１　若者

　ある日、麗子は、香織を幼稚園に送り、喫茶店で『日課』を済ませると、家とは別の方向に歩き出した。
　少し散歩してみるつもりだった。引っ越してきてから、まだゆっくりと近所を歩いたことがなかった。

　モンシロチョウがヒラヒラと舞い、蝉の声が相変わらず暑さを強調する気持ちのよい初夏の午前。朝の住宅街は静かだった。その閑静な住宅街の中を麗子はゆっくりと、爽やかな空気感を楽しんで歩いた。

　暫く歩くと、ふと、土建屋の敷地に目がいった。金髪の若者が、一人淡々と、トラックに道具を積み込んでいる。
　赤いタンクトップからはみ出した、黒々と光る引き締まった筋肉が躍動している。相当に鍛え込んでいる体だ。麗子はその若者を、なんとはなく見ていた。

　若者は麗子に気づくと、仕事の手を止めた。

（！・・・）

　こっちを見られて、麗子はとっさに目を逸らした。しかし、その場を離れることはできなかった。なぜか心臓に重苦しい緊張が走っている。

　麗子は両手を後ろに組むと、フラフラと所在無さ気にうろついた。そして、意を決してもう一度若者に視線を向けた。若者はまだじっと麗子を見ている。麗子はドキリとした。今度は目を逸らすこともできなかった。

（やだ・・・）

年頃は二十二、三歳、金髪をオールバックで固め、黒く日焼けした顔は、彼の凶暴さ、残酷さを露骨に顕わしている。
　イタリア人のように高い鼻、尖った顎、そして、切れ長で鷹のように鋭い目は、数々の女を虜にしてきた自信に溢れているように麗子には見えた。

　爽やかな朝の散歩が、一瞬にして暗く、陰湿な妄想に包まれる。その中で、麗子の奥底にある淫らな期待が、『出番だ』とでもいうようにむくむくと顔を出してくる。麗子の身体は、驚くほど滑らかに反応した。

（ちょっといいオトコかも・・・）

　若者の目は、黒いヒラヒラのプリーツミニスカートからにょっきりと伸びて、エロティックなフェロモンを撒き散らす麗子の脚を凝視していた。麗子の身体の熱が上がっていく。

（私のカラダ・・・・見てる・・・）

　男は麗子のグラマラスな身体に、中身のふくよかな丸みを透かして見るようなねっとりとした視線を這わせると、最後に麗子の目をじっと見つめ、恐ろしく長い舌を出してチロチロと動かした。

「！」

　心臓がまたドクンと木槌で叩かれ、徐々に鼓動を速めていく。麗子は、実際に舐められているかのような錯覚に陥り、愛液が染み出るのを感じて恥らった。

　若者は動かなかった。言葉も発さなかった。ただ、じっと目を見つめていた。

（ダメ・・・そんなに見られたら・・・）

　この男には、純粋な男のフェロモンがあった。卑屈さも、弱さも、罪の意識も、余計なものは微塵もなかった。自分に対する自信に満ちあふれ、落ち着いていた。

　『純粋な性欲』だった。そしてその、悪魔のように、鋭く、圧倒的な悪の魅力は、ついさっきまで淫靡な快感を共にしていたマスターの存在が、意識からかすんで消えてしまうほど強力に、麗子の本能を惹きつけていた。

（ああ・・・素敵なコ・・・・）

　『心』が惹かれる事によって湧き起こる性欲は、また別の、特別な官能がある。
　『自分から渇望する』官能。それは、暴力の陵辱に体を支配される官能の更に上に位置し、二倍、三倍の背徳感を生みだし、麗子の人格を砕き、磨り潰し、その上に最高の快感を恵む。そしてそれが、なかなか出会えるものではないことを麗子は知っていた。

　五年前、スキー場の浴場で、アナルを犯されながらマサトに告白したときのことを、麗子は思い出していた。心が、身体が、堪らなく疼く。
　
（ああ・・・なんて凶暴な目なのかしら・・・私のカラダを・・・）

　麗子は若者の目を凝視したまま、心は淫靡な妄想に陥っていた。その妄想の中で、若者が麗子をまるでペットのように弄んでいる。そして、それに至上の悦びを感じている自分が見える。

　そんな妄想の中、麗子は無意識に、グロスをたっぷり塗りたくったピンクの唇をペロリと舐めて、自分の意思を若者に示していた。
　
（・・・悪い人・・・一体何人女をペットにしているの？・・・）
　
　心臓が高鳴る。

