６
僕は千雪という彼女がいるのに、だんだんと真由美に惹かれて行く。
千雪とは毎日メールや電話をしているが、少しずつだが、気持ちが離れて行くのが自分でもわかった。
真由美との関係はどんどん深くなって、仕事中でもしたくなると、屋上の非常階段に呼び出し、僕は真由美を何度も抱いた。
まわりのビルからは、覗く気になれば僕達の姿は見える。
その階段の手擦りに真由美は背中をあずけ、僕達は舌をからませてキスをする。
ねっとりとした真由美の唾液が、僕の口の中に入って、僕はいつもそれを飲み込む。
真由美のブラウスのボタンをはずし、スカートをまくりあげ、パンティーを片足だけ脱がせて、僕は真由美の片足を持ち上げると何度も真由美を突いた。
「あぁ・・・・あぁ・・・ん」
時にはパンティーを履いたままパンストを破って後ろを向かせ、パンティーの脇から僕の固くなったものを挿入した事もあった。
おそらく街のざわめきが無かったら、真由美の声はまわりに響き渡ってしまうほど大きかった。
「新井君、わたし・・おかしくなりそうよ」ハアハアと息をしながら、僕の唇を何度も求めてくる。
「あぁ・・・ん、あぁ・・・」
ドロッとした手触りの真由美の愛液が僕の指いっぱいにつく、オフィスに戻ってから真由美の何食わぬ姿を見ながら、僕はそっとその指の匂いをかぐのが好きだった。
「新井君！ちょっと・・・」
支社長の真由美が僕を会議室に呼んだ。
「はい。なにか・・？」
「実は・・・わたし・・・」
「どうしたの？」
「できちゃったみたいなの・・・」
「エッ？」
全身の血がひいたような寒気を感じた。
「私がいけなかったのよ・・・」
「・・・いえ！そんな・・」
「初めて私の部屋でしたのが、危ない日だったみたい・・・」
確かにあの日以降はずっと外に出している。
「大丈夫。おろすから・・・」
しばらく沈黙が続いた。
「もしもし、千雪・・」
僕は意を決して千雪に電話した。
嬉しそうな千雪の声を聞くと、話を切り出せなかった。
「あのぉ・・千雪。俺とはもうおしまいにしてくれ！ゴメン・・・」
「何言ってんの？どうしたの？」
僕は黙って電話を切ってしまった。
事情を説明したところで結論は一緒だったし、ただの言い訳にしかならないと思った。 それから何度も千雪からの電話が鳴ったが、最後は携帯の電源を切って出なかった。
「俺、彼女と別れました。」
「エッ？」
「子供が出来た責任、僕で良かったらとらせてください。」
「新井君・・・・」
仕事帰りに真由美のマンションを訪ね、ドア越しに僕はそう言った。
「とにかく中に入って！」
ソファに座ると、真由美がコーヒーをいれてくれた。
コーヒーの良い香りが、真由美の匂いのする部屋の中に漂って落ち着かせてくれる。
「彼女は？」
「昨日、別れました。」
「・・・・・」
真由美がコーヒーを僕の前に置くと、僕の横に腰掛けた。
「やっぱり俺じゃダメかな？」
「ううん・・・すごく嬉しいわ。」
そう言うと、真由美はしばらく窓から見える街灯りをみつめていた。
「ごめんなさい・・・私、嘘ついてた。」
突然、堰を切ったように真由美が口を開いた。
「嘘？」
「妊娠なんて真っ赤な嘘。貴方をイジめてみたかったの・・」
「どういうこと？」
「私、貴方が彼女と仲良くしてるの見てたら、年甲斐も無く嫉妬しちゃったのよ・・貴方は優しいし、ほんのちょっとだけ貴方を私のものにしたかっただけ。」
「・・じゃ、遊びだったんですか？」
真由美はフフッと笑って見せた。
そしてその笑い顔から、涙が一滴流れるのを僕は見逃さなかった。
しばらく沈黙が続き
「それがね、何度か貴方に抱かれてる間に、自分が本気になって行くのがわかったの。」「真由美・・・」
「今日ね、貴方の彼女から会社に電話があったの・・・貴方の事、すごく心配してた。」「・・・・」
「本当にごめんなさい。私は年上だし、あんなに心配してくれる彼女から、貴方を奪えないわ。」
真由美はそう言うと、僕の肩にもたれて泣き崩れてしまった。
僕は黙ってただ真由美を両手で抱いていた。
「彼女のとこに戻りなさい・・」
「・・・・」
「私は貴方に抱いてもらっただけで十分。」
「俺も真由美から妊娠したって聞かされた時、正直どうしていいのかわからなかったんだ。でも、責任とかじゃなくて、真由美と一緒になってもイイって思った。」
「ありがとう。私ね、会社近くで貴方と彼女が抱き合ってる姿見ちゃったの・・・そしたらなんだか胸がキュ〜って熱くなっちゃって・・嫉妬ね。」
「真由美・・・」
驚いた事は事実だが、僕はなぜか真由美を怒れなかった。
「彼女・・・大切にしてあげて！」
真由美は涙を拭きながら、僕を見て笑った。
「最後に私を力いっぱい抱いて・・・」
僕は朝まで真由美を抱いた。
「こら〜〜！そこの浮気者！」
長い出張が終わり、羽田に到着した僕の背後から、どこかで聞いたような声がした。
ふと振り返ると、そこには千雪が立っていた。
「千雪・・・・」
しばらくお互い顔を見合わせて、そしてすぐに僕は千雪のところに走り抱きしめた。
「シンちゃん・・・」
「ごめん！もう会えないかと思った。」
「・・・もう会えないかもよ？」
千雪は抱かれながらそう言うと笑った。
「なによ！あの電話・・いきなりじゃん！」
「・・・ごめん・・・」
「一番大切な人は誰？」
「千雪に決まってるだろ！」
僕はなぜか涙が流れている自分に気が付いた。
「あ！シンちゃん・・泣いてるぅ〜」
「千雪だって・・・」
「私は泣いてないよぉ！玉葱が目に染みただけさ・・・」
「バカ！玉葱なんてどこにあるんだよぉ〜」
「ね！キスして！」
異様な雰囲気の僕達を、通り過ぎる人達が横目で見て行く。
「ここで・・・？」
「私を悲しませた罰！ここでしないと嫌いになっちゃうかも・・・」
僕は千雪を抱きしめて人目もはばからずにキスをした。
真由美と出会って大人の恋をしたように思う。真由美の体以上に彼女の気持ちがスキだった。
こうして改めて千雪を抱きしめると、真由美とは違った感動がある。
好きになる理由なんてどこにもない！
体の関係だけでは得られない、もっと奥深いものがお互いの心を動かすんだと思う。
一緒に居たいと思う以上に、そばに居ないとダメだと思う気持ち。
千雪には僕が必要だし、僕も千雪が必要。
この出張で教わった唯一の収穫だった。
「会社に電話したら、シンちゃん仕事でイライラしてるって支社長さんが言ってた。」
「・・そっか」
「仕事でイライラして、私にあんな電話してくるなんておかしいじゃん・・」
「・・・確かに」
「まさか、他に好きな人でも出来たとか？」
「ありえない！」
「支社長さん、すごく良い人ね！シンちゃんの帰る飛行機を電話で教えてくれたんだよ。」
「そうか・・・・」
「もう浮気しないように、一緒に住んで監視する事にしたからね！」
千雪はそう言うと、嬉しそうに僕の腕にからんで来た。
相変わらずわがままだったけど、僕には千雪が一番大切だと感じていた。
・・・ありがとう真由美・・・
おわり |
