１.玩具

「弥生、待った？」
　真希が、弥生の後ろから声をかけた。
「いいえ。わたしも今来たところです」
「そう、じゃぁ、行こ」
　真希の手が弥生の腰に回された。格好は女性だが、弥生に対しては真希は男だった。

　真希は弥生を連れてに連れて、ランジェリーショップに入った。中に入ると・・・・ちょっと女性向のお店ではないようだった。
「ねぇ、真希さん」
　弥生は、入り口に立ち止まり、思わず真希に声を掛けた。
「大丈夫。普通のお店よ。」
　弥生が尻込みしているのを察して、真希は微笑みながら言ったが、その真希の右隣の壁にはシースルーのセーラー服が無造作に掛けてあった。
（普通のお店にシースルーのセーラー服なんて置いてないと思うけど・・・）
　弥生は、少し不安だったが、真希について行った。

「あら、真希さん」
　背後から女性の声がした。
「由佳里さん。お久しぶり」
　どうやら、真希は、この店の馴染みのようだった。弥生は、なぜか少し安心した。
「こちらは？」
「弥生です」
　真希が答えるより先に弥生のほうからあいさつした。
「弥生さん・・・かわいいわね」
　そう言って、由佳里は真希を見た。
「弥生はね。新しいクラブの子。たぶん、美菜子さんの後を継ぐんじゃないかな？」
「あら、やっぱり、美菜子さん辞めちゃうの？」
「すぐじゃないけど・・・そのうちにって言ってたわ」
「そう・・・美菜子さんの後をね・・・わたし、美菜子さんとは長い付き合いなの。よろしくお願いするわね。弥生さん」
「いいえ、こちらこそ・・・」
　深々と弥生は頭を下げた。
「で、出来てます？」
　真希は、由佳里にきいた。
「出来てるけど・・・ちょっと、待っててね？」
　そう言って、由佳里が店の奥に消えると、真希は、店の隅に置かれた長いすに座った。　弥生もその横に座った。
「スカート、お尻にしいちゃダメよ」
　真希が、弥生に言った。弥生のノーパンは日常化していた。
「はい」
「足を開いて」
（ここで？他のお客さんいますよ。・・・・だめ・・・本当恥ずかしい・・・・・）
「だめよ。足を開くの」
（真希さん・・・ああ・・・恥ずかしい・・・これでいい）
「そんなんじゃ、だめ。もっと」
「見えちゃう」
「私の顔を見て」
「はい」
　弥生は、横に座る真希の顔を見た。
「わたしがうなずくまで、足を広げなさい」
（でた・・・恥ずかしい・・・無理）
「・・・・はい・・・・だめ・・・・もうだめ」
「手で隠すと変よ。どけて。もう少しよ」
「・・・・・これで、いいですか？」
「いいわ。そのままでいるのよ」
「見えてないですか？」
「だいじょうぶ、見えてないから」
「本当ですか？」
「たぶん？」
「そんなぁ」
　そこに由佳里が何着かの服を持って戻ってきた。

「おまたせ。・・・これ、撮影？」
「まぁ、そんなとこ。今度、３っつめのスタジオを出すんだけど、そこの地下でコスプレカフェやるの。その告知イベントがあって・・・弥生が出るの」
「コスプレね。なるほど・・・試着する？」
「弥生、着てみて」
「はい・・・」
　弥生は、袋をあけて中の服を取り出した。
（何、これ？・・・エプロン？・・・・）
　弥生は試着室を探したが、見当たらない。
「あのぉ・・・試着室は？」
「そこの左にあるけど・・・・ここで着替えたら？」
　由佳里は、大腿の付け根まで晒して、足を開いて座る弥生を見て、答えた。
「ここで？・・・でも」
「そっ、ここで着てみて」
　今度は真希が言った。
「真希さん・・・はいてないんですよ」
　小声で弥生は真希に言った。
「知ってるわ」
（ああ、本気だ。・・・・もう、いつもこう。ほんとに・・・・）
　弥生は、近くの椅子に座って、ストッキングに足を通した。太ももでストッキングを止めるためのレッグレースには、小さなリングがついていた。弥生は立ち上がると、意を決して、着ているライトグリーンのタンクトップを脱いだ。豊かな乳房がぷるんとこぼれ出た。弥生の視線の先に男性客の目があった。
（見られてる）
　弥生は、くるっと壁側に向いて、店の中にお尻を向けて白いミニのタイトスカートを下ろした。弥生の白いお尻が露わになった。店の中にいた３人の男性客が、全員、弥生を見た。
（見られてる・・・きっと、見られてる。お尻を・・・見られてる）
　弥生は、慌てて薄いピンクのエプロンを身につけた。かろうじて乳首は隠れているが、乳房は大きく左右にはみだし、横から見ると、乳房の丸いふくらみが全て見てとれた。ヘアが見えるかと気になって弥生は、腰をかがめて自分の股間を覗き込んだため、丸出しのお尻を突き出す格好になっていた。客の男達が少しづつ近寄ってくる足音が聞こえた。
（こんなところで、裸であそこ丸出しで着替えてる・・・変態だわ、きっとそう思われてる・・・）
　手首と首にレースをつけたが、これは首輪、手枷にレースの飾りがついているもので、ここにも丸いリングがついていた。弥生は、脇に置かれてあった鏡を見た。
「この格好で？」
「ショーツはあったほうがいいかな。Tバックだけど・・・」
　真希が答えた。真直ぐ立てば、ぎりぎりかろうじて秘部は隠れたが、歩いたり、腕を上げれば、すぐにヘアが露出した。お尻は最初から隠すものはない。
「真希さんが決めたの？」
「うん。でも、美菜子さんもそれがいいって」
「美菜子さんが？ほんとに？」
　弥生は、少し意外で、驚いた。
「そうよ。私はメイド風にしようと思ったんだけど、裸エプロンのほうがかわいいわって美菜子さんが」
　美菜子が、自分のことを気に掛けてくれていたことが嬉しかった。

