１　旅行

　麗子は、何を着ていこうか迷っていた。胸元の開いた黒いセーターにデニムのミニスカートを履いて鏡の前に立つ。
　どう考えてもスキーに行くのにミニスカートはおかしかった。

「・・・・・」

　麗子はマサトたちの視線を意識していた。頭の中ではもちろん否定している。自分には裕也がいる。裕也と愛を育むのに、彼らの視線を惹くことはない。
　それに、あのメチャクチャな少年達の性欲を刺激すれば、裕也がいたからといって何が起こるかわかったものではない。よく頭を整理して考えれば、色気を感じさせない、おとなしい服装で行くべきだった。
　しかし、それでも、どうしても『女』を強調する服を選んでしまう。
（私・・・どうしちゃったんだろう・・）

　中学生の、言わば『子供』であるはずのマサトたちに、強烈な『男臭さ』を感じていた。裕也とは比べ物にならない淫靡な男のフェロモン。それに麗子の女のフェロモンが感応していた。
　時計を見る。もう家を出なければならない時間だった。

「いけない・・・」

　麗子はそのまま上に白いダウンジャケットを着ると、荷物を持った。

　麗子が待ち合わせ場所に行くと、マサト、カズヤ、ヒデキの三人はもう来ていた。裕也の姿がなかった。

「おせーーーよ」

　マサトが麗子に怒鳴った。

「さあ、行こうぜ。」
「あれ、裕也さんは？」

　麗子は後ろから恐る恐る聞いた。

「は？こねえよ。何言ってんの？」

　カズヤは当たり前のように言った。不安がむくむくと全身を包んでいく。
　麗子は急いで裕也の携帯に電話をかけた。

「あ、裕也さん？どうゆうこと？」

　麗子は問い詰めるように言った。

「え？俺は行かないよ。お前に『一緒に行ってやってくれ』って言ったんだよ。」

　裕也も、さも、当たり前のように言う。麗子は焦った。

「そんなの聞いてないわよ。どうするのよ。」

　麗子は裕也の家での惨劇を思い出していた。四人でなど行ったら、ただで済むわけはない。裕也が最後の砦だったのだ。

　二ヶ月前・・・麗子が少年達に犯されてから一週間後だが、麗子は裕也と食事に出ていた。

　あの後、麗子は今までどおり裕也と交際を続けていた。もちろんそのためにあの時必死で隠し通したのだ。どうであれ、とにかく続けなければならない。少なくとも裕也に責任はない。自分が胸の奥にしまっていればいいことだと思った。

　とにかく『愛』を手に入れなければならない。麗子はその目標に、半ば盲目的に向かっていた。しかし、その食事の席で、裕也は思いもかけないことを麗子に言った。

「今度さあ、あいつら連れて、スノボー行かねえか？」

　麗子は、食事がのどに詰まるほど驚いた。当然である、あの日のことを思ったら、とても受け入れられるはずのない話である。

「ほら、あいつら中学生じゃん？自分達だけで宿とかとれねえんだよ。」

　何も知らずにさらりと言う裕也。麗子は返事に困った。当然断りたかったが、断る理由が思い浮かばない。

「な、いいだろ？」

　返事を迫る。麗子は、とりあえず裕也も一緒なら、この前みたいなことにはならなそうに思った。しかし、その裏側に、『何かがあるかもしれない』という、不安とも期待ともつかないものが心の奥底にあることに、麗子は戸惑った。

「うん・・・分かった・・・」

　麗子はしぶしぶ承諾した。
　もちろん、麗子は裕也も一緒に行くものだと信じて疑わなかった。それが、どうやら違ったらしい。

「エーーーー困ったなあ・・・。まあ、お前がどうしてもやだって言うならしょうがないけど。もう、宿もとっちゃったし、あいつらだけじゃ泊まれねえしなあ・・・。」

　麗子はズブズブと深みにはまっていくような感覚を覚えた。
　行くしかない状況になっていた。それはかなり危険な状況である。と、いうよりも、行けば陵辱されることは、最早疑いようのないことだった。運命が、麗子を淫欲へと引き込んでいく。

