第三章 〜失望と絶望〜　�A

　暗い森の中、衣服をボロボロにしながら懸命に走り回る……四方八方から聞こえる厭らしい男たちの笑い声。

　うっしし、いい加減に観念したらどうだぁ

　そうだそうだ、はやくこっちへきて股を開けよ

　俺のチ○ポをその可愛い口でしゃぶってくれよ

　木の根につま先をひっかけ、斜面を激しく横転していく詩織。どうしたことか、全身の力がみるみる失せていく。腕や脚はおろか、指でさえ満足に動かすことができない。
（いや、いやぁ……助けて、誰か助けてぇぇ）
　近づく男たちの声に、怯えた瞳をおおきく開きながらキョロキョロと辺りを警戒する。
　男たちの声が止んだ。
　身を硬くし、ジッと息を潜める詩織。
　沈黙の続くなか、カサついた手がふいに詩織の剥き出しになった太ももへ触れてきた。
「ひっ、いやあぁぁ―――」
　二本の手がゆるゆると太ももを這い上がってくる。と、また別の手が身体に触れてきた。
　その手は、破れたシャツの隙間からスーッと中に入り込み、ブラのカップをずらしながら入念に乳房を揉みこんだ。
　カチカチと音をたてる詩織の歯が、なにやら不気味な塊によって押し開かれていく。
　生臭い……異臭とともに垂れ流れてくるネバついた液体。
「ううぅ、うううぅぅっ！！」
　完全にふさがれてしまった唇で、必死に叫ぶ。脱力した肉体で、必死に抵抗する。
　卑猥な手が乱暴にブラを毟り取った。そして、すぐさま何かが乳首に噛み付いてきた。
「ううっ、んんんっ！！」
　喉の奥にまで突きこんでくる肉の塊……詩織は嗚咽しながら叫んだ。
　口の端から涎を垂らしながら、艶めいた瞳をグッと細めて必死に叫んだ。
　太ももをまさぐっていた手が力強くパンティを引き千切る。

　ダメ、もうダメ、犯される……助けて、お願い、……誰か……

　ジリリリィ―――
「はっ！」
　鳴り響く目覚まし時計に、詩織はパッと眼を見開いた。
　夢だった……とてつもなく恐ろしい夢だった。
　昨日の磯貝が原因なのか、それとも……安堵するも、すぐに不安が渦巻いていく。今日は田中との約束の日であった。
「田中くん、いったい何を企んでいるんだろう……あぁ、厭らしいことされちゃうかもしれない。もしそうなったら……わたし、どうしたらいいの」
　途方もない悲しみがドッとこみ上げてくる。
　だが、詩織に選択の余地はなかった。
　瞳を閉じ、ひとつ大きく深呼吸すると、詩織は覚悟を決めたかのように真剣な面持ちで出掛ける準備にとりかかった。

　その頃、近所に住む幼なじみの弘明は、二階にあるベランダに出てボーっと遠くの海を眺めていた。
「はぁ……どうしてあんなことをしたんだよ、俺って本当に馬鹿だ。救いようのねえ馬鹿だ」
　詩織とのあいだに作ってしまった深い亀裂。弘明は、すべての覇気を消滅させていた。
　思い出すたび憂鬱に陥るのだが、それでいて、いっぽうでは男の性があの時の感触を忘れられずにズキズキと疼きだす。
　情けない……弘明は、自身の目尻に垂れる汗か涙かわからぬものを、たるんだTシャツの裾で拭った。
「はあぁ……んっ？」
　落ち込む弘明の眼が、家前の道を自転車でくだっていく詩織の姿をとらえた。
「し、詩織、……」
　詩織を見て、弘明の心はいっそう切なくなった。

　謝ろう、真剣に、誠意を込めて、一生懸命謝ろう。いまならまだ間に合うかもしれない。

　わずかな望みを胸に、勇気をだして詩織に謝ってみようと思った。
　顔や身体に似合わぬ純真無垢な性格。そう決めると、いてもたってもいられず、弘明はバタバタしながら家を飛び出していった。

