３　幸福

　次の日の朝、麗子は服を着せられ、後ろ手に縛られ、その上にガウンをかけられて、暗い、蝋燭だらけの部屋から出された。

　部屋を出て初めて、麗子はここが学校の中である事を知った。とは言っても、木造でかなり痛んでいる上に、不気味なほど静かなことから、廃校になっているのだろうと思った。

　麗子が記憶を辿った蝋燭の部屋は、階段下の倉庫だった。彼らはこの校舎をアジトにしているのだ。

　麗子は、田所と、隆二と、他二人の男に連れられ、無言のまま一階の廊下を歩いた。

　窓の外の景色は気が遠くなりそうなほど平和だった。荒れ放題に雑草が生い茂ってはいるが、小鳥がさえずり、初冬の凛とした空気を、暖かい日差しが包んでいた。

　別世界だった。工場のタールのように、どす黒く、毒々しい人生しか知らないこの男達や自分には、あの世界は似つかわしくない。この、朽ち果て、社会から忘れ去られた校舎の中で、醜い欲望に溺れて蠢いているのがお似合いなのだと麗子は思った。

　男達は『一年三組』と書かれた教室の前で立ち止まると戸を開けた。石油ストーブの暖かい匂いが、麗子に小学生の頃を思い出させた。思い返してみれば、あの頃から自分の身体の発育に悩んでいた。麗子の思い出は、性の思い出しかなかった。

　中に二十人くらいの男達が無言で席に着いているのが見えた。田所を先頭に中に入る。田所が教壇に立った。
　
「皆、お待ちかねだったな。我々はとうとう、究極の女を得ることが出来た。神もきっとお喜びになるだろう。この女だ。」

　田所が麗子に手を向けると、ガウンが脱がされた。

「おお・・・・」

　席に着いていた男達が、一斉に静かな驚嘆の声を上げた。
　麗子は黒いニットのボディコンを着せられていた。ピッタリと麗子の体に張り付いたそのボディコンは、胸元がへその上あたりからＶ字に、乳首を辛うじて隠して肩口まで開いていた。裾も短く、今廊下を歩いてきただけでツリツリとせり上がり、ノーパンの恥部の茂みが見えてしまいそうなほどで、その割に手の袖はドレープになっていて、麗子の手首のところでマットな皺を作ってダブついている。
　所々に付いた金のチェーンがケバケバしく輝き、およそ宗教とはほど遠い『イケイケギャル』そのままの姿だった。

　高飛車そうなギャルが、後ろ手に縛られ、恥じらいにうつむくその表情は、それを見ている男達から理性を奪い去ってゆく。
　男達は煩悩に濁った瞳を爛々と輝かせ、無言のまま、全員で麗子を視姦していた。

「はっはっは！どうだ、素晴らしいだろう。ようし、早速儀式を始めようじゃないか。」

　田所はそう言うと、麗子を中央へ連れてこさせて、拘束を解いた。

　麗子は入り口から窓に向かって、席に着いている者から横向きに見えるように教壇に手を着かされた。
　色っぽく尻を突きだしたギャルの、頭の天辺からヒールの先までの美しい身体のラインを、男達がじっと凝視している。

（ああ・・・凄い視線・・・これだけでイっちゃいそう・・・）

　蜜が染み出す。しかし、もうそれに罪の意識を感じることはなかった。
　以前、『ナンセンス』であることが、快感を高めていると感じたことを、麗子は思い出した。
　これは、これからの生活は、まさに『ナンセンス』の極致なのだ。

　田所は麗子の欲情を目で確認すると、言った。

「皆、聞くが良い。皆も今まで数々の女に『神』を感じようと試みたことだろう。そしてそこに神を見いだせずに迷ったことであろう。だが、この女は違う。この女に神が降臨するのを、皆は感じることになる。この女こそ神と我々愚者を繋ぐ、『色欲観音』なのだ。・・・・色欲観音様の色欲は強い。生半可な色欲では神に近づくことは出来まい。ひたすら強欲であれ！！我々が心の中に持っているあらゆるかたちの性欲を垂れ流すことが、より神に近づくすべなのだ。・・・今日のこの儀式によってその片鱗を掴むが良い。まずはこの色欲観音の中の神の存在を確認するのだ。」
　
　田所はそこまで話すと、ズボンを脱いだ。そそり立った肉棒の先からすでに染み出ている淫汁が、彼の『強欲さ』を顕わしている。

