＜５＞

　待ち焦がれた秀幸から携帯に電話が入った。秀幸は故郷からの電話だと言った。
　家から父が病気との連絡が入り、秀幸も今後のことを相談したかったので、休みを利用して帰っていた。学校に出向く用事が出来たのでこちらに来るがとんぼ返りしなければならないというので今日、この夜の時間しか会えないと言う。
　美紀はこの部屋で何回か秀幸との逢瀬を重ねたが、いつも昼間だったし、"仕事"も全て昼間だった。夜、家を空けるのを躊躇したが、息子の雅也は進学塾で行う合宿形式の講習に参加していて家にいなかったし、夫の俊雅も残業で遅くなるので、コーラスの練習を口実に出て来たのだった。
　秀幸から遅れるから先に部屋にいるように連絡が入り、美紀は今、秀幸の部屋に一人でいる。相変わらず生活感のない殺風景な部屋だった。低い天井が圧迫感を与え、天井の壁際に金網で覆われた換気口のような穴が幾つもあり不自然に感じた。この前はなかったＣＤのデッキがある。テレビが大きな画面のに変わっていた。

　美紀は回想していた。
　相場で大損してからこの”仕事”を始め半年が経っていた。信じられないことが起こり、自分も信じられないほどの変わり方をした。
　それまでは家庭第一主義、夫、子供のために尽くす美紀だったし、セックスの面でも夫が初めての男性で今までも夫しか知らず十分に満足していた。それが、”仕事”が刺激的になるにつれて家のことを疎かにして、夫とのノーマルなセックスに悦びを感じられなくなってきた自分が恐ろしかった。相場の損はもう十分に埋められていた。もうこの仕事はやめよう、元の生活、自分に戻ろうと決心したが、もう一度だけ秀幸に会おうと思ったのは、先の電話で秀幸との言い争いとなった原因を確かめる為だった。

「何で連絡してくれなかったのよ」
「美紀に腹が立ったからさ」
「私が何したって言うの」
「最後の仕事の時さ。嫌がると思ったら、男二人を相手にあんなに悦んで、そのうち僕そっちのけで漆畑さんと夢中であんなことをして。それもあんなに積極的になって。見てられなかったよ」
「あんな、あんなって何よ。ちゃんと言ってよ」
　秀幸は話した。美紀を悩ますあの現れては消える情景が妄想なんかじゃないのかもしれないという思いを振り切って叫んだ。
「うそよ！　出たら目言わないで！」
「信用できないなら今度会った時に証拠を見せるよ」

　ドアがノックされた。
「秀幸だ！」
　美紀はドアに走った。ドアを開ける笑顔の美紀の顔が一瞬で眉間に皺のよった不愉快な顔になった。一番会いたくない男”漆畑”が立っていたのだ。
「橘君から”まだ遅くなりそうなのでこれを持って行ってくれ”と頼まれたんで」
　漆畑は肩にかけた大きめのバックの中から小さな包みを出した。漆畑は笑顔だったが美紀にはその上目遣いの表情がいやで堪らなかった。
「どうも」
　美紀はそれをひったくるように受け取るとドアを閉め鍵を掛けたが、美紀は戸惑っていた。気持ちとは裏腹に漆畑の顔を見て体の芯が疼いた。
　包みを開けるとＣＤのようなケースに”ＤＶＤ”という文字があった。さっきＣＤデッキと思った機械をよく見るとそれにもおなじ文字がある。家でも最近買ったのでメーカーは違うが何とか操作できた。横にあったテレビ画面に映像が映し出された。

　個室の人々に説明の音声が流れる。
「今、白百合さんが見ている画面はＮＯ８のボタンを押すと見ることが出来ます」
　ボタンを押すとサロンで見せられたダイジェスト版ではない美紀と橘と漆畑のセックス画面が生々しく映し出された。

