１．新生

　弥生は眠れずにいた。真希に連れられ、チェックインし、部屋に荷物を置いて、少し、話をした。すぐに美菜子がやって来た。なんということもない話。夫稔にされたことなど、美菜子は話題にしなかった。きれいな肌、きれいな髪。そんな話。でも、心が和んだ。こなごなに壊れていた心の破片の一つひとつを丹念に拾い集められて、元に戻っていく、そんな感じだった。
　強引に引っ張って行く真希は、確かに外見は女だったが、弥生はそこに男を感じていたような気がする。現に真希は男でもあった。しかし、美菜子は違う。美菜子は女だった。弥生は、美菜子のやわらかな笑顔を思い浮かべ、ようやく深い眠りに落ちていった。

　翌朝、弥生は、真希と一緒に自宅に戻ると、稔はいなかった。真希の手配で、既に引越し業者が待機していた。もとより、稔に憎悪こそあれ未練などない。弥生は、必要な物をどんどんピックアップし、業者がそれを梱包した。作業は２時間程度で終わった。自宅に戻ると、あらためて夫稔に受けた仕打ちが蘇り、悔しさが込み上げてきた。
「さっ、長居は無用よ。いきましょ」
　真希が、弥生を促した。弥生の目が真っ赤だった。
「悔しいのね、弥生。任せて、このままじゃ済まさないから・・・さっ行こ」
　弥生は頷いて、真希に従った。

「いいの？うちのマンションでもいいのよ。」
「はい、でも、大丈夫です。昨日はちょっと気が動転してて、忘れてたんです。」
「でも、妹さんのマンションなんでしょ」
「ええ、でも、彼女、男といっしょなんで空いてるんですよ。好きに使ってって言ってましたから」
「そうなの、じゃぁ、私、ちょっと用があるから。いい？」
「ああ、いいです。ありがとうございました」
　妹のマンションの前で真希は別れた。
　荷物といっても、服と小物だけ、大した量ではない。妹の仁美が持ち出して、ほとんど空になっている洋服ダンスや衣装ケースに、運び込まれたダンボールをあけ、弥生は自分の持ち物を収納していった。
（まさか、ここを私が使うことになるなんて・・・。でも、仁美のおかげだわ。感謝しなくちゃ）

　突然、ルームフォンが鳴った。
（誰か、来た？）
　弥生は、ルームフォンをとった
「はい」
「わたしよ」
「あっ、真希さん。・・・いま、あけます」

「ごめんね。手伝えなくて、遅かった？これ、差し入れ」
「い、いえ、そんな手伝いなんて・・・。あっ、とにかく入ってください。」
　中は、衣服が散乱していた。
「ごめんなさい。散らかってて・・・今、片付けますから」
「手伝うわ。いっしょにしましょ。」
「いいんですか？」
「いいわよ」
「じゃぁ、お願いします。」

「ねぇ、シャワー浴びていい」
「はい、どうぞ。そこの奥です」
「あなた、先に浴びれば・・・、汗かいてるもの」
「いえ、後でいいです。真希さん先に・・・どうぞ」
「じゃぁ、いっしょに入ろ」

「洗ったげるわ」
　真希は、ボディソープを手のひらいっぱいに広げ、後ろから弥生を抱き締め、手の平で弥生の乳房をまぁるくさすった。その手は後、乳房から脇を滑り落ち、前から伸びた右手が弥生の肉襞を掻き分けクリトリスを２本の指でこすり、後ろから回された左手がお尻の割れ目沿いにお尻の穴から肉壺までゆっくりと往復した。
　弥生は、目を閉じ、真希に身を任せた。背中に真希の乳房の柔らかさを感じる。乳首が背中に触れる感触。不意に真希の唇が、弥生の唇にかぶさった。
（ああ・・・真希さん・・・おかしくなる・・・）
　舌がからまった。立っていられず、椅子に座ってしまった弥生の口に真希の唾液が流れ込んだ。弥生はそれを吸った。抱かれたい。抱いて欲しい。素直に弥生はそう思った。

「アイスティーでいいですか？」
　全裸にバスタオルを巻いただけの弥生が、同じ格好の真希に言った。
「いいわ」
　弥生がアイスティーを持ってくると、真希は横によって、ソファの自分の横を空けた。弥生はそこに座った。
「あなた、ご主人と同じ会社に勤めてるのよね」
「はい」
「で、どうするの？」
「は？」
「うん、離婚して同じ会社に勤めるの？」
「ああ、そうですね。たぶん辞めます」
「そうよね。仕事探さないとね」
「え、・・・ええ。でも、ちょっと今はまだ、そんな気分じゃ・・・・」
「ご主人に復讐する？」
「復讐？・・・・・酷い目にあわせたいとは思います」
「そう」
　真希は、意味ありげに微笑んだ。

