嘉代が必死にママに訴えている。
「夫が気付いたの、間違いない。普段は大人しいけど怒ると人が変わるの。大変なことになるわ。その前に辞めたいの」
「そう、困ったわねー」
「ほかの奥さんを紹介したら辞めていいって言ったじゃない、あの時。ママ」
「中々ショーまで行かないのよ、白百合さん」
「そう言うからもう一人紹介したでしょ。もう私二人に顔を会わせられないわ」
「判ってるの、判ってるのよ、桔梗さん。もう少し、頑張れない？」
「無理です、私もう来れませんから」

　嘉代が出て行くと、奥のドアを開けて佐竹が入ってきた。ママが言った。
「もう無理よ、あの人」
「今辞められると痛いな。桔梗はどんなショーでもこなせるからなー」
「旦那が熱くなって突っ走ると問題よ」
「桔梗のファイルもってこい」
　ファイルには嘉代の家庭の情報が詰め込まれていた。住民票、戸籍謄本まであった。嘉代の夫の情報も興信所顔負けにそろっている。
　佐竹はファイルを見ながらママに嘉代の夫のことを色々聞いた。
「しょうがない、あの手を使うか」
「大丈夫？　…でも、それしかないわね」
「白百合はどうなっているんだ。遅いじゃないか。あのタイプも早く欲しいんだ」
「今日も来てるわ。岩木さんが言うのよ。育て甲斐があったって。今日がここでの最後の仕上げになるだろうって」
　ママはテレビのスイッチを入れた。画面には岩木と秀幸そして美紀が映っている。

「感じちゃダメ、”仕事”の時はダメ、絶対にダメ。あの部屋へ行けば秀幸と二人きりで愛し合えるんだから。それもダメ、私はそんな女じゃない」
　しかし、美紀の抵抗も風前の灯火だった。岩木のペースで進んでいる。
「そうじゃ、ゆっくりな、舌で優しく撫でるんじゃ。こんどは唇で包んでゆっくり出し入れして、その時も舌を遊ばせるんじゃないぞ。含んだ乳首の頭を舌の先でくすぐるんじゃ。
　もう一つの乳首は指の間に入れて乳房と一緒に揉むんじゃ。その後、乳首の先を摘んでみろ。ゆっくりな。そう十分やったら今度は掌で転がすんじゃ。硬くなってるじゃろう乳首が。繰り返すんじゃ。時々強くな、一瞬じゃぞ。痛いと言わせたら駄目だでな。歯で軽く挟んで乳首をしごいてみろ。ソーッとあてるんじゃ。そして乳首の頭をやっぱり軽く咬むんじゃ、決して痛いといわせんようにな。
　どうじゃ白百合さん気持ちいいじゃろう。声を出していいんじゃぞ。はずかしがらんで。我慢すると苦しいぞ。ほら力を抜いて」
　美紀は必死で耐えているが堪らずに声が出る。
「ハァー、ハッ……ハァアー」

「橘君、セックスは音楽じゃよ、女性は楽器じゃ。メロディー、リズム、ハーモニーで奏でるんじゃ。まず自分の好きな曲をイメージするんじゃ頭に。つぎにその曲のテンポ、強弱で愛撫にリズムを付けるんじゃ。最後は手、指、口は勿論、自分の身体すべてを使って楽器を演奏するんじゃ。ハーモニーじゃよ。そうすれば楽器もいい音色を出してくれるだでな」　

「次はいよいよ下半身に行くぞ、白百合さん。太ももじゃ、橘くん、触るか触らないくらいに撫でるんじゃ。ひざのところまで行ったら上に向かって、ウブ毛を下から撫で上げるように、そう、ゆっくりな。ほら、足が開いてくるじゃろう。内側も撫でてやりなさい、縦にも横にも。まだあそこに触っては駄目じゃぞ。周りに生えてる毛だけを撫ぜて反対の足に行くんじゃ。上手いぞ。触っていると肌がしっとりしてくるとこがあるじゃろ。そこがより感じるんじゃ。性感帯なんじゃ。ただ、いつも同じところじゃないからな、微妙に位置が変わるんじゃ。
　白百合さん膝が上がってきたぞ白百合さん。丸見えじゃ」
「イヤッ」
「よい、よい、恥ずかしがらんでも、ほらまたすぐに開くんじゃから」
「アー、アー，いいー、イー」
　秀幸の愛撫に美紀の膝がまた上がってくる。尻が上下しだした。
　「ほら見ろ、橘くん。腰の動きを。触ってほしいんじゃ、あそこを。触ってやりなさい。溢れた蜜をまず指につけて、まだ指は中に入れては駄目じゃぞ」
　岩木は時々美紀には聞こえぬよう秀幸の耳元で何事か言う。

