俊雅は駅前の指定された電話ボックスから電話を入れた。申し込む時に教えられた符丁を告げて電話を切るとすぐにボックスから出た。今度は携帯の電話が鳴りその場から少し離れた場所を教えられそこで待つよう指示があった。どっかから見ているのだろう。凄い用心深さだ。
　霧島を促しその場所で待っていると男が声をかけてきた。チンピラ風の男だった。
「野田さんスか。どうぞ」
　二人はワゴン型の車に乗せられた。乗る時に助手席を見たがドアガラスには濃いフィルムが張られ運転席、助手席の様子は判らない。車内は運転席との間、ガラス窓全てに厚手のカーテンが掛けられ、外は見えなかった。一番後ろの席に座らされた。前の席に座ったチンピラが後ろを向き手を出す。俊雅は背広の内ポケットから金の入った封筒を出すと手渡した。チンピラはその封筒をカーテンを少しめくり助手席の人間に「兄（あに）さん」と言って渡すと車は動き出した。チンピラは二人にビニールの袋を渡した。白い頭巾と長衣が入っていて着るとアメリカの人種差別団体、クー・クラックス・クラン（ＫＫＫ団）の格好になった
「堪らんぜ、この雰囲気。いいねー」
　霧島は強がった言い方で俊雅に話しかけた。
「だったら、俺を誘わないでひとりで行けよ。怖いくせに」
　俊雅は笑顔を返しながら心の中で舌打ちした。頭巾越しで笑顔は伝わったろうか。
　
　俊雅は旅行関係の会社に勤めていた。一般の個人客、ツアー客相手ではなく企業や団体が顧客であり、そこの研修・視察旅行や招待旅行をプランニングし販売している。霧島は俊雅が半年がかりで営業展開している新規開拓先の担当者だった。競合他社も活発に動いておりここが勝負時だ。
「何か面白いものはないかね」と以前からしつこく言っていた霧島にある「ショー」の話をした。霧島は乗ってきた。先日部長の了解を取り付けて今日の段取りを取った。
　
　車は五分位走ると止まった。二人を下ろすと車はすぐに出て行った。下ろされたのはビルの地下駐車場だった。別の人間が部屋まで案内した。その部屋は暗い。ペンライトを持った案内の女性に導かれ席に着く。部屋の照明はロウソクがともす灯りだけだった。目が暗さに慣れると部屋の中央に円形の舞台があるのが判った。その周りに十五卓ぐらいのテーブルがあり人が座っているテーブルにはロウソクが灯っている。何組かの男女のカップルもいるようだった。それぞれのテーブルには注文した飲み物が出されている。
　客席が全部埋ると流れていたＢＧＭがボレロに変わりボリュームが上がった。司会の声が聞こえてくる。どこにでもいる普通の奥さんが男に嬲られ変身する様、それをお客に見られて羞恥に震える様、そんな自分の姿に益々淫乱になる様を説明した。そして最後に言った。
「さー、舞台に上がるのはひょっとしてあなたの奥さんじゃありませんか」
　
　音楽が止まり、真ん中の舞台に男二人と女が上るとスポットライトの照明が舞台を照らした。円形の舞台がゆっくり回り始めた。その舞台の上にやはり円形のベットがあり、その上の男と女は怪傑ゾロのようなマスクをしている。女は身体を硬くしている。段々に裸にされ男二人に挟まれた女はその愛撫に悶えだした。そして女は男達のモノを口に押し込まれた。男の腰が容赦なく前後する。しばらくして男が腰を引くと女の口は離すまいと追いかけた。くわえた女の口から濁音が響く。
　やがて女はあらゆる形で犯されていく。嬲るという字のとおりに繋がった。演技でない女の喘ぎ、悲鳴、悦びの声が段々大きくなる。それにつれて女は積極的になり、客に挑むように繋がりを見せた。客の視線が益々女を興奮させる。ひときわ大きな叫び声を上げた。男に抱えられ舞台を降りる時、また腰が激しく痙攣した。
　舞台に誰もいなくなるとお客のほとんどが飲み物に手を伸ばした。俊雅もウーロン茶を飲んだ。霧島はビールを一気に飲み干している。