　美紀はベットに座りテレビの画面を見入っている。画面には美紀の切れ切れの記憶、あの妄想が順序だててつながり映し出されていった。岩木や秀幸の話に嘘はなかった。ドアの開閉の音がして、美紀が一瞬そちらを見た時に美紀の携帯が鳴った。テレビの音量が下がる。
「あ、マサくん。変わりない？」
　合宿中の息子からの電話だ。講習の休憩時間に決まって電話が入る。今がその時間だった。
「そう、…コーラスの練習に来てるの。どうだった今日は」
　個室の客が見る画面には美紀の困惑した顔が映っていた。彼女は必死になって普通に息子と話そうとしている。覗き窓から覗くと美紀の前に男がいる。
「ＮＯ３の画面で状況がよくわかります」
　アナウンスの声が流れた。
　ＮＯ３のボタンを押すと美紀の前に座った男が美紀の両膝に手をかけ股を無理矢理拡げようとしている画面が映った。スカートはほとんどめくれ上がっているが美紀は必死で抵抗しながら息子と電話で話をしている。

　ＤＶＤからのテレビ画面は快楽に狂った白百合を映し出している。漆畑がベットにこちら向きに座り、白百合もこちら向きにその上に跨って腰を回している。その前に秀幸がひざまづき白百合の両足を大きく開き持ち上げているので漆畑と繋がった白百合の秘部が剥き出しになっている。その繋がりを秀幸は狂ったように舐めている。身体の柔らかい白百合は上半身をひねり漆畑の首に手を回し、漆畑の軟体動物のように動く長い舌をむさぼるように吸っている。岩木が現れ白百合の耳元で何かささやくと、彼女は大きな口を開け何か言っているようだが声は聞こえない。

　男はリモコンを持ちテレビに向けるとボリュームを上げ、消音ボタンを繰り返し押した。
「うる…さん…上手、…キン……マ…コ…あぁー…すご……ヤーいっちゃ…」
　白百合のうわずった声や叫び声が途切れ途切れに聞こえた。
「えっ声？　そばで子供がふざけて飛び回っているの」
　美紀は息子の問いに必死で答えた。確かにそんな風にも聞こえたかもしれないが。
　男はリモコンをテレビに向けたまま美紀の股の間に手を入れた。今度は片手でも簡単に開いた。男はリモコンを置き両手を使いさらに大きく開く。パンストを破りパンティーをずらせると陰毛と秘部が少しだけ見えてきた。その姿は見る者にパンティーを脱いですべてが見える時よりかえって卑猥な感じを与えた。男は指と舌と唇で執拗な愛撫を加えた。
　いつもは楽しい息子との会話だがこの時だけは早く終わってほしかった。しかし、明日が最終日の息子はいつもより話したいことがあった。
「じゃーね、明日帰るから」
「気をつけて帰るのよ」
　やっと息子との電話が終わった。

　　鍵を掛けたはずなのに入って来た男は漆畑だった。
「卑怯よ！　早く出てってよ」
「そんなこと言っていいのかい。ここはこんなに濡れてもっともっとって言いながら俺の指を締め付けてるぜ」
　漆畑は美紀の秘部に入れた手を離さずに美紀の横に座って言った。
　美紀は漆畑の言うとおりの自分の身体の反応が悔しかった。
「嘘よッ、そんなことないわ。あなたなんかむしずが走るほど嫌いよ！　彼が来るわ、早く帰って」
　美紀は漆畑の腕を振りほどいて立とうとする。華奢な漆畑だが思ったより力が強かった。テレビのボリュームが上がる。必死で抵抗する美紀の理性は漆畑の愛撫を淫らに求める肉体の悪魔に次々に征服されていく。そして画面の白百合が叫ぶ。
「もっと！もっと乱れて淫らに燃えなさい。普段押さえているメスの本性をさらけ出しなさい。この私が本当のあなたなのよッ」