　秀幸は岩木の指示通り土手と襞だけを愛撫してクリトリスには触らなかった。このじらしに美紀のクリトリスは秀幸の指を求めるように大きく動いた。
「うーん、もー、もー」
「どうしたんじゃ、白百合さん、どうしてほしいんじゃ。言うてみなさい」
　美紀は苦しそうな喘ぎ声を出すだけだったが、やがて、小さい声で言った。
「触って…」
「どこに触ってほしいんじゃ。教えてあるじゃろうが」
「…クリ、…クリちゃんに触って」
「そうじゃ、恥ずかしいじゃろ。興奮するじゃろ」
「こんどは、目を開けて言うーてみろ。大丈夫じゃよ」
　美紀は目を開けられなかった。岩木が言った。
「橘くん、手を離すんじゃ」

　美紀はダブルベットに上を向いて寝ている。大きく足を広げ膝を立てていた。その左側に秀幸が寝て、左手を美紀の首に回し、右手でクリトリスを愛撫していた。秀幸はその右手を離した。
「アッ、アッ、イヤ」
　美紀は思わず声を出した。
「さー、チョッとでいいんじゃ。目を開けて言うてみなさい。橘くんの顔を見て言うんじゃ」
　美紀は一度目を開けたがすぐに閉じてしまった。やっとの思いでまた目を開けた。
「ハー、ハー、…クリ、クリちゃんに触って」
　言うと美紀は秀幸の首に抱きついた。
「恥ずかしい」
「ようできた。ご褒美に口吸うて貰いなさい。ほら、舌を出して、白百合さん」
　言われるままに美紀は舌を出した。秀幸の口が音をたてて吸った。美紀の口が大きく開き二人の舌が絡まった。
「駄目じゃ、橘くん、右手が遊んでおるぞ。そう、そう。乳首も舐めてやるんじゃ。おー、おー、跳ね回わッとる。気持ちが良いんじゃのー、白百合さん。さー次はどうしてほしいんじゃ」
　何回かのじらしとためらいの後、美紀は叫んでいた。もちろん目を開け秀幸を見ていた。
「オマ○○舐めて、オマ○○舐めてよ。早く舐めてー」

　岩木の指導は続く。単調になりがちな秀幸の愛撫に変化を持たせた、そしてじらしと辱め。岩木はよがり狂う美紀の耳元でもささやいた。
「声を出すんじゃ、我慢しちゃいかん。素直に出すんじゃ。恥ずかしくなんかないんじゃ、全然。目お開けて、そー、今の感じを素直に言うてみー。そうすれば極楽にいけるんじゃ」
「イー、イー、気持ちイー、ゥアー・もっと、もっと」
　岩木は秀幸の耳元でささやいた。秀幸の口が離れ、美紀のあそこに息を吹きかけている。
「イヤ、イヤ、やめないで。吸って、クリちゃん吸って。舌で転がして」
　美紀は秀幸の頭を両手で掴むと自分のあそこに押し付けた。
「そうじゃ、自分の思うとおりに動くんじゃ。押さえなくて良いんじゃ。自分で乳を揉んでみろ」
　美紀はもう躊躇しなかった。両手で乳房を掴んだ。自然に指が乳首を摘んだ。そして、「アーン、アーーン」という言葉とケイレンを繰り返した。目は開いている、天井を見ていたが焦点は合っていなかった。

「分かったかい橘くん、じらしと、羞恥心なんだ。相手が感じてきたら同じような刺激を与え続けてはダメじゃ。刺激を弱めたり、やめたりするんじゃ。相手の身体がもっと、もっととせがんで来るのを待って再開するんじゃ。そしてじらしにからめて、恥ずかしいことを言わせたりさせたりするんじゃ。
　おとなしい女性は自分から要求したり、恥ずかしいことをしたりする自分に興奮するんじゃ。あとはちょっと手を沿えてリードするだけで自分からエスカレートしてくんじゃよ。
　ほら、白百合さんを見てみろ。さっきまでの彼女と全然違うだろう。あの目、厭らしい目つきじゃのう。盛りの付いたメス犬じゃ。もう何でもするぞ」

