４．処分

　３日間の自宅謹慎の後、稔は、竹内に呼ばれた。最低な気分だった。痴漢で捕まったこともそうだが、竹内に身元の保証をされたこと。なによりもこれが一番不愉快だった。今日も気が思かった。
（また、偉そうに・・・・会長の孫娘の婿というだけの能無しが・・・・あああ、腹が立つ）

「部長、早瀬です。」
　早瀬は部長室のドアをノックして、名乗った。
「ああ、入れ」
　稔は、中に入ると、とりあえず、頭を下げた。
「このたびは、大変ご迷惑をおかけしました。」
「ああ、迷惑だね。」
　この横柄な物言いが稔は耐えられないのだ。思わず、拳を握りしめた。
「君の処分だが・・・痴漢の件だけじゃないんだよ。」
　竹内は、ことさら痴漢という言葉を強調した。稔は、奥歯を噛みしめた。
「これ、君だよね」
　竹内は､デスクの上のパソコンのディスプレイを稔に向けた。
「あっ」
　そこに映し出されたのは、まぎれもなく自分。先日のレイプパーティーの映像だ。
「どうして・・・これが？」
「聞きたいのはこっちだよ。これはどういうことなんだ。インターネットで公開されてるんだぞ。取引先から、これお宅の早瀬君じゃないかって指摘されたんだ。みっともない。お宅にはAVの男優がいるんだってって他からも・・・・何を考えてるんだ君は。」
「AVに出たわけじゃなくて、これはプライベートなもので・・・公開されるなんて、冗談じゃないですよ。」
「ばかやろう。冗談じゃないのはこっちだ。痴漢の件だって、もう知れ渡ってるぞ。取引先の社員の誰かが見たんだそうだ。お前、そこに営業に行けるか？お前が行けても、何人もで女を犯すのが趣味で、痴漢で捕まったような男を営業に出せると思うか？」
「・・・・・・・」
　言い返す言葉が稔にはなかった。
「どうだ？くびだと言われても文句の言いようがないよな。違うか？」
　高圧的な竹内に言葉も稔には届いていなかった。稔の頭の中は、ネットで公開されているということで一杯だった。
（なんで？・・・冗談じゃないぞ。ふざけやがって、ただじゃすまさんぞ・・・）
　怒りが顔に出たようだ。
「何だ、その顔は、文句が言える立場か。わきまえろ」
「くびなんですか？」
　稔は、いいかげん話を打ち切りたかった。
「いや、１ヶ月間の停職。それだけだ。その後は、今まで通り、営業部でやってもらう。但し、取引先に顔を出させるわけには行かないので、ほとぼりがさめるまではサポートだ。しばらくは新人といっしょに初心に帰って、汗を流すんだな。」
「サポート？」
　サポートとは、雑用であった。担当営業の指示に従って、言われたとおりの作業をする。
（何が、今まで通りだ。サポートなんかやってられるか）
　稔は、すでに会社を辞めるつもりでいた。取引先の不動産会社で１週間ほど前に、誘いを受けた。その時は、聞き流していたのだが、謹慎になり、慌てて連絡を取った。ただ、先方には今回の件は伝えていない。履歴に傷が付くような処分である場合は、採用してもらえないこともある。
「辞表を出せば、受け取ってもらえますか？」
「ああ、辞表を出すなら、処分は取り消すよ」
「そうですか」
　稔は、あらかじめ用意してあった辞表を竹内に渡した。
「そうか、辞めるか・・・・しょうがないだろうなぁ」
　竹内は、パソコンのディスクを入れ替えながら、稔の辞表を受け取った。
「そうそう、君の奥さんは退社したようだが、先日、私のところに挨拶に来られてね。君には愛想が尽きたともらしてたよ。」
　ディスプレイには、稔が辱めた弥生の姿が映し出された。稔は驚いた。
「これ、どうしてこれが・・・まさか、これもネットで・・・」
「いや、これは奥さんから直接預かった。他にもあるぞ。吉沢部長の奥さんとも関係を持ってるのか､君は・・・」
　聞かれても、稔は答えられる状態ではなかった。
（なんで、これを弥生が・・・、どうして竹内に・・・・瑞希が売ったのか？・・・あの女）
　瑞希とは、５年の付き合いだ。弥生よりも長い。その彼女に裏切られたショックは大きかった。
「これで失礼します。いいですか？」
　不愉快極まりないが、稔はとにかく早くここを出て、いろんなことを確認したかった。
　頭を下げて、稔が部屋を出ようとすると、
「ああ、今日、西本君の歓迎会がある。君も出ろ。手続きが終わるまではまだ、社員だからな」
「わかりました」
（何が歓迎会だ、なんで俺がそんな席で謝らないといけないんだ）
　稔は、不満で一杯だったが、もう一度頭を下げ、部屋を出た。

