第十話「パラダイス・シネマ」

千沙「優ちゃん、明日、デートでしょ？どこ行くの？」
優子「渋谷でお昼食べて、映画見て、たぶんお茶する。」
朋美「良いなぁ。アツアツじゃんか。２度目のデートでしょ？キスするの？」
優子「し、しないよ。まだ、２回目だよ。」
千沙「３回目でキス、３ヶ月でＨ、３年で結婚って言うよね。あれ、本当なのかな。」
朋美「うぅ〜ん。雑誌の言うことだからあんまり嘘っぽいけど、まぁ、そんなもんなのかな。でも、優ちゃん。前、馬鹿と付き合ってたときは毎日デートしてたけど、初キスしてないんでしょ？」
優子「うん。してない。」

　しようとはしてたね、アハハ。
（うっさいよ。心の迷いです。忘れさせてください。）
　うん。ねね、千沙と雄太さんのことしりたいよ。

優子「ねぇ、千沙はどうなの？もう、キスとかしまくりなの？」
千沙「しまくりって、あんた。優ちゃんからこんな言葉が出てくるなんて・・・。悲しいわ。」
朋美「アハハ。まぁ、まぁ、で、どうなのよ。千沙。」
千沙「え？なんか言わなきゃ駄目なのかな・・・。」
朋美「優ちゃん。キスなんかしまくりだって。きっともっと言えないほど凄いことになってるんだよ。」
千沙「ちょ、ちょっと。そんなことしてません。キスだけです。」
優子「どんな味したの？ねぇ、どこでどうやったの？向こうからして来たの？こっちから？ねぇねぇ。」
朋美「うわっ。優ちゃんが大人への階段に興味深々だ。で、千沙。どうなのどうなの？」
千沙「わわわ。タッグで攻めて来た。もう、参ったなぁ。秘密だよ。ここだけだからね。」

　レモンの味はしないんだね。ま、そりゃそうだけどさ。
　ぬるぬるした感じだったなんて、ちょっとロマンがないよね。
（ぬるぬるかぁ。ベロとか出したのかな？あ、聞き損っちゃった。）
　え？ベロってやっぱりファーストキスでも出すのかな。
　でも、でも、ねぇ、唇ってぬるぬるするかな？
（あ、澄香さんだ。）

優子「こんにちは。」
澄香「あら、いつもこの時間ね。あ、こないだの出来上がったわよ。」
優子「ポスターですか？」
澄香「うん。結構、評判良いみたい。良かったら見に来る？たぶんあとで家にも送られると思うけど。」
優子「あ、見たいです。」

優子「うわ、凄い。唇がぬるぬるだね。」
澄香「あ、ぬるぬるじゃなくって、つやっぽいって表現で攻めてるんだけど・・・。ぬるぬるだね。」
優子「あの、キスってぬるぬるって本当ですか？」
澄香「はぁ？え？何？その突拍子もない質問は。え？うん。そりゃ、キスだし・・・。あ。優子ちゃん、ファーストキスまだなの？」
優子「うん。友達が昨日したみたいで、それで、いろいろ考えてます。」
澄香「えっと、真琴のことかしら？」
優子「え？真琴をしってるんですか？」
澄香「え？いやぁ。うん。少しだけね。で、真琴がファーストキスしたの？」
優子「えっと、千沙っていう子なんで、違います。あの、私、小学校から真琴と同じ学校で、今はクラス違うんだけど、友達なんです。あ、もしかして、真琴って綺麗だから、モデルさんの娘さんとか？お母さんが真琴のお母さんはモデル並だって言ってた。」
澄香「えっと、真琴の姉です。実は、優子ちゃんのことは前から何度か見て知ってたんだよね。アハ。」
優子「え？・・・でも山池って・・。」
澄香「結婚で名前変わってるから。そっか、真琴はまだか。あの娘、結構奥手なのよね。綺麗なのに・・・。」