「さー、今度は橘くんのを舐めてやるんじゃ。そうじゃない。橘くんの足の間に入って四つん這いになるんじゃ。そうそう、そしたら出し入れだけじゃなくて唇を使うんじゃ。一番奥まで飲み込んで、ゆっくり唇を動かしながら出すんじゃ。ゆっくりじゃぞ。もう一遍やってみろ。そして出し入れするんじゃ、ズルズルという音を立てるんじゃ。今度は早く動かすんじゃ。さー繰り返して。気持ち良いじゃろ、橘くん。ほら橘くんが見ておるぞ。見てみー」
　美紀は咥えたまま上目使いに秀幸を見た。その目は淫らに燃えていた。何かが乗り移ったような美紀の顔だった。竿を舌でも愛撫した。そして竿を手でしごきながら袋を口に含み舌で優しく揉んだ。股の付け根もべろべろと舐めた。
「おーう、できるじゃないか。いいぞ、白百合さん」

　岩木は美紀の尻のほうに回った。美紀は肘を突いて秀幸に奉仕しているので尻を上に突き出す形になっている。足は開いている。
「白百合さん、丸見えじゃ。オマ○○がヒクヒクしとるぞ」
　美紀のあそこが鼻を付けんばかりの近くで見ている岩木の息を感じた。美紀の尻は悶えた。まるで舐めてほしいというように。しかし、岩木は決して美紀に触れなかった。
「さー、白百合さん。そのまま身体を回しなさい」
　美紀は咥えたまま下半身を回転させ秀幸の上に乗った。秀幸の攻撃に時々肘を伸ばし首を反らせた。
「ウーワー」
　美紀はベトベトになったあそこを秀幸の顔に押し付け腰を振った。そして秀幸の竿をまた咥える。岩木は秀幸の足の間に正座して両手を付き美紀を見ている。美紀は間近にある岩木の目を見ながら秀幸の竿を愛撫した、いやらしい音をたてて。

　美紀が秀幸の上から降り仰向けになると秀幸が上に乗ってきた。
「橘くん入れてもまだ腰を動かさんでな。グーと腰を押し付けて尻の穴をすぼめてみなさい」
「ゥワァーー」
　美紀がしがみ付いてきた。
「どうじゃ、良いだろうー、白百合さん。橘くん、今度は続けてやってみろ。腰はそのままじゃぞ、それでズン、ズン、スーンと。白百合さんもお返しに尻の穴をすぼめるんじゃ」
「凄い！大きい、大きくなる。硬い、硬いわー　いー、動く、動いてる、私の子宮が動いてるー」
「さー二人とも、目を開けて、お互いを見つめながらやるんじゃよ」
　言われたとおり二人は目を開けお互いを見詰め合った。岩木が下に行き繋がりを見た。二人の尻の穴がヒクヒクしている。美紀の尻が激しく動いた。
「アー、困るー」
「うわーー」
　秀幸はイッた。一度も出し入れすることなく。
「大丈夫じゃ、橘くん。若いから柔らかくならんよ。さー、こんどは腰を動かすんじゃ。そー規則正しく突いたら一回休むんじゃ。教えたろ音楽じゃよ、ズン、ズン、ズン、ズン。 ズン、…、ズン、ズン。そう、それに強弱をつけるんじゃ。歌を歌うように腰を動かすんじゃ。堪らんじゃろ、白百合さん」
　岩木は秀幸の尻に手をやり本当に歌いながらリードした。
「ハァー、踊り踊るなあーら、チョイト東京音頭、ヨイヨイ…」
（東京音頭かよ。しかしこれがなかなかなのである。一度お試しを）

　美紀はもう声を出しっぱなしだった。イッたのかどうかさえ判らなかった。
「気持ちが良いんじゃなー。今度はほれ、こんな風にやられるんじゃ、見てみろ。好きじゃろー、白百合さん」
美紀に岩木は犬の交尾の写真を見せた。
「イヤーよー」
美紀の声は言葉とは裏腹にうれしそうに上擦っていた。岩木は秀幸に耳打ちした。秀幸は「えっ」と短く言った。

