１．

　わたくしのお話をお聞きください。わたくしのからだの中には、けものが棲んでいるのです。いつも愛欲に飢えて、わたくしを狂わせてしまう、どうしようもなく淫らなけものなのです。

　おんなはそう言いながら、一人掛けのソファーの上で腰をすべらせた。プリーツ・スカートが捲れて、白く柔らかそうな内腿が覗く。おんなは、肉感的なラインを描く両脚を、揃えたままゆっくりと持ち上げ、かかとをソファーに乗せた。

　わたくしが、初めて男に抱かれたのは、中学２年生になったばかりの春でした。相手は、義理の父親です。義父は、たいそうなお金持ちで、わたくしの母親は後妻でした。わたくしの父である良人に先立たれ、働きにでた会社で器量を見込まれたそうです。

　私という連れ子があったにもかかわらず、いいえ、子どもを抱えていたからでしょうか、義父が５１歳、母が２８歳の、けっして、幸せとばかりは言えない結婚だったようです。

　それでも、義父は、わたくしにはとても優しい人でした。早く帰宅した日は、幼いわたくしを、いつも膝のうえに抱いてお話を聞かせてくれました。母も、そんなわたくし達をみて、少し寂しげでしたが、微笑んでいたことを覚えています。

　もっとも、あとで、人づてに聞いた話では、かなり強引なところもあったようです。わたくしの母もそうやって手に入れたのだと陰口をおっしゃる方も少なくなくて、多感な頃のわたくしは、ずいぶん辛い思いもいたしました。

　おんなの細い指先が軽く触れると、高く上げた太腿から腰の辺りへと、スカートは滑り落ちた。かすかに蠢く腰、軽く内向きにして擦りあわせる両の内腿、開いたふくらはぎの間から白い絹の光沢が覗いた。

　強引という言葉で思い出しました。そう言えば、普通の家庭でしたら、一家団欒の時間・・・とでも言うのでしょうか？そんなときに、わたくしは、お手伝いの女性と一緒に過ごすことが少なくありませんでした。

　それはどうやら、義父の心持で決まるようで、母になにやら耳打ちをすると、ひとりで部屋を出て行くのでした。そんなとき、母は、少しかたい微笑を浮かべながら、わたくしに言い含めました。

「詩織さん、かあさまは、お父さまのご用事をしないといけないの。どうか、お利巧に、多恵さんと遊んでいてくださいね。」

　まだ幼かったわたくしは、そんなとき、優しい義父をふと憎らしくも感じたものです。

　そう言いながら、おんなは・・・いや、詩織は、閉じていた脚を開いていった。恥らうように、誘うように、かすかに震えながら、それでも詩織の瞳は酔ったように潤んでいる。恥丘の膨らみが豊で、そこから縦に薄っすらとひと筋、絹の陰影が蔭りをつくり、その奥で目覚め始めた花の蜜が、かすかに薄絹を濡らし始めていた。

　あなたには、お分かりですわね？そうです・・・それは、義父が、母を抱きたくなったときの合図だったのです。わたくしが、そのことに初めて気がついたのは・・・そうですね・・・義父に抱かれる数ヶ月程前のことだったでしょうか。

　その頃には、もう、お手伝いの多恵さんは居なくなっていました。代わりに、美紀さんという、二十歳をいくらも過ぎていない女性が、家事全般を取り仕切っていて、わたくしは、早々に勉強部屋へ追いやられるのでした。

　ところが、その日は少し変わっておりました。美紀さんが、なにやら含んだような笑顔で、わたくしにこう言ったのです。

「お嬢様、いいものを見せて差し上げましょうか？」
「いいものって、何かしら・・・美紀さん？」
「百聞は一見にしかず・・・って言いますでしょう？さあ、お嬢様、こちらへいらしてください。」

　そう言って、美紀さんが手を引くように、わたくしを連れてきたのは、義父と母の寝室の隣に位置するお部屋でした。美紀さんは、そっとドアをあけると、不思議におもうわたくしの背中を押すように、その部屋へ導きました。

　部屋は、ずいぶんと殺風景で、壁に大きな鏡と、その前に椅子がひとつ置かれているだけでした。美紀さんは、わたくしを椅子に腰かけさせました。そうしておいて、いきなり部屋の明かりを消したのです。なんと言うことでしょう・・・今まで、わたくしの少し幼げな姿を映していた鏡が、あろうことか、義父と母の寝室を映しだしたのです。

