２　目撃

　香織の担任である新米教諭の松本は、男子トイレの前で立ち止まった。女子用のトイレから小さな喘ぎ声が聞こえたような気がした。松本は麗子の姿を探していた。

　松本はごく普通の青年だった。力もなく、人の中心になる器もなく、だからといって生真面目でもなく、何かを貫く男気もない。

　中学や高校の時、麗子のように美貌を振りまいてヤンキー達の間を渡り歩いているバカ女が周りにいた。
　松本は地味な方だったので彼女らと言葉を交わしたこともなかったが、家に帰ると彼女らの肢体を妄想の中で陵辱し、自慰に耽っていた。
　大学時代も似たようなものだった。松本の周りに、『いい女』がいることなどなかった。

　そんな松本の前に、麗子が現れたのだった。あの頃のバカ女と同じ、いや、それ以上に軽蔑に値する恥知らずな女だと、松本は思っていた。

　その女が、あの頃手の届かない位置にいたバカ女と同じ、いや、それ以上に極上のエロスを振りまく絶世の美女が、毎朝自分の前にやってきて深々と頭を下げていくのだ。
　松本はその優越感に、長い間押さえつけていた邪悪な欲望が日増しにムクムクと膨張していくのを、止めることが出来なかった。

（さっきまで香織ちゃんと遊んでいたはずだが・・・）

　松本は麗子を捜しに行くことにした。捜してどうしようというわけではない。ただ、あのバカ女を一秒でも余計に自分の視界に入れておきたかった。
　特に今日は、あの格好である。今日また家へ帰って、妄想の中で弄んでやるために、あのエロいカラダを出来るだけ生々しく、鮮明に脳に焼き付けておく必要があった。

（あれだけ派手に色気のある女だ・・・すぐに見つかるはずなんだが・・・）

　しかし、麗子の姿は何処にも見あたらなかった。

　松本は幼稚園教諭である。親達がいるとはいえ、園児達からあまり目を離すわけにもいかなかった。
　ついでにトイレに行ってから戻ろうと思っていたところで、女子トイレから聞こえる声に気が付いたのだった。

（まさか・・・）

　女子トイレから時折漏れてくる女の喘ぎ声を聞いて、松本は思った。

（あの色呆け女のことだ、こんな場所にもかかわらずオナニーにでも耽っているのかもしれない・・・）

　女子トイレの入口は、『清掃中』の看板に塞がれている。松本は辺りを見回すと音をたてないように慎重にその看板を跨いだ。

　声は入口の衝立のすぐ向こうから聞こえてきた。ドアの閉まった個室からにしては良く聞こえすぎる。

　松本はおそるおそる衝立から向こうを覗いた。
　
（はっ！）

　松本は弾かれたように顔を引っ込めた。そこには思いも寄らなかった光景が繰り広げられていた。一人の女が三人のヤンキー風の若者に輪姦されていた。

　松本の心臓が爆発しそうになっていた。こんな光景に出くわしたのは生まれて初めてだった。

（どうしよう････）

　逃げ出そうかと思ったが、それ以上に『もっと見たい』という欲求が沸き起こっていた。
　見るからに乱暴そうな男達だ。覗いているのがばれたら何をされるか分かったものじゃない。しかし、迷っている時間はない。松本は意を決してもう一度中を覗き込んだ。

　男達はいかにも汚そうな、生暖かい水でビチャビチャのタイルの床の上に女を横たえて、その上に一人が覆い被さってせっせと淫行に励んでいた。
　男の背中を抱きしめる女の両手の先に、ピンクのマニキュアが見える。

「ああ・・・・あぁあ・・」

　女の鳴き声がトイレに響く。声から察するに、女は犯されている感触を堪能していると松本は思った。

（スゲエ・・・スゲエ・・・）

　二人は入口側に足を向けていたので、男の逞しい肉棒が女の蜜肉を暴力で征服している様が松本から丸見えだった。
　男の男根が出入りする度に、甘く淫らな女の液が結合部から流れ落ちる。松本は暫くそのおぞましいほどに卑猥でエロティックな動きを繰り返す結合部位に目が釘付けになった。