　四つん這いになった美紀は後ろから刺された。秀幸は膝を着かず足を「く」の字にして美紀の尻を挟んだ。手は腰を掴んでいる。秀幸は腰を動かしてきた。ねちっこい動きをした。美紀はバックは夫と何回も経験しているし、好きな体位だった。しかし突かれる角度がいつもと違い新鮮な感覚だった。秀幸のモノも長く感じた。美紀は本当に犬に犯されているような気がした。
　岩木のアドバイスもないのに秀幸はうまかった。強弱をつけた突きに美紀は腰を振った。秀幸は突きの間に腰を回す動作を入れた。美紀の中を大きくかき回した。美紀の子宮はその快感に背中を大きく上下させ悦び唸るような叫び声を上げた。
「オー、オー、ゥオーー」

　携帯の呼び出しが鳴った。佐竹は舌打ちすると携帯のボタンを押した。
「どけ」
　佐竹はママに言うと窓のところに行った。
「もー、これからが良いところなのにッ」
　ママは文句を言っている。
　佐竹は閉じているブラインドを指で少し開けると下の道路を見た。二十メートル程先の電柱の影からこのビルの入口を見ている俊雅が見えた。佐竹はニヤッと笑った。片方の唇が上がり残酷な笑顔になっている。
「ほっとけ」
　佐竹は電話口にそう言うと電話を切った。
「早くー」
　佐竹はママの呼ぶところに戻って椅子に座った。佐竹は裸だった。やはり裸のママがその上に乗ってまた腰を振り始めた。二人は離れる前のようにテレビの画面に見入った。美紀たちを天井から見ている画面だ。佐竹が動くと彼の背中の仁王が生きているように睨んだ。

　秀幸は美紀を夢中にさせていた。強く突かれると脳天まで貫かれる感じがした。抜く時にも美紀の襞を喜ばせた。そして腰の回転が美紀を吼えさせた。何回も続けて回すこともあったし、一回まわすとグッと押し込み腰を上下させた。変幻自在の動きだ。
「凄いぞ、白百合さん。本当に犬が吼えてるようじゃ。白百合さんはもう犬じゃメス犬じゃ、ワンと言ってみろワンと」
　美紀は目を閉じると朦朧とした頭の中にさっき見せられた写真が浮かんだ。黒いオス犬がよだれを出して腰を振っている。口をあき舌を出しているメス犬が本当に自分に思えた。
「ワ、ワン…、ワン。堪んないわー。アー、私は盛りのついたメス犬なのよー」
　秀幸はやっと足を着いた。いつもの美紀がするバックの体位になった。一刻も早く前を触ってほしかった。美紀は上半身を起した。
「橘くん、ほれ前を触ってやらんか。せがんどるぞ」
　さすがに目はもう開けていられなかった。両手が両の乳房をゆっくり揉み始めた。岩木の囁く声がしてクリトリスにも指が伸びてきた。その指は肉棒を咥え込んでいる土手や襞も愛撫した。太ももにも伸びた。秀幸の指の数が何十本にも感じられた。

　美紀は自分の感覚がおかしくなっていると思った。自分の身体もどういう格好になっているのか判らなくなっていたし、口は動いてるが何を喋っているのか判らなかった。ましてや秀幸がどういう体勢になっているのか、岩木がどこにいるかも判らなかった。手を宙に這わすと何かに触ったのでそれに夢中で掴まった。自分の体がどんどん起きてきた感じがする。平衡感覚も麻痺してきたのだろうか。

　乳首を吸ってほしいと思うと乳房を揉んでいる手の上から舌が乳首を舐めてきた。クリトリスを口で愛撫してほしいと思うと本当に舐められ吸われているように感じた。肉棒を咥え込んだあそこが反応してキュッ、キュッと締まった。こうしてほしいと思ったことが判るように秀幸はそれに答えてくれた。繋がりは一度も外れることはなかったが秀幸の手や口があちこちから出てきて美紀の全身を愛撫してくれた。