　次の舞台の男達は黒人だった。俊雅はビデオとかでは見たことはあったが直接黒人の裸を見るのは初めてだった。持ち物は聞きしに勝るリッパさだった。それを女はアヌスにも入れられた。始めは大人しくオドオドしていた女はネジ込められる快感と見られる悦びに全身が反応していく。黒い身体に夾まれた女の肌の白さが強調された。時々スポットライトの明りが絞られる。部屋の暗さと男達の黒い肌が溶け合い、女の顔や手足が別々の生き物のようにゆれるろうそくの炎に蠢いた。女が上げる悦びの声は別々の生き物が上げる声に聞こえた。陰湿な雰囲気を黒人特有の体臭が包んみ、客を興奮させた。

「さーいよいよ最後の人妻となりました。今回が初舞台です」司会が言った。
　前の女達とは違って、最初から最後まで声はほとんど上げなかったし、見せ場もなかった。しかし、大勢のお客に見られることに最高に興奮しているのがわかった。
　股を広げられ秘部がお客に晒される。
　舞台がゆっくり回る。
　必死で股を閉じようとする。
　しかし、二回り目にはみるみる外陰部が膨らんで来た。
　男が指を入れて引き出すと愛液が糸を引いた。
　「初舞台で感じやがって」
　男がいたぶる。
　男は舌で愛撫した。
　女は両手で顔を覆い背中を反らせた。
　男は挿入した。
　「入っているオマ○○をみんなに見られているぞ」
　男が耳元で言うと女は失神した。

　異様な世界だった。暗い部屋にろうそくが灯る。その揺らぐ灯に照らされる白い頭巾と長衣を着た集団がいた。会話はない。座った男の上に女がまたがり腰を激しく動かしているカップルもいた。お互いを愛撫してるのが判るカップルもいた。霧島は自分のモノをしごいている。そんな客が何人もいる。俊雅も固くなっていた。
　ダウンライトに照らされた舞台では何組かの男女が交わった。共通していることは男二人にマスクをした女一人の組み合わせであり女は若くなかった。演出、演技は一切感じられなかった。素っ気ないくらいに。それが普段は普通の主婦という説明に嘘はないと思わせた。マスクから覗く目の光が女の底深い性を陰湿に物語っていた。高いと思った料金もこれなら納得できた。
　司会の次の言葉でショーは終わった。
「さー、あなたの奥さんは今頃何をしていますかねー」

　車から降ろされると明るさと街の活気にに立ち眩みがした。まだ午後四時前だった。何時間にも感じたが駅前を出てから三時間が経っているだけだった。
　俊雅は霧島に行った。
「どっかに入りましょう、どんな所がいいですか？」
「イヤー、凄かったですねー。この余韻を壊したくない、失礼するよ。あ、明日会社に書類を持って来て下さい。お宅に決めます。じゃー」
　どうせ女のところにでも行くのだろうと思ったがありがたかった。この後も接待を続けるのはとてもじゃないと思った。霧島をタクシーに乗せると、社に電話を入れ部長に報告した。部長は喜んでくれたが俊雅は大きな契約の時に何時も味わう身体の芯からの達成感はなかった。
　課の裏金を使った正攻法でない手段であり、この話を紹介してくれた高田に借りが出来た。なによりこのショーはヤクザが運営している。ショーの中でも一つ気掛かりな事があった。
　家に電話を入れ家で夕飯をとることを告げた。司会の最後の言葉を思い出し妻が家にいたことにほっとする自分に苦笑した。