（逃れられない鎖・・・・）

　逃れるには、強引にでも裕也との関係を続けていかなければならない。そうしなければ、全てが無駄になる。ここでごねることは、裕也との関係にいいとは言えない。

「分かったわよ・・・。行ってくる。」

　麗子は諦めた。ここでのことは無かったものとして、その後の裕也との関係に賭けるしかない。

「そうか？ごめんな。埋め合わせするから。」

　裕也はそう言って電話を切った。

(知らないから・・・・)

　麗子は、あのときの陵辱の惨劇を思い出していた。
　何も知らないとはいえ、麗子をその状況に追い込んでいるのは裕也である。そして行為をするのは少年達である。

（私から求めたわけじゃないもの・・・。）

　それが麗子の唯一の支えだった。自分はあくまで『被害者』である。そう思わなければ、おかしくなってしまいそうだった。
　

２　車内

　三人は新幹線に乗った。三人掛けのシートを回して、マサト、ヒデキが並んで座った。その向かいに、麗子、カズヤが座る。

「麗子さん、また、ミニなんだ。」

　マサトがニヤリと笑う。

「・・・・」

　麗子は、心の中を見透かされているような気がした。

　「あれから、裕也くんとした？」

　ヒデキがからかう。麗子は黙ってうつむいていた。その、黒いセーターの中の、銀の細いネックレスがキラキラと光る真っ白い胸の谷間に、少年達の凶暴な目が爛々と光る。

「俺、窓側がいいなあ。」

　何の脈絡もなくカズヤが言った。麗子は黙ってカズヤと席を替わろうとした。

「いいよいいよ。俺の膝に座れよ。」

　麗子の鼓動が速まる。胃の中にぐるぐると重い淫欲が充満する。

「座れって・・。」

　向かいの席のマサトが凄む。麗子はカズヤの膝の上に座った。

　他の乗客がちらちらとこちらを見ている。通路を通り過ぎる客も金髪の中学生の膝の上に座る娼婦のような麗子のグラマラスな身体をいぶかしげに見ていく。

「今日はいい天気だなあ。」

　しばらくしてカズヤの両手がミニスカートから露出した麗子の内ももを撫で始めた。その感触に、身体がすぐに反応する。

「！」

　カズヤが太ももをまさぐる。

（ああ・・・やめて・・・）
　麗子は、こみ上げてくる自分自身の性欲と必死で闘った。ここで濡れてしまおうものなら、少年達の思う壺だった。彼らは麗子を辱めたくてしょうがないのだ。
　しかし、カズヤの手に誘導されて、脚が勝手に開いていく。向かいに座るマサトが、ニヤリと笑った。
　マサトの足がゆっくりと麗子に伸びる。

