第３章
| ３ 「はじめまして。本社から来ました新井と申します。」 福岡の事務所は、まだ準備段階とあって社員は五名程度しかいない。 支社長は確かに美人で、切れ長の大きな瞳でまさに博多美人という感じだ。 通常ならもっと年上の男性社員もいるのに、三十二歳という若さで支社長に抜擢されたのには、よほどのヤリ手だと思ったが、話してみると気さくで笑顔が魅力的な感じだった。 「支社長さんって、キレイな方ですね。」 隣の席になった僕と同年代くらいの社員に話し掛けると 「自分にも厳しいけど、社員にも厳しいよ！あの笑顔の奥には男性以上のパワーがあって、まぁ・・あの人を操れる男が居ないから独身なのかもね！」 そう言ってタバコに火をつけた。 仕事は思った以上に忙しかったが、千雪とは毎日メールのやりとりはしていた。 「あら、何をそんなにニコニコしながらメールしてるのかしら？」 昼休みにコンビニの弁当を食べながらメールをしていると、支社長が話し掛けて来た。 「もしかして彼女？」 「ええ・・・まあ、そんなとこです。」 「いいわね〜」 最初のうちは僕がメールするのを黙認していたが、一週間もしないうちに 「新井君！メールもいいけど、ちゃんと仕事もしましょうね！」 そう言って僕の机の上にドッサリと書類の山を置くようになった。 明日は休み・・・ 普通なら千雪と待ち合わせて食事をしたりするのに、会社で用意してくれた寮で一人過ごす寂しさは本当に空しい感じがする。 結局はやる事が無いので、一人で会社に行って残った仕事をしたり、来週の準備などをして過ごす事が多く、博多の街を堪能する気力さえ無くしていた。 千雪の事を思いながら、エロ雑誌を買い込んで一人でしてみるが、どこにもあの温かい感触は無く、ただ夢精になりたくないがためにオナニーを繰り返すだけだった。 「もしもし、千雪？」 「ああ・・シンちゃん！」 千雪に会いたい！って言いたいのだが、電話の向こうで元気な声を聞くと、ついついたわいの無い話をして終わってしまう。 結局、一ヶ月過ぎた頃にはホームシックのようになって、ポカンとする時間が多くなった。 そんな時、仕事が終わって会社から出ると、いきなり後ろから両手で目をふさがれた。 「だ〜〜れだ？」 どこかで聞いたような声だった。 「えぇ〜？わかんないの？」 僕は千雪だとピンと来たが、わざと知らない振りをしてバックレていた。 「世界でたった一人、チョ〜美人で、チョ〜かわいくて、チョ〜貴方が会いたい人なんですが・・」 「・・・わかんない・・・」 「んもぉ〜英語で言うとサウザントスノー」 何を言ってるんだコイツ！ 僕はおかしくてクスクス笑い出すと 「あ！わかってたんでしょ〜、意地悪なんだから〜。」 そう言って後ろから僕の右肩に抱きついてきた。 「どうしたんだよ〜〜〜」 「ヘヘ・・休みもらっちゃった。」 僕は嬉しかった。なんだかこの笑顔を見た瞬間、元気が戻ったように思えた。 「ねえねえ・・会いたかった？」 「千雪は？」 「うん。会いたかった・・・」 素直に返事する千雪の笑顔があった。 「じゃあ、キスして！」 僕が笑って言うと 「え〜こんなとこじゃ出来ないよぉ。」 「じゃあ、俺のこと好きじゃないんだね！」 「あ！それ私のセリフじゃん！」 恥ずかしそうに千雪は僕の首に抱きついて、僕達は街行く人の中でキスをした。 ・・・これで人前でしたの二回目・・・ 「ねえねえ、博多ラーメン食べたいよぉ！」 「よし！食いに行くか？」 離れて感じた事だけど、僕にとって千雪の存在って大きい事に気がついた。 セックスがしたいという以上に、一緒に居ると心が和むように思えた。 「ねえシンちゃん・・久しぶりだね。」 「確かになぁ・・・」 二人で布団の中にもぐりこんで話し始めた。 「あのね、本当はメチャメチャ会いたかったんだ。でもね、そう言うとシンちゃんに迷惑になるでしょ・・だから我慢してたんだ！」 「そっか。」 「あのね・・離れてみて気が付いたんだけど、私・・シンちゃん居ないとダメみたい。」 そう言って千雪は僕にしがみついて来た。 「へへ・・実は俺も同じ事考えてた。」 「どんな事？」 「千雪が居ないと、なんだか物足りない！ってね。」 「嬉しい！」 「最近ちょっと千雪が恋しくて、週末にでも東京に帰ろうかなって考えたんだよ。」 「じゃ、来なきゃよかった・・・」 「なんで？」 「だって交通費もったいなかったもん。」 「こら！俺より交通費の方が大事か？」 僕は千雪のおでこを指でチョコンと叩くと、長い長いキスをして抱き合った つづく |
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