　マジックミラーになっていたのでしょうね。今では、珍しくもありませんが、そのときの、わたくしには、なにがおきたのか全く理解できませんでした。ただ、暗がりに慣れない目にも、なにものかが蠢いているのだけは見て取ることができました。

　見てはいけないものを見る・・・今にして思えば、そんな気持だったのかもしれません。見てはいけないと、わたくしの臆病なこころが叫んでおりました。その癖に、そのもっと奥深いところから、抗えないほど強い好奇心が湧きだしてくるようで、わたくしは、鏡から目を逸らすことができませんでした。

　詩織は、そこまで話すと言葉を切った。薄く閉じた目は思い出すためのようでもあり、自己陶酔のためのようでもあった。唇を湿らせるように舐め回す詩織の、滑るような赤い舌の質感が、少し寂しげな表情とコントラストを描き、私の胸をざわめかせた。

　どれほどそうしていたことでしょう。暗闇になれた、わたくしが見た光景は、信じられないものでした。それは、獣のように四つんばいになって、あられもなく悶え狂う母の姿と、後ろから激しく腰を使い、母を責めさいなむ義父の、これも獣のような姿でした。ふたりがなにをしているのかは、初心なわたくしにも何とはなしに理解できました。それだけに、美紀さんが、わたくしに囁いた言葉は衝撃でした。

「お嬢様・・・あんな風に、旦那様は、奥様のことを愛していらっしゃるんですよ。」
「ヒイッ・・・いやあ」

　わたくしは、逃げようとしました。母の浅ましい姿から逃げようとしたのです。

　詩織は、そこまで話す間に、指を下腹部のふくらみに這わせ始めていた。詩織の指は、絹のショーツの上を滑り、下腹部の膨らみに続く花びら愛しむように、弄び続ける。詩織の指がショーツに食い込み、息遣いが荒くなる。私は・・・ショーツを脱ぐように、詩織に命じた。

　ほんとうに・・・逃げようとしたのです。でも、動けませんでした。気がついてみると、わたくしの下腹部は、どくん、どくん・・・と、熱く脈うっているのです。そして、その奥から、モゾモゾと別の生き物のような蠢きが生じて、そこから、からだが溶けていきそうです。

　そのときでした・・・美紀さんの唇から、わたくしのうなじへと、息が吹きかけられたのです。それは、くすぐったがり屋のわたくしを、からかう友達のそれでありません。胸を切なくするようでもあり、下腹部を熱くするようでもありました。

　美紀さんの唇が耳朶を咥え、あの、痛みになる少し手前の切なさを、わたくしは感じました。そして、少し荒くなった息遣いが、このからだの芯を痺れさせていったのです。

　美紀さんの指が、わたくしの膨らみ始めた胸を、優しくまさぐりました。指が乳首に触れた途端、わたくしは、言いようのない疼きを感じました。体操服ですれると痛くなることもあって、不快にしか感じていなかった乳首への感覚が、人の指というだけでどうしてこうも切なく、甘美に感じられるのでしょうか。わたくしは、美紀さんの柔らかな指を感じました。そして、乳首が硬くなっていくのがわかりました。

　詩織は、その感覚を思い出すように、乱れたブラウスの上から、豊かな乳房を弄び始めた。指先が、乳首に触れるたびに、詩織のからだがかすかにしなる。詩織は、もどかしげに、ブラウスのボタンを外した。

　あのときの感覚は・・・そう、頭の中が白くなるとでも言うのでしょうね。けれども、どうしようもなくあそこが熱くなって・・・どうしようもなく・・・わたくしは、はしたなくも声を上げていたのです。

「あふっ・・・」

　ひと言だけでしたが、その声が、わたくしの中に眠る獣の目覚めの声だったのかもしれません。それから、わたくしは、美紀さんに抱かれました。義父と母の痴態を見つめながら、美紀さんの指で、美紀さんの舌で弄ばれたのです。

　どんなふうに、わたくしが愛されたかお話したほうがいいですか？詩織は、そう私に聞いた。私は、詩織が脱いだショーツを弄びながら、できるかぎり冷たく命じた。その美紀という女が、どんなふうにおまえを弄んだか話しながら、おまえ自身がその女のようにおまえを弄ぶんだ。私がそう言うと、詩織は、整った細面に淫らな女の表情を浮き上がらせながら、欲望の高ぶりに身を任せるように話し始めた。