「！・・・」

　その足の指が、ゆっくりと痴丘をなぞる。

（ああ･･･）

　必死で押さえつけていた淫欲が少しずつ漏れるように溢れてくる。その屈辱がたまらない。

「んん････」

　マサトは、快感を必死で抑制しようとする麗子の美しい顔を楽しそうに眺めている。

（ああ・・・ダメ・・・それ以上は・・）

　マサトの足が、乱暴に動く。

「！・・・！・・・・」

　グチュグチュとパンティーから染み出る愛液がマサトの靴下に染みて、三人の少年達に麗子の本心を示す。

「あーららー」

　カズヤがニヤニヤしながら麗子の首筋を舐めた。

（！・・・）

　時折通り過ぎる通行人の、侮蔑の視線に晒されながら、麗子はその美しい身体をオモチャにされていた。

　少年達はひとしきり麗子で遊ぶと、あとはほっぽって各々に眠った。麗子は悔しさと、火のついたまま煮え切らない淫欲に対する自己嫌悪に、一人苦しんだ。

「ふぁあ〜〜あ・・」

　ヒデキは目を覚ますと一度大きなあくびをした。麗子は視線を合わせないようにしていたが、ヒデキは構わず麗子の腕を握って立ち上がった。

「！・・・」

　逆らってみても仕方がない。麗子は連れられるままデッキへ歩いた。

『ガチャン』
　ヒデキは麗子を車内トイレに連れ込むと何も言わずにズボンを下ろし、麗子の頭を抑えた。

（ああ・・・・）

　狭い個室の中で、麗子の顔のすぐ目の前にヒデキの男根が披露される。
　麗子はその目の前の逞しい肉棒を黙って口に含んだ。麗子の口の温度で、みるみると大きくなる肉棒。その感触が麗子の脳をあっという間に溶かしていく。

（んん・・・）

　麗子は、相手の期待通りに優しく舌を使った。

「ううっ・・・・」

　ヒデキの体がその感触の良さにピクンと弾ける。

（どうせ抵抗しても無駄なのよ・・・）

　言うとおりにしたほうが話は早かった。
『コンコン』

「！」

　ちょうど諦めて奉仕に集中しようとしたところで、ドアがノックされた。

（どうしよう！・・・）

　麗子は、現実逃避しかけていた意識を突然引き戻されて、心臓が止まりそうになった。
　ヒデキを見る。ヒデキは構わず、気持ちよさそうに顔をとろけさせている。
　
「入ってるんですか？」

　男の声がする。それでも、ヒデキは知らん顔で麗子の口の感触を愉しんでいる。

（どうするのよ！・・・）
『ガチャガチャ』
「！・・・！・・・」

　麗子の頭のすぐ後ろで、鍵の掛かったドアノブが乱暴に回される。麗子の心臓はその音に、杭を打たれるような痛みと焦燥を覚えた。

「！」

　ヒデキが麗子の髪をつかんだ。絶頂が近づいたのだろう。

（そんな場合じゃ・・・！）
「んふっ･･･んんふっ･･･」

　ヒデキの低い唸りと共に、麗子の口の中に苦い精液が勢いよく飛び出して広がった。

（ああ・・・）

　麗子はその甘い感覚に一瞬にして陶酔した。飲み干し、仕上げにペニスをきれいに舐め上げる。

「ふう・・・」

　ヒデキは、満足げな声を出すと無言でズボンを上げ、何事もなかったように無造作にドアを開けた。

「！」

　麗子はゾッとした。

（外には人がいるのよ！・・・）

　ヒデキは全く関心がないようだった。そのまま、何食わぬ顔で出て行く。慌てて麗子も続いた。

　外にいた男はびっくりした顔でヒデキを、そして更に興味の視線でその後から出てきた麗子を見た。
　個室のトイレから不良少年と色っぽい女が出てくれば、何をしてたのかは大体見当がつきそうなものである。
　麗子は恥ずかしさに真っ赤になった顔を上げることもできずに、ヒデキの後ろにピッタリとくっついて席へ戻った。

　少年達は、麗子のことを『サセ子ちゃん』と呼んだ。駅の売店でも、レストランでも、構わず回りに聞こえるように大きな声でそう呼んで、麗子の恥じ入る姿を眺めて愉しんだ。
　モデル並みにスタイル抜群の美女が、どうみても中学生にしか見えない少年達に、『サセコちゃん』と呼ばれ、従う光景を、周りの人達が好奇の視線で見る。
　
（この先、いったいどうなるのかしら・・・。）

３　ゲレンデ

　スキー場の宿につくと、少年達ははしゃいで着替え、麗子のことなどお構いなしにさっさとゲレンデに行ってしまった。

（『スノボーしたい』っていうのは、あながち嘘じゃなかったようね・・・）

　考えてみれば、麗子を弄ぶだけならわざわざこんなところまで来る必要はない。少年達は、スノーボードを楽しむ合間の暇つぶしに、麗子を連れてきただけだろう。
　麗子も着替えた。裕也にスノーボードを教えてもらうつもりだったが、こうなってはしかたない。比較的簡単そうなスキーを借りることにした。

