１．ジェラシー

　ちょっと熱めのシャワーを浴びながら弥生は、体の火照りを感じていた。妹の仁美のせいだ。さっきまでいっしょだった仁美の話があまりにショッキングで・・・。
「もう・・・」
　弥生は、そうつぶやいて、大きくため息をついた。
　金曜の夕方、手早くメークを直し、弥生は、ひさしぶりに妹の仁美に会うために急いで会社を後にした。
　早瀬弥生、２８歳、外資系の証券会社に勤めている。弥生は、４年前に同じ会社の営業部の稔と結婚し、２年前妹の仁美も結婚したが、わずか１年で離婚、仁美は旧姓の吉川に戻っている。弥生と仁美は姉妹でありながら、ほとんど似ていない。性格も正反対といっていいほど違う。丸顔で、ぽっちゃり系、おとなしく優柔不断な弥生に対して、２歳違いの妹の仁美は、細おもてで外交的で活発、即断即決というタイプだった。

「仁美、少しやせてない？ダイエットしてんの？」
「えへっ、わかる？ダイエットはしてないけど、まぁ、なんというか、生活にはりができたというか・・・」
「それって、いい人ができたっていうこと？」
「まぁね。この前言ったサイトで、何人か物色したんだけど・・・ひとり、よさそうなのがいて、会ったのよ、昨日」
「ひさしぶりに電話よこしたと思ったら、そういう話か、ふーん？で・・・？」
「すんごい背が高くて、かっこいいのよ。で、その上、けっこう優しくておもしろい人で、これならいいかなって、ホテルいったの」
「即、ホテル？」
「まぁ、誠実そうな感じだったし・・・って言うか、ちょっと飲んじゃって・・・」
「またぁ・・・・？」
　仁美は、お酒に弱く、ちょっと飲んだだけですぐに酔ってしまう。しかも、酔うとハイになって、今までもそれでけっこうひどい目にあってきているのだが、懲りないらしい。
「でも、ほんの少しよ。正気だったもの。」
「正気でホテルに行っちゃったってこと？」
「でもね、本当にいい男だったの、なんて言うか“当たった”って感じ。サイトにいる男って、やりたいだけって感じでしょ。でも、ぜんぜん違ってて。」
「それって、逆に遊び人ってことじゃないの」
「うん、たぶん。そーとー遊んでるね」
「やだ、仁美、そんなんでいいの」
「だって、別に結婚するわけじゃなし、いい気持ちになれればそれでいいんだから」
「そりゃ、そーだけど・・・、で？」
「・・・いっちゃった。３回・・・４回かな、よくわかんないけど・・・そのくらい」
「えっ、・・・・」
　弥生は少なからず驚いた、弥生も仁美もセックスが嫌いではないが、同じような不満を持っていた。今まで、セックスで”いった”ことがないのだ。仁美は、それが原因で離婚したようなものだ。「Ｈしている最中に本さえ読めるよ」と言ってたくらいだ。その彼女の口から、「いった」と聞かされるとは思ってもいなかった。
　弥生も、結婚して４年になるが、夫と関係があったのは最初の２年だけで、それも満足なものではなかった。夫、稔は弥生より４歳年上で同じ会社に勤めているが、営業部門にいて弥生とは勤務場所が違っていた。結婚前から、どうもしっくりこなかったのだが、会社での精力的なイメージとかけはなれてセックスは淡白で、それでも結婚当初は週に２回か３回は求めてきたのだが、半年後には週に１回になった。それも単調でさっさと済ますといった感じのもので、次第に弥生は稔の要求を拒否するようになって、いつのまにか関係がなくなってしまった。夫が嫌いというわけではないが、抱かれる気にはならないのだ。
　同じ会社に勤めてるため、妹のようにそう簡単に離婚というわけにもいかない。弥生は、次第に、欲求を自分で満たすようになっていた。オナニー自体はもともと嫌いではなかった、というか、好きだった。それが「いけない」原因のひとつだったのかもしれないと思うこともある。休みの日など１日に何回もすることがある。でも、時々、誰か男の人にいかせてもらいたいと思うこともあり、最近はその気持ちが強くなったかもしれない。そんな、弥生の驚きを知ってか知らずか、仁美は、そのときのようすを事細かに話し出した。
「お風呂に一緒に入ったのね、エアーマット置いてあったんだけど、うつ伏せに寝かされて、洗ってくれるのよ体で・・・」
「それって、逆じゃないの」
「そう、逆。男の人がああいうとこ行きたがる気持ち、わかるなぁ。気持ちいいのよ、マッサージもしてくれて・・・。その手が、また、いやらしいの」
「何、それ・・・」
「おっぱいとか、お尻とか、あそこもね、ゆっくりひだにそって指を上下させるの、クリちゃんにもあたるんだけど、少しいじるだけで　他に行っちゃうの、・・・もっとーって思うんだけど・・・・そうすると戻ってくるのよ、ちゃっかり、そのタイミングが絶妙なの」
「仁美、声大きいよ」
　まわりには聞こえると具合の悪い内容でもあり、普段と同じくらいの大きさの声だったが、弥生は注意した。正直なところ、楽しそうな仁美の話し方がちょっと、気に障っていた。仁美は、ちょっと、驚いたようだったが、今度は小声で
「もう、いれてーって思うころにしっかり入ってきて・・・、初めて、あんな感じ。でも、もっとーって時に抜かれちゃって、　そしたら、今度はお尻に指入れてきたの・・・」
「お尻？」
「最初は、痛かったんだけど・・・なんか、だんだん変な気持ちになっちゃって・・・。お尻もけっこう、ありかなって思ったら、お尻に入れるよって、けっこうすんなり入っちゃった」
「お尻に？・・・痛くなかった？」
「うん、痛かったよ、でも、指とおんなじで、入るときは痛かったんだけど、しばらくじっとしててくれて、そしたら痛みがなくなったの」
「ふーん、で、感じた？」
「変な気持ち、すっごくいいってわけじゃないんだけど・・・なんかじわじわくるのよ、ちょっと、病み付きになりそー」
「やだ、へんたーい、で、お尻でいっちゃったの？３回も４回も・・・」
「な、わけないでしょ。それは、その後、ベッドの上で・・・そこでもね、」
「もういいわよ、わかったから。・・・ふーん、よかったね、ねぇ、その人紹介してよ」
「やだ、なーに言ってんの」
「結婚するわけじゃなし・・・って自分で言ってたじゃない」
「だーめ、せっかく見つけたんだから・・・」
　冗談めかして、話しを打ち切った。他人の”いった”話なんて聞きたくない。相手が仁美だとなおさら・・・だったのかもしれない。

