１　観音

　麗子は色欲観音として、毎日のように『信者』達の性欲を受け入れることを義務づけられた。『信者』の家へ出張していくのが主だった。彼らは関東を中心に散らばっており、それぞれに地区分けされていた。

「・・・・・・・・・」

昼下がり、麗子は大きな家の呼び鈴を鳴らした。門が自動的に開き、ドアを開けて小男が手招きをする。

　男は麗子に一言も話しかけなかった。いかにも成金趣味らしい廊下を黙って男についていく。部屋に入ると、七人の赤ら顔の中年達が座ったまま手を合わせて麗子を迎えた。

　長テーブルの上に料理が食い散らかされている。ビール瓶も何本かは空のようだった。宴会でも開いていたのだろう。

「じゃあ、色欲観音様もいらっしゃったことだし、早速始めましょうか。」

　小男が待ちきれない様子で言うと、男達は性欲丸出しの汚い笑みを浮かべた。

「じゃあ、観音様、こちらへどうぞ・・・。」

　小男に両肩を押されて、麗子は男達のいるキッチンからよく見えるリビングの真ん中に立たされた。

　麗子は『信者』達と言葉を交わすことを禁じられていた。あくまで麗子は彼らにとって『人間外の者』でなくてはならない。麗子に俗世間と同じ匂いを感じてしまったら、『信者達』が常識の枠から出ることに躊躇してしまうからである。

『信者』達が己の欲望を全て浄化しなければ、色欲観音として崇めさせることは出来ない。

「へへへ・・・・じゃあ。」

　小男は、麗子の上着を脱がせると、後ろから抱きついてカーディガンのボタンを外し始めた。太腿に当たるモノを感じる。

（この人・・・もう勃起してる・・・・）

　麗子はテーブルに座っている男達を見た。ニヤニヤと陰湿な目で笑う男達の顔に、躊躇や恥じらいの色はない。

　カーテンは開け放してあって、いかにも成金趣味の庭が見える。まだ二時頃だったが、薄曇りのせいか、リビングの明かりは煌々とつけられていた。高台になっているので道路は見えなかったが、向かいのビルで仕事をしている人達が見えた。おそらく向こうから、電気の煌々とついているこちらは丸見えだろう。

　麗子はその中で素っ裸にされた。部屋の中は、裸で丁度いいくらいに温度調整されていた。もちろん全員が裸になることを前提に調整したに違いない。

　背徳感や、屈辱感は無かった。自分はそのために存在しているのだ。思う存分汚れた快楽を貪り、惜しげなく、この美しい身体が演じる痴態を男達に披露していればよいのだ。

　座っていた男が二人立ち上がり、麗子と小男のそばへ来ると、手を合わせた。

「色欲神様・・・色欲神様・・・」

　二人は手を合わせてそう唱えると、ゆっくりと麗子に絡みだした。

　一人が唇を奪い、一人が太腿を責めた。口の中で柔らかい男の舌が粘膜を出して蠢く。

「んん・・・・」

　絶対降伏の陵辱感が麗子を襲う。太腿を舐める男の舌から流れるよだれが、美しい脚を伝ってゆく。目を閉じた麗子の、水色のマスカラを塗ったまつげが、見る見る色気をましてゆく。

　座っている男達は満足げにまた酒を飲み始めた。

　男達は決してがっつかなかった。まるで宴の間の暇つぶしのように、犯しては呑み、食ってはまた麗子を犯す。彼らの『御神体』であるはずの麗子に対する敬意など微塵もなかった。

（ああ・・・見てる・・・）

　向かいのビルの窓に、何人かの男たちが集まって、こちらを見て笑っていた。

「あの、中の肉が堪りませんわ。こう、中でね、グチュグチュとまた気持ちのいいトコロを刺激するんですわ。」
「あっはっは、露骨ですねえ、旦那さん。」
「見ろあの脚、見てるだけでまた立っちまう。ホントに・・・エロいねえ、このカラダは。」
「また肌が柔らかいんだ。乳とか吸ってると吸い付いてくるしね。」

　男達は麗子を犯したあと、感想を語り合った。

　男達は商店街の店主達だった。今麗子を尻から陵辱しているのは、肉屋の主人である。

「いくら肉屋さんでも、それほど上等な肉はないでしょ。」

　肉屋は汗だくで尻から麗子を責めながらニヤリと笑顔を見せた。

「・・・・まったくだ、たまりませんよ、これは。」

　麗子の体中にマジックで名前が書いてあった。『一回やるごとに名前を書いていこう』と誰かが言って、満場一致で決定した。肉屋は麗子の尻の右側に掻いてある、『竹下』と、背中の『岡田』、『松川』の文字と共に、麗子の肉を責め立てる自分の誇らしい男根を見ていた。

「ああ・・あぁあ・・・んん・・・」

　麗子は意識が朦朧としていた。それでも快感はいっこうに衰えない。公衆便所のように気軽に汚される自分のエロスに、陶酔していた。

　つけっぱなしのテレビに、ニュースが流れていた。

２　ニュース

『社長一家行方不明事件で、当局は山下夫妻の長女、香織ちゃん（３才）の通っていた幼稚園の元幼稚園教諭、松本徹容疑者（２３才）を、誘拐、殺人の疑いで逮捕しました。』

　麗子は、目を開けた。テレビの画面に、松本の写真が映っている。

（松本先生・・・）

　その記憶も、淫欲にまみれている。

『松本容疑者の自宅からは、山下さんの妻、麗子さんの大量の写真や、麗子さんに対する恨みなどを書き綴ったノートなどが見つかり、警察はそれらについて追求する方針です。松本容疑者は、容疑を否認しています。山下さん一家が転居した翌日・・・。』

「あぁ・・・」

　麗子は再び目を瞑った。快感にテレビの音が遠く霞んでいく。そして、いつまでも果てることのない陵辱に、ただ、身を任せた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　漆黒の欲望　　完