第１章



　男が、腕時計に目をやると、既に夜の９時を回っていた。今朝、ロンドン出張から帰ったばかりという事で、溜まった仕事を優先順位の高いものからこなして、ようやくひと段落したところだ。今日は、８時に待ち合わせがあったのだが、いつの間にかこんな時間になっていた。

（行くか・・）

　洋平は帰り支度を始め、パソコンの電源を落とした。

　その時、コン、コンと部屋を叩く音がして、失礼しますと女性の声が聞こえ彼のオフィスのドアが開いた。

「社長。宜しければ、お先に失礼しますが。」

　秘書が帰り際に、挨拶をしにきたのだ。

「あぁ、お疲れ様。悪かったね、残業して貰って。ありがとう。」と笑顔を向ける。

「いえ、社長こそフライトでお疲れでしょう・・・今日は早めに帰ってゆっくりと休んでくださいね。もうそんなに若くないんですよ。」

　小さく笑って軽口を飛ばす秘書の口調からは、社員３０人の小さな会社ではあるが、自ら興したマーケティング会社の経営者としての洋平への、尊敬と親愛の情が伺える。軽く会釈して、退社してする彼女の後姿を見て（若くないとは言ってくれるじゃないか・・・とは言え、不惑の４０歳まであと２年・・確かにそう若くは無いか・・）と苦笑しながら、彼女が部屋に微かに残して行った爽やかな香水の甘い匂いを感じ取ると、頭の中が仕事モードからやっと切り替わり、２週間の出張中に精を放っていない下半身の疼きを思い出した。

＊

　洋平は会社の入るオフィスビルを出て、大通りでタクシーを捕まえると、行き先を告げ待ち合わせの店に向かった。

　六本木ヒルズの眼下にあるフレンチビストロ「DEUX・SOEURS（デュ・スール」）。ここは雑誌などでも頻繁に取り上げられる人気店で、家庭的なフレンチ創作料理、ワインの品揃えが自慢の店だ。ビストロという割には、一皿一皿の料理のポーションが小さいため色々な料理を楽しめる一方で値段も手頃で、周辺の高層タワー群に勤める外資系企業やIT関係の仕事帰りのサラリーマンやＯＬ達でいつも賑わっていた。

　今日は、月末と金曜日が重なった日であるため、男女のカップル、スーツを来た男性数人のグループ、女性同士のグループなど様々な人たちで、店内はほぼ満席状態だった。美味しい料理にお酒、手際よくホールの仕事をこなし客の要望に応えるスタッフ、飾り過ぎない店内の装飾。外からでも、店内の客が明るい笑顔でおしゃべりと料理を楽しむ様子が覗える。

「DEUX・SOEURS」の一角には、洋平を待つ２人の女性がすでに、食事やお酒を楽しんでおり、洋平が店のドアを開けて入って来るのを見ると、２人は笑顔で小さく手を振った。

　馴染みの店員と目で挨拶を交わし、洋平がテーブルに近づくと労るような笑顔で片方の女が声を掛ける。

「お疲れ様」

　頬を膨らませ怒ったふりをして、もう一人が笑いかけた。

「遅いよぉ！！！もぉ」

＊

　２人は姉妹で、最初に洋平を労う声をかけたのが、彼と５年以上交際している姉の理恵子。華奢で１６０ｃｍにも満たない姉の理恵子は、肩まで伸びた髪を、うっすらとブラウンにカラーリングしている。膝元が若干マーメードシルエットになったフェニミンな短めの白いタイトミニスカートに、鮮やかなブルーの身体にフィットした七分袖のニットセーターに身を包んでいる。

　大学を卒業後、外資系の有名投資銀行にセールスアシスタントとして勤めて１０年。明晰な頭脳、間違いのない仕事っぷりと優しい性格から、世知辛い外資系金融機関では珍しく、男女、上司部下、人種を問わず誰からも好かれていた。外資系の金融機関ゆえに１０００万近いサラリーを貰ってはいたが、アシスタントという職分から、バリバリと仕事をこなすという感じでは無かった。理恵子自身、仕事は単なる仕事と割り切っていたし、そこで自分の能力を見せつけたいというような性分でも無かったが、社内での評価は高かった。

　理恵子としては普通に仕事をして自然に周囲の人達と接しているだけで、周りが勝手に自分を過大評価しているような気がする事もあった。勿論、その整った美しい顔立ち、華奢ではあるが色香が漂う容姿は、仕事する上でも邪魔になる事はなく、自分に好かれるために、仕事でやり取りする男達が何かと理恵子に融通を利かせ、下心で自分の歓心を引こうとする事も多々ある事は承知していた。そんな時も理恵子は、抜群のバランス感覚で接し、男達に過度に期待をさせない様に対峙し、仕事も上手くこなしつつ周囲の人達との距離を程よく保っていた。

　社内の男達の中に、我こそはと食事やデートなどに誘ってみるものも数多くいたが、誰一人として成功した者はいなかった。誰もが一度は寝てみたいと思わせるような良い女だけに、億単位のサラリーを貰う外資系金融機関の高慢な男達にしてみれば、自分達を袖にしてどんな男と付き合っているのかは好奇の的であった。