さっきから秀幸は後ろからしつこく首筋と耳に舌を這わせている。そのヌルヌルした感覚が堪らなかった。口の中もそれで掻き回して欲しくなった。美紀は首を曲げ自分の舌でその舌を探した。二人の舌が絡まり美紀の舌が伸びると秀幸に思い切り吸われた。美紀の口は大きく開けられ秀幸の口が美紀の舌を根元まで吸い込んでいる。あごを涎が伝わるのが判った。涎があごから太ももに垂れて落ちた。その足も舐められている。片方の足の指が全部口の中に入り舌が舐め回す、やがて一本の指が集中して吸われる。また足全体がそして別の指が攻撃される。美紀のもうろうとした頭でも感じた。
「二つの口が私を同時に愛撫している！」
　秀幸の口から舌を引き抜き恐る恐る目を開けた。男が前で柔軟な身体の美紀の足を抱え上げその指を舐めている。自分の手がその男の肩に爪を立てていた。美紀の身体がこわばった。それに気付いた男が顔を上げた。美紀の顔が恐怖にゆがんだ。前の男は秀幸だった。その顔の前で美紀のあそこに出入りしている繋がりも見える。美紀は恐る恐る身体をねじった。
「イヤーー」

　美紀は我に返るとベットに寝ていた。身体には毛布が掛けられていたがまだ裸だった。段々に部屋の様子がはっきりしてくる。部屋には岩木しかいなかった。その岩木が天井に右手を伸ばしている。その手の親指と人差し指で丸が作られていた。

　美紀は必死で思い出そうとしていた。
　岩木の言葉に途中から積極的になり、ほしいままに振舞っていたのを覚えている。普段の自分からはもちろん考えられない、"仕事"でも初めての経験だった。バックで責められる頃からは自分を失っていた。夢の中にいるようだった。それでもここまではおぼろげに記憶がある。それは自分でもおぞましい姿だった。
　はっきりと二人を相手にしているのが判り、秀幸と思っていたのが「漆畑(うるしばた)」だと判った時から美紀には記憶が全然なくなっている。漆畑は美紀が"仕事"で二人目に相手をした四十過ぎのしつこい男優だ。脂ぎっていて美紀の一番嫌いなタイプだった。
　美紀が四つん這いの形になると相手が秀幸から漆畑に変わったと岩木が言った。確かに秀幸にしては上手すぎた。しかし嫌っていた漆畑にいいように攻められ悶え喜び犬の真似までした自分が悔しかった。
　あのバックの姿勢ではどう考えても無理なところから手や口が出てきた。それは自分の感覚がおかしくなっている為だと思っていた。しかし、自分の感覚が正しかったのだ。後ろからは漆畑に前からは秀幸に責められていたのだ。

　美紀は岩木に抗議した。
「何で本人の了解なしにだまし討ちみたいなことをするんですか」
　岩木は言った。
「嫌がったら止めるつもりだったんじゃ。しかし、あんたは悦んだし、自分からああしろこうしろと二人に指図したんじゃぞ」
「ウソよ！」
　確かにあの時、自分の口が動いていた。してほしいと思ったことを”二人”はしてくれたが、この私が自分の意思でそんなはしたない真似をする訳がない。
　岩木は淡々と話した。美紀の記憶が途切れた後のことだった。セックスをしていた相手が漆畑だと分かり気を失いしばらくして気付いた、美紀はそう思っていた。しかし、岩木の口からは信じられない言葉が次々と出る。美紀は部屋を飛び出した。聞いていられなかった。

　美紀が着替え室で服を着て化粧をしているとママが入ってきた。
「ハイ、三時間分。頑張ったわね。白百合さん」
　美紀は時計を見た。
「ほんとうだ、自分は記憶のない二時間なにをしていたのだろう」
ママから封筒を受け取ると美紀はエレベーターを使わず走ってビルから出た。ママにも言いたいことがあったが一刻も早く秀幸と連絡を取りたかった。小走りに走りながら携帯のボタンを押した。秀幸は電話に出ない。電源を切っているみたいだった。美紀は不安で気が狂いそうになった。秀幸の住むビルに飛んででも行きたかったが、今はもう主婦に戻らなければならない時間になっている。
　妻の足の速さに俊雅は身体をすべて隠すことが出来なかったが、妻は凄い形相で俊雅に気付かず横を駆け抜けた。この時二人の目と目が合っていれば…。