「やめて、お願い。漆畑さん、やめて」
　美紀の抵抗は懇願に変わっている。二人はさっきと同じ格好でベットに座っているが、美紀の荒い息づかいで上下する肩に回した漆畑の左腕の先がブラウスの中に入っている。そのブラウスのボタンはほとんど外れ、ブラジャーのホックもはずれゆるくなってそこから愛撫されていない方の豊かな乳房がはみ出し乳首が見え隠れしている。スカートは腹巻きのように腰の上に丸まっている。
　パンティーにはハサミで切られた穴が開きそこにはバイブが刺さっていた。美紀の左手がそのバイブを掴まされ、漆畑の右手がその上から押さえている。美紀がバイブから手を離そうとするがかえって逆効果だった。漆畑の右手がそうはさせまいとするので、結果、バイブが美紀の中で暴れる。
「こまる、あー、イヤ、どうしよう」
　しばらくすると、漆畑が手を離しても美紀の左手は離れるどころかバイブをしっかり握って前後した。今度は漆畑の右手は美紀の右手を彼の股間に運んだ。美紀の右手は何度か抵抗したがやがてズボンから出ている漆畑のモノを握った。

　美紀はもう秀幸が来て助けてくれるなどと期待していないし、ここに彼が来たらどうしようと心配もしていなかった。前から見るとブラウスは腕の部分だけを残し後ろに隠れている。ブラジャーは片腕にぶら下がっている。彼女の両手は自分の意志でゆっくり動いている。むき出しになった肩、首そしてうなじと漆畑の舌に舐め上げられていく美紀の視線はテレビの画面に釘付けになっている。

　画面はベットの上で秀幸の上に白百合が乗りその上に漆畑が乗るところを映し出している。男二人の間でサンドイッチ状態になった白百合が叫ぶ。
「うわー、漆畑さんのも入ってきた。二本入っている。すごーい。いっぱい。いや、動かないで。壊れちゃう。ウー、ゥアー、いい、いいもっと突いて。最高ー」
　秀幸は目をつり上げのたうち暴れる白百合を下から必死で支えている。漆畑は激しくもだえる白百合の腰の動きに逆らうように腰を動かす。その動きがまた白百合を吠えさせた。

　さっき、心身ともに打ちのめされてモニター室から出ようとする俊雅の背中に佐竹の残酷な言葉が追い討ちをかける。佐竹はモニターの妻を指差しながら言った。
「お客さん、この奥さんは今日がショーに出る為の総仕上げなんですよ。大勢のお客の前で喜んで変態行為をするあの人妻達のお仲間になるんです。そのために今から強烈な体験をするんです。大勢に見られているとも知らないで旦那も知らない淫乱な人妻に変身するんですよ。この瞬間は二度と見られないですよ。なんだったらほかのお客さんと一緒にご覧になりますか。ただし、お代はちゃんと頂きますよ」

「妻を早くここから助け出さねば」
　しかし、その妻には俊雅の知らない世界があった。十五年も連れ添った妻なのに彼には一度も見せない顔があった。
「いつから、どうして、なぜ、なぜなんだ。私はどうすればいいんだ」
　答えのない堂々巡りが続いた。が、あの部屋で見せられた映像が頭の中で暴れ出してる。妻は何人もの男と関係していた。妻のあそこに知らない男のモノが出入りしている。若い男とのセックスでは一度放出された精液が男の激しい突きに逆流して吹き出している。

　何といっても”漆畑”という男とのセックスだ。あの長いモノが妻のあそこを攻める。繋がっているアップの画像が俊雅を攻める。男はゆっくりと出し入れをする。腰を回しながら押しつける。それに応える女、いや妻のあそこがくわえ込む。すべてを知り尽くした中年のセックス、厭らしさが滲み出ていた。
　顔のアップに変わった。妻は目を開け男を見ている。すがるように。男の言われるままに動く。まるで奴隷だ。男は妻をメスとして動物として扱っている。妻をセックス処理機のように弄んでいた。
　別の思いがムクムクと頭をもたげてきた。
「自分の知らない妻の痴態をもっと覗いてみたい」