　真っ昼間の住宅街のど真ん中である。そんなほのぼのとした空気などお構いなしに淫欲の視線を露骨に示す若者。
　彼の発する暴力的なフェロモンに、心と体の奥底の部分を刺激される人妻。蝉の声一色のアスファルトの小道を挟んで男女が見つめ合っている。

　だが男は動かない。一言も言葉を発しないまま薄笑いを浮かべ、この節操なくエロスを振りまく人妻が堕ちるのを待っている。その意地悪さが、更に麗子を感じさせる。
　
（・・・私に恥をかかせたいのね・・・）

　一言も言葉を交わさない相手に性的求愛をするなどということは、正常な人間のすることではない。しかしそれをしなければ麗子の黒い欲望は満たされない。若者はそれを分かっていて、麗子を誘っている。

『俺とやりたければ、恥をかいて見せろ』。そう言わんばかりに。

　しかし、勝負はすでについていた。チェスで言うなら『チェックメイト』だった。一度火がついてしまった黒い欲望には、どうあがいても逆らえない。

　麗子は負け惜しみのように思い切り色っぽく高飛車に尻を振りながら、カツカツとヒールを鳴らして若者に近づいた。

　麗子が触れられるほど目の前に来ても、若者は微動だにしない。その、容赦のない見下し方に、麗子の目にマゾヒズムの色が浮かぶ。

（素敵な人・・・おかしくなっちゃいそう・・・）

　間近で見るとさらにその魅力に惹きこまれる。麗子は左手で、男の顔にそっと触れた。

（あん・・・・）

　ゴツゴツとたくましく、それでいて端正な顔立ちの日焼けした肌に流れる汗を手のひらに感じ、それが男の体液であると思うと、身体に甘ったるい渦が沸き起こる。
　鷹のような鋭い目は、じっと麗子を見下ろしている。その目だけで麗子はイってしまいそうだった。

「・・・私と・・・したい？」

　麗子は、問いかけるように小さく発せられた、あまりにも唐突で非常識な自分の言葉に、心臓が止まってしまいそうなほどの恥じらいを感じた。

　（私・・・なんて恥ずかしいことを・・・・）

　若者は、その麗子の潤んだ瞳に何の反応も示さず、ただ黙って、目で麗子を犯し続ける。
『はっきり言ってみろ』とその目が言っている。自らの口で敗北を認めろと言っている。
　
（お願い・・・）

　淫靡な緊張が絶頂に達して気が遠くなりそうになる。

　これから仲良くして頂くご近所さんの家に囲まれた中で、自ら進んで年下のヤンキーの性奴隷になろうとしている自分の姿が、頭の中の遠くのほうに見える。

　思考に客観性が生まれ、自分が恥知らずな色ボケ女であることを否応なしに思い知らされる。

　しかし、その背徳感が麗子のマゾヒズムを更に上の段階へ押し上げるのを、彼女自身が一番よく知っていた。

「私は・・・あなたとしたいわ・・・」

　麗子は水色のアイシャドーを塗った瞼を涼しげに細め、すがるような潤んだ目で言った。

　若者はその言葉を確認すると、トラックの裏へ歩き出した。麗子は躍る胸を押さえながら、ただ黙ってしおらしくその後ろについていった。

　若者は麗子をブロック塀の前に立たせて、壁に手をつかせると、後ろから乱暴にパンティーを下ろした。

「はあ･･はあ･･･」

　麗子は、素直に片足を上げてパンティーを脱ぐ。
　
（ああ・・・欲しい・・・欲しいわ・・・）

　期待に胸が高鳴る。敗北感、背徳感、羞恥心が代わる代わる麗子の心を痛めつける。

　麗子は無意識に、その、フェロモンをたっぷりと含んだ、男の色欲をむやみに掻き立てる尻を突きだして、艶めかしく揺らしていた。
　高いヒールの足下までにょっきりと伸びた完璧なまでに白く美しい脚の上で、更に生白く、美しい曲線を描く尻がエロティックに揺れているのを、後ろで『あの』男が眺めている。

「フッ。」

　若者は軽蔑したように鼻で笑うと、後ろから抱き包むように、ベージュのニットＴシャツの上から麗子の両乳房を揉みしだいた。

「ああっ・・・・」

　色っぽく甘えた声が漏れる。蜜肉に憧れの男の、そそり立った肉棒が当たっている。

　男は、そのまま後ろから差し込んだ。グチャリと一気に奥まで入る。
　
「んんっ・・・んっ・・」

　肉棒の圧力で愛液が溢れる。この四年間、我慢に我慢を重ねてきた麗子にとって、若者の肉棒は想像以上に素晴らしかった。マスターの、盛りを過ぎた男根とは、比べ物にならない。