優子「あのぉ、ベロってやっぱり出すんですか？」
澄香「えっとぉ。まぁ、出さないかなぁ。普通は・・。始めてだったら。」
優子「え？でも、ぬるぬるなんですよね？」
澄香「う〜ん。唇が湿ってたのかもよ。ほら、この写真みたいに・・・。」
優子「うわわ。そっか。湿ってるほうが良いのかなぁ。なんかＨな娘だって思われちゃわないかな。」
澄香「大丈夫よ。ぬるぬるの方が気持ち良いし。」
優子「じゃぁ、濡らした方が良いの？」
澄香「リップクリームの滑りだけで充分ぬるぬるよ。ガンバ。」

（なんか励まされてしまった。でも、キスはちょっとまだ、早いよね？）

　でも、どうりで美人なはずだね。真琴の姉の澄香お姉さま。
　危うく真琴のお姉さんとレズな関係になるところだったね。
（なりません。でも、真琴にあの写真見られちゃうね。恥ずかしいなぁ。）
　良いじゃん。すごく可愛く撮れてたよ。唇なんかぬるぬるだし。ぬるぬる。
（ちょっと、それ、私も言って恥ずかしかったんだからぁ。もう、蒸し返さないでよ。）

（はぁ、ファーストキッスかぁ。ぬるぬるかぁ〜。）
　したいなぁ。ねぇ、したいね。
（うん。したいけど、でも駄目だよ。まだ２回目のデートだよ。）
　でも、合コン合わせたら３回目だよ。
（でも、やっぱ駄目。ヤリマンだと思われたら嫌だし、なんか、そんな、ねぇ。）
　キスねだってヤリマンとは思われないでしょ。でも、ま、こればっかりはね。
　あの、僕は大角でＯＫだからね。優ちゃんが欲しくなったらキスしちゃって良いよ。
（あ、うん。ありがと。待っててね。気持ちの整理がつくまで・・・。）

　う、大角、来たよ。ティーシャツにジーンズなのに、やっぱ筋肉あると格好良いな。
（うん。笑顔が素敵だよねぇ。）

大角「おはよう。」
優子「おはよう。」

　止るな〜。氷るなぁ。ほら、まずはお昼御飯でしょ。素敵な笑顔で魅了。よろしく。
（う、うん。にこっ。）

大角「あの、御飯食べに行こっか。なんか食べたいのある？」
優子「あ、なんでも大丈夫だよ。」

　ちょっと待ったー。その答えは一番駄目ってデート特集で読んだでしょ。
　せめてジャンル指定しなさい。

優子「あ、あの、えっと」
大角「じゃさ、近くに卵料理の美味しいトコあるんだけど、どう？」
優子「卵？うん。好き。」

　お、なんか大角。自然な感じになってきてるぞ。優ちゃんももちょっとリラックスしなさい。
　え、優ちゃん、ちょっとそれは・・・。
（？なに？）
　手つないじゃってるよ。ほら、大角もちょっとどきどきしてるっぽい。わわわ。どうしよ。どきどきする。
　きゃー。ちょっと、あ、目合っちゃってるよ。あの、あの・・。
（優ちゃん、落ち着いてよ。）

優子「卵ってどんな料理なの？なんか異国な感じ？初めてだなぁ、そういうの。」
大角「ん？いや、そんな凄いものじゃないんだけど、オムライスとかの専門店でね。大会の帰りにコーチとかと寄った時、結構美味しくってさ。」
優子「へぇ、コーチとかと食事するんだね。良いなぁ。青春だね。」
大角「優子さんも、学校帰りにアイスとか友達と食べに行ったりするんでしょ？」
優子「うん。そそ。あ、あの、優子さんじゃなく、あの、みんな優ちゃんって呼ぶから・・・。」
大角「あ、うん。良いの？」
優子「うん。」
大角「じゃぁ、優ちゃん。僕は大角で良いよ。ね。」
優子「うん。」

　あぁ、駄目。僕、心臓が壊れちゃいそう。優ちゃんだって。ねぇ大角、格好良い。
　あ、手を握る力が・・・。
（もう、優ちゃん。ちょっと落ち着いてよ。ほら、深呼吸して。私までドキドキしちゃうじゃない。）