　滑ってみると結構滑れた。もしかしたら、失った記憶の中で、やったことがあったのかもしれない。
　麗子はゲレンデの中腹の人気のない端で立ち止まった。

「いい景色・・・」

　しばらく雪の渓谷の清々しい風景に見とれた。頭の中に、それとは正反対の暗い運命が浮かぶ。

（今晩、どういうことになるのかしら・・・。）

　裕也の部屋でのことを思い返した。少年達は野獣だった。悪魔といってもいいかもしれない。若さがその凶暴性にさらに拍車をかけている。

　しかし、それは逆に言えば他の人には絶対にできないことだった。良識のある大人でも、まじめな少年でもできない。『保身』ということを知らない彼らからでしか感じることのできない快感なのかもしれない。しかし、その快感は、あまりにも暗く、陰湿である。
『シャーッ』

　麗子は近づいてきた滑降音に、反射的に後ろを振り向いた。

「！」

　すぐ目の前に人が見えた。と思った瞬間、体中に衝撃が走り、何が何だか分からなくなった。衝突だった。

「！？・・・」

　麗子とその相手は誰も立ち入ってない真っ白で柔らかい雪の斜面を転がり落ちていく。頭の中がぐるぐると回る。

　二人は、ゲレンデから十数メートル下の平地で止まった。

「・・うぅん・・・」

　麗子はまだ何が起こったのか分からなかった。しかし、相手は思いのほかすっと立ち上がると、まだ朦朧としている麗子を無理やり立ち上がらせた。

「！？・・・」

　そばにあった木に手をつかせられる。
　いきなり麗子のスキーウエアのズボンが引き摺り下ろされた。

「キャッ！・・・？」

　下半身が切れるような冷気に包まれる。
　何が起こっているかわからなかった。何とか衝突したことと、背後にいる相手が、その力の加減から男だということだけは分かる。

「！」

　そこに、突然甘い感覚が襲った。男は、麗子の股ぐらから手を伸ばし、蜜園にローションのような粘り気のある液体を塗りつけていた。

「ああ・・・あ・・」

　ぬるぬるとした感覚に、麗子の身体に火がつき始めた。冷気を感じた身体が、今度は一気に熱くなる。

（なに？・・・何なの？・・・）

　何も理解できなかった。無防備な脳を突然貫いた性感に逆らえない。

「んっ・・・んっ・・・」
「クックック・・・」

　男は麗子の背中で静かに笑うと、自分も半分ズボンを下ろした。

（私・・犯される・・・・）

　それだけは分かった。暖かい肉棒がゆっくりと味わうように体内に挿入されてくる。

「んんっ・・・んん・・・」

　男からは、何の躊躇も感じられなかった。誰かも、自分とどんな関係なのかも分からない。しかし、まるで、当然のように麗子を犯している。
　白い雪に剥きだされたにょっきりと長く白い脚。その尻に男根が挿さっている。

「はっ・・・はあっ・・・」

　ピストンが速まる。麗子はすでに快感の海に没頭していた。

（気持ちいい・・・）

　火照った身体を包む冷気が、場違いな爽快感を麗子に与える。身体の中の肉棒が、一気に膨張した。

「うっ！・・・くっ・・くっ・・」

　男は麗子の中に射精した。

（ああっ・・・あぁあ・・・）

　一瞬襲ってきた素晴らしい幸福感に麗子は翻弄された。
　男はひとしきりその感触を堪能すると、男根を抜いた。

「あんっ・・・」

　麗子は崩れ落ちた。ピンク色に火照った尻を、白い雪が冷やす。

「ふう・・・やっぱり気持ちいいな・・・」

　男は荒い息を整えながらそう言うと、手際よく身なりを整えて、さっき転がり落ちた雪の斜面をゲレンデへと去っていった。

　麗子はしばらく動けなかった。少年達ではない。それは蜜肉から感じる感触で分かった。しかし、じゃあ誰なのか。麗子には見当が付かなかった。

（『やっぱり』って？・・・どういう意味なの？・・・）

　蜜肉から漏れた精液が、麗子の下で雪を溶かしていた。