＊

　一方、３歳年下の妹の冴子は、同じく外資系の不動産投資会社に勤めるキャリアウーマンだ。目鼻立ちは姉にそっくりで涼しげな美人だが、姉の理恵子より１０ｃｍほど背が高く、若干グラマラスな印象がする。長い手足と漆黒の長い髪が印象的で、タイトな黒の膝丈上のスカートに、揃いの黒のショート丈のジャケットを身に着けていた。業界柄、男ばかりの仕事場なため、日頃から比較的地味な色目のスーツを着る事が多い冴子だが、身に着けるものの一つ一つは高価で素材の良いものばかりだった。

　当初勤めていた大手商社を退社し、海外留学しＭＢＡを取得したのちに現在の会社に転職した冴子は、プライドが殊のほか強いうえに、上昇志向も強く、また、人を人とも思わないような不遜な部分があった。そういった勝気な性格が良い方向に幸いし、姉と同様に頭の回転も速く目端の利く彼女は、周囲のエリート達の倍以上の仕事の成果を上げており、仕事の評価は高く、それに相応しくボーナスを含めれば年収２０００万に達することもあった。

　会社では、心の中で男達を（馬鹿ばっかり）と思っているため、言葉の端々や目線などから、冴子の心の中を敏感に感じ取り、嫉妬も手伝って（お高く止まりやがって・・・）と、周囲の男達は陰口を叩いていた。彼らの陰口は知っていたが、仕事もできない奴等の負け犬の遠吠えと気にも留めなかった。まさに、“毀誉褒貶相半ばする“といった女である。

　いくら美人とは言え、そんな性格の冴子に声をかける職場の男はいなく、それゆえ、MBA取得のための留学時代に付き合っていたアメリカ人と自然消滅して以来３年近く男性との交際はなく、デートらしいデートもしていなかった。たまに女友達などと飲みに行くと（ろくな男がいやしない）というのが、彼女の口癖だった。すこぶるつきの美人ではあるものの勝気で高慢な印象のある冴子だが、一方で心の奥底には、（いつか、わたしに相応しい男性がきっと現れる・・・）という、初心な少女が持つような‘白馬に乗った王子様願望’ともいえる思いを秘めていた。

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　妹の冴子が今の会社に転職して１年ほど経過したとき、彼女が会社と自宅マンションの行き来だけで過ごしているらしい様子を見かねて、姉の理恵子はある日、初めて３人での食事に冴子を誘った。気の置けない姉とその交際相手との食事が余程楽しかったらしく、冴子はその日以来金曜日になると接待などの特段の用事があるとき時以外は、毎週のようにメールか電話を寄越して一緒に金曜日の夜を過ごしたがった。

　理恵子は、金曜日のたびに妹が一緒である事に、洋平が嫌な顔するのではと当初不安になる事もあったが、洋平が何も言わず妹に優しく接してくれているのが何より嬉しかった。むしろ、自分自身が、（今週は二人だけで会って、たくさん愛して欲しいのに・・・）と感じることがあるくらいだった。
　とは言え、最後に二人きりになると、洋平の逞しい肉体に、熟れた美しい身体を蹂躪してもらってはいたので、姉としても女としても満たされた気持ちになれるのだった。

　会社では、‘高嶺の花’で男の影を感じさせない理恵子だが、５年程前から、洋平と付き合っており、今では身も心も完全に支配されていた。「支配」というより肉体と精神を完全に「調教」されており、彼に心酔しきっていた。過去の誰とも比較できないほどの最上のオーガズムを与えてくれる強烈な牡としての強さから離れられないのであった。

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　冴子にとって洋平は、姉の彼氏であり、姉と同様もしくはそれ以上に優しく接してくれる気の置けない優しい兄のようだった。会社などの周囲の男達の事は、頭から馬鹿にしている冴子だが、いつもは優しく微笑むばかりだが、時折洋平が見せる逞しく、又、ある種冷たくも荒々しい男臭さに、憧れにも似た親愛の気持ちを持っている事を心の奥底に感じてはいた。とはいえ姉の交際相手である。生来の見栄っ張りで勝気な性格と、姉への小さな嫉妬心や対抗心から、そんな秘めた思いがある素振りはおくびにも出す事なく、洋平を‘年上の優しく楽しいお兄さん’として親しんでいた。

＊

　洋平は、ジャケットをホールスタッフに預けると、空いている理恵子の隣の席に座り、彼女の下半身に目をやった。白い短めのスカート、その下はストッキングを履いていない事を冷たい目で確認して、一人ほくそ笑んだ。

　洋平の目線の行き先にすぐに気づいた理恵子は、秘部が熱くなるのを感じていた。というのは、今日会う前に、彼からストッキング、ショーツを履かないで来いとメールで命令されていたのだった。座っていても、彼が来ただけで、花芯が疼いてしまい、白いスカートに染みをつけないか気が気では無かった。

‘男からのいやらしい命令に公衆の面前で服従している‘と考えるだけで、淫靡な気持ちになり自然と洋平の股間に目が行ってしまう。

（今、ショーツもつけずに、あそこを晒している・・・恥かしい・・。今日の夜は、あの大きなアレを入れて貰って、かき回して欲しい・・・）などと心に中で呟いてみると更に、あそこから女の喜びを表す蜜が滲み出て出てきてしまうのが感じられた。

　妹に気づかれてはならないと、自然に振舞い、食事や会話を楽しもうとするが、時折、洋平が見せる冷たくいやらしい視線を感じるたびに、止め処なく蜜を溢れさせた。