　美紀は電車の中で外を眺めていたが身体のあちこちでまだ残り火が燃えていた。乳首のほてりと痛みがあの会話を復唱している。
　美紀の形ばかりの抵抗の後、若さの任せた抜かずの二回戦が終わっていた。秀幸は美紀の胸をゆっくり揉みながら言う。
「俺、マザコンなんだと思う」
　美紀は秀幸の顔を見た。
「俺が小学校に上がる前に家を出たんだ、お母さん」
「あなたを置いて？」
「親父は男が出来てお前を捨てたって言った。違うと思う。親父女癖悪いし、お母さんいつも祖母に泣かされていたから」
　美紀はだまって秀幸の頭を撫でている。
「俺、女優の原日出子見るとジーンと来るんだ。ぼんやりしか記憶にないけど、ああ　こんな感じだったなーって」
「一度も会ってないの？」
「中学のときに会いたいって手紙が来たけど会わなかった。運動会とか学園祭に来てたみたい」
「わかるの？」
「ほかのお母さんたちと一度も話しをしないし、笑いもしない。遠くから俺のほうばかり見ていた。その人も原日出子に似てた」

　目を閉じたまぶたに息子の雅也の姿が浮かんだ。私がもし雅也と離ればなれになったら自分は間違いなく気が狂うだろう。美紀の頬を涙が流れた。「会ってやれば」と言いたいのを差し出がましいことと必死で押さえて言った。
「恨んでるの？」
「いないさ。夜中に”おかあさん”ていう自分の叫び声で目が覚めるよ、今でも。でも駄目なんだ。自分でもわからないんだ」
　しばらく間をおいて秀幸は言った。
「あんた似てる。チョッと太ってるけど」
　美紀はその正直な表現にムッとした。
「あたしは母親代わりなの。だったらこんなことしたらいけないのよ」
秀幸は自分のモノを美紀の手に握らせ、自分の右手をザーメンがあふれ出ている美紀の秘部へ持っていった。
「いまは燃え上がる恋人の関係さ」
そしてまた乳首を吸い始めた。
「調子のいいこと言って」と言いながら”恋人”と言う表現が今度はうれしかった。優しく動く美紀の右手の中で秀幸の分身は見る見る元気を取り戻す。足の間に割ってはいってくる秀幸に美紀は悲鳴を上げた。
「もう駄目、死んじゃうわ。ほんと、勘弁して」
　しかし下半身はすんなり受け入れてしまった。やがて単純なリズムの突きに上半身も声を上げて舞い始めた。

　電車が短いトンネルの中に入り自分の顔が窓ガラスに映った。見たことのない女が目の前にいる。美紀はこれがあの時の私の顔なんだと思った。誰かに見られていないか慌てて周りを見回した。
　家に帰ると丁度電話が鳴った。夫からだ。ベランダに出て袋に入った園芸用の土をこぼしそれを塵取りに入れると、急いでバスルームに行きシャワーを浴びた。特に下半身を入念に洗った。タオルで拭きながら見つけられる証拠はないか身体をチェックした。

　雅也が帰ってきた。
「お帰りー、マサくん。お父さんももうすぐ帰ってくるわよ」
　夕飯の支度をしながら今日二度目の鼻唄が出た。
「お母さん久しぶりに元気だね」
「そぉー？」
　やがて俊雅も帰ってきた。親子三人のこんな早い夕食は久しぶりだった。食事が終わると雅也は塾に出かけた。案の定俊雅がセマって来た。
「美紀ちゃん、久しぶりでないのかい」
「鼻息荒いね、トシちゃん」
「風呂入ったの？」
「ベランダで土を被っちゃたの、頭に」
「そそっかしいんだなー」

　俊雅は普段帰りが遅かった。息子も大きくなり、家で心置きなくセックスを出来る機会は少なくなっている。俊雅の動きはいつもより荒々しい。答える妻の身体もいつもより激しく動く。大好きなバックで悶えた。声も大きかった。それは二人だけの開放感からだけでない。それぞれの昼間の出来事が二人をいつもより興奮させていた。俊雅は風呂から出ると妻に言った。
「アルバム見せてよ」
「どうしたの」
「若い頃の美紀さんに会いたくてね」
「スマートな頃のでしょ」
　妻は何冊かのアルバムをテーブルの上に置くと息子を駅まで迎えに出た。