５．歓迎会

（ここは、あの時のホテル？）
　西本の歓迎会は、稔がレイプパーティーをした、あのホテルだった。稔は、部長室を出てからというもの、電話をかけまくった。なじみだったSMクラブも、愛人の瑞希の携帯も応答がない。何人かに電話をかけ、やっと、クラブが移転するらしいことを知ったが、それ以上のことはわからなかった。歓迎会の会場が、このホテルであることを知らされて稔は、少なからずいやな気分になっていた。

　立食形式で、ホテルのスタッフではなく、２人の猫の格好をしたコンパニオンが、ビールかシャンパンを配った。１人は黒猫、もう１人は三毛猫で、腰まで切れ上がったハイレグカットの下にストッキングはつけていない。胸は半分しか隠れていないので、ちょっと覗き込めば乳首が見えるだろう。キャットウーマンのマスクをし、首輪をし、手首と足首にもリングをつけていた。
　グラスが行き渡ったところで、歓迎会が始まった。
　一通りのセレモニーが終わると、稔一人を残して３〜４人のグループに分かれ、雑談にはいっていった。しばらくすると、いつのまにいたのか一人の女性が挨拶に立った。
「みなさん。はじめまして、NOAクラブの加藤と申します。本日は、私どもにお声をかけていただき、誠にありがとうございます。今日は、部長様から特別なご要望をお伺いしております。これから、２人が皆様のところを回ります。できれば中央のほうにお集まりください。」
（あの女・・・・あの女か？・・・まさか）
　稔は、加藤と名乗った女性に見覚えがあった。弥生が会っていた女だった。稔は、慌てて、クラブの２人のコンパニオンに目をやった。

　部屋の中央の照明を残して、他は照明が落とされた。
　黒猫の格好をした女性が、中央に集まってきた男達、ひとり、一人に、名刺を配り始めた。
「真理っていいます。おっぱい触ってくださいます？」
　そう言われた、稔より３つ４つ下、３０前後の男は、多少ためらいながら、大きく開いた胸元に手を入れ、真理の乳房をもみしだいた。真理の乳房は、両方とも晒され、それを覗き込むようにたっていた隣りの２７、８の男性にも真理は名刺を渡し、
「股に、ホックがあるの、外してくださる？」
　と小声で頼むと、若い彼は、しゃがみこみ、ぎこちない手で股間のホックを外した。
「指を入れて」
　しゃがんんだ彼のみ耳もとで真理は小さな声で言った。彼の指が、すでにじっとり濡れている真理の股間に滑り込んだ。
「ああ」
　真理は、椅子に腰掛け、両足を大きく開き、後ろから乳房をもまれ、前にしゃがんだ若者に股間をいじられ、両脇の男の股間のものを、ズボン越しにやわらかくつかんだ。

　三毛猫の格好をした女性は、いったん部屋の隅に行き、三毛猫のマスク以外を脱ぎ、全裸で大きなキャスターのついた台に四つんばいの格好で、手首と足首が台に固定されて、中央に押されてやってきた。押しているのは、弥生だった。弥生を見た、稔は、弥生に近づこうとしたが、竹内が遮った。
「彼女は、ここのクラブに勤めてる。私が呼んだんだ。君とは関係ない、場を壊さないでくれ」
　竹内に言われ、稔は、それ以上近づかなかった。

