２．デパートで

　次の朝、弥生は少し風邪気味だと感じた。
（昨日、やりすぎだったな、そのまんま裸で寝ちゃってたし・・・）
　少し後悔したが、それほどひどいわけでもない。とりあえず、出かけるのをやめ今日は一日家にいることにして、薬も飲んだ。そのせいか眠くなり、結局夕方まで眠ってしまった。夫は、昨日から出張している。週末の出張なんてあるのかないのか、最近はそんなことも考えなくなっていた。ひとり、食事を済ませ、パソコンに向かった。いつもよりだいぶん時間が早いが、いつものメールチェックだ。学生時代の友人とか、ときどきメールを送ってくることがある。まぁ、たいていはろくでもないＤＭばかりなのだが・・・
「出会い系・・・か」
　仁美に刺激されて、以前に利用したことがある出会い系のサイトをのぞいてみた。弥生も出会い系サイトで男を捜したことがあるが、いいイメージはなかった。どれもこれも“即アポ”“即ＯＫ”みたいなのりで軽薄な感じにうんざりしたのだ。弥生は、知性の感じられない男が嫌いだった。自分自身、インテリに弱いという自覚があった。それだけに“やりたいだけ”の男とは、メールで話すことすら嫌だった。
（そういえば、仁美が言ってたのって・・・・）
　弥生は、仁美が男と知り合ったサイトを見つけた。
（登録してみようか・・・）
　登録した弥生は、ためらうことなく会員検索を始めた。希望のタイプの条件を入力し始めて、弥生は少しいたずらしてみたい衝動に駆られた。
（仁美の彼がわかるかも？）
　弥生は、以前聞いたことのある仁美の希望のタイプを思い出していた。長身、痩せ型、年は２５〜３０、独身、年収は４５０万以上、住所は遠からず、近からずってとこね。検索結果は、どんどん表示された。
（わかるわけないか）
　そう、思いながら、上から順に差しさわりのない文面で数人にメールを出した。別に期待もなかったので、ゆっくりコーヒーを沸かし、お風呂に入った。返信は早かったが、期待外れというべきか予想通りというべきか、知性のかけらも感じられない文面だった。初めてのメールで”今日会える？”とか”明日、○○に来ない？”とか会ってＨすることしか考えてない。弥生は少なからず後悔していた。商売女じゃないんだから、Ｈだけが目的ならちゃんとお金払ってそういうとこへ行けばいいんだと、うんざりし始めていたころ、ごく普通のメールが届いた。最後に”当分、忙しいから会えないですよ”とあった。大人の優しさが感じられる文面、しかも、仕事の関係ですぐには会えませんっていうある意味、断りととれなくもない内容。弥生はマサキと名乗るこの男性に少し気を引かれた。自分もすぐ会いたいわけではなく、とりあえずメールで親しくなりたい旨を伝えると、マサキは快く応じてくれた。弥生は、久々に胸が少しときめく思いがした。少女じゃあるまいしと自嘲的に笑ったが、快い思いだった。
　それから弥生は、毎日、マサキのメールが楽しみになった。マサキは、まめで、毎日かなりのロングメールを送ってきた。加藤マサキ、２６歳、コンピュータ関係の会社に勤務しているとのことだが、本当かどうかはわからない。弥生も毎日、その日に返信した。人妻であることも正直に打ち明けたが、それによってマサキの対応は変わらなかった。たいていの男は、人妻だと知ると、露骨に話題がセックスに偏るのに、マサキは、そんなことはなく、恋人に対するようなメールは変わることがなかった。
（どんな人だろう？）
　写真を送ってくれって頼むのも露骨なので、とりあえず、自分のほうから写真をメールに添付した。マサキも写真を添付してきたが、斜め横から、しかも少しうつむきかげんではっきりと顔がわからないものだった。が、それしかないとのことだった。
（まぁ、いーか）
　満足できる写真ではなかったが、やさしい雰囲気は感じられた。弥生の中で“会ってもいいな”という思いが“会いたい”という思いに変わり始め、マサキの顔を思い浮かべながらオナニーをするようになっていた。何回かメール交換してるうちに、少し勇気を出して”ときどきひとりＨするの”と言ってみた。すると、マサキは、”今度デパートとか映画館のトイレでひとりＨしてみない？”って突拍子もないことを言ってきた。弥生は、ちょっと、おもしろそうだったので、ＯＫした。

