５．クラブNOA

　夕方、美菜子に連れられて、弥生は、初めて美菜子の店クラブNOAに顔を出した。開店前で、男性が２人、店の掃除をしているところだった。美菜子は、弥生を紹介すると、
「弥生、いっしょに掃除しようか？」
「はい」
　美菜子もいっしょになって掃除を始めた。弥生は、ちょっと低めのテーブルを拭こうとして、後ろを振り返った。美菜子が笑っていた。
（美菜子さんかぁ、よかった。ノーパンなの忘れてたわ）
　弥生はこういう店を知らないので、どんなものか判断できなかったが、カウンターがあって壁に沿ってテーブルが置かれていて、これといって派手な装飾も、変わったものもないごく普通なスナックのような気がした。スナックには行ったことがあった。
（クラブってスナックみたいなものなのかなぁ）

　６時を過ぎて女性が２人やって来た。美菜子は、この２人にも弥生を紹介した。弥生は、そのうちのひとりを知っていた。稔にレイプされていた人だ。
「よろしくお願いします。弥生です。」
「こちらこそ。美雪よ」
「わたしは、真理、あなたが弥生さん？よろしくね」
「あっ・・・真理さん。わたし・・・」
「知ってるわ。このあいだイベントで、あなたの御主人とあったわよ。」
「すいません」
　弥生は、なぜかわからないが真理に申し訳ないことをしたような気がして謝った。
「あなたが、あやまること？あれは私の仕事よ。本物のレイプっぽかったでしょ。見た？」
「はい、見ました。・・・・」
　それ以上、弥生はどう言っていいのかわからなかった。
「美菜子さん、弥生ちゃん、今日から出てもらうの？」
「まだ無理よ。何も知らないもの。当分は私についてお勉強。みんなもいろいろ教えてあげてね」
「はーい」
　彼女らは、明るく返事をしてスタッフルームへ入っていった。
「あっ。真理ちゃん。弥生を着替えさせて。」
　美菜子は、真理にそう頼んで、弥生を真理に預けた。

　真理が、持った来たのは、イブニングドレスのようだった。
「これ着てみて」
「わたし・・・でも・・・あのう・・・」
　弥生は、下着を着けていないと言おうとしたが、先に着替えていた美雪が、全裸なのに気がついた。
（下着はつけないんだぁ）
「何？」
　真理が弥生に聞いたが、弥生はなんでもないと着ている服を脱いで、ドレスを手に取った。ウエスト部分は、厚手の生地でコルセットのようだった。ウエストをベルトで締め、そこから胸の谷間までファスナーがついており、ファスナーは見えないように隠されていた。弥生は、思いっきりウエストをしぼめ、ファスナーを上げた。絞ったウエストと対照的にバストは、乳房の４分の１くらいしか覆われておらず、かろうじて乳首は隠れているが、ちょっと、上から覗けば丸見えだった。下は膝丈だったが、前と後ろにスリットが入っていた。スリットは腰のベルトの下から入っているので、座れば、左右に別れて下半身は丸出しになるはずだ。その下は、ガーターベルトにストッキングだけだった。
（ウエスト以外は、何も着けてないのと変わらない）
　見れば、美雪も真理も色は違うが、同じデザインだった。
「どう？ウエストが苦しい？だいじょうぶ。すぐ慣れるわ。」
「これが制服なんですか？」
「制服？・・・ううん、何でもいいんだけど、これ、けっこういいのよ。おっぱいだってすぐ触ってもらえるし、前も後ろも、裾を持ち上げなくても、すぐ見てもらえるし・・・」
「は・・・はぁ・・・」
（触ってもらえる・・・すぐ見てもらえる・・・って？）

　店に戻ると、真希がいた。
「あら、弥生。かわいい。お花持ってきてあげたのよ。今日が初日でしょ」
「なーに。真希ちゃんまで。まだ、お店には出ないわよ」
　美菜子が言った。
「へへ、フライング。弥生はわたしのだからね。手出しちゃダメよ。真理さん」
　真希は、笑いながら真理に言った。
「真希さんのなの。ふーん、一樹さんはあきらめて男にもどっちゃったの？」
「そ、こんなに恋してるのに相手にしてくれないから、もう女やめる」
「そうよ。早く男に戻ってよ。真希さんが男だと思うと、わたし女やめたくなるもの」
　美雪も会話に加わった。
「あら、集中攻撃。わたし、もしかして妬まれてるかしら」
「当然。こんなきれいな男は、女の敵よ」
「ありがとう、美雪。キスしてあげる」
　真理と美雪は真希とカウンターに座った。美菜子は、弥生をカウンターの中に入れると、後ろを左右に広げウエストのベルトに挟み、お尻を晒した。正面からは見えないが、隣りにいるバーテンさんには丸見えだった。
「今日は、このままでいなさい」
「祐ちゃん、サービスよ。でも、見るだけね」
　美菜子は、カウンターの中にはいった男性、祐二に話し掛けた。
「見るだけですか・・・・それじゃ、罰ゲームですよ」

