第四章　溺れゆく二人�A

　真夏の正午だというのに、弘明の潜んでいる場所は幽霊でも現れかねないほどに薄暗かった。

　ヴゥ〜ン、ヴゥ〜ン、……パチッ、―――

「くそぉ〜、また噛まれた！　こういうとこって、どうしてこんなに蚊が多いんだ」
　腕のあちこちをボリボリと掻き毟りながら、弘明はグッと細めた眼で光の差し込む場所を監視した。
　質素な神社境内の中にある薄汚れたほこら。
　弘明は、立ち入ってはならぬその場所へ、ゴトゴトと壊れそうな扉を慎重に開いて中へ入り込んでいた。
　鬼気迫る思いで山を下った弘明。しかし、詩織たちの自転車は何の変化もなく置かれたままだった。
　しばらく考え、一旦は家に帰ろうかとも思ったが、どうしても二人の行動が気になってならない。嫉妬と好奇心、それに、自分の過ちによる罪悪感が胸の奥深くでザワザワと沸きあがってくる。その感情に勝てず、とりあえず自分の自転車を人目につかぬところへ移動し、どこか目に付かぬ場所で二人が現れるのを待とうと思ったのだ。
「ふぅ、……やっぱりこんなことするの、良くないよな。こんなところに隠れて二人の動向を監視してたってことが、もしも詩織にバレたら……ああぁ、ダメだ、やっぱり良くないよ。それこそ取り返しがつかなくなる」
　弘明は、静かに立ち上がってそっと扉に手をかけた。っと、その時、いろんな外音にまぎれて微かな人の声が聞こえてきた。
「だ、誰か来る……男の声だな？」
　開けかけた扉をそのままに、ひっそりと身を潜めてその声に集中する。声はだんだんと大きさを増し、やがて、二つの人型がほこらの前で止まった。

「いいか、今度の日曜は俺んちに来るんだぞ。十時だ。遅刻すんなよ」
「う、うん。でも、でも今度は絶対に約束を守ってね」

　聞き覚えのある意外な声に、弘明の顔はひどく驚いていた。
（あ、あいつ、もしかして田中じゃないのか？　ど、どうして田中と詩織が……約束？　なんなんだよ、約束って）
　脂肪膨れの顔が、徐々に強張っていく。

「だから、心配すんなって！　お前さえ黙って俺の言うこと聞いてりゃ、必ずそん時に処分してやるよ」
「う、うん、わかった」
「そのかわり、お前のほうこそ約束を破るなよ。セックス以外だったらなんでもするって約束。もし約束を破ったらすぐにでもあのエロ写真をバラまくからな」

　尋常とも思えぬ二人の会話に、弘明の顔はみるみる引き攣っていった。
（な、なんだぁ！？　セックス？　約束？　エロ写真！？　た、た、田中のやつ、詩織を脅してやがるのか……）
　本能的に、グッと拳を握り締めた。

「た、田中くん、あんまり大きな声で言わないで……」
「あはは、聞かれちゃ困るか？　確かに、山ん中でセックスしてたなんて誰かに聞かれちゃあ、恥ずかしくて、みっともなくて、もうこの町にはいられないよな」
「た、田中くん、お願い、やめて」
「わかった、わかった。いいか、あん時の写真と画像、ちゃんと処分してほしかったら絶対に俺の言うことを聞けよ」

　ガラガラガラッ―――

「うわあああっ、なんだなんだ！」
「きゃあっ！」
　弘明は、無意識のうちにほこらを飛び出していた。
　無人であるはずの場所から突然現れた弘明に、呆然と立ち尽くす二人。
「お、お、お前、……お前、詩織に何をしたんだぁ！！」
「わっ、あわわ、」
　鬼の形相で掴みかかってくる弘明に、田中はただ怯えた。
　掴んだ胸ぐらを激しく揺さぶられるも、恐怖のあまり何も言えない田中。
　バチッ、巨体が繰りだす重い拳が、小さな童顔を粉砕せんがばかりの勢いで跳ね飛ばした。
「きゃあ、や、やめて、弘くん！」
「いいから詩織はすっこんでろ！」
　詩織を一喝し、倒れ込んだ田中の上へ馬乗りになって、なおも激しく責め立てる。
　殺される……田中は真剣にそう思った。
　一発、二発、そして、三発目をくらう寸前で、ようやくガクガクと震える口から言葉がでた。
「や、やめてくれ、ごめん、ごめんなさい。言う、言うよ、全部言うから、もう、もう許して」
「言え！　嘘をついたら本当に殺すからな！」
「わ、わかった、わかったよ……ごめんなさい」
　田中は、泣きじゃくりながら事の真相を綴った。