　美代子に比べ嘉代の写真は少なかった。一枚の写真の上で俊雅の目の動きが止まった。海水浴の時の写真で、濡れた髪を両手で撫で付けている嘉代の上半身のアップだった。俊雅の目を釘付けにしているのは嘉代の笑顔でも形のいい胸でもなかった。右の耳たぶの後ろにあるほくろだった。大豆大のが一つと米粒ほどのが二つ、まとまってあった。嘉代の髪型は短いボブカットなので俊雅も実際にこのほくろを見たことがある。そしてもう一箇所、右手の肘にある小さい傷跡、赤く盛り上がり微妙に曲がっている。

　俊雅が知っている嘉代は髪を染めていない。あの女は髪を茶色に染め、嘉代よりも長い髪だった。しかし俊雅は確信した。
「間違いない、黒人二人を相手にしていたあの淫乱女は嘉代だ」
　騎乗位の形で黒人のあの太く長いモノをほとんどくわえ込み腰をグラインドさせて激しく首を振る時にこのほくろが何回か見えた。それにこの肘の傷だ、あの女は叫び声を上げるときこの写真のように両手を頭にやった。小さいが特徴のあるこの傷、あれは嘉代だ。長く栗毛色の髪はカツラだろう。
　なぜ、あの嘉代が。家に遊びに来たときの物静かな彼女と舞台のあの狂った女を比べた。嘉代は妻に性格は似ていると思ったがどこかミステリアスなところがあった。俊雅はもう一度アルバムの写真を見つめる。

　美紀は駅につく頃にはすっかり落ち込んでしまった。俊雅にも雅也にも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。自分という人間がつくづく嫌になっていた。一日に二人の男を受け入れて、それを隠す為のアリバイ工作までしてしまった。
　なぜ秀幸に会いに行った。そして尻軽女みたいに男の部屋に上がりこんで。
　昨日までも自分は家族にも世間にも顔向けできないようなことをしていた。しかし、少しの間の”仕事”と割り切ろう、心までは裏切っていないという思いで耐えてやってきた。今日、その思いを自分で踏みにじってしまった。これは明らかに不貞ではないか。もっとも私が嫌っていた。
「おまえは古風な女だなー」と俊雅に言われることがあるが、密かにそういう自分を誇りにしていた。
　改札口から雅也が手を上げながら出てきた。帰り道雅也の腕を抱えると言った。
「マサくん、頑張ろうね。お母さんも頑張るから」
「離せよー」
　雅也は周りを見て恥ずかしそうに腕を振ったが美紀はしばらく離さなかった。

　霧島はグループ会社を紹介すると盛んに俊雅に連絡してきた。あの部屋へまた連れて行けということだ。俊雅は部長と紹介先の高田の了解をとり、直接ヤクザ組織とコンタクトをとる事にした。リスクは感じたが仕事上も最後の接待カードとして有効であり、嘉代のこともありショーの運営についても知りたかった。

　その料亭は俊雅が使える中ではＡランクの店だった。佐竹の挨拶は素晴らしいものだった。営業に携わる俊雅もこんな立派な挨拶にお目にかかったことはない。荒っぽい威圧などよりもよほど相手に対して自分を強く印象付け、大きく見せる効果があった。佐竹の名詞には歌舞伎町の住所があった。ショーの場所は新宿ではない。佐竹は言った。
「連絡のための事務所を置いています。石原都知事があそこをゲットーと言いましたがその通り恐ろしいところです。私達弱者の住めるところではありません」
　佐竹は羽振りのいい青年実業家にしか見えなかった。