　真希は、台に固定された全裸の女性の横に行くと、周りを囲んだ男たちに
「口とお尻の穴は、いいですが、ここはだめですよ。」
　そう言って、真希は彼女の丸出しの秘部を指差した。
「彼女は、瑞希っていいます。今後ともよろしくお願いします。」
　真希が、全裸で台に固定された女性を紹介した。
（なんだと・・・瑞希？）
　稔が、女を取り囲んでる男達の間から、彼女を覗き込むと、それは、まぎれもなく、稔の愛人、瑞希だった。
「おい」
　稔が、声を発して、瑞希に近づこうとするのを、今度は真希が制した。
「瑞希さんは、うちの新人なんですけど、この道のキャリアはけっこうあるんですよ。」
　わざとらしく、そう言う真希に稔は、
「そんなことは知っている」
　真希にくってかかろうとした稔は、ふと、黒猫の女が真理と名乗ったのを思い出した。
（そうだ、あの女も確か真理だった）
　先日のレイプパーティーの女の名前を、今思い出した。
「お前、何者だ？これは、どういうことだ？」
　その質問に答えたのは弥生だった。

「わたしは、仕事をやめて、ここのクラブに入ろうとしてたの。彼女、真希さんは、クラブのマネージャーさん。あなたは、それを不倫だと勘違いして、私をいたぶったのよ。」
「なんだと？今更何を・・・。そんなことより、どうして瑞希がここにいる？それに、あの女、真理って言ったな。このあいだのレイプパーティーも仕組んだのか？」
「何のことかしら？・・・ああ、真理ちゃんが派遣されたやつ？・・・あれは、彼女を派遣しただけ。主催はうちじゃないわ。」
　今度は、真希が答えた。
「何を、しらじらしい。全部仕組んだのか？」
　横にいた竹内が口を挟んだ。
「私が、弥生さんにお願いしたんだよ。君のビデオねぇ、ここの全員見てるんだよ。君がどこで何をしようと関係ないが、そのおかげで我々はえらい迷惑をこうむったんだ。辞めりゃいいっていうもんじゃないだろう。我々も腹が立っているんだよ。君に思い知らせてやろうと思ってね。考えたんだよ、どうすればいいかってね。それで、君の知ってる女の子を呼んでもらったんだ。うちの部の連中でこの子らを後援することにしたんだ。つまり、われわれ全員の共有だ。君の好きにはさせない。そこで指を咥えて見てろ。」
　どちらかというと陰湿なタイプの竹内が、珍しく激しい口調で言った。さらに、竹内は、弥生の手を引き寄せ、背中から抱きかかえ、稔に見えるように、弥生の乳房を、まさぐり、ワンピースの裾をまくり股間に手を這わした。
　黙って聞いていた稔だが、怒りは押さえようが無いところまで来ていた。

「ああ」
　突然、瑞希のあえぎ声が響いた。台に四つんばいで手足を固定された瑞希を４人の男が囲んでいた。瑞希は、頭を両手で固定されて、口を犯され、アナルにも肉棒を突き刺されていた。脇から２人の手が伸び、ひとりは両方の乳房をこねまわし、もう一人は、クリトリスに手を当てている光景が稔の目にはいった。
　隣りで真理が肉棒を口に受け入れ、２本の肉棒を握り、肉壺に指を受け入れており、目の前で、弥生が竹内の前でしゃがんで肉棒を咥えていた。

「ふざけんな」
　稔は、怒りをどこに持っていったらいいのかわからず、真希の肩をつかんだが、真希は、その手を払いのけると、逆に稔の手を握りつぶすくらいの握力で握り、手首を捻じ曲げた。
「うっ・・・・何をする？」
「人聞きの悪い。手を出したのは、そっちよ」
　真希は、稔の背中を突き飛ばした。
「ざけやがって」
　一言、稔は吐き捨てるように言うと、会場を一人出て行った。
　真希は、あっさり竹内を放出させ、それをティッシュに吐き出している弥生を見て、目が合うと、にっこりうなずいた。
　稔が、未成年者の略取･誘拐で逮捕されたのは、それから３ヵ月後のことだった。