　詩織を哀しませていた原因を知り、田中をもう一発殴ってから、弘明はのっそりと起き上がった。
　そして、おもむろに田中のバッグを物色しはじめ、まずは携帯電話を叩き折って捨てた。
　次に、あきらかに合成と思われる写真をビリビリと小さく破り、それを自分のポケットにしまい込んだ。
「いいか、田中。もし画像がパソコンの中にもあるんなら、それらすべて今日中に削除しろ。下手に隠したりすんなよ。今度、パソコンに詳しい奴と一緒にお前んちへ行くからな。分かったな」
「う、ううぅ、わかったよ」
　むせび泣く田中に踵を返し、弘明は唇を噛んだまま、眼に涙をいっぱいに浮かべて詩織を見つめた。
「ひ、弘くん……」
　詩織も泣いていた。それが安堵の涙なのか、あるいは他の意味を持つ涙なのか、弘明には分からなかった。
「詩織、帰ろうぜ」
「……うん」
　田中を残し、その場からゆっくりと立ち去っていく詩織と弘明。
　二人のあいだに会話はなく、ただひたすら蝉の鳴き声だけが響き渡っていた。

　それから三日後、詩織は磯貝との関係にピリオドを打った。
　最後にやらせてくれとせがむ磯貝を、今度ばかりは頑な態度で拒絶した。

　十四歳の夏、刹那の如く通り過ぎた淫虐の時間……あれが夢幻であったならどんなによかっただろう。だが、思い出すたびに密かに疼く秘芯が、あの時に感じた愉悦の快感を生々しく蘇らせてくる。
　二学期がはじまって弘明と頻繁に顔を会わせるようになると、どこかギクシャクしたものは残っているものの、それでも互いに昔の親しみを取り戻そうと、どちらからともなく積極的に距離を縮めようとしていた。

「おーい、詩織、いまから帰るのか？」
「あっ、弘くん」
「俺も帰ろうと思ってたからさ、たまには一緒に帰るか」
「うん」
　たわいもない話題にも屈託のない笑みを浮かべる詩織に、弘明が途切れることなく会話を続ける。詩織には、弘明の想いが痛いほどわかっていた。でもどうしても恋愛感情を抱くことができない。けっして見た目で判断しているわけではないのだが、弘明の場合は違うのだ。もちろん男だとは認識している。骨太の、誰よりも芯が強く、頼りがいのある男だと。もし弘明が隣町に住んでいたなら、あるいは惚れていたかもしれない。だが、実際の弘明は詩織にとって、やっぱり兄なのだった。その身内のような感覚がどうしても抜けきらない。詩織は、そんな自分自身にも苛立ちを募らせていた。
「ねえ、弘くん」
「んっ？」
「ありがとう……」
「な、なんだよ、突然」
「わたし、弘くんには小さい頃からずっと助けられっぱなし」
「おいおい、やめてくれよ、そんなこと言われると照れちゃうよ」
　弘明は、やや緊張した面持ちで笑った。
「ねえ、今度の日曜日さ、なにか用事ある？」
「えっ、日曜日？　たぶん家でゴロゴロしてんじゃないかなぁ。どうしてだよ？」
「うん、わたしね、どうしても弘くんにお礼がしたいの。だから、クッキー焼いて遊びに行くよ。いい？」
「そ、そりゃあ、いいさ。うん、いや、いいに決まってるよ。クッキーかぁ、お前に焼けるのか？」
「ああ、馬鹿にしてる。よおし、弘くんの顎があまりの美味しさで落ちちゃうようなクッキー焼いてくるからね」
「がっはっは、楽しみにしてるよ」
　豪快な笑い声の中、二人はオレンジ色に染まった田畑の道を真っ直ぐに進んでいった。