　俊雅は案内の女性に導かれ個室に入った。そこはさっきの覗き部屋と違い横に広くベットが置かれていた。そのベットに寝ながら下の部屋を覗くことが出来た。モニター室で見たＰＴＡの会長夫婦がいる部屋と同じだと俊雅は思った。ベットに横になり覗き窓から覗くと妻がいた。しかしすでに佐竹が言うとおり俊雅の知らない淫乱で好色な女に変わりつつあった。俊雅も自分の中に”妻がほかの男に犯されるのを盗み見て興奮する変態男”がいるのに驚いたが、その男に征服され始めていた。
　彼ら夫婦にはもう快楽地獄から逃れる術はなかった。

　俊雅の携帯のベルが鳴った。
「もしもし」
　突然テレビからの白百合の嬌声が止み現実の美紀の耳元で聞こえるはずのない夫の声がした。さっきまで乳房を愛撫していた漆畑の左手にはいつの間にか携帯が握られている。美紀の携帯から夫に電話を入れ、美紀の耳元に持ってきたのだ。美紀は焦ってバイブを抜こうとしたが漆畑はそうはさせなかった。この男を本当に殺したいと思った。
「もしもし」
　再度俊雅の声がした。早く何か話さなければならない。
「もしもし、あなた」
「うん、どうしたの」
　俊雅はモニターを見ながら答えた。妻の顔がアップで映っている。テレビ電話で話しているようだった。覗き窓から覗くと、妻の股の間でバイブを持った妻の右手を押さえた漆畑の手が前後している。
「ええ…、あなたの帰りが何時頃になるかと思いまして。…そうですか、じゃー私の方が早いと思いますから。それじゃー」
　一刻も早く切りたい妻に俊雅は言った。
「練習のほうはどうだい」
「ええ…、なかなか声がそろわなくて」
　漆畑が強くバイブを押し込んだ。妻の首がのけぞり、思わず携帯を耳にした顔が天井を向いたが、必死で声を抑えている。
「静かだね」
「今休み時間で、ロビーからかけているの」
　漆畑の手はもう離れているが、妻は自分でバイブを出し入れしている。
「さっき、雅也からも電話がありました。ええ、元気そうでした」
　妻は自分から話題を作った。

　今、妻は四つん這いの姿勢で漆畑のモノを口で奉仕させられていた。モニターには白く大きな妻の尻が映し出されている。その真ん中に剥き出しになった秘部が爛れたように赤く開いている。そしてしつこく責められ大きくなったクリトリスが晒されていた。モニターを切り替えた。漆畑の命令に、妻の舌が漆畑のモノを下から舐め上げ、先っぽを吸っている。そして口に含むと言われるままにゆっくりと出し入れを始めた。漆畑の手が妻の頭を押さえると妻の頭は段々に下がり、漆畑の長いモノはすべて妻の口の中に収まった。あまりにも長いので細く見えるが妻の口の開き方から漆畑のモノは十分に太いのがわかる。

　漆畑の手が離れると彼のモノは妻の口からゆっくりはき出された。それまで苦しそうな表情は見せなかった妻が呻き声を吸い込むように息を吸った。また漆畑の腕に力が入り根本まで収まった。妻の唇が、喉が動き、背骨が上下にしなった。
　収まったまま二人は回転し、妻が下になり、漆畑が上になる。漆畑の腰が上下しだした。まるで妻の口を秘部代わりにセックスをしているようだ。妻は両手を広げシーツを掴んでいる。秘部をさらし足がもがくように大きく動く。しかし、嫌がっているわけではない。漆畑の腰の動きが止まると妻の両手は漆畑の尻を掴み自分から飲み込み、嫌らしい音を立てた。
　俊雅は自分が嫉妬の呻き声を上げているのに気がつき狼狽した。