　あれほど心地よかった蝉の鳴き声が、いまではそれすらも怖く感じてしまう……そんなふうに思いながら神社へ向かうと、田中はすでに到着していた。
「やあ、おはよう」
「お、おはよう」
　田中は、Tシャツにチェックのハーフパンツという服装で、肩にはショルダーバッグをさげていた。
「ちぇっ、なんだよ、スカートじゃないじゃんか」
　赤シャツに白のパンツといった服装が気に入らなかったらしい。田中は露骨に嫌な顔をした。
「た、田中くん、ちゃんと持ってきてくれた？」
「ああ、約束のものはちゃんとバッグに入ってるよ」
　そう言いバッグを軽く叩いてから、幼い丸顔を意味深に山へ向ける。
「それじゃあ、行こうか」
「えっ、行くって……どこへ？」
「決まってるだろ、お前たちがエッチしてた場所へだよ」
　詩織の顔がサーッと青くなった。
「な、なぜあんなところに行くの？　デートだったらもっと他のところへ……」
「あそこだったら人気がないだろ？　うってつけの場所じゃないか」
「そ、それってどういう意味？」
「しらばっくれるなよ。俺が何をしたいのか分かるだろ？　どうせ一度っきりのデートなんだ、我慢しろよ。ほらほら、はやく行くよ」
「や、やっぱりそんなことを……」
　悔しそうに唇を噛んでいる詩織をチラリと上目遣いで見やりながら、田中は高らかな笑い声とともに神社脇の小道へと歩き出した。
「くっ、どうして……どうしてこんなめに……」
　田中の背中へ憎悪の視線を向けながら、ゆっくりと後につづく詩織。
　二人の痴態写真が合成であることも知らず、詩織は成す術なく田中に従った。

「えへへ、どうだい、思い出の場所にきた感想は？」
「……」
「なあ、森川。……今日だけだ。今日一日だけ俺の言うことを聞いてくれればいいんだ。俺だって本当は恋してる相手にこんな卑劣なことなんかしたくないさ。だけど、……俺、どうしてもお前とエッチがしたいんだ。夢なんだ」
　それは、田中の素直な気持ちだった。
「そ、そんな、だからといって……」
「わかってる、わかってるんだよ。俺だって辛いんだ……でもさぁ、こうでもしない限り、一生お前とはエッチできないと思うんだ。……だから、頼む！　今日一日だけ俺の好きにさせてくれ！」
「た、田中くん……」
　土下座して必死に懇願する田中に、詩織の悪い癖が顔を覗かせた。
　優柔不断さである。
　悪いことは悪いと、かたくなに跳ね飛ばそうとする気持ちを曖昧な優しさが横やりを入れてくるのだ。
　田中の行為はけっして許されるものではない。まして、それを受け入れようとする気持ちなど、微塵にも沸いてくるはずがなかった。……が、田中を見つめる詩織の眼には、微かな困惑の色が浮かんでいる。
「た、田中くん、やっぱり私……」
「ああぁー、もう、焦れったいなぁ！」
　どっちとも煮え切らない詩織の態度に、田中は叫びながらその場にゴロンと寝っ転がった。
　そして、ボソボソと陰険な言葉を詩織に投げかけた。
「ここの位置ってさ、ちょうどお前たちが腰を振ってた所じゃねえ？　しっかし大胆だよなぁ、こんな青空の下で下半身まるだしにしてさぁ、周りも気にせずズコズコやりまくるんだもんなぁ」
「や、やめて、そんなこと言うの」
　ふたたび詩織の心へ憎悪が湧き上がってきた。愛嬌のある美貌をキッと引き締め、空へ向けられた田中の顔をきつく睨む。
「自分の立場をよく考えてものを話せよ。俺を怒らせたら取り返しがつかなくなるんだぞ。お前は俺の言うことに逆らっちゃいけないんだ」
「くっ、」
　詩織は、自分の置かれている状況を再確認させられ、言葉を失くしてギュッと奥歯を噛み締めた。
「なあ、森川……あのさぁ、ズボンを脱いで俺の顔をまたいでくれよ」
「えっ？」
　一瞬、田中が何を言っているのか理解できなかった。
「ほら、はやくやるんだよ。いまさぁ、かなりイライラしてんだよね」
「―――」
　ある程度の事態は予想していたつもりだった。
　キスを強要され、胸をまさぐられ、そのうち性交を求められるのであろう……そんなことを詩織は想像していた。
　心の準備はそれなりに出来ていた。それならそれで踏ん切りはついていたのだ。
　だが、田中の吐いた言葉は詩織の予想とはあまりにもかけ離れていた。
　可愛らしい笑みを浮かべながら平然と言ってのける田中に、羞恥を感じるより先に内臓全体が圧縮されていくような、凄まじい嫌悪を感じてならない。
「ほら、早くやれって！」
「うっ、」
　突然に吼えられ、詩織はビクッと肩をつりあげた。
　昨日の磯貝の変貌が脳裏をかすめ、そのときの恐怖を彷彿させる怒声だった。
「どうしたの？　早くやらないと帰っちゃうよ、俺」
「ぬ、脱ぐから、ちょっと待って……」
　険しく眉をひそめながら、ゆっくりとパンツのジッパーを下げていく。屈辱と絶望が、ジッパーにかかる指先を小刻みに震えさせる。小麦色に焼けた詩織の顔は、ふいに沸いてきた羞恥によって真っ赤に染まっていた。
「わおっ！　パンティ、ピンク色じゃんか！　もしかして、はじめからその気だったの？」
「ち、違う、そんなんじゃ……」
　好色なひやかしに怒りを覚えながら、真っ白のスリムパンツをつま先から抜いていく。森林からの冷たい風が、けっして心地よいとは言えない感触を詩織の股間にもたらしてきた。
「か、顔をまたぐって、どういうふうにやればいいの？」
　脱いだスリムパンツを傍に置き、赤いTシャツの裾をグイッと下へ伸ばしながら詩織が聞く。田中は、仰向けに寝転んだまま手招きした。
「さあ、こっちへきて……そして、顔をまたぎながら両脚のつま先で俺の肩に触れるんだ」
　詩織は、言われるまま田中の顔をまたいだ。