２．不信感

「ねぇ、弥生」
「はい」
「ベッドに行かない？」
「はい」

　弥生は、真希に抱かれたかった。真希の唇は柔らかくて、腕も脇もお尻も太ももも柔らかかった。からませた足の付け根には、じわーっと愛液の滲む温もりがあった。その温かみを感じるだけで弥生は気持ちが安らいだ。真希は、上になり、弥生の口から、乳房へと舌を移動させた。乳首を舌先で転がし、右手を弥生の股間に当てた。クリトリスを２本の指で挟んで、ゆっくりとこすリ始めた。真希の乳首がときどき弥生のお腹に触れた。いじられている乳首やクリトリスはもちろん、ときより触れる乳首の感触が弥生の官能を刺激した。
「ああ・・・ああ・・・・いい・・・・気持ちいい・・・・真希さん・・・いい」
　弥生は思わず口にした。
「気持ちいい？」
「はい・・・いいです・・・・気持ちいい」
　真希の唇が、弥生のクリトリスに移動した。舌先でクリトリスをつつき、ときより、既に愛液でぐしょぐしょになっている弥生の肉壺に、舌を全部差し入れ、愛液を舐め取った。そのたびに弥生は声をあげた。真希の舌は、肉壺からお尻の穴へ這い、何度か往復した後、弥生のお尻の穴に差し込まれた。
「あっ」
　むずがゆい感覚が広がった。
「うつ伏せになって」
　真希に言われた通り、弥生はうつ伏せになった。
「きれいなお尻」
　真希は、弥生の上に乗り、背中に自分の乳房を押し当て、手を回して弥生の乳房をもんだ。背中の美菜子の乳房の感触が、弥生には心地良かった。弥生は、首を回し、美菜子の唇を吸った。
　真希の唾液が弥生の口の中に溢れた。ゴクっと音を立てて弥生はそれを飲んだ。体の向きを変えて仰向けになった弥生の顔を真希がまたいだ。弥生の目の前に真希の肉棒があらわれた。
　真希の舌が弥生の肉襞を分け、肉壺の中に差し込まれると、弥生は、真希のものを咽の奥深まで飲み込んだ。ゆっくりと時間をかけ愛撫が続き、真希は、そのまま弥生の口に放出した。

「真希さん、聞いていいですか？」
「何？」
　ベッドの上で、真希に後ろから抱きかかえられながら弥生は聞いた。
「あのう、真希さんの会社って、どんなことしてるところなんですか？」
「うちで働く？・・・それでもいいけど、美菜子さんが、欲しいって、あなたを・・・」
「美菜子さんが？雇っていただけるっていうことですか？」
「私からは、答えられないけど・・・・あなたがよければ、たぶんOKよ」
「美菜子さんは、真希さんの会社とは別なんですか？」
「そう、まぁ、グループだけど・・・」
「そうですか。美菜子さんのところは、何を？」
「実はね・・・・」
　真希は、これからの計画について弥生に話し始めた。

「どう、やってみる？」
　真希は、弥生にきいた。稔に対する憎しみは簡単には消えない。真希が言うくらいのことはやってやりたい。美菜子といっしょに働けるという話も問題ない。むしろ望んだことだ。でも、美菜子がクラブのママだとは思わなかった。
「わたしにホステスってできるかしら？」
　真希にというよりは、独り言のように呟いた。
「大丈夫だと思うわよ。美菜子さんのクラブは会員制だし、それにちょっと特殊だし、イベントとか会員の維持管理はうちでやってるし・・・・美菜子さんがついてるし・・・・」
　弥生には真希の“美菜子がついてる”という言葉が嬉しかった。
「うん。やってみるわ」
　弥生は、優柔不断だが、一度こうと決めればやる性格だった
「そう。わかったわ。あっ、これ、美菜子さんの連絡先とアドレス。携帯番号も書いてあるわ」
　真希は、美菜子から預かった名刺を弥生に渡した。

　真希が帰って、弥生は再びベッドに倒れこんだ。
（美菜子さんが、私を欲しいって・・・・美菜子さん・・・）
　繰り返し、繰り返し、弥生は心の中で美菜子の名前を呼んでいた
「美菜子さんが・・・・好き」
　弥生は、自分で声に出して、驚いた。
（一度会っただけなのに、・・・・しかも女性なのに・・・私、レズ？）
　弥生は、そうかもしれないと思い始めていた。高校生の頃、女性の先輩に憧れていた。ただ、そういう子はたくさんいて、違和感がなかったので、自分が特別、他の人たちと違っているとは思わなかった。弥生に言い寄る男性は決して少なくなかった。大学生の頃は、たえず、近くに男がいた。中には、惹かれる男もいて、実際、何人かと付き合ってはみたが、いつも、なにか物足りなさを感じていた。今では、はっきり男には不信感を持っている。真希も確かに男には違いないが、弥生の中では真希は女性だった。