　弥生は、次の日、さっそく実行してみた。いつも行くデパートなのに、その時は、なぜかどきどきしていた。トイレの中なんだから、誰に見られるわけでもないのに・・・。弥生は、どきどきしている自分自身がおかしかった。弥生はトイレでショーツの中に手を入れた。どうということもなかった。ちょっと、期待はずれだった。いつものようにクリトリスの周囲を右手の中指でなぞり始めたが、どうも集中できず、なかなか気持ちが入っていかない。ショーツをおろし、下半身をすべてあらわにし、左手でブラをずらし、乳首をいじった。そうしてやっと、気持ちが昂ぶり始めた。そこに人が入ってきた。その瞬間、いっきに弥生の気持ちが昂ぶり、快感が押し寄せてきた。
（近くに人がいる。そこで私はオナニーしている。）
　弥生は声が出そうなのを、必死でこらえ、音を立てないように続けた。絶頂間を感じても、すぐには動けなかった。人が出て行くのを待ったが、なかなか人が途切れない。弥生は、思い切って、トイレを出た。別に思い切るほどのことでもなかったのだが、そのとき、弥生は、そこで人に会うのが恥ずかしかった。外には、誰もいなかった。弥生はちょっとほっとして、なぜか、よくわからないが楽しい気分になった。たぶん顔が笑ってたかもしれない。弥生は、そのことをマサキに報告した。すると“次は映画館だね”という返事が帰ってきた。

３．痴漢

「ねぇ、ちょっといい感じのお店見つけたんだけど、行ってみない。」
　と仁美から弥生の携帯にメールが入った。
「ごめん、今日はちょっと用がある」
　弥生はそう返信した。
　弥生は仁美の誘いを断った。マサキとメールをやり取りしていることは仁美には話していない。新しい恋人ができて、楽しい日々が送れて、そのせいか、会うたびに肌が美しくなって以前よりきれいになっていく仁美に対するやきもち。そのマネをしている自分、弥生は仁美に対してなにか劣等感にも似た感情が生まれていた。仁美と一緒にいると、その感情と向き合わなくてはならず、それがいやだった。ただ、今日は本当に用があった。マサキから連絡があって、仕事にめどがついたので会えるかもしれないというのだ。マサキは、会う場所を、“やっぱり、次は映画館でしょう”と言ってきた。まさか、そこでオナニーさせる気かな？と弥生は一瞬考えたが、“考えすぎだわ”とＯＫした。
　まだ、４月だというのに、夏のように暑い日だった。こういう日が困るのだ。暑いといって真夏の格好というわけにはいかないので、その日、弥生は薄いブラウスの上にジャケットと丈の短いプリーツスカートという格好だった。夕方の電車は、朝ほどではないが、そこそこ混んでいた。やはり電車に冷房はきいてない。弥生は暑いのが苦手だった。ジャケットを脱ぐと場違いなほどの薄着なので、しばらくは我慢したが、額に汗がにじみ胸元にも汗が感じられた。しょうがない、弥生はジャケットを脱いで左手で抱えた。薄いブラウスは汗で身体に密着し、弥生の下着を露にしていたが、弥生はそれに気づかない。１５６ｃｍと小柄だが、スリーサイズは８６ｃｍ、６１ｃｍ、８８ｃｍの弥生は、いつも好色な男達の視線を浴びるのだが、ジャケットを取ったことで、ひとり、ことさら露出が多くなってしまった今は普段にも増して露骨な視線が周囲の男達から浴びせられていた。

　弥生は先程から自分のお尻に、何かが押しつけられているのを感じていた。そしてその押しつけられたものは徐々に硬く大きくなっていた。弥生の豊かな丸みを見せる美しい尻肉に押しつけられたものが、みなぎり始めた男性のコックであることは、いうまでもない。しばらくすると弥生の背後に立つ男は、自分のコックと弥生の尻肉の間に手を入れてきた。不覚にも大きくなった自分のコックが直接、弥生の尻肉にあたるのを避けるように手で押さえたようにも思えるが、たぶん、そうじゃないだろうことを弥生は経験で知っていた。
　案の定、手はゆっくりと動き出し、いつのまにか手のひら側が当てられ、だんだんと弥生のお尻の感触を確かめるような動きになってきた。いつもなら痴漢に対して毅然とした態度をとる弥生なのだが、今日は何故か抵抗らしい抵抗もしなかった。アヌスに指を入れたあの日以来、弥生は背徳的な刺激を求めるようになっていた。