「野田さん、言いにくいことは先に申し上げておきたいと思います。先日ご紹介のあったお客様のことですがご本人はいつでも結構ですが、お連れの女性については野田さんのほうから上手にお断りできますでしょうか。
　私どものようなものがお客様を選り好みするようで誠に申し訳ございませんが、トラブルなきようとの配慮ですので。今後もご紹介がありました際は一応調べさせていただきます。そのことをご了解いただければ喜んで野田さんのところと直接お付合いをお願いしたいと思います」
　霧島が女を同伴させたいと言ってきた返事だった。俊雅は自分のことも調べられているんだなと思った。お相子だった、こちらも当然佐竹のことは調べている。

　佐竹はビジネスの話を思った以上に話した。
　佐竹は組に秘密ショーを提案し任されていた。よくある水商売や売春の経験がある女は絶対使わず、正真正銘の素人の人妻を使った。人妻に売春はさせなかった。
　俊雅は聞いた。
「若い子のほうが手っ取り早く効率がいいんじゃないですか」
「やってみると若い性は飽和状態、買い手市場なんですよ。なのに自分の商品価値がべら棒に高いと思っている。それに若い子は落ち着きがない。病気が多い。そこへいくと普通の奥さんは一度始めると長続きするし、自分の商品価値は低いと思っている、病気の心配もほとんどない」

「しかし、ああいうことのできる奥さんはなかなかいないでしょう」
「そうです。初めからあのようなことが出来る奥さんはいません。育てるんです」
「育てる、教育ですか、大変ですね。」
「いえ、そうでもありません。これもやってみてわかったんですが実にいろんなお客様がいます。以外に多いのが”人妻の羞恥心”への需要です。おばさんの下着姿にほとんどの人はお金を出しません。しかし知らない人の前で初めて下着になるのは普通の奥さんにとっては非常に恥ずかしいことです。それを見るのがたまらなくて大金を出すお客がいます」

　佐竹は杯を干すと、銚子を持つ俊雅の前に杯を差し出した。
「すみません。しかし女性はすぐ慣れます。旬の時期は短いものです。羞恥心が薄れるとお客が付きません。次はヌードです。そしてノーマルなセックス。アブノーマルへと自然と女は育ちます。大切なのは女に絶対に強制しないことです。それぞれの段階で選択の余地を与えます。自分が決めたのだと思わせることです。われわれは女の前には出ません。教育係の女性にあたらせます。大切な人材ですから大事に育てます」

「あそこまで行くのはどれくらいいますか」
「半分くらいですかね、えー多いですよ。女という生き物は実に凄い生き物ですよ、野田さん。普通の奥さんが劇的に変わっていきます。さなぎが蝶に脱皮するように。女には見られたい、見られながらしたいという欲望が元からあるんですね。普段は心の奥底にあるから自分でも気がつかない。最近つくづくそう思いますよ。
　ほとんどが金銭的な問題を抱えていますが、その分を稼いですっぱりやめるのは三割です。五割の奥さんは最後まで行きます。自分から。
　ノーマルもなかなか出来なかった奥さんがいつからかアブノーマルな世界にはまっていきます。そうそう、お客さんの中には人妻が変わるのを手伝ってくれるありがたいお客さんがいます」
「へー、あとの二割は」
「家族、特に旦那が気付いてトラブルになり辞めていきます。まー、そうならないよう色々と手は打ちますがね。こちらとしても警察沙汰、裁判沙汰で公になるのが一番怖いですから」
　佐竹は自分たちの弱みを素直に話した。

「あれ以外にもいろんなショーがあるんですか」
「ノーマル、乱交、スワッピング、ＳＭ、アナル、スカトロ、獣姦、レズ。このあいだのは複数プレーの中でも男二人に女一人のパターンでしたが需要は結構多いです。はっきり言って性癖ですが人により千差万別です。お客さんの好みに答えられる人妻がいるかどうかです。お客様のニーズに合わせるのにこちらも苦労します。時々あるのが奥さんは舞台、旦那は客席というのです」
「奥さんは旦那が見ているのを知っているのですか」
「知っている場合もあれば知らない場合もあるようです。夫婦のことはわかりません。夫婦だけの集まりもあります。クジで選ばれた夫婦がみんなの前でセックスをします。もちろん相手を交換するのもあります。夫婦交換ですね」
「すごいですね」
「それにお客様の人妻への好みもまた千差万別です。やせている、太ってる、もちろん普通がいい。若奥さんがいい、熟女がいい。商売となると大変です」