　土曜の夜、ひとり悶々として眠れない弘明の姿がある。
　明日、詩織がこの部屋へやってくる……いけないと思いつつも、つい淫らな妄想が脳裏に浮かんでしまう。
「う〜ん、眠れねぇ……」
　尽きぬ妄想のなか、無意識のうちに股間を弄りまわす弘明。その手はいつしかトランクスの中へと入り込み、ギンギンにいきり起った肉棒をしっかりと握り締めていた。
（ああぁ、ダメだ、こんなことを考えちゃダメだ……うぅ、詩織）
　以前、詩織を犯しそうになったときに体感した、あの柔らかな肌の感触。
　絶対に忘れることができぬあの匂いと感触は、毎晩弘明に卑猥な行為を誘発させていた。
　心の中で詫びながら、何度も何度も自慰を繰り返す日々……。
　今夜は我慢しようと思った。
　明日、この部屋で会う前にちゃんと恥念を振り払っておかなければ、とてもじゃないが理性を最後まで保てる自信がない。しかし、その手が記憶する魅惑の感触は、あまりにも絶大であった。

　ピンポーン―――

「おーい、ドアの鍵は開いてるから、そのまま上がって来いよー」
　二階のベランダから大声で弘明が叫ぶ。
「あっ、弘くん！　ほら見て！　クッキー、上手に焼けたよ」
「おお、そうかぁ！　とにかく上がってこいよ」
　弘明は、大きな手振りで詩織を呼んだ。白のTシャツにデニムのスカート姿が、なんとも眩い。かぶりを振り、必死で邪念を追い払った。

「あれ、おじさんとおばさん、どっかへ出掛けてるの？」
　クッキーの入った袋をテーブルの上でゴソゴソと開きながら、詩織が艶めいた瞳で聞いてくる。
「ああ、夫婦そろってパチンコ屋へ行ったよ。うちの父ちゃんと母ちゃん、根っからのギャンブラーだからな」
　このとき詩織の顔に僅かな緊張が走ったことを、弘明はまったく気づかなかった。
「へへ、どーれどれ、……おっ、美味そうじゃん。詩織にしては上出来だなぁ。味はどうかなぁ」
「あっ、気をつけてね。ほんとにホッペが落ちちゃうよ」
「ほうほう、それはそれは……パリッ、……ふむふむ……うっ、うめえええ！」
「でしょう？　あははっ」
　クッキーにむしゃぶりつく弘明を笑いながら見ていた詩織だったが、次第にその顔からは笑みが消えていった。
「こりゃあ、マジで美味いよ。すごいなぁ……んっ、詩織？　ど、どうかしたか？」
「……弘くん」
「えっ？」
　いつもと違う詩織の表情に、弘明の赤ら顔にも緊張が走っていく。
「あのね、私、……弘くんのこと大好きよ。でも、でもどうしても弘くんのこと―――」
「わかってるよ」
「えっ」
「だから、詩織が言わんとしてることは俺にもちゃんと分かってる。いいんだよ、それで。俺はなにも期待してないし、なにも望んでない」
「ひ、弘くん……」
　詩織の頬に熱いものが流れた。
　自分も泣きたいのをグッと堪え、弘明はわざと声高らかに笑ってみせている。それが詩織の心をさらに辛くさせた。
「ひ、弘くん、実はね、ちょっとお願いがあるの」
「んっ、何だよ？」
「あの、……あのね、わたしを……その……だ、抱いてほしいの」
「……へっ？　ええっと……えええっ！？　な、な、な、なに？　いま何て言ったんだ？」
　驚愕の発言に、弘明が鼻をヒクつかせながらうろたえる。
「わたし、弘くんには本当に感謝してる。毎日ずっと考えてたの……わたしが弘くんにしてあげられること。いったい私に何ができるんだろうって。恋愛感情を抱いてもみた。でも、……やっぱり恋人関係にはなれそうにない。だから、もし弘くんが望むのなら、せめてその想いだけでも叶えてあげたい」
　弘明は戸惑った。
　どこまでも澄んだ優美な瞳に見つめられ、見えぬ心の内がモヤモヤと淫欲の霧に包まれていく。ゴクリと唾を呑んだ。その音は詩織に聞こえただろうか……。
「じょ、冗談きついよ詩織。はっ、はは、あはは」
「ううん、冗談なんかじゃない。わたし、今日は初めからそのつもりで来たの」
　詩織の大きな黒目がわずかに潤みを増した。
「そ、そんなこと言うと本当になにされっか分かんねえぞ。はは、あはは」
　引き攣り笑いを浮かべる弘明の前で、ゆっくりとTシャツを捲り上げていく詩織。