　そんな無抵抗の弥生に安心したのか、男の手の動きが大胆になってきた。様子を伺いながら、徐々に豊かな双丘の谷間に這い進み、股間にまで侵入してきて、しばらくとまった。反応をうかがって、それでも抵抗しない弥生を見て、今度はスカートを少しずつたくし上げてきた。
　弥生は扉のほうを向いている。目的の駅では、そちらの扉が開くが、それまではずっと反対側の扉が開く。目的の駅はまだ5つも先である。突然、男の手は弥生のスカートの中に入ってきた。パンスト越しであるが、スカートの上からとは比べ物にならない直接的な感触伝わってきた。弥生は周りを見回した。自分でもその感情を理解できないが、他の人に見られてないか確認したのだ。そして、誰も気づいていないことに安心したのだった。
　男の行為は、さらに大胆になっていった。今度は太腿を撫で上げるように這い昇り、弥生の秘部の上をゆっくりと上下した。弥生はすでに自分の股間がグッショリ濡れてしまっているのを自覚していた。
（あぁ、もっと強く、直接入れて・・・）
　ショーツ、パンスト越しのゆるい刺激がもどかしかった。
（なんてこと考えてるんだろう、まるで、痴女だわ、わたし）
　そう思うと、ますます気持ちは昂ぶった。
　弥生の降りる駅までは後２つ、反対側のドアが開き、またどっと人が乗ってきた。この駅はいつもそうだ。弥生は背後の男ともども、扉に押し付けられた。
（えっ、うそ）
　男は、ぎゅっと押されるその瞬間を待っていたかのように弥生のスカートを大きくたくし上げ、両手を強引に弥生の太股の間に差し入れ、パンストのその部分を破ったのだ。裂け目から指をいれショーツの脇から直接、指を弥生の秘部に迫ってきた。これには、弥生も驚いた。あわてて、何とか抗おうとしたが、体の前で、脱いだジャケットとバッグをかかえていた両手は電車の扉に強く押し付けられ動かすことができない。お尻をねじるようにしてみたが、混んでいてそれも思うように果たせなかった。男の指が侵入してきて、一瞬止った。
（あぁ、だめ、わかっちゃう）
　弥生は、そこがグッショリ濡れていることを知られるのが恥ずかしかった。
（この女、感じてやがる・・・痴漢にいじられて感じる破廉恥な女だ・・・きっと、そう思われてる）
　弥生は恥ずかしさで赤くなった顔を上げていられずに、下を向いて唇を噛み締めていた。口を開けば自らの妄想に淫らな声を上げてしまいそうだ。男は、侵入しているのとは別の指で、今度はクリトリスの付近を撫で始める。今の状態でそんなところを触られたら、絶対に耐えられない。弥生は反射的に腰を前に突き出すようにして、男の手から逃れようとするが、思うように身動きさえ出来ず、ついに男の指がクリトリスを刺激し始めた。
（あぁ、だめぇ･･････おねがい･･････しないでぇ･･････）
　心の中で懇願するが、男はそのまま秘肉とクリトリスを刺激し続ける。もう弥生の頭の中は真っ白になっていた。こんな大勢いる中で、それも痴漢されて感じてしまう被虐的な官能に、今まで味わったことのないほどの興奮を覚えて、ついに弥生は絶頂を迎えてしまった。
「うぐっ」
　必死で声を殺した。それがそのとき弥生にできたせいいっぱいのことだった。と、同時に弥生の前の扉が開いた。後ろから押されるように弥生は、ホームに掃き出された。ホームの柱に寄りかかり、なんとか呼吸を整えて弥生は歩き出した。ふと後が気になって振り返ったが、男はついてきたりはしなかったようだ。弥生は少しほっとして改札口に向かった。