「どう、恥ずかしい？」
　美菜子は弥生に声をかけた。
　弥生はうなずいた。
「かわいい子」
　美菜子は、弥生に口づけした。

６．オーナー

　少しして、何人か女性が入ってきた。美菜子さんや美雪さん真理さんに挨拶をし、弥生も紹介されたが、服装はそれぞれで、入り口近くのコーナーに座って、雑誌を読んだり、おしゃべりをしたり、ヘッドホンで音楽を聴いたり、壁にかかった薄型のテレビを見たり、思い思いにくつろいでいた。中に何人か首輪をした人もいた。
「あのぅ、あの人たちは、ここの・・・」
　弥生が、小声で真理に聞いた。
「ううん。まぁ、似たようなもんだけど、一応お客さんよ。」
「お客さん？」
「一樹さん知ってるわよね。」
「はい」
「みんな、一樹さんとこのモデルクラブに所属してるの」
「モデルさん・・・なんですか？」
「でね、みんなここでオーナーを探すのよ。」
「オーナー？」
「うーん、スポンサーみたいなもの。首輪をしてる子いるでしょ。彼女等は、もうオーナーがいて、今日は、そのオーナーが来るのよ。」
「首輪をしてない人は、オーナーがいないんですか？」
「ううん。オーナーがいても、契約外の日で、他にもスポンサーを持ちたい子は、首輪をしてないわ。オーナーにもランクがあってね。少しづつたくさんの子のオーナーになる人もいれば、ひとりでオーナーになる人もいるの。」
「真理さんたちにもオーナーさんがいるんですか？」
「私達は、この店が私達のオーナー」
「この・・みせ・・ですか？」
「そう、この店を経営する何人かの人が、私達のオーナー。弥生、あなたもそうなると思うわよ。」
　真理と弥生が話している間に男性の客が２人入ってきた。３０代後半くらいの人達だ。美雪がすっと立って、彼らと話している。コーナーにいた、女の子の１人を連れて奥の席に座った。

「あのぉ、オーナーって愛人っていうことですか？」
「それもあるけど、ただ愛人を抱えるってのとは違うかな。生活費を出すんじゃなくて、そのお金で、一樹さんとこの会社が、ビデオとか写真集とかホームページとか、その子を売り出すのね。だから、お金出しっぱなしじゃなくて、いい子だったら、逆に儲かっちゃったりするみたいよ」
「ふーん、そうなんですか。真理さんもビデオとか出てるんですか？」
「出てるわよ。こう見えても、けっこう人気あるのよ」
「そうなんですか」
「あなたもきっと出るわよ」
「わたしが・・・ですか？」
　弥生には漠然とした話で現実味が無かったが、だからどう、と考えることも無かった。
（美菜子さんや真希さんの言う通りにするだけ）
　そう心の中で呟いた。

　首輪をつけた子が、すっと立ち上がり、今、入ってきた５０代と思われる男性の傍らに寄り添った。１０時を過ぎる頃には、ほとんどの席が埋っていた。店内は、ゆったりとした音楽が静かに流れ、照明も最初から変わらないままだったが、いつのまにか、女の子達は、それぞれ席に入り、ほとんどの子が半裸、または全裸だった。
（いいの？こんなの・・・・。これって・・・なんか法律に触れるんじゃないの？）
　弥生は、目の前の光景に不安を募らせた。
　どの席でも、女の子達は、男性のものを咥え、むき出しのお尻を抱えられ、指や男性のものを受け入れていた。腰かけた男性にまたがっている子、数人の男性に囲まれて、口にもあそこにも同時に挿入されている子。次から次へと口だけを犯される子。お尻に受け入れている子もいた。
「君は、そこからは出ないの？」
　弥生は、急にカウンター越しに話し掛けられた。
「えっ、はっ・・・はい、今日は・・・まだ」
「そう、ねぇ、ちょっとおっぱいを見せてくれる？」
　４０前後の男性は、当たり前のように弥生に言った。
　弥生は戸惑ったが、あいにく美菜子も真理もいない。
（どうしよう？・・・でも、しょうがない）
　弥生は、胸のファスナーを少し下し、乳房を晒した。
「きれいなおっぱいだね」
　男は、無造作に手を伸ばし、弥生の乳房を撫で、乳首をつまんだ。
「あっ」
　思わず、弥生は声をあげた。
「あらぁ、真垣さん。この子はまだだめですよ」
　美菜子がその男性に声をかけた。
「とは思ったんだけどね。かわいいから・・・・」
「また、そのうちに・・・・」
「弥生さん、この人は真垣さん。ここのオーナーの一人。」
　紹介されて、弥生は乳房を晒したまま、慌てて頭を下げた。
「弥生です。今日は、すいません。まだ、何もわからないんで・・・」
「いいよ。また、こんどね」
　そう言って、真垣は席に戻って行った。
　弥生は、真理の言葉を思い出していた。
（私のオーナーは、この店のオーナー。あの人も、わたしのオーナーだっていうこと？）
「胸を出したままがいい？」
　美菜子に言われて、慌てて弥生はファスナーをあげた。
（まぁ、わたしが考えることじゃないわ。美菜子さんの言う通りにするだけ）
　弥生は、一度あげたファスナーをまた少し下げた。