　ゴクッ―――

「し、詩織……ほ、本気なのか？」
　詩織は、顔を真っ赤にさせて小さくうなずいた。
　昂ぶる互いの鼓動が、部屋の中で騒音と化していく。弘明も詩織も、心臓は破裂しそうなぐらいにドキドキしていた。
「し、詩織……」
「弘くん……いいよ。わたし、何をされても絶対に軽蔑なんかしない。だから、だから弘くんの好きなようにしていいよ」
「あ、ああぁ……」
　破顔した弘明の顔が、吸い寄せられるように詩織の唇へ寄っていく。そして、まもなく対照的な二人の唇が一つに重なった。

　チュ、チュッ、……チュプッ、チュパッ、……

　柔らかな女唇の感触が、弘明の心をトロトロに蕩けさせていく。ふたたび感じる官能の世界は、弘明をひどく泥酔させた。
（あああぁ、詩織……詩織……）
　舌を差し入れようか躊躇っていると、それを察したのか、詩織のほうから舌を挿入させてきた。
　ううぅ、んんっ、……滑らかな詩織の舌が、甘い粘膜を携えながら歯の根や舌の裏にまで這いまわってくる。弘明は堪らず華奢な背中に腕をまわし、ギュウッと力をいれて抱き寄せた。

　二人の濃厚なキスは、およそ一時間は続いている。顔を何度も左右交互に組み替えながら、無心で恋慕相手の口唇を貪る弘明。できることなら何時間でもキスをしていたかった。
　お互いの唾液によって口腔の粘膜が濃密になるなか、詩織がそっと唇を離す。
「ハアハア、し、詩織……」
　詩織は、自身の乾いた唇をペロリと舐めながら、ゆっくりと弘明のシャツをたくし上げた。
　弘明の上半身を裸にすると、ブラ一枚残していた自分の上半身も恥ずかしそうにしながら裸となっていく。けっして自らが好んでやっているわけではない。ここまで積極的な態度を取っているのは、詩織なりに精一杯の気遣いだった。
「し、詩織、手をおろして……おっぱいを、おっぱいをちゃんと見せてくれ」
「う、うん」
　瞳を伏せ、詩織がゆっくりと乳房の上に置かれた手を下ろしていく。
（ああぁ、詩織の……詩織のおっぱい……な、なんて綺麗なんだ……）
　小麦色にやけた肌とは対照的に、ふわっと悩ましく膨らんだ乳房は透き通るような白さで弘明を魅了してきた。
（は、恥ずかしい……）
　弘明の手がいつバストへ伸びてくるのか、詩織は閉じた瞼の裏で緊張を高めた。
「ハアハア、……スカートとパンティも脱いでくれないか」
「えっ、」
　弘明の意外な言葉に、詩織はおもわず眼を見開いた。
　乳房を見入る弘明の顔は、完全に野生のオスと化している。強欲なオスの本能を嫌というほど体験した詩織には、いまの弘明の心境がすぐに理解できた。僅かな不安を抱きつつも素直にデニムスカートを脱ぎ去り、座ったまま腰をあげてグイッとパンティを下げていく。もちろん胸奥ではとてつもない羞恥が湧き上がっていた。