（どんな男なんだろ、仁美の相手って・・・）
　そんな事を考えていると、股間がジュンと潤ってくるのが感じられた。
（あ･･････いやだ･･････）
　自然と手が動いた。つんとたった乳首を左手の人差し指と中指ではさみ、くるくるとこねる右手は自然と股間に伸びた。最初は中指で丸く円を描くようにクリトリスをやさしく刺激し、だんだん強くこね回すように、押し付けるようにしていく。これが、いつもやりなれた、弥生のオナニーのパターンだ。
　いつもなら、これで満足する弥生だったが、今日は違った。体の奥のほうから、もっともっとと突き上げてくるような欲求があった。弥生は、クリトリスを強く押し付けるのをやめ、人差し指と中指を広げ、ひだの外側を上下させてみた。刺激が足りなかった。あまりのものたりなさに弥生は２本の指をできるだけ奥深くへと差し込んだ。そしてゆっくりかき回し、ゆっくりひいた。２回、３回、だんだんそれが早くなった。息が荒くなった。が、弥生はまた手を止めた。
（お尻、って・・・・）
　弥生は念入りにお尻を洗い、指とアヌスに石鹸をつけて、中指１本だけを恐る恐る挿入してみた。
　痛い、けど思ったほどでもない。不思議な感覚。いままでの”感じる”というのとはぜんぜん違うものだった。それが快感なのかどうか、弥生にはよくわからなかった。
「ムッ･･････あぁ･･････」
（私、お尻に指を入れてる）
　自分が今、排泄器官に指を入れていやらしいことをしていると思うと、その背徳的な感情に興奮がいっきに高まった。左手の中指を何度も何度もアヌスに押し入れ、右手でクリトリスをこね回した。
（あぁ、もう我慢できない！）
　右手の中指に溢れ出た恥ずかしい滴を掬い取り、その指を少し前へ持っていき、クリトリスにまぶすように塗りつける。
「あぁ！･･････ウゥッ！」
　お風呂から上がり、寝室に入っても興奮は収まりそうになかった。夫は、隣の部屋で寝ている。指は自然にまた股間へと伸びていた。
（今日は、本当にどうかしている）
　また、アヌスに指を入れたいと思った。
「病み付きになったらどうしよう」
　ふと、そんなことを思ったが、そのまま、いつのまにか深い眠りに落ちていった。