（ああ・・凄い・・・太くて、長くて、堅くて、逞しさに溢れているわ・・・）

　麗子の色っぽい尻が、屈強の若者の使い慣れた黒い肉棒をくわえ込んで嬉しそうに揺れる。

　若者はゆっくりと動き出した。すでに、にょっきりと一直線に伸びた脚の間から、ポタリ、ポタリと淫汁が糸を引いて垂れ落ち、埃っぽい地面に黒い点を作っている。

「ああっ・・・あっ・・」

　自分でも信じられないほどに身体が悦んでいる。逞しい肉棒が長いストロークで出入りする度に、甘ったるい感覚が脳みそをかき回し、体中の毛穴が開き、腰が抜けそうになり、開けっ放しの口から、よだれが垂れそうになる。

「・・・あんた知ってるぜ。ひと月くらい前に越してきた奥さんだろ。・・・エロい女が越してきたって噂になってるぜ。」
「！」

　若者が初めて口を開いた。重く、低く、豊かな、女を感じさせる声だった。身体の中で、男の肉棒が出入りしている。

「・・中で出していいわよ・・・私、ピル飲んでるから・・・」

　麗子は絞り出すような声で言った。
　
「へえ・・・」

　若者はククッと笑った。嘲笑だった。『そこまでスキモノか』という笑いだった。麗子は屈辱感と羞恥に感じた。

（ああ･･･素敵すぎる・・・）

　若者が動きを速める。黒く愛液焼けした肉棒は自信に満ち溢れて、麗子のピンクの蜜肉を堂々と犯している。

「ん！・・・ああっ・・んん！・・」

　麗子は左手で口を押さえ、必死で官能の喘ぎを押さえた。若者はそんな麗子をいたぶるかのように、慣れた腰使いで蜜肉の味を堪能している。
　クチャクチャと、麗子から溢れる悦楽の愛液が節操なく飛び散り、自らの脚を半透明の液体で汚す。

「オラオラどうした？あ？」

　囁くような低い声で若者が言う。腰の動きが鋭さを増していく。

「んっ・・・んっ・・」

　麗子の快感もそれに伴って加速度的に増していく。

「ああ！だめ！イク！んん！んんー！」

　麗子は思いっきり尻を突き上げ、脚をピンと伸ばして力んだまま固まった。その瞬間、肉棒を差し込まれた蜜壺から、ブチュッブチュッと粘った愛液が噴き出した。

「！・・・！！・・・」

　麗子は昇天していた。

　若者は動きを止めずに快感に収縮するその内肉の感触を愉しんだ。麗子は頭の中が真っ白になって、平衡感覚さえも失ったまま、次々襲いかかる快感に翻弄された。

（ああ・・・もうダメ・・・）

　糸の切れた操り人形のようになった麗子は、辛うじて壁に手を突いて、若者のために懸命に尻を突き出してはいても、膝に力が入らない。
　若者はその支えを失った麗子の尻を軽々と持ち上げ、逞しい肉棒で、白日の元に晒された白い尻を容赦なく犯し続けている。

　麗子が痙攣するたびに、溢れ出る大量の愛液がビチャビチャと撥ね、淫汁だらけの白い尻とピンクの蜜肉が、初夏の日差しにギラギラと光る。男の目が爛々と輝く。

「オラオラオラオラ！そりゃーっ！」
「ん！」

　麗子の中にドクドクと熱い液が広がった。若者はそれでも射精しながら腰を動かしている。

「あっ！あっ！あっ！あっ！」

　若者の激しい息遣いが聞こえる。しかし腰はまだ動いている。射精された彼の精液が、蜜壷の中でグチャグチャと練り混ぜられている感触がする。
　溢れた大量の精液がももを伝っている。その粘度が、その液体の活きの良さを表している。

「んーっ！・・・んっ！んっ！」

　麗子は失神寸前だった。

　新参者の人妻と、地元のヤンキーが、我が物顔で欲望を吐きだしあっていた。

　若者は暫く腰を振ると、やっと落ち着き、再び麗子を後ろから包むように抱きしめ、真っ白い尻から肉棒をグチュリと抜いた。

「あぁん・・・」
「ふう・・・いいカラダしてんなぁ奥さん。俺の女にしてやるよ。」

　若者はそういうと何事もなかったように、仕事に戻った。