　流麗な脚線美からスルリとパンティが抜かれた。
　荒い息遣いのなか、弘明の眼が一点だけを食い入るように見つめている。
「ひ、弘くん、恥ずかしい……」
　正座を横に崩した姿勢でペタンと腰をおろしている詩織は、下半身をモジモジさせながら何気に股間中央の淫ら毛を両手で隠した。
「だ、だめだよ、隠しちゃ」
「で、でも……」
　言いながら、そっと手をどける詩織……愛らしい瞳はいっそう艶やかに潤み、羞恥でピンク色に染まった瞼が、たまらなく弘明の情欲を掻き立てる。昂ぶりに我慢できなくなった弘明は、あわてて自分も全裸になった。
　でっぷりと突き出た腹の下で、ビンビンに勃起した肉棒が高々と天を仰いでいる。先端からはすでに透明な粘液が溢れ出し、亀頭よりも太い幹まわりには青黒い血管が何本も浮き出していた。
　ハッと息を呑む詩織。すぐに視線をずらし、うつむいた。
　単にグロテスクなものというのではなく、それが長年親しんできた幼なじみのものであるということが、詩織の感情を複雑に混乱させるのである。
「な、なあ、詩織……う、後ろを向いてくれないか」
「えっ、後ろ？」
「あ、あのさ、四つん這いになって、あの、その、尻を、尻をこっちへ突き出してくれ」
「そ、そんなの恥ずかしいよ」
　弘明のとんでもないお願いに、詩織はあわてて首を横に振った。
　田中や磯貝に見せるのとはわけが違う。弘明はこれまで身内同然に育ってきた相手なのだ。そんな弘明の前で自分のもっとも恥ずかしい部分を剥き出しにするなど、詩織は考えただけでも鳥肌がたった。
「た、たのむよ。お、お願いします。どうしても、どうしても見たいんだ」
　必死に頭を下げる弘明。詩織はキュッと下唇を噛んだ。
　あのおぞましい出来事から見事に救ってくれた弘明……あの時の助けがなければ今の自分はない。今頃はもっと酷い屈辱と辱めにあっていただろう。
　しばしの沈黙が続くなか、詩織はおもむろに動いた。
（あああぁ、恥ずかしい……）
　瞼に塞がれた弘明の細目が、ギラギラと淫欲に血走っていく。
「ハアハア、もう少し、……もう少し足を開いて、そして、もっと尻を突き上げてくれ」
「ああぁ、弘くん、本当に恥ずかしいよ」
　スラリと伸びた美しい太もも……その上にある二つの円やかな双丘……それは見た目以上に豊満だった。
　ギラついた眼がゆっくりと中心部分へ向かう……淫らな陰毛に縁取られた厭らしい割れ目……パックリと割れたその隙間から、ほんのわずかだがピンクの内肉が覗いて見える。　割れ目のさらに上の方には、可愛らしい小さな穴がちょこんとついていた。
「ひ、弘くん、もういい？」
「も、もうちょっと、もうちょっとだけ」
　いつしか弘明の細目からはギラつきが失せ、淫欲に濁る黒目がどんよりと歪んでいた。
「ハアハア、詩織……詩織……」
　うわごとのように呟き、シコシコと肉幹を扱きはじめる弘明。
　詩織の性器なんて、一生見ることはないだろうとあきらめていた。
　夢の中でさえも拝めなかった魅惑の花園……弘明は気を失いそうになっていた。

「ひゃっ！」
　詩織のヒップがビクンッと跳ねた。弘明の手が尻丘に触れてきたのだ。
　奇妙な声を発し、弘明が両手でやわやわと尻の丸みを揉みたくる。そうしながら、弛んだ赤ら顔を静かに股間の中心部分へと寄せていき、ニュッと突き出した牛タンのような舌でペロペロと割れ目の内側を舐めていく。
（うっ、くうぅ……あっ、ダメ、そ、そんなところを……えっ、わたし……もしかして、感じてる）
　恥辱のポーズをとらされ、意識が下半身へと集中しているせいだろうか。陰部はもとより臀部一体が敏感になっている。がさつだが、弘明の愛撫のどれもが自分でも信じられないくらいに感じていた。
　生暖かい弘明の舌が、褐色の大陰唇を押し分けながら奥のほうにまで侵入してきた。
　両手でしっかりと尻の肉を揉みながら、繊細な内肉をネトネトに嬲っていく。丸い団子鼻が熱風を吹きつけ、ときおりその先端がツン、ツン、とアナルへ当たり、そのたびにゾクゾクッとするようなムズ痒い痺れが脊髄を走ってくる。歪んだ詩織の唇からは、自然と可愛らしい喘ぎが漏れていた。
「ああぁ、すごい、すごいよ、詩織……」
　秘芯の奥に感じていた厭らしい液体……それがついに膣の入り口にまで溢れ出してしまったのだろうか。弘明の口がチュルチュルと音をたてて何かを吸い込んでいる。淫靡な音が鼓膜を突き抜けると、詩織の羞恥は一気に燃え上がった。