　田所は麗子の後ろに立ち、マットな質感を持つボディコンから露出した、皮を剥かれた果実のようにみずみずしい麗子の真っ白い尻に、ゆっくりと肉棒を挿し込んだ。

「あ・・ああ・・・あぁあはあん！・・」

　麗子の歓喜の悲鳴と共に田所の肉棒が根本まで入る。男達は席に座ったまま身じろぎもせずにその色欲の儀式に圧倒されている。

　クチャクチャと淫汁を垂れ流す局部と、真っ黒いニットのマット感とのギャップが更に男たちの性欲をそそる。

　ストーブの上に置かれたヤカンから発せられる蒸気で、麗子の香水が溶け生暖かい空気とともに教室内に充満する。冬枯れの中にたたずむボロ校舎の中で、この部屋の甘く気怠い空気は天国のようだった。

「ほおおおおっ！たまらん！たまらんわい！」

　田所は夢中で猥褻極まりないピストン運動を繰り返す。

「んはぁっ！・・あぁ・・・はぁん！・・・」

　その陵辱に女が歓喜の悶えを披露する。

　一同は、そのあまりに醜い、あまりに独尊的な二人の性行為に息を呑んだ。
　狂っていた。日常ではあり得ない『別の世界』だった。それだけに特別な儀式だという観念が刷り込まれていく。

「ギャハハッ！ギャハハハハーッ！」

　狂ったように笑う田所。容赦なく女を犯す狂人の肉棒がピストンする度に、女は美しすぎる肢体をくねらせて喘ぎ、その喘ぎと共にいやらしい淫らな汁を飛び散らせる。
　麗子の尻と、田所の腰の間でグロテスクなほどに黒ずんだ肉棒が、グッチャグッチャと卑猥に溢れる愛液にまみれギラギラと見え隠れする。

「・・・おお！神よ！神よーっ！・・・」

　田所は叫ぶと射精した。射精しながらも卑しくピストンを続けている。

「くお・・・くおおおおっ・・・・」

　田所は、見ている者が顔を背けるほど露骨に欲望を吐き出した。

　しばらく動かなくなって、ゆっくりと肉棒を引き抜く。女はハアハアと肩で息をしながら、ピンクのマニキュアを塗ったいやらしい指で、『性欲排泄器』である自らの尻を満足げに撫でる。

　田所は、想いを果たした黒い男根を誇らしげにブラブラさせたまま、一同に向かって言った。

「・・・さあ、順番に味わうが良い。色欲観音の中の神を感じるのだ。その快感はこの世のモノではないぞ。」

　一同はガタガタとまばらに席を立ち、列を作った。

　始めの男が麗子の後ろに立つ。官能に浸ったままの麗子が打ち震える度に、蜜壺から田所の精液が溢れ、腿を伝っている。

「・・・」

　男はそのあまりのエロスに、自分の中の凶暴な何かがムクムクと顔をもたげてくるのを感じた。

　そのビチャビチャの麗子の尻に、新たな男根が挿し込まれた。
　
「・・んあっ！・・は・・はあぁん・・・」

　麗子のするどい声と共に男の肉棒に凄まじい快感が走った。

「ああ！・・・ああああ・・・」

　男は震えた。それは想像を絶する、素晴らしく淫靡な感触だった。粘りけのある粘膜が絡みつき、亀頭に染み込んでゆく。それに伴って肌理の細かい柔肉が別の生き物のようにグチュグチュと動いて肉棒を愛撫する。

「ああ！神よ！・・・」

　男は天を仰いで腰を振った。クチャリクチャリと音がする。

　田所も、自らの肉棒を挿入して体感したその感触に驚いていた。

（『心』と『身体』は繋がっていて、決して別々のものではない・・・・。）

　麗子は、全てを知り、己の中で悟った。麗子の『心』が変われば、当然身体も変化していく。今の麗子の身体は、記憶が戻る以前とは違う。わだかまりが消え、心の底から逞しい男根を欲し、そこには一片の拒絶もない。それが麗子の肉の感触を格段に高めている。

　肉が、『極めて純粋に』男を求めている姿だろうと、田所は思った。

「くっ！くっ！・・・・」
　
　男はそのまま麗子の中で射精した。

「はい次。どんどんやってね、時間ネエから。」

　隆二がくわえタバコで信者達に指示を出す。次の男の肉棒が入る。

「あぁあん！・・・」

　三人、五人、蜜壺から溢れた男達の精液は、麗子の、にょっきりと伸びた白く美しい脚を止めどなく流れ、ダイヤを散りばめたハイヒールのサンダルを履いた足下に、グロテスクな水たまりを作った。

　麗子は、その美しい身体に、一時間半の間に、二十人の精液を受け入れた。