　俊雅は嘉代のことをそれとなく聞きだそうとした。
「奥さん達の個人的なことは勘弁してください。ペラペラと喋ったら野田さんも私を信用してくれなくなります。源氏名だけお教えします。"桔梗”と言います。奥様方は花の名前で呼ばれています。”ひまわり”とか"白百合"とか」
　言ったあと佐竹は俊雅の顔をジーッと見ていた。俊雅が佐竹を羊の皮を被った狼だと思い知らされるのはまだ先のことだ。

　美紀は秀幸の部屋にいた。
「部屋が変わったのね」
「ママがここ使っていいって」
　四階のフロアーを何部屋かに区切った一部屋で細長かったが八畳以上の広さがあった。住居用にすると本当は違法なんだろが、部屋の区切りは間仕切りではなくしっかりした壁になっていた。ただ天井は低く壁とは直角に交わっておらず斜めの部分がある。そこにいくつかの換気口みたいな穴があり網で塞がれていた。部屋の外だが台所とトイレ、バスユニットがある。美紀が聞いた。
「ほかの部屋は？」
　「今は俺一人しかいないんでこの階全部俺専用みたいなもんさ。ほかの部屋は倉庫みたい。人の出入りがないから」
「いいじゃなーい。これでタダなんでしょ。十分よ」
　あのジメジメした一階の北向きの部屋から比べれば南向きの明るいこの部屋は天国だった。エアコンも入っていた。

「ママが言ってた。俺が稼げるようになったからだって、ここで」
　秀幸は抱きつくと美紀の手を自分の固くなった股間に持っていった。
「ダメよ、そんなつもりで来たんじゃないんだから」
「欲しいんだよ」
「表に出ましょ、ネ、ネ」
「いやだよ。せっかく二人になれたのに。岩木の爺さんがいないところで愛し合いたいんだ」
「待って、ちょっと待って。分かったから。シャワー浴びさせて」
　美紀はシャワーを浴びながら自分を責めていた。
「また来てしまった。こうなることは判っているのに。来ないって決めたのに」
　携帯に掛かってくる秀幸の声につい誘われてしまう。彼の顔を見ると何かが古風で貞淑な人妻を恋に身を焦がす女に変えていった。

　秀幸が甘えるように言った。
「ネー、教えてよ色々。美紀がリードしてよ」
「イヤよ」
「何でだよ」
「恥ずかしいんだもの」
「俺上手くなりたいんだ。そして美紀をもっと喜ばせたいんだ」
「いいの、今のままのヒデ君で」
「初めてん時、入口判んなくて外に出しちゃって。そしたらその女笑いやがって。駄目だったんだ、ズーッと。頼むから教えてよ」
「ダーメ」
秀幸が耳元でささやいた。
「じゃー旦那が美紀にどうしてくれるのかを教えてよ」
美紀はキッとして言った。
「なに言ってんの。バカな事言わないの！」
「じゃーいいよ」
　秀幸は背を向けた。しばらくして美紀が秀幸の背を揺すった。
「ネー」
　秀幸は無視している。美紀はもう一度秀幸の背を揺すった。秀幸が背を向けたまま聞いた。
「教えてくれる」
　美紀は秀幸に後ろから抱き付きささやいた。
「恥ずかしくなったら途中でやめてもいい？」
「ああ」
　
「全身をそーッと撫ぜるの」
「こう」
「そう、そうよ。ゆっくりね…」
「そしてここにキスするの」
　美紀は耳から首筋を指さした。
「ここ、こう…」
　言われたところにキスしている秀幸に美紀は自分からディープキスを求めてきた。

