１　フェロモン

　夏、容赦なく照りつける日差しと、その暑さを煽る蝉の声が響く閑静な住宅街の一角を、女が一人歩いていた。類稀なる美貌の、グラマラスな女だった。

　胸元と脇がフワフワと開いた真っ白いホルターネックのロングドレスは、背中はそれ以上に丸見えである。剥き出しになったうなじに細い金のネックレスが色っぽく光り、何とも言えないフェロモンを放つ肩甲骨のくぼみを滑り降りて胸元を飾る。

　薄っすらと透けるほど薄い生地からノーブラの乳首の形がつんと浮き出ているのを、女は隠そうとするどころか、かえって見せつけるようにツンと胸を張って誇らしげに歩いている。

　ドレスの裾は足首くらいまでの長丈だが、そのかわりに両側に腰の付け根までバックリと切れ込んだスリットが入っていて、歩くとヒラヒラの生地から、にょっきりと長いエロティックな脚が、ほぼ丸見えに露出していた。

　そのにょっきりと伸びた足の先を、恐ろしくヒールの高い、透明のサンダルがアンクレットと共に飾る。

　ハイライトの入った栗色の髪をアップでまとめ、どこか涼しげにメイクされた美しい顔が、大きな輪の金のイヤリングから覗いてはニッコリと男を誘うように微笑を浮かべている。

　午前九時の高級住宅街のど真ん中に似つかわしくない、淫欲を掻き立てる香水の匂いを歩く度に充満させるその美女は、小さな女の子の手を引いていた。

　女は、二十七歳になった麗子だった。

　閑静な場所で育てたいという理由でこの街に越してきて、一ヶ月になる。香織もやっと幼稚園になれてきていた。
　幼稚園までは歩いて十分ほどだったので、いつも朝の散歩がてらに一緒に歩いていく。

　麗子は、そのエロティックな格好におよそ不似合いな、無垢でかわいらしい幼稚園の入り口のアーチを、悠々と入っていった。

「おはようございまぁすぅ。」
　
　麗子が外から大きな声で職員室に呼びかけると、麗子より背の低い、大学を出たばかりの若い教諭と、六十歳近くの園長先生が出てきた。

「ああ、おはようございます。」

　若い教諭は香織の担任だった。
　
「今日もよろしくお願いしまぁす。」
　
　麗子はニッコリと誘惑の微笑を浮かべたまま、甘ったるい声を出すと、新米教諭の股間に顔がつくかと思うほどゆっくり深々とお辞儀をした。

（･････）

　新米教諭の青年の視界に麗子のしなを作って突きだされた尻が入る。ヒラヒラの薄い生地が、丸い尻に張り付いて、そのエロティックな形を露骨に浮き出している。お辞儀をしたせいで、深いスリットで分けられた前の布は垂れ下がり、ちょっと横から見たら、中のパンティーが見えてしまうのではないかと思った。
　
「い、いえ、こちらこそ。」

　青年はドギマギして言った。少しでも気を抜くと、股間が反応してしまいそうである。

　そのとき、青年の右側に立っていた園長先生が、ふらっと前に出たかと思うと、伸ばした左手を麗子のバックリと空いたドレスの脇の隙間から滑り込ませて、モゾモゾと動かした。
　
「きゃっ！」
「？」

　麗子が横に飛び退いて腕組みした。青年からは見えなかったが、どうやら園長先生はこの『エロママ』の、乳房を揉んだようだった。
　
　（・・・・・・）

「もう、園長先生ったら、すぐいやらしいことなさるんだからぁ。」
　
　麗子はまた誘うように笑った。その声も、性欲をそそる。すぼめた肩が、剥きたての果実のようにみずみずしい。まるで、男から吸収した液体が毛穴から染み出て、全身を潤わせているかのように、青年には感じられた。
　
「違いますよ山下さん、美味しそうなお餅があったから食べてみようと思っただけですよ。」
　
　園長も笑って答える。
　
「まぁー。いやらしいんだぁ。そのうち、『僕のソーセージも味見してみませんか？』・・とかおっしゃるおつもりなんでしょう。」

　麗子は「フン」と身体を返した。男好きのする完璧なプロポーションのボディが色っぽくしなる。

　青年は呆れて言葉も出なかった。園児の前で堂々とその母親の乳房を弄ぶ園長と、自分の娘の前で平然と他の男に体をまさぐられる母親。しかもその母親は、朝っぱらから男にオナペットにされることしか考えてないような破廉恥極まりない格好で子供を送ってくる。

（エロ女が・・・・）

　しかし、そう思いながらも青年の股間は、麗子の撒き散らす、酔いそうなほどの女臭いフェロモンに反応し始めてしまっている。
　
「香織、いい子にしてて頂戴ね。」

　母親はそう言って子供の頭を優しくなでると、二人の大人にもう一度笑顔を見せて、手を振ってきびすを返した。
　誘うように尻を振り振り返っていく麗子の身体を、二人の大人は濁った目で見送った。

