３　四年ぶりの情事

　一ヶ月ほど前、引っ越してきて間もない頃、香織を幼稚園に預けた後雨が降ってきたことがあった。
　「いやだわ・・・降ってきちゃった・・・。」

　梅雨時ではあったが、朝は降っていなかったので傘を持ってきていなかった。
　麗子は小走りに家路を急いだが、すぐに雨足は強くなり、スコールのように土砂降りになった。

　麗子はあっというまにずぶ濡れになり、とりあえず雨を避けようと目に付いた家の軒下に入った。

「もう、困っちゃうわね、ほんとに・・・。」
　
　ハンカチで体を拭きながら暫く恨めしそうに空を眺めていたが、ふと、ここが喫茶店の入り口であることに気が付いた。

（・・・店の前で雨宿りだけさせてもらっているのも、気が引けるわね・・・）

　中へ入ると、カラン、コロンと入り口のベルが鳴った。さすがにこの雨では、他に客はいない。
　カウンターの中から、四十代半ばの男が麗子を見ていた。その、マスターらしき男が目をパチクリさせて、呆然としている。

（あっ・・・）

　麗子は、今日自分が薄手のキャミワンピ一枚だったことを思い出した。
　反射的に、片腕を組んで胸を隠す。下はパンティーを履いていたが、上はノーブラだった。
　激しい雨を避けることで頭がいっぱいだったが、相当ずぶ濡れになっている。
　
（どうしよう・・きっと乳首まではっきり透けてる・・見たかしら・・）
　
　そう思ったが、今更どうすることもできない。白いワンピースのキャミソールはぐしょ濡れで、ピッタリと身体に張り付き、麗子のグラマラスなボディを、余すところなく浮き立たせているばかりか、張り付いた部分が透けて、恥じらいで桜色に染まった肌の色まで露呈している。
　隠そうにも隠しようのないにょっきりと伸びた長く美しい脚は、伝う雨の滴によって、誘惑するようにフェロモンを発している。
　そして、身体の熱で蒸発する水分に乗って、甘い、エロティックな香水の匂いがすでに店内に充満していた。

「た、大変でしたね、どうぞ座って下さい。今タオル持ってきますから。」

　麗子がうつむいていると、マスターはそう言って奥へ入っていった。
　そう言われてしまったら、出ようにも出られない。麗子は仕方なく奥へ入ったが、さすがに椅子が濡れてしまうのは申し訳ないので、座らずにマスターがタオルを持ってくるのをモジモジと待った。

　すぐにマスターはタオルを持って戻ってきた。ところが、カウンターの端の出入り口からホールへ出ると、まっすぐ入り口へ向かい、看板を裏返して鍵を閉めたのだ。

「！」
　
　麗子の胸が、ドクンと鳴った。振り向いたマスターの目が据わっている。マスターはツカツカと近づいてきたかと思うと、無言で麗子に飛びかかった。

「きゃっ」

　二人はフローリング張りの床に重なり合って倒れた。
　
「ちょっと、・・やめて下さい！」
　
　体が完全に密着し、暴れる麗子の腕を、落ち着いた男の手ががっちりと押さえ込んでいる。
　麗子は抵抗しながらも内心分かっていた。

　結局、香織を生んで四年経っても麗子の黒い欲望は全く衰えなかった。身体はいつでも男達に犯されることを望んでいた。
　ただ、香織への愛の力によってのみ、その強力な性癖を麗子は押さえ付けてきたのだった。欲望に身を任せてしまえば、幼い香織の存在を忘れて没頭してしまうかもしれないという恐怖感があった。
　襲われないように、常に地味な格好をして、なるべく男の視線を避け、世間の目から死角になるような場所へは行かなかった。

　香織を幼稚園に預けるようになって、やっと自分が自由にできる時間ができた。
　四年間もの長い間押さえ付けられていた欲望が、一気に湧き上がってきた。
　ＳＥＸがしたいというわけではなかった。ただ、男の目が欲しかった。ねっとりした視線で、自分を視姦する男達の目に飢えていた。