「ハアハア、詩織、も、もう我慢できない！」
　弘明は、自分の理性が切れていく音を聞いた。
　丸太のような腕で詩織を抱きかかえ、早足でベッドへ運ぶ。そして、縮こまった美少女の裸体にガバッと覆いかぶさり、夢中で唇を貪った。
「うっ、ひ、弘くん……んんっ」
　ネチャネチャと美麗な口唇をしゃぶり、片手でたわわな胸の膨らみを揉みあげる。美しい胸の球体は、いっときも元の原形に戻ることはなかった。
　弘明の昂揚は凄まじく、顔以外にも首や肩、それに胸板といった、身体全体が赤く上気していた。
　噴き出している汗の量も不快さえ覚えてしまうほどの異常さで、詩織の身体もすっかりベチョベチョとなっている。だが詩織は、弘明に関していっさい不快を抱かぬよう努めていた。弘明が舌を求めれば素直に差し出し、乳首に触れようとすれば自ら豊乳を突き出してやった。
「ハアハア、詩織、い、入れてもいいのか」
「うっ、んん、……いい、いいよ」
　弘明は、でかい尻をモゾモゾと蠢かしながら詩織の両脚を割った。
「ハアハア、うっ、ううぅ、ここ、ここか？」
「んっ、……ここよ、弘くん」
　入り口が分からぬ弘明に、詩織が優しい手つきでペニスの切っ先を導いてやる。
「詩織、詩織ィィィ！！」
「んぐっ、んあぁ！」
　感情のおもむくまま、力いっぱい腰を突き込んでくる弘明。二人の顎は、同時に上のほうへ仰け反っていった。

エピローグ

　はじめて体感する膣の感触……それはまさに幻想の世界だった。
　男根を包み込む柔らかな肉壁は、弾力の心地よさを強く実感させながらしっとりとした蜜を存分に分泌させている。キュウッと締め付けてはヒクヒクと蠢き、まるで別の生き物がそこに潜んでいるかのようだ。その、肉棒全体を揉みあげてくる淫肉が、性感のツボに容赦ない刺激を与え続けてくる。このとき弘明は、すでに二度の射精を行っていることに気付いていなかった。最初の一突きから、絶頂にも似た激烈な痺れが全神経をグルグルと駆け巡っている。一度目の射精でも、また、二度目の射精を終えた時点でも、強靭となったペニスの強度が衰えることはなかった。その瞬間にはおもわず力が入り、ギリリと奥歯を噛み締めてはいたのだが、それがイク瞬間だったとはまるで気付かなかった。

　愛する女性の膣を身体全体で感じとりながら、弘明が狂ったように己の男根を秘肉の最奥にまで叩き込み続けてくる。次第に尻の奥が痺れだし、生殖器が放出の準備にとりかかる。さすがに三度目となると、その絶頂の予感を感じずにはおれなかった。
「うっ、うっ、あっ、うううぅ……詩織、詩織」
「ハア、ハア、んあっ、あう」
　大きな身体に揺さぶられ、数十分続いている秘肉への激しい摩擦……詩織は白い歯を覗かせながら苦悶の表情で悶えていた。
「んはっ、うあっ、あっ、んんっ」
　ピリピリとした痛みを伴いながら、肉体の隅にまで広がっていく淫猥な愉悦。
　磯貝のときにはなかった感覚が、秘芯を軸にムラムラと噴きあがってくる。その未知の悦楽が、詩織の意識までも舐め尽していく。詩織は堪えきれずに声をあげた。
「んあぁ、あん、あっ、あう」
「ハア、ハア、で、出そうだ」
「だ、出して、……あっ、……いい、いいよ、弘くん」
　詩織の悩ましい歓喜を耳にしながら、弘明が猛獣のような呻きを漏らしはじめる。
「うっ、うぐおおおぉぉ―――」
　でかい尻をブルブルと痙攣させる弘明。
「ああぁぁ……んん、んあああああぁ……」
　巨体によるバイブと秘芯に吐き出されてくる汚濁の熱湯が、詩織を無限の快楽へと誘った。
　それは、詩織がはじめて体験するオルガスムスであった。