「オッパイ掴んで、乳首を指でいじったり舐めたりするの。イタイッ、やさしくね。そー、そうよ。両方いっぺんにやって、両方よ！　イー、いーわ、堪んない」
　美紀は両腕を自分で背中に回し、ちょうど後ろ手縛りで仰向けに寝たような状態になり乳房を付き上げるようにして悶えている。
「太ももを撫でてくれるの、ハァー、ハッ……ハァアー」
　足が開いてきた。
「そうしてここを触ってくるの」
　秀幸の手をクリトリスに導いた。そこは十分に濡れていた。いや、溢れていた。秀幸の指の動きにビクッ、ビクッと体が跳ねるように動いた。
「アッ、アッー」という大きい声と「ウッ、ウッ、ウッ」と、子供が息をすすり上げて泣くような声を交互に出した。

「次に私が舐めてあげるの」
　と言うと、秀幸の竿部分を上から口に入れ上下させていたが、横から舐めたり袋や股の付け根まで舌をのばしてきた。
「美紀、気持ちいいよ。もっと、もっとやってよ」
　美紀の口からはいやらしい音が漏れていた。
「今度は私のを舐めてくれるの。…イヤだったらいいのよ。ヒデ君」
　秀幸はＭ字型に開いた足の間に顔を埋めた。
「舌をながーく出して、ゆっくり上へ。そーよ、繰り返して。アー、アー。そこそこ、舌で転がして、イー、イー。吸って吸って、ウワー、凄い！　凄いわ」
　美紀のうわごとのような催促の言葉が続いた。

「あ、あ、駄目。イッちゃう、イッちゃいそう」
　身をよじって逃げると美紀は言った。
「あたし、本当はいっぺんイッちゃうとあとが良くないの。…お願いもう来て」
「どんな格好でするの」
　美紀はもじもじしていたが、四つん這いになると両肘をついてその間に恥ずかしそうに顔を埋めた。
「後ろから入れるの？　…入った！　動物みたいだねこの格好。気持ちいい？」
　秀幸は腰を前後に動かした。
「硬い、硬い。突いて、突いて、奥を突いて！」
　美紀は激しく腰を振った。やがて腕を段々伸ばし体を起すと言った。
「お願い、胸を触って。そーいいわ。ここも触って」
　秀幸の手をクリトリスに導いた。美紀は頭をのけぞらせ腕を伸ばし、掌ではなくほとんど指先で手をついている。その形のまま首を回すと美紀はキスをせがんだ。

「アーン、アーーーン」
　二人は正上位になっていた。美紀は奥を突かれるたびに声を出している。その声が大きくなると秀幸の肩に口を押し付けて声を抑えようとした。
　美紀の声が荒い呼吸音と「ひー、ひー」という音だけになると、それまで頭の横のシーツを握りしめていた両手を秀幸の首に抱きつくように回した。そして上半身を半分起こすように丸め両足をぴんと伸ばして上に上げると泣きじゃくるような声で言った。
「ヒデ君、もうダメ、イッていい、イッてもいい」
「締まる、締めてる！　俺も、俺も！　ウワー」
　白い肌が薄ピンクに染まった。美紀は目はギュッとつぶり、眉間に深い縦皺を寄せ全身から一気に汗が噴きだした。彼の腰に回していた両足をググーっと自分の方に引きつけるように力を入れ、しがみついたまま体をビクつかせていた。秀幸の肩に美紀の爪が食い込んでいる。

　秀幸は挿入したまま美紀の身体を愛撫していた。美紀はまだボーとした顔をしている。
「凄いよ、美紀。あの時、美紀のあそこが入り口だけじゃなくて中側全体で俺のをじわーっと締め付けるように動いてきた。搾り出すように」
「ウソよ、そんなことしないわよ」
「美紀は旦那とこんなことしてるんだ。本当はスケベなんだー」
「バカ、バカ。ヒデ君が悪いんだからー」
　美紀は秀幸の口を必死で塞いだ。