２　日課

　香織を送った帰り道、麗子はいつも寄る喫茶店に入った。
　
「いらっしゃいませ。」
　
　若いウエイトレスが挨拶をする。中の四十代半ばのマスターは常連客である麗子のご来店にもかかわらず、チラッと見ただけで、黙って仕事をしている。
　麗子は気にもせず、いつもの席に座り、アイスティーを注文した。

　麗子は窓の外を見た。夏色の草木が緩やかな風に揺れてキラキラと輝いている。木製のテーブルや椅子の匂い。二，三組の客の静かな話し声。

（いい気持ち・・・）

　麗子は運ばれてきたアイスティーのストローに口をつけた。

　ひとしきりくつろぐと、麗子は立ち上がり、店の奥の手洗いに向かった。そこから出てくるとお帰りだ。
　麗子のいつもの行動に、ウエイトレスは彼女のテーブルを片づけ始めていた。

　麗子は、手洗いの前で止まり、チラッと周りを見て人の目のないのを確認すると、素早く中に入り、すぐドアを閉めてロックした。
　ゆっくりと振り向く。狭いが、小ぎれいな個室の中に、マスターがいた。

　ズボンを下ろし、下半身丸出しで洋式便器の便座に座っている。腕を組んで、今入ってきた麗子をじっと見つめている。
　その肉棒は天を突いてそそり立ち、先からすでに透明な汁が、少しだが漏れていた。

　麗子は黙って上品に跪くと、ゆっくりと肉棒に舌を当てた。　

「んっ・・・・」
　
　竿の下側を、長い舌で根元から先端まで舐め上げ、亀頭をクチュクチュとしゃぶる。
　
「う・・・おお・・・」
　
　上目遣いにマスターを見ると、早くもとろけ顔になっている。

「ふふっ・・・」

　麗子は意地悪そうに微笑むと、頭をひねりながら、ゆっくりと奥まで咥え込んだ。

「ふおおっ・・・・」

　麗子は、口でも感じた。太い、無骨な肉の塊が、自分の口の中で、別の生き物のように蠢いている。それは、逞しく、圧倒的な暴力感と威圧感を麗子に与える。

（素敵・・・）

　『偉大なる男根様』に仕え、奉仕し、口の中を陵辱される快感。
　今日もその快感に麗子の眉がハの字型に歪んでいく。麗子はリズミカルにしゃぶり始めた。
　
「ぬっ・・・くっ！・・・くっ！・・・」
　
　クッチュクッチュと、肉棒がピストンし、厚めの、ピンクの唇から麗子のよだれが溢れる音がする。
　口からいったん肉棒を出し、亀頭をベロリと舐め上げると、麗子の口の中に溜まっていたよだれが舌先から溢れ、肉棒の茎を伝い、睾丸の袋を湿らせ、尻の穴まで到達して、便器にぴちゃっと落ちる。
　
「んん・・・ん・・」
　
　マスターが堪らず声を漏らす。すでに口からは快感のよだれが垂れている。
　麗子はその顔をみて、満足そうに目を細めた。
　いやらしく舐め上げ、またひとしきりしゃぶると、亀頭を頬に当てて竿を舐める。

「くぁあ・・・あ・・」

　麗子はマスターの顔が限界に近づいてきたのを確認すると、硬直したままのよだれだらけの肉棒を、四、五回手でクチュクチュとしごいた。
　そして卑猥に微笑み、ゆっくりと舌を絡ませながら先を咥えると、本格的に口によるピストンを始めた。グチュリグチュリと唾の絡む卑猥な音が個室の中に響く。
　
「ぅう！・・・くぉ！・・・」
　
　マスターが射精しそうなのが分かっても、麗子は手加減しなかった。より舌を使い、相手を至上の快楽へと導く。
　クッチュクッチュと淫らな音がリズムを刻み、溢れた麗子の唾液が竿を伝い流れる。
　
「がっ！ぅうぅ！・・・」
　
　マスターが弾かれたように力んだ。その瞬間熱い精液が水中爆破のように『ブチュッブチュッ』と麗子の口の中で爆発した。その快感に麗子の蜜も染み出る。
　
「んふぅん・・」

　麗子はそのまま精液を飲み込むと、もっと欲しいと言わんばかりに口をもぐもぐさせた。
　
「ぬ！・・・うく！・・」
　
　肉棒がビクンビクンと痙攣し、嘔吐するように残りの精子を吐きだす。麗子はその度に尿道をチロチロと刺激し、おかわりを催促する。
　
「お！・・・うお！・・」
　
　やがて肉棒が、えづくように痙攣するばかりで何も出さなくなると、やっと気が済んだように口を放し、トイレットペーパーで上品に口をふいた。

　マスターはまだピクピクと痙攣していたが、麗子は立ち上がってニッコリと微笑むと、黙ってドアを出た。
　そしてそのままレジへ行き、会計を済ませて、何事もなかったように外へ出た。

「うぅ〜〜ん・・・」

　麗子は初夏の暑い日差しに伸びをすると、鼻歌混じりに歩き出した。幼稚園の後の喫茶店通いは、麗子の日課だった。