　汗みどろの巨体を、静かに横たえていく弘明。
　萎えた肉棒がヌルリと抜け、うっすらと開いている膣穴からは、大量に放出された汚濁汁がトロトロと流れ出てきた。
　額に汗を浮かべ、ぐったりとした様子で瞳を伏せる詩織……その昂揚した横顔は、とても同い年とは思えぬくらいに妖艶だった。
「あっ、弘くん……」
　閉じていた瞳をゆっくりと開き、顔だけを動かして弘明を見る。弘明は、隣で仰向けになっている詩織の乳房に触れていた。
「し、詩織、またいいか？」
「うん……弘くんの気がすむまでやって」
　弘明は、やわやわと揉んでいた乳椀をギュッと握り締めた。そして、外側から大きく搾るように揉みあげ、先端で淡い薄紅に色づく乳首へも愛撫をくわえていった。
　眉間に皺を寄せ、細い顎をいっぱいに突き出す詩織。
　大き目の唇が、切ない吐息を小さく漏らした。
　右手をゆっくりと下へ伸ばし、すっかり膨れ上がっている弘明のものをそっと握ってやる。
　弘明も甘美の声をあげた。
　握ったペニスから、凄まじい情欲の念がひしひしと伝わってくる。詩織は、それを柔らかく扱いてやった。
「詩織、あ、あの……あのさ、……そ、その……」
　弘明が何を求めているのか、詩織にはハッキリと理解できた。
　おもむろに上体を起こし、何も言わず黙って手にした肉棒のほうへ顔を寄せていく。
「し、詩織……うっ、」
　ふくよかな唇が小さく開き、それがペニスの先端に悩ましく触れた。
「お、おおおおおぉぉ……」
　先端を咥えた唇が大きく開きながら、愛液でネトネトになった太い肉柱を少しずつ呑み込んでいく。むかつくような異臭も、不快な汚れも、いまの詩織には耐えられないことではなかった。フェラチオというものをどのようにやればいいのか、いまだよく分かっていないのだが、それでも自分なりに舌を使い、歯をたてぬよう唇を駆使し、一生懸命に奉仕していく。そんなぎこちない口唇奉仕にも、詩織が自身の汚れたペニスを口に含んでるという思いだけで、弘明はすぐに四度目の射精へと導かれていった。

　この後も、性力の衰えを見せない弘明は執拗に詩織を求めた。
　シックスナインの体形で互いの性器を舐めあったり、あるいは詩織の裸体をひっくり返して肉付きのよいヒップを責め立てたりと、思いたつ行為はすべて実行した。
　弘明の尽きぬ性欲になんとか耐えていた詩織も、ついには悶絶してしまうのだが、それでもなお離れようとしない弘明。ぐったりとした詩織をうつ伏せにし、腰を持ち上げながら強引に赤黒いペニスを尻へ叩き込む。だが、射精が二桁になったとき、ついに弘明の男根にも限界がやってきた。またそれは、弘明の恋に終止符が打たれたということでもあった。

　この日以来、詩織と弘明がセックスすることは二度となかった。
　二人の関係が壊れたというわけではない。
　弘明があの時の快楽を忘れられず、再び詩織の肉体を求めたなら、あるいはそこで二人の関係は終わっていたかもしれない。しかし、弘明の頑強な理性がそれをさせなかった。
　弘明は、誰よりも詩織の心の内を理解している。幼なじみとして割り切った関係を続けることが、詩織にとっても、また、自分にとっても最良なのだ。二人は、それぞれの想いをそっと胸奥にしまい込み、これからの新たな人生へとしっかり前に歩んでいった。

完