４　遭遇

　夏のある日、麗子は電車に乗っていた。高校の時に着ていたキャバクラ嬢のような制服を着て、濃い化粧をしている。
　日本人離れした完璧なプロポーションに露出狂のようなセーラー服を着た麗子の姿は、当然車内の視線を集めている。

　麗子は気にもとめなかった。男達の性欲に満ちた視線は麗子の美貌の秘訣だった。

　制服を着ているとバカな『オヤジ』がよく釣れた。そんな金持ちのオヤジをからかうのも麗子の楽しみの一つだった。

　溢れ出る色気でオヤジ達をからかうだけからかい、自分の身体を火照らせる。そして最後に適当にいい男を釣って、溜まりに溜まった性欲を発散するのである。今日は友達と待ち合わせて三人で繰り出す予定だった。

　駅に止まり、男が一人乗ってきた。頭の禿げ上がった五十くらいのその男は麗子の対面に座った。
　ずり落ちそうなほど浅く座って脚を組み、腕を組んで高飛車にふんぞり返る麗子を、男が舐めるように見ているのに、麗子は気づいた。

　麗子の記憶の中に出てきたその男は、田所だった。が、このときの麗子が知る由もない。

（もう・・・オヤジったら、みんな私に夢中なんだから・・・）

　麗子はふと、このオヤジをからかってやろうと思った。ちょっとしたウォーミングアップのつもりだった。
　
（おじさん、いいモノ見せて上げるわ・・・）

　麗子は、組んでいた脚を下ろすと、内股気味に閉じた両脚の間に両手を滑り込ませ、太腿をゆっくりとさすりだした。

　平日の昼、人もまばらなのどかな車内である。ボリュームのある、つきたての餅のように真っ白い太ももの上をピンクのマニキュアがいやらしく滑る。男はじっとそれを見ている。
　
（ふふっ・・・いつまで見ていられるかしら・・・）

　麗子は意地悪く笑うと、ゆっくりと脚を開き始めた。丈の短い濃紺のスカートに真っ白い内股が映える。恐ろしく高いヒールを履いた脚が、美しいＭ字を描いていく。
　それは疑いようのない誘惑の意志を相手に示していた。強力なナルシズムが麗子を支配する。
　
（大抵のオヤジはこの辺で目を逸らすのよねえ・・・）

　男は麗子の股の間の、驚くほど面積の小さいレースのパンティーに隠された柔肉の膨らみをじっと見据えたまま、ニヤリと凶暴な笑みを浮かべた。

　麗子の心臓がドキンと鳴った。男から発せられるその『凶悪な匂い』が麗子の身体を反応させた。

（何よあんた・・・ただのオヤジでしょ？・・・）

　麗子は、身体が勝手に男の視線に感応し、汁が染み出るのを感じて慌てた。それと同時に腹立たしさを覚えた。

　普通の『オヤジ』は大抵麗子の美しさを直視できず、少しからかって誘惑してやると、咳払いをしたり、雑誌を広げたりしながらドギマギと麗子を視姦する。

　そして麗子は自分の美しさに対する優越感の中、その卑屈な『オヤジ』達の頭の中のどす黒い妄想を想像して悦に浸るのである。

　しかしこの男は違った。この男は、逆に『自分の目』で麗子を犯そうとしている。
　
（それなら私にも意地があるわよ・・・）

　麗子はパンティーの両脇からゆっくりとピンクのマニキュアを塗った指を入れた。目は男から逸らさない。

「はあ・・・」

　予想以上に蜜が溢れパンティーがグチョグチョになっているのに麗子は自分で驚いた。感じている。

　いやらしく指を動かす。クチョクチョとした感覚が、ナルシズムと相まって麗子のボルテージを上げる。

　麗子は認めたくなかった。今車内にいるほとんどの男が麗子の痴態に気づいていることを麗子は知っていた。みんなチラチラと見てはいけないものを見るように控え目に麗子を視姦している。

　他人の目も気にせず、じっと目を逸らさないのは目の前のこの男だけだ。

　この男は余裕なのだ。麗子は自分の中のマゾヒスティックな興奮が男の目に刺激されていることに気づいた。

（・・・私が相手を見下ろしているんじゃない・・・私があの男に見下ろされてるんだ・・・）

　そう認めた瞬間、電撃のような快感が麗子を襲った。

　ニヤついたまま麗子の恥部を見ていた男はすっと視線を上げた。目が合う。麗子の心臓がドクンと鳴った。

（ああ！・・・興奮してきちゃう・・・）

　男と目があって麗子は恥じらった。しかし視線を逸らせない。恥知らずな行為も止めることができない。

　このたまたま目の前に座っただけの、見ず知らずの男の目に、麗子は操られるように猥褻な行為を晒し続けた。
　もっと犯されたかった。もっと恥ずかしくなりたかった。
　
「・・んん・・あぁん・・・」

　人目もはばからず淫欲の声が漏れる。

　指の動きがどんどん大胆になってゆく。腰も勝手に動く。Ｍ字型に大きく開いた美しい脚が、ピンク色に紅潮していくのが自分で分かる。その内ももを、秘部を、男が見つめている。

　次の駅に止まり、ドアが開いても麗子は構わず淫乱な行為を続けた。

（ああ・・・このままイっちゃおうかしら・・・私のイクとこ、じっと見ててね・・・）

　その時男が立ち上がった。男はゆっくりと麗子の開いた脚の間に入ると、淫乱な美女をすぐ真上から見下ろした。

（ああ・・・もうダメ・・・）

　麗子はゆっくりと体を起こした。反った背中と突き出た腰によって出来たくびれが、言い表しようのないエロスを見るものに感じさせる。
　麗子は両手で丁寧に男のズボンのジッパーを下げた。男は両手首を吊革の輪っかに引っかけたまま、麗子の行為を見守っている。

（ああ・・ああ・・凄い・・・）

　麗子は男の硬くなった男根を取りだした。

　車内は静まり返っていた。このあまりに猥褻な行為に、女は目を逸らし、男は唾を呑んで見入っていた。

刺　さるような視線の中、麗子はその何者か分からない男の肉棒をゆっくりと口に含んだ。
　美しい淫乱女のとろけるようなピンクの唇が、頭の禿げ上がった『オヤジ』の、使い込まれたどす黒いペニスの上をいとおしげに咥え込み、たっぷりの唾液で奉仕している。
　
（ああ・・・素敵・・・私の口、犯されてる・・・）

　口の中の肉の塊は凶暴な暴力の象徴のように麗子のマゾヒズムを刺激した。その肉の塊から出る粘り気のある汁を、舌ですくい、また肉に塗りつける。
　麗子の左手の中指が、自らの蜜壺を愛撫し続けている。そのクチュクチュいう湿り気のある音が、麗子の吐息と相まって車内にエロスを振りまく。言葉を発するものはいなかった。

　暫く麗子の舌使いを愉しんでいた男の男根が急激に膨張した。
　
（ああ・・・来るわ・・・）

　男は黙って麗子の口の中に精液を注入した。熱い液体が口内を埋め尽くし、甘ったるい分泌物が麗子の脳内に広がった。

「ん・・んん・・・」

　麗子はその淫らな濃い汁を飲み干し、舐め上げると、座席にゆっくりと倒れ込んだ。

　男は放心した麗子を放ったまま、次の駅で降りていった。麗子はそのまま座席に寝そべると、虚ろな瞳で男が降りていくのを見守っていた。男が射精したのと同時に、麗子も昇天していた。