　恥ずかしい……

　また突然と誰がやってくるか分からぬような場所で、Tシャツとパンティというあられもない姿になった詩織。だが、そんな不安と恐怖以上に羞恥感が沸きあがっている。パンティを穿いているとはいえ、女の大事な部分を真下から見つめられるというのは、耐え難い抵抗があった。
「ハア、ハア、すっげぇ〜、すごい眺めだよ。こ、これだけでイッちゃいそうだよ。パ、パンティをグイッと上に引っ張ってみてよ」
「うくっ、恥ずかしい……」
　ふっくらとした下唇を噛みながら、口惜しいといった表情でパンティの両端をグッと引っ張りあげていく。
「おおっ！」
　長々と伸びる両脚の付け根で、引っ張られたパンティの生地がこんもりとした恥丘の膨らみを露わにしてきた。
　その卑猥さに、田中が感嘆の悲鳴をあげながらゴクリと生唾を呑む。視線をズラすと、形よく釣り上がった双臀の肉付きもハッキリと伺えることができた。
　小尻とばかり思っていた意外なヒップの肉感。
　見上げるそのヒップは、おもわずふるいつきたくなるような色っぽさを醸し出していた。ふくよかなのだが、それは横に広がりすぎることなく、全体的にキュンと上に釣りあがっている。そこだけ見ていると、とても中学生の青臭い尻だとは誰も思わないだろう。濃密な光沢を湛えている恥丘以上に、この張りつめたヒップには煽情的ものがあった。
　田中は、ずっとこのままでいたいと心から思った。
「た、田中くん、もういい？」
「んっ、あぁ、じゃあ、そのままの姿勢を保ちながらパンティを脱いでみて」
「えっ！？」
「パンティを脱ぐんだよ！　ほら、はやく脱ぐ！」
　円らな眼をネットリと股間へネバつかせながら、田中が強い口調で言いたててくる。詩織は、唇を歪めて脚下にあるサトイモのような小さな顔を哀感の眼で見つめた。
「どうした？　できないなら写真をバラまくよ」
「ひ、ひどい、……こんなことさせるなんて、酷すぎるよ。お願い、もっと普通にして。わたし……拒んだりしないから」
　心痛を堪えながら、詩織は懇願した。
「ダメだよ。これは一生に一度のことなんだ。俺の好きなようにさせてもらう。ほら、はやく脱いでよ。もうこれ以上は同じこと言わないよ」
「うっ、うっ、……」
　詩織はたまらず泣いた。が、それでも田中が許すことはなかった。
　脱ぐ以外に選択の余地はない……ポロポロと大粒の涙を落としながら、掴んだパンティをそろそろと下げていく。悲痛に破顔している詩織とは対照的に、興奮の絶頂に達している田中の丸顔は、笑い顔とも泣き顔ともとれぬ表情を浮かべている。口の両端には、うっすらと涎が滲んでいた。