　佐竹はさっきと同じ窓から俊雅と美紀のすれ違いを見ていた。ママに言った。
「橘をしばらく白百合に会わすな。上の五階をいつでも使えるようにしておけ、スタッフもな」
「分ったわ。どう、上玉でしょう、白百合」
「ああ、脱皮した。もうすぐ飛べる様になる。これからはもっと稼いでもらう。ママも良かったぜ」
　佐竹はママを引き寄せるとビデオのスイッチを入れた。
「またー、強いのね」
　ママの含み笑いの声に美紀の吼える声が重なる。テレビには今はまだ美紀の知らないであろう美紀が映っていた。

　佐竹はママを抱いたまま携帯のボタンを押した。
　俊雅は駅のトイレに入る美紀を目で追いながら携帯をポケットから出した
「もしもし」
「先日はご招待有難うございました。うれしかったです。あんな良いお店にお連れいただきまして」
　佐竹からだった。電話口からは普通でない女の声が聞こえる。
「あ、勘違いしてもらっちゃ困りますよ、野田さん。テレビですよ。私はしながら電話する趣味はありません。しかし凄いですねこの女は」
　佐竹はテレビのボリュームを上げた。
「漆畑さん、踊りながら出来ないかしら。橘君、ムードのある音楽かけてよ。
サー踊りましょ」
　確かに直接の声ではない感じだ。嬉々とした甲高い女の声が続く。
「あー入ったわ。凄い。上から見ると厭らしいわね、私の腰の動き。ほら、ほら。漆畑さんも腰動かしてよ、スロースロー、クイック、クイック。サイコー！　漆畑さんのキン○○長いから外れなーい。橘君、本当よ、触ってみて。あー気持ちいい、これがホントのセクシーダンスね」
「さっきから凄いんですよ。ズーッとこんな感じです、二人の男を相手に。こういうのをセックス狂いのメス犬って言うんでしょうね。私も商売柄見慣れてますがこれは凄いですね。こういう女は趣味ですか、野田さん」
　後ろで女の叫び声が聞こえる。男二人に同時にセックスをしてくれるように自分からせがんでいる。
「私はこう積極的な女はどうも…。すこしは恥じらいがないと」
「そうですか、あー、あんまり凄いんで本題を忘れてました。野田さんがご関心を持たれた桔梗さんという人妻です。事情がありましてやめてしまうかもしれません。最後かもしれない舞台が近々あります。
　こないだのお礼と言っては何ですがよろしかったらご招待したいと思います。はっきりしたら連絡いたします」
「ありがとうございます」
　俊雅は妻のことを聞こうと思ったが目の前の妻の状態が心配で聞けなかった。電話の向こうでは延々と女の聞くに堪えない卑猥な言葉が電話が切れるまで続いた。
「あんたもワルねー」
　ママは電話を置く佐竹に言いながら激しく腰を回した。

　十日ほど前の日曜日のことだ。俊雅は留守番をしていた。妻と息子の雅也は隣町まで出かけた。彼は台所でコーヒーをこぼしてしまい雑巾で床と汚した缶を拭いていると海苔の缶なのに中でカラカラと音がする。
　開けると通帳と印鑑が入っている。へそくりかと思いニヤニヤしながら通帳を開けてみた。口座名には知らない名前があり印鑑はその通帳印だった。五ヶ月前の初めの頃は万単位の出し入れが続いたが、その後入金だけが続いた。一回の入金の金額は十万単位になっていた。二週間ほど前二百万円が引き出されほとんど残高がなくなったが、今は五十万の残高になっている。入金の摘要欄には意味のわからない記号、アルファベットが記入されていた。妻は今まで隠し事をしたことがない。しかし、この金の動きは尋常ではなかった。
　家計簿を見てみた。几帳面につけている家計簿と通帳の金の動きは関係がないようだ。誰かの通帳を預かっているだけなのだろうか。
　五ヶ月前のページを見てみる。妻のヘソクリ分が消えている。雅也の積立学資保険の二百万円近い金額をボールペンで塗りつぶしてある。ギシギシと音が伝わるようだった。

