抗しなくなった。

　ズボンの奥から卑猥な男根が顔を出す。なんだかんだ言っていきり立っている肉棒を見て麗子はクスリと微笑んだ。
　
「あー・・やっぱり立っちゃってるー・・・。」

　麗子は嬉しそうに言うと、舌を絡ませて含んだ。

「うおっ・・・おっ・・・」

　麗子は自分が愉しんでいるかのように肉棒を弄んだ。あまりの気持ちよさに男は言葉も出ない。
　一瞬にして男を官能の世界に連れてゆける自分の美しさとテクニックに麗子は酔っていた。

　麗子はこの調子で瞬く間に成績トップの座を射止めた。部署内に張られた成績表を得意げに眺める麗子に、ベテランのおばさんが言った。

「どうせ色仕掛けでもして契約採ってるんでしょ、なあんの知識もないくせに・・・。」

　麗子達三人は部署内ではっきりと浮いていた。

　小綺麗にしたおばさん達の中で、キャバクラのホステスのような格好で出勤してくる麗子達は全く空気に溶け込んでいなかった。
　社内では周りの目も考えず高笑いをし、大きな顔で備品を無駄に使いまくり、それでいて成績優秀で、男性の幹部社員達にちやほやされる麗子達の存在は、ベテラン連中にとって嫉妬の対象以外の何者でもなかった。

「そうですよー。フェラチオして契約採ってるんですー。」

　麗子はあっけらかんと言うと、挑発するように高々と笑った。

「三村さんもそうすればいいのにー。あ、ちょっと無理があるかなー。」

　三人が笑うとベテランはツカツカと自分の席へ帰って行った。