（ハアハア、たまんねぇ、たまんねぇ！　あの森川が、あの森川が俺の前でパンティを脱ぐぞ！！　夢だ、これは夢なんだ、存分に楽しまなきゃ後悔するぜぇ！！）

　悩ましい尻の谷間が綺麗な縦線を刻みながら徐々に見えてくる。そして、熱狂する田中の眼に、恥丘を覆う卑猥な陰毛がチラチラと映りはじめてきた。
　ついに、ついに女のあそこを生で見られる。しかも、それは森川詩織のものだ。気が狂わんばかりに想いを募らせていた女性。ネット徘徊を日夜繰り広げては無修正画像を貪り、いい素材が見つかれば寝る間も惜しんで詩織の写真に厭らしい細工を施す。それで何度オナニーをしたかわからない。一晩に三回四回は当たり前だった。
（あ、ああぁ……お、俺よりも毛が多いな……ううぅ、色も詩織のほうが濃い）
　引き下ろされるパンティが膝あたりにさしかかっている。田中の眼が、いっそう色欲に輝いた。
　みっちりと張った太ももに押し挟まれている褐色の淫らな唇。美少女にはとても似合わぬものが、その亀裂の深さを湛えながらぼんやりと見えている。詩織が、片足をスッとあげてパンティを引き抜いた。そして、同じようにしてもう片方の足も抜いた。
「うおっ、おっ、……おおぁぁ」
　股間に張り付いていた薄い生地が、完全に姿を消した。
　誰もが憧れる、あの森川詩織がとうとう自分の前でパンティを脱いだ。
　普通ならできない。いや、詩織自身、どんなことがあっても断固として拒否するはずだった。しかし選択の余地はないのだ。こうする以外に何の術もなかった。
　キュッと引き締まったヒップの中央で、卑猥な亀裂が影となって続いている。その亀裂が途中で消え、両脚の付け根部分からは、お世辞にも可愛いとは言えない代物が存在していた。
　圧倒的な光景に打ちのめされながら、田中がうわずった声で言う。
「しゃ、しゃんがんでくれ。そ、そのまま、そのまま俺の顔に腰をおろしてくれ」
「いくらなんでもそんなこと……へ、変態よ」
「た、頼む、おろしてくれ……はやく、はやくっ！」
「うくっ、」
　眼と唇をきつく閉じ、田中の顔上へゆっくりと腰を落としていく詩織。
　おのずと神経が股間を中心とした箇所へ集中していく。湧き上がる凄まじい羞恥は、身体を焼き尽くさんばかりに燃え広がった。
　陰唇をうっすらと開きながら徐々にクローズアップされてくる詩織の性器。

　想像を絶する淫猥さ……これほどグロテスクな形をしているのに、どうしてこんなに魂が昂ぶるのか……どうしてこんなに愛しいのか……田中は、じわっと涙さえ浮かべていた。

　膝を折り曲げたことでさらにムッチリと張り出した太もも。せり出された柔らかそうな陰毛が、さわやかな山風に吹かれ微かに揺れている。褐色の唇からは、ほんの少しだけピンクの内肉が覗いていた。また、田中の激昂をさらに煽り立てたのが、その存在すら疑問視されていた清楚な美少女の排泄器官だった。
「お、お前にも肛門がついてたんだな」
　割り裂かれたヒップの狭間に、ちょこんとついたセピア色の小さな穴。おもわず漏れた大きな溜息がアナルへかかり、その不快な感覚に詩織の腰がビクンッと前へ突き出た。

　その頃、詩織を追って家を飛び出した弘明は、神社の前で腕組みしながら詩織の自転車を見ていた。
「うーん、これはどう見ても詩織のチャリだよなぁ……こっちは誰んだ？　磯貝先輩のかな。こんなところにチャリ置いて、いったいどこへ行ったんだろ？　まさかカブトムシでも捕りにいったなんて……ことはねえよな」
　呟きながら、しきりに辺りの様子を伺ってまわる。とにかく会って謝罪するんだ、そう自分に言い聞かせながら詮索しているのだが、実は好奇心も沸いていた。
　けっして自分では認めようとしないが、こんなところで彼氏と何をしているのか、もしかしたら人気のないところでイチャついてるのかもしれない、そんな思いが沸いているのも事実だった。
「んっ、こんなとこに獣道があるじゃねえか。もしかして、こっから上に行ったんかな？」
　弘明は、祠の脇にある小道へと足を踏み入れていった。