「お茶でも飲む？」
　ランジェリーショップを出て、真希がきいた。
「はい」
　弥生が答えると、
「そう、じゃぁ、ちょっと、先に行っててくれる。後何着か選ばないといけないから」
「待ってますけど」
「車も移動させるから、先に行ってて、中央のエスカレーター脇にベンチあるでしょ。そこで待ってて」
「・・・はい」
　弥生は、先にランジェリーショップを出た。

　地下街を通って、待ち合わせ場所のショッピングモールの１階中央のエスカレーター脇のベンチに座っていると、携帯にメールがはいった。

（エスカレーターで９Fに来て・・・真希）
　弥生は、返信した
（エレベーターじゃダメですか？・・・弥生）
（ダメ）
　真希の返信は早かった。
（どうしよう・・・ノーパンだし、ここ３６０度、丸見え）
　そこは、最上階まで吹き抜けの中央のエスカレーターで、実際、脇で上を見上げている人もいた。
（しょうがない・・・）
　弥生は、意を決して、エスカレーターに乗った。
（ああ・・・息苦しくなってきた・・・だめ、意識すると、また濡れちゃう・・・もっと早く動いて）
　９Fについた時、弥生は、足がもつれそうだった。
（危ない・・・危ない・・・転んだら・・・・）
　転んだらと想像しただけで、弥生の股間は、また、きゅっと動いた。弥生は、あたりを見回して真希を探した。その時、またメールが入った。
（エスカレーター横のベンチに座って待ってて）
　脇に自動販売機とベンチがあった。弥生が座ると、今度は、電話が入った。
「真希よ。ベンチに座ってる？」
「はい」
「じゃぁ、浅く腰かけて」
「どこにいるんですか？」
「近くよ。浅く腰かけて、足を開いて」
「見えちゃいますよ」
　無駄だと思いながら、弥生は一応抵抗した。
「足を開きなさい」
（どこかで、見てるんだわ、きっと）
　さっきも同じことをさせられたが、それでもあれは、店の中、せいぜい数人の中だったが、ここは違う。今だって、ひっきりなしに前を人が通っている。
（ああああ、恥ずかしいよぅ）
　それでも、弥生は真希に言われた通りにした。
「ブラウスのボタン３っつはずして」
「そんなことしたら、覗かれちゃいます」
「手をどけて」
「見えちゃいますって」
（あああ、隣りに人が・・・。あの人、こっち見てる）
　弥生は、もう、限界だった。さっと立ち上がると、その場から逃げ出すように足早に歩き出し、トイレに駆け込んだ。
（やっぱり、ぐしょぐしょ・・・もう、真希さん・・・変態）
　トイレを出ると、真希がいた。

「真希さん・・・ひどい」
「はは、ごめん。・・・で、濡れちゃったの？」
「・・・はい」
「正直な子」
「・・・・・」
　弥生の携帯にメールが入った。
（これから、会える？・・・美菜子）
「どうしたの？」
　真希が弥生にきいた。
「美菜子さんが、これから会えるかって」
「そう、いいわよ、わたしは・・・。美菜子さんとこに行って」
「はい・・・・すいません」
「それじゃぁ。ここでね」
　真希が、足早に駐車場に向かうのを見送って、弥生は、美菜子に返信した。