　引っ越しをして、新しい環境になったことも手伝って、麗子はガラリと服装を換えた。
　より男の性欲を刺激し、自分の持つフェロモンを引き立たせる服やアクセサリーを再びその身体に纏い、甘い香水を、頭がおかしいんじゃないかと思うほど吹き付けて外出した。

　朝であろうと、昼下がりであろうとお構いなしにフェロモンを撒き散らした。一歩外へ出たら、視線を感じたかった。
　近所の人たちは当然皆麗子を見た。朝っぱらからエロスの匂いを振りまくモデルのようにグラマラスな麗子の身体を、ご主人達は舐めるような視線で、奥様達は汚らわしいものでも見るような目で、共に共通して色情狂の女を見る目で見ていた。
　その、他人の目に映る自分の姿が堪らなく快感だった。
　
（ああ、やっぱりみんな見てる・・・私のエロいところを、もっと、もっと見て頂戴・・）
　
　麗子の四年間閉じこめられていたナルシズムは強力だった。
　周りの主婦達は、麗子のあまりに節操のない美しさへの嫉妬を陰口に換えた。が、直接麗子に意見するものはいなかった。
　麗子の、『社長夫人』の肩書きが周りを威圧していた。山下は、見るからに貫禄十分で、近所の奥様連中にも人気があった。麗子はその『虎の威』に守られ、香織を幼稚園に送りながら、堂々と近所の男達を誘惑して歩いた。

（そんなことをしていれば、いずれこういうことになるのは、分かり切ってた事よね・・・）

　麗子は緊張していた。なんといっても四年ぶりのレイプである。香織を生んで以来、初めての『他人』との性交渉に、ドロドロとした不安と絶望がゆっくりと、胃や、心臓を刺激する。

「はあ・・・はあ・・・」

　懐かしい快感に身体が勝手に動く。わざと男の性欲を煽るように、脚が、尻が、エロティックに動いてしまう。

（ああ・・・香織ちゃん・・・）

　麗子は恐怖した。頭は確かにこの状況を拒んでいる。香織がいる。もう自分は人の母親なのだ。しかし身体がいうことを聞かない。
　麗子はこの『漆黒の欲望』の貪欲さに改めて驚き、呆れ返った。

　マスターは、それでも抵抗を示す麗子を何とか組み伏せ、うつ伏せに押さえ付けると、手首をタオルで後ろ手に縛った。

「はあ、はあ、」

　男は汗を拭きながら立ち上がり、ゆっくりと窓の方に歩いていくと、土砂降りの雨が滝のように流れている窓のブラインドを、一枚ずつ降ろしていく。
　その後ろで麗子が、四つんばいのまま、息を整えていた。

　店には普段はアルバイトが来ていた。しかし、今日は来ない。今週は雨が多く、客が少なかったので、マスター一人でやっていたのだ。
　『たまたま』一人でやっていた、『たまたま』客のいないところへ、『たまたま』ずぶ濡れになって色気を増した麗子が飛び込んできたことは、マスターにとって逃すことのできない千載一遇のチャンスだった。

　麗子のことは知っていた。最近引っ越してきて、毎日エロい格好で娘を幼稚園に送っている女だ。いつかは犯してやろうと思っていた。

　丁度いいタイミングだった。そのお目当ての人妻は、今、床のタイルに頬を押しつけて、膝を大きく開いて着き、好きにして下さいといわんばかりに尻を突きだしている。
　男は、自分の中の、しまいこまれてやっと最近落ち着いてきた凶暴な性癖がむくむくと顔をもたげるのを感じていた。
　その奥底の本能によって、とっさに飛びついてしまった獲物。なんにしろ、もう取り返しがつかないのなら、存分に愉しむしかない。男は落ち着いていた。