　俊雅はこの部屋に今は一人ではなかった。妻との電話が終わり携帯を置いてズボンの開いたチャックの処にまた手をやろうとしたとき、ビンビンに固くなったモノに別の手が触った。驚いて振り向くとバニーガールのスタイルにアイマスクをした女がいた。さっき案内してくれた女と同じスタイルだったが薄暗い中でも別人だとわかった。派手な香水の香りがそれを教えた。
　その女はしばらく俊雅のモノを手でしごいた後、口に含んだ。それまでの妻の痴態に限界に来ていた俊雅は濃い液体をその女の口に放出した。女は大量のそれを全部飲んだ。飲んでも俊雅のモノを口に含んだまま離さなかった。俊雅のズボンとパンツは段々に脱がされていく。俊雅のモノは異常な興奮に柔らかくなることなく固さを保っていた。最近ではめずらしいことだ。その女はモニターの妻がされるように動いた。俊雅も覗き窓を覗きながら妻を攻める男に対抗した。

　美紀は自由に呼吸が出来るようになった。漆畑の身体が下に移動した。美紀の足首が彼の手に掴まれ、持ち上げられ、股が大きく開かれた。
「入れられる」
　美紀は目を固くつぶり横を向いていた。漆畑が股の間で膝立ちの姿勢でいるのがわかった。彼は動かない。
「焦らしているんだ。負けるもんか」
　しかし目は開けられない。彼と目があったら叫びそうだった。
「いれて！奥まで入れて」
　漆畑は腰を少し落とした。彼のモノが陰毛に触る。自分の意志とは反対に思わず腰が浮いてしまった。彼のモノの先が当った。ヌルヌルとした感触が前後する。
「こんなに濡れている。あいつが見ている。恥ずかしい」
　あわてて腰を下げたが、子宮が吠えている。
「突いて！激しく突いて」

　漆畑の手が美紀の右手を掴んで下に持って行き、竿を握らせようとした。
「私に入れさせるんだ」
　思わず彼の手を払いのけた。子宮が抗議した。
「バカ、早く入れろ」
　漆畑がもう一度手を掴むのを待った。しかし、中々来ない。
「早くして、今度は自分で入れるから」
　美紀は心の中で必死で懇願した。
「目を開け」
　漆畑の声に思わず目を開け彼の顔を見た。彼は両手で美紀の頭を持ち上げた。
「入れろ」
　美紀は彼のモノを握るとあてがった。自分のあそこにゆっくり入ってくるのが見える。柔らかい美紀の上半身が段々起きてくる。出入りしているのが見える。
「長い！」
　そして蛇のようにクネクネと動き出入りした。柔らかいのではなく弾力があり、しなるように中で動いた。子宮をこねくり回した。その動きがこの前、自分に犬の真似までさせたのだ。

　妻は歯を食いしばり首を振り、押し寄せる快感に抵抗している。漆畑はそんな妻の耳元で何か囁いた。
「見せて、見せて」
　妻は叫んだ。漆畑はデッキに入っているＤＶＤを取り出し、バックから出したＤＶＤをセットすると妻を四つん這いにさせ後ろから繋がった。妻は後ろから責められ激しく反応した。さっきまでの抑制を取り戻すように狂った。

　女も俊雅の前に四つん這いになり尻を突き出した。俊雅は吸い込まれるように繋がった。さっきまで佐竹の視線を理性の片隅で意識していた自分がいたが、今は自分の中のあの変態男に完全に征服されたのを感じた。
　女は俊雅の代わりにＮＯ８のボタンを押した。他の覗いている客は妻の異常な反応を漆畑の上手な攻めのせいだと思っただろうが、俊雅には妻の激しい反応の理由が分かった。
　嘉代が教育されている場面が映し出されていたのだ。そこには妻の知らない嘉代がいた。淫乱に育っていく嘉代が映し出された。