　そっかぁ、大角って一人暮らしなんだね。
　お父さんが卒業した高校に入れってわざわざ仙台から東京の学校に。寂しくないのかなぁ。

優子「ねぇ、大角さん。一人暮らしって寂しくない？」
大角「さんはいらないよ。ね。優ちゃん。あと、学校行って水泳して、友達と遊ぼうと思うと忙しいしね。かえって親がいない分、自由気侭で楽かもしれない。」
優子「そっか、大角さ・・は凄いね。私なんか一人にされたら孤独死しちゃうよ。」

大角「どう？美味しいでしょ。」
優子「うん。ここのオムライス、お母さんのより美味しい。あ、今度、お母さんにも教えてあげよう。私のお母さんね。凄く料理が上手なんだよ。たまにしか作らないけど。」
大角「うちの母さんはいつも作ってたけど、変なものがたまに混ざってたな・・・。逆だね。アハハ」

　大角の一口って凄い大きいね。ほら、あ〜んってやってあげたくならない？
（うん。なるなる。口おっきいね。）
　うん。キスしたら僕達飲み込まれちゃいそうだね。
（う・・・。意識させないでよ。）
　あ、じぃ〜っと見すぎだよ。優ちゃん。ほら、大角が不信がってるよ。

優子「口、おっきいね。」
大角「え？そうかな。育ち盛りだからね。もぐもぐ。」
優子「へへへ。そうだね。」

大角「映画、なんか見たいのとかあった？」
優子「う〜ん、映画のこと何も考えてなかった。大角の好きなので良いよ。どんなの好きなの？」
　
　ジェッ○リーの新作が良いなぁ。
（うっさい。恋愛ものが良いなぁ。）

大角「う〜ん、ホラーとか好きかな。」
　
　げげ、怖いの無理。
（うわわ、一番苦手なの来たよ。）

大角「あ、ごめん。ホラーは駄目だよね。じゃ、宮○アニメは？」
優子「え？あの、ホラーでも良いよ。ちょっと挑戦してみたいかな・・・。」
　
　おいっ。ちょっと待て。怖いの駄目だってば。この八方美人馬鹿。
（あ、ごめん。つい口が滑って・・・。）

貞子「許さない。引きずり込んでやる。お前も、こっちに来いぃ〜。」

　げげげげげげ、貞子と目があっちゃったぁ〜。ひぃっ。怖い。優ちゃん、僕無理。やだ。ぎゃぁ！
（あわわわわ・・・。う、金縛りに・・・。嘘。やだ。死んじゃう。助けて。ひえ！）

優子「ひぃっ。」
大角「あ、大丈夫？ね。」

　無理。大丈夫じゃない・・・。助けて。
（あわわわ・・。唇が震えて声出ないよ。ふぇ〜。）

大角「えっと、出よっか。ね。」

　た、助かった。外は太陽が出てて明るいね。お日様がこんなに素晴らしいなんて。
（大角、いなかったら、私達、貞子に呪われてたかも・・。ぐすん。）

大角「はい。お茶、どぞ。落ち着いた？」
優子「うん。ごめんね。途中だったのに。ぐすっ。」
大角「ううん。ちょっとあれは怖かったね。僕も鳥肌立ってたもん。」

　大角、優しいね。慰めてくれてるよ。あ、頭なでなで、ちょっと嬉しい。
（うん。なんか落ち着くね。貞子より大角の方が強そうだしね。）
　うん、大角なら貞子だって化け猫だってイッパツＫＯだよ。

優子「大角。凄く、優しいね。嬉しい。あの、あのね・・。好きです。」
大角「あ、ありがと。僕も、あの、優ちゃんのこと好きだよ。」

　あ、大角の手が、あああ、でも良いよ。僕も大角、大好きだもん。
（あ、うん。私も好き。）

優子「はむ。」

　あ、ほんとだ、ぬるぬるかも。あ、キスって気持ち良い。
（うん。うん。大角。大好き。）