　マスターは麗子の後ろに回ってしゃがみ込むと、ゆっくりとパンティーを下ろした。

（ああ・・・ダメ・・・）

　麗子の蜜園は、もはや隠しようもないほどに潤っている。男の目に醜い光が宿る。

「おぉ、すげぇな奥さん。エロ女って噂されるだけのことはあるぜ。たまんねぇことになってるよ。」
　
　男は指でチュルリと蜜肉に滴る蜜をすくった。
　
「ん！・・あぁ！・・」
　麗子の尻が淫靡に揺れる。

「奥さん、尻の穴が見えてるよ。ここに入れて欲しいってか？」

　男がクククと笑った。もはや肉棒ははちきれんばかりに勃起して、この女の肉の感触を渇望している。

「・・・やめなさい。警察に言うわよ・・。」

　麗子がやっと絞り出した声でそう言うと、男の目がギラリと光った。
　
「ああ。・・そうね。・・まあ、こんないい女とヤれるんだったら、また三、四年務所入ってもいいけどね。でもまあ、撮っとこうか・・・。」
　
　『なるようになれ』と半ばやけっぱちだった頭が、麗子の言葉によって少し冷静になった。『焦ることはない、やれるだけのことはやっとこう』。男は立ち上がると、またカウンターの奥に入っていった。

　取り残された麗子は、重い不安を感じていた。

（この人・・・落ち着きすぎてる・・・。『犯罪』を犯しているにもかかわらず・・・・）

　計画的な犯罪であるなら分かる。だが、この状況はどう考えても突発的である。

　『普通の人』が、この状況であれだけ落ち着いていられるだろうか。麗子は男の言葉を思い出した。

（『こんないい女とやれるんだったら、また二、三年刑務所に』･･･『また』？・・）

　暫くして出てきた男の手には、小さなデジタルビデオカメラと、頑丈そうな三脚があった。麗子は体中に鳥肌が立つのを感じた。
　
「滅多に使えわねぇからな。ちょっと待ってね。」

　男は麗子の目の前にカメラをセットすると、鼻歌混じりに準備を始めた。

（このひと･･･レイプは初めてじゃない･･･）

　麗子は確信した。男はただの朗らかな喫茶店のマスターではない。凶暴な過去を持っている。
　男の股間が異常に膨らんでいる。それを見ていると、意志とは関係なく熱い蜜が染み出てくる。
　
（・・犯されるのって、何年ぶりかしら・・・）
　
　そんな麗子の思いを見透かしたように、マスターは振り向くと、ニッと笑った。
　
「できた。はぁい、スタート。」

　男がスイッチを入れると、赤いランプが点いた。男が麗子の後ろに回る。
「いっただっきまーす。」
　
　男は大きな声で言うと、麗子の真っ白い尻肉にむしゃぶりついた。
　
「ああ！あはぁ！・・ああ！・・あああ！」

　まるで、狂った犬にでも犯されているような激しい感覚が、これでもかと麗子の脳神経を刺激する。

「何だこりゃ！舐めても舐めても汁が溢れてくるわ。奥さん若いのに色欲婆あみてぇだな！」

　男の声がうわずっている。あまりにも強烈な麗子のフェロモンに、さっきまでの余裕を失っているようだ。
　麗子は諦めた。どうすることもできないことは、経験上分かっていた。後は男の気のすむまで、陵辱されまくるだけだった。

　男は三時間に渡って麗子を犯した。あらゆる体位で陵辱し、美しい麗子の痴態の一部始終をカメラに収めた。
　
「奥さん、これ、ばらまかれたくないでしょ。これから、娘を幼稚園に送ってったら、ウチ寄ってくれる？毎日、俺のチンチンしゃぶりに来い。」

　男は素っ裸のまま椅子に座り、煙草をふかしてそう麗子に命令した。麗子は承諾した。

　ビデオのことはさほどの問題ではなかった。山下の後ろ盾がある以上、この過去のあるマスターに対してもさほど恐怖も感じていなかった。ただ、久しぶりに男の奴隷になる自分に、魅力を感じてしまっていた。

　それから、彼の男根をしゃぶることが、三歳の娘を持つ麗子の日課になった。