　男に抱え上げられた女の脚の、蛍光ピンクのマニキュアと、銀のチェーンのアンクレットに松本気がついた。

（麗子だ・・・あの女だ・・・）

　松本は確信した。一気に身体が熱くなり、胃にくるような緊張に襲われる。

　三人の男の内、一人は海パンを履き、腕組みをして、顎に蓄えた髭をニヤつかせながら、二人の行為を見下ろしている。もう一人は海パンを履いているところだった。金髪のいかにも悪そうな目つきをしている。どうやら今犯している男が『トリ』のようだった。

　松本の頭に血が昇った。あの麗子が、自分が毎日のように妄想の中で犯している、あのエロ女が、おそらく初対面であろう野蛮なヤンキー達にいとも簡単に輪姦されていた。
　
（・・・やっぱりな、ああいう連中にはすぐ股を開くんだな・・・）
　
　高校時代の女達と一緒だった。世間に平気で迷惑を掛け、弱者を暴力で脅してふんぞり返っている社会のゴミのような連中の足にしがみつき、抱いて貰って喜んでいる恥知らずなバカ女達。
　そんな女達は自分たちの恥を棚に上げて、松本のような地味な人間を嘲り、見下すのだ。
　
（ホントに下劣な女だな・・・このメス豚め！・・・）

　松本は沸き上がる怒りの入り交じった性欲を、理性で抑えつけた。

（・・・まあいい・・・あの女が何されようが俺には関係ない・・・たっぷりと目に焼き付けて、後でオカズにしてやる・・・）

「ん！・・・あっ！・・・」

　麗子の色気のある喘ぎ声がトイレに響く。

「おおおおっ・・・！」

　男は激しく腰を振りだしたかと思うと、素早く立ち上がり、麗子の顔に射精した。

「くあっ！おっ！」

　男は満足げに他の二人と視線を交わした。三人はニヤニヤと目で麗子のカラダの感想を語り合っているようだった。

　最後の男が海パンを履いていると、一人の男が言った。

「あ、俺ションベンしたくなっちゃった。」

　男はそう言うと、海パンから男根を出した。そして水浸しの床に倒れたままの麗子めがけて、こともあろうか放尿し始めたのだ。松本はギョッとした。

「あ、俺も。」
「連れション、連れション。」

　後の二人がそれに続いて男根を出した。三人のおびただしい量の小便が、力なく横たわる美しい人妻の身体に容赦なくぶちまけられている。

「あぁ・・あはぁ・・・」
（・・・素敵・・・凄く素敵・・・）

　身体に撒き散らされた男達の小便を自らの両手で体中に塗りたくって悶える麗子の姿に男達がはしゃぐ。

「うお！スッゲーエロい！」

　松本は体に鳥肌が立つのを感じた。それは、男達の残虐な行為への恐怖と、これほど侮辱的な辱めを受けて、尚悶えられる麗子の性癖への放心と、小便に汚されて更にエロティックに美しい麗子の容姿への驚嘆の鳥肌だった。松本はすでに海パンの中で射精していた。

　松本は、男達に気づかれないよう細心の注意を払って女子トイレを出ると、そのまま男子トイレへ駆け込み、更にもう一度射精した。
　体が震えていた。麗子の持つ特殊な魅力・・・。思いのたけを吐き出して汚さずにはいられない特殊なフェロモンに、気が狂いそうだった。

　麗子は暫く快感の余韻に浸っていたが、そのうちフラフラと立ち上がり、とりあえず手洗いで簡単に体を洗うと、シャワー室へ向かった。
　そしてシャワーで体中の見ず知らずの若者達の精液と小便を洗い流し、もう一度香水をまんべんなく吹き付けると、何食わぬ顔で香織の元へと戻った。