　しばらくして、場面も女も変わった。俊雅は息を呑んだ。美代子が映ったのだ。そして美代子の調教の画面が流れた。彼女は”ひまわり”と呼ばれ、妻や嘉代と違い源氏名のとおり明るく育っていった。画面が変わり、突然必死で抵抗する声に変わった。俊雅の知っている部屋が映っている。美代子のマンションだ。
「いやよ、いや、ここじゃイヤ。あー」
　美代子が襲われている。必死で逃げ回ったが、やがてリビングで着ている服を破られ犯され始めた。
「馬鹿にしないでよ。あなたの期待どおりになんかならないわよ」
犯されながらも、泣きながら抗議している美代子が映っている。
　画面は変わりベットが映った。夫婦の寝室だろう。その画面の中にはベッドの上で男の攻めに淫らに悶える人妻がいる。もう犯されているとは言えなかった。家に男を引っ張り込んで夫婦の寝室で快楽をむさぼっている不倫に狂った人妻にしか見えない。男は漆畑だった。少し傾いた画面が交わる獣達の卑猥さを強調した。

　やがて、息も絶え絶えの美代子が漆畑に抱えられ画面から消えた。画面はシーンとなった寝室を映している。かすかにシャワーを使う音が聞こえる。何も動かないはずの画面が突然動いた。パイプで出来たハンガーに掛かった洋服の陰から人が出てきたのだ。俊雅があげた「あっ」という声に妻の「キャー」という声が重なった。
　出てきたのは美代子の夫だった。妻はもちろん知っている。俊雅も何回か会ったことがある。男はズボンのチャックを閉めながら画面から消えた。そして、俊雅夫婦がこの家を訪れたときに聞いた音が小さく聞こえた。玄関の戸の開閉を知らせる鈴の音だった。

　画面をまだ信じられないと言う表情で見つめている妻の耳元で漆畑は言った。
「奥さんのおウチにも俺を招待してよ」
「イヤー」
　妻は叫び声を上げたが、漆畑の体が激しく揺れるほど腰を振った。
「美代子、美代子」
　妻は漆畑に突かれながら必死に親友の名を呼んだ。
　やはり、俊雅に攻められながら画面に激しく反応していた女が突然妻の名を呼んだ。そのとき香水の香りと女の素性が俊雅の記憶の中で一つの線で結ばれた。俊雅は女のマスクをむしり取った。振り向いた女は俊雅の思ったとおり美代子だった。俊雅は狂ったように美代子を突く。俊雅は彼女の上げる声に混じる自分の野獣のような叫び声を聞いた。

　俊雅と美代子との交わりは正常位の形に変わっていた。美代子は手を伸ばし俊雅の携帯を取ると着信履歴の画面を出し俊雅に見せた。一番目の「美紀」の名前が反転表示されている。俊雅は返事の代わりに前後の腰の動きを強くした。美代子は俊雅の突きに妻の名を呼びながら漆畑に攻められているモニターの妻を見ていたが、再び俊雅の顔を見ると携帯の発信ボタンを押し俊雅の耳に近づけた。美代子の口元がゆがんでいる。
　覗き窓から覗くと妻と男も正常位で交わっていた。携帯の画面を妻に見せボタンを押そうとする漆畑を妻が必死で止めようとしている。
　電話に出た妻の息は乱れている。
「どうしたんだ」
「練習中だったので、走って外に出たのよ。何ですか」
「俺も遅くなりそうだし、雅也もいないんだからたまには練習の後の反省会にも付き合ってきたら。遅くなってもいいから」
「ええ…、わかりました」
　話は続いた。