　気が引けたが妻のバックから手帳を引っ張り出した。こちらも小さな字でぎっしり書いてある。日記代わりだった。五ヶ月前の辺にはやはり動揺が見て取れた。その後はＰＴＡの部会の行事がこれまでより多く記録されている。これは妻からも以前に話があった。
「忙しい部会の役員さんが入院しちゃったのでその役も押し付けられたの。それでその役員さんが戻るまで出ることが多くなりますけどお願いします。昼間だけです」
　ほかのＰＴＡの記録には決まったこととか、自分の意見が書き添えてあったが、その部会のにはやはり意味不明の文字があった。あの通帳をもう一度出して手帳と付き合わせてみる。通帳の入金日と手帳のあの部会の日とほとんど一致していた。

　このところ普段でもセックスの時でも妻の自分への気持ちがフッと消えるように感じる時があった。それまでの妻は家族、夫一筋だった。二人が初めてセックスをしたのは妻は二九歳なっていたが、俊雅が妻の初めての男だった。そして結婚してからも男は俊雅しか知らないはずだ。
　だから、セックスの面では自分は並だと俊雅は思っていたが、妻は自分に満足してるという自信があった。…今までは。
　手帳に書かれている次の部会の予定日に俊雅は有休を取り妻を尾行したのだ。あのビルから出てきた只ならぬ妻の状態。あの三時間の間に何があったのだろう。そして、通帳の金の動き。嘉代の痴態と、佐竹の顔が脳裏から離れなくなっていた。

　美紀は気が狂わんばかりだった。秀幸と連絡が取れない。携帯はもちろん通じない。秀幸の住むビルにも何回か行ったが留守だった。秀幸と外であったあのパーラー、喫茶店にも通った。仕事場のビルの入口の見える喫茶店からも見張ったが駄目だった。ママには聞けない。”仕事"の連絡もない。大学にも行ったが、学部や専攻は知らないので問い合わせも出来なかった。

　そして、美紀を不安にさせることが美紀の中で起きていた。夢の中に二人の男を相手に積極的に振舞う自分がいた。男は決まって秀幸と漆畑だった。最近は起きていてもぼんやりしている時とか風呂の湯に浸っている時にも断片的だがおぞましい場面が現れるようになっていた。
　　大嫌いな漆畑のモノを旨そうに舐め上げ、音を立てしゃぶっている自分。
　　下に寝た漆畑の顔の上に跨り、彼の口にあそこをこすり付けている自分。
　　漆畑と繋がりながらブルースに合わせ腰を振りチークダンスを踊る自分。
　　漆畑にバックから責められながら、秀幸と抱き合いキスをしている自分。
　　漆畑と繋がっているあそこを秀幸に舐められ悦びの声を上げている自分。
　　ソファーで二人に挟まれ股を大きく開け卑猥な言葉で愛撫を求める自分。

私がこんな事をするはずがない。しかも漆畑相手に。多くの場面で大好きな秀幸は補助的な役でしかない。美紀は岩木の言葉に影響された妄想だと思いたかった。しかし、岩木が説明した以外の場面が出ていた。そしてなにより、異常に長い漆畑のモノの感触が美紀の手に、喉の奥に、子宮に生々しく残っている。
　一刻も早く秀幸に会い確かめたかった。そのイライラが夫や子供に向いた。家庭の中がささくれ立って来ていた。

　俊雅は妻を問い質したかった。しかし、興奮した時の剣幕が、落ち込んだときの深刻さが俊雅を躊躇させていた。佐竹に当たろうと思ったが下手な話は出来ないし、弱みも見せられないと思った。悶々としている時に佐竹から電話があった。
「さっそくですが桔梗さんの舞台の日時が決まりました。ちょっと恩着せがましい言い方になりますがお聞き下さい。
　私どもも商売ですのでお客様をランク付けしております。率直に申し上げまして野田さんは”Ｂランク”です。Ｃランクのお客様にはあのショーをビデオに編集したものをお見せいたします。Ａランクのお客様は人妻と男優の絡みを一人で鑑賞できます。写真、ビデオもＯＫです。その上に特Ａというランクがあります。このお客様は人妻に知られずその素顔を覗くことができます。もちろんこのランクはその人の人間性の評価ではなく、経済的、社会的地位が大きく反映されております。それを失うリスクが我々の安全、人妻のプライバシーを守ってくれます。
　今度のショーは特Ａのお客様のみを対象にしております。本来はいくらお金を積まれましても特Ａ以外のお客様は入れませんが、この間のお礼ということもありますし、いいお客様も大勢紹介いただいております。そういうことで特別にご覧頂きたいと思います。お代も頂きません」