　不思議なことに妻の声から段々と焦りが感じられなくなってきた。覗き窓から覗くと、妻はベットで上向きに寝て漆畑がその上に乗り二人は激しくそしてねちっこく腰を動かしている。妻は漆畑の顔を見ながら電話で俊雅と話をしている。時々、妻の眉間に皺が寄る。さっきドアのところで漆畑を見たときの表情にそっくりだがその原因は違うだろう。しかし妻の話し方は落ち着いている。
　美代子がモニターに向けリモコンのボタンを押した。モニター画面は妻と漆畑の繋がりのアップに変わった。妻の外陰部は見事に膨らみ漆畑のモノを挟み込んでいた。俗に”ドテの具合がいい”と男が喜ぶ状態だ。時々その割れ目が開くと赤い襞が漆畑のモノに絡みついているのが見える。
　漆畑のモノはもちろん、妻の肛門の下まで妻の溢れ出た愛液で光っている。漆畑のねちっこい腰の動きに合わせ、妻の腰も淫らに前後左右に自分の意志で動いた。そして時々肛門がキュッと締まると妻の秘部からまた愛液がほとばしり出た。今妻の子宮は喜びにうごめき、彼女の眉間には皺が寄っただろう。妻の襞は漆畑のモノ全体をがやさしく包んで愛撫し、眉間の皺と同時に強く彼のモノを締め付けているはずだ。
　俊雅は彼の出入りしているモノに強烈な嫉妬を感じた。その時も夫婦の会話は続いたが妻の声はあそこの反応とは違い驚くほど冷静だった。かえってそれを見る
俊雅の方が嫉妬と怒りで声が震えるのを押さえるのに必死だった。
　今、漆畑の手と口は妻の乳房を愛撫している。やがて、彼は妻が話している携帯に耳を近づけて来た。相変わらず腰の動きは執拗に妻を責めている。
「美紀、話は変わるが、最近美代子さんとも嘉代さんとも会っていないだろう」
　俊雅は美代子の目を見ながら話した。
「ええ…」
「どうだい、一遍ご夫婦で家に招待したら」
「そうね、いいわね」
　妻の腰が一段と大きくうねった。漆畑が妻の顔をテレビの画面に向けさせた。美代子が又モニタの画面を切り替える。ベッドの上で横向きの妻の顔の上に携帯を挟み漆畑の顔がやはり横向きに重なる。やがて妻と漆畑は目を合わせた。彼の攻めに妻の顔の表情は次々に微妙に変化した。困惑の表情に見えた。今にも泣き出しそうな顔に見えた。怒っているようにも見えた。そして笑っているような表情にも見えた。いずれも俊雅の知らない妻のセックスの時の顔がそこにあった。
　そんな妻を見た美代子も口を両手で押さえ、大きく腰を回した
　妻は親友の痴態を見せられ、すぐ彼女たちに会う自分を想像し興奮している。
　妻はほかの男に抱かれながら夫と電話で会話することに興奮している。
　妻はこんなに興奮しても普段の声でしゃべれる自分に驚いている。
「じゃー練習に戻ります」
　妻は電話を切った。

　俊雅は覗き窓を見た。妻を嬲る漆畑の声が突き刺さる。
「ほら目を閉じて旦那の顔をもう一度思い浮かべて見ろ」
「アー、アーー」
「旦那の名前を呼んでみろ」
「いや、いやよー」
「言わなきゃ抜いちゃうぞ、ほーら」
「アッ、アー、言う、言うわ。あなた、あなた、トシちゃん、トシちゃん」
「へー旦那とやるとき旦那をトシちゃんと呼ぶのかい」
「そうよ、突いて、もっと突いてよー」
「さっき電話で旦那に言いたかったことを言ってみろ」
　妻は頭に手をやり髪を掻きむしりながら首を振っている。
「言え！言ってみろ」
「私今オマ○○してるの！あなたに電話しながらあなたの知らない人とオマ○○しているのヨー！」
「旦那の時より気持ちいいだろう」
「そうよ、気持ちいいのよ。オマ○○がたまんないのよ〜」
「こうするとどうだー」
「グチュグチュ言ってる。ウワー動く、オマ○○の中が痙攣しているーー」
「旦那のモノはこんなことしてくれないだろう」
「イクー、イグー」
　漆畑はほとんど身体を動かしていないのに、妻はのたうち回っている。妻の中で彼のモノは何をしているのだろう。漆畑はなおも俊雅を夫を蔑み妻を狂わせた。食い入るように見つめる俊雅の横顔を美代子の意地悪い視線が容赦なく突き刺した。