１．一番上の亭主が死んだ夜

　これは、江戸の初期、中部地方の山あいにある、金山の村での話である。

「槙坂の旦那、起きてくださいよ」
　槙坂新十郎は、跳ね起きた。
　金鉱運搬警護中の旅籠では、新十郎は、寝床には入らない。畳の上で、ごろ寝である。
「なんだ！」
「仲間うちのけんかで。旦那、止めてやっておくんなさい」
「しようがねぇーな」

　旅籠の暖簾をくぐり、表に出る。
　道先に、背の高い、でかい男が、包丁をにぎって立っている。
　闇に慣れた目で、新十郎は、その男が、穴大工で乱暴者の藤次であることがわかった。
　片方のねらわれている男は、尻餅をつき、なにか、腰が抜けているような。
　藤次は、酒が入ると、気違いになる男だった。
　新十郎は、腰から刀を抜き、それをおのれの手で、これみよがしに、地面に放り投げた。
「ガチャン」と、音がした。
　背の高い男が、地面に投げ出された大刀と小刀の方を見ている。
「藤次、どうした？」
　丸腰の、警備役の旦那が、こっちに近づいてくる。
（なんで、旦那は、俺の名前なんか、覚えていなさるんだろぉ？）
　藤次は、包丁をにぎりながら、小首を傾げている。
「藤次よ、金鉱を城下に運ぶ間は、わしの言うことを聞いてくれんか？」
「いや、こいつが、わしのことを馬鹿にしやぁーがって」
「そうか」
　新十郎は、包丁を手にした藤次に背を向けている。そして、尻餅をつき、口をアワアワと開いて、その口を閉じられない、中年の男に歩み寄る。見ると、馬追い頭（がしら）の孫八ではないか。
「孫八、おまえ、藤次に、何を言うたのだ」
「あわわわ」
「しようがない奴だな」
　新十郎は、活を入れてやるために、尻餅をついている孫八の頬を、こぶしで、思いっきり、殴った。
「孫八よ、これでも、俺は、城代家老の高橋新之助さまにゃ、ちったぁー、可愛がられている男よ。てめぇの食い扶持、失いたくなかったら、おとなしくしてろ！」
　孫八のやつ、こっくりと、うなずいている。
「よし、もう、藤次を馬鹿にするようなこと、言うんじゃ、ねぇーぞ、わかったな」
　孫八の肩を、新十郎は、ポンポンと叩いてやった。
　新十郎は、立たない。腰を下ろし、半身のまま、半回転して、藤次の姿を見上げている。
「藤次よ、わしは、山の金鉱を城下の精錬所まで運ぶ、大切な仕事を、お殿様に、任されておってなぁ。今回は、わしに免じて、孫八のやつを許してやってくれ。いつか、おまえに、この借りは、返すからな」
　新十郎は、片腕を下の地面につき、ぼーっと突っ立っている藤次に向かって、頭を下げた。
　新十郎は、また、元に振り戻り、尻餅を付き、腰を抜かしている孫八に手を貸してやり、起こしてやった。
「孫八、ちょっと、わしの部屋、付いて来い」
　新十郎は、投げ出していた刀を拾い、それらを手にすると、旅籠の中へ戻ろうとした。
なんと、暖簾の下には、人だかりが。いつのまにか、金鉱運びの馬追い人夫たちが、起き出して、集まっていたらしい。
新十郎は、照れた。
しかし、暖簾をくぐって、中に入った。

「槙坂の旦那、ようございますか？」
「おお、孫八か。入れ」
　障子を開けて、孫八が入ってくる。
　膝をついて、障子を閉めている。
　新十郎は、馬追い頭の孫八を買っている。
「旦那、旦那」と言って、新十郎に親しみを覚えさせているのだ、孫八という男は。酒を飲んでも、人一倍、愉快な男だった。

「旦那、さっきは、すみません」
「まぁ、いい。藤次のやつ、かなり、臭かった。酒がだいぶ、入っていたのぉー」
「いい男なんですがね、酒が入ると、いけねぇー」
「で、孫八よ。おまえ、藤次に、何を言ったんだ」
「旦那、あっしは、何も言ってませんぜ。ただ、あいつに、『おめぇーは、穴大工として、いい腕を持っているんだから、馬追いなんかしちゃー、もったいねぇー』と言っただけなんですがねぇー」
「そうか。まぁ、ちょっと、藤次のやつ、山で揉め事を起こしてな。酒が入ると、ころっと、人が変わる。頭を冷すために、穴大工の仕事は、止めさせて、こっちの金鉱運びに回したんだが。どうも、藤次にすりゃ、おまえの言葉、ちと、気に食わなかったのかもしれんなぁー」
「へぇーっ、そういう事情があったんですかい」
「まぁ、孫八、そういうこともあるから、藤次とも、仲良くやってくれ」
「へい」
「で、孫八よ、おまえ、今晩は、ここで寝ろ。おまえと藤次が、顔を合わした日にゃ、また、ひと悶着、起こりそうだからな」
「恐れ入ります」

　ある日のことだった。
　新十郎は、城下から山に来ていた。
　山の番所の板の間で、横になっていた。
　と、番所の役人が入ってきた。
「槙坂さま、山で、穴が落ちまして」
「なに」
　新十郎は、身を起こす。
「いや、ちょうど、中に、金掘りたちはいなかったんで、ございますよ」
「そうか。そんなら、不幸中の幸い」
「このところ、雨が多（おお）ございましたから」
「そうだのぉー」
「しかし、このたびは、ちと、金鉱の荷が遅れます」
「そりゃ、仕方あるまい。崩れた土砂を運び出す者たちは、えらい目に会うがのぉー」

　あくる日も、新十郎は、城下に運ぶ金鉱の荷がそろわなくて、番所でブラブラしていた。
　城下の精錬所詰めの役人に、荷が遅れるという使いの者は走らせた。
　昼に、何か、いやな臭いがした。番所から外に出てみる。
　金山の中腹のあたりで、煙が上がっている。
　死んだ人間を野焼きをしているらしい。金山でまた、金掘りが死んだのだろう。
　金掘りたちは、風通しのわるい狭い穴の中で、鉄鑿（ノミ）と金槌（かなづち）を使って岩を砕く。その時、石の粉が飛び散るのだ。金掘りはその石の粉を吸い込む。金鉱を含んだ岩を砕くという、その仕事を１０年も続ければ、肺の腑には、こぶし大ほどもある石の塊ができるのだ。そのため、息ができなくなって、金掘りたちは、３０歳に成るか成らぬ前に、血を吐きながら、死んでいくことになる。
　
　夕方になった。
　さて、どこに飯を食いに行こうかと、思案をしていた。
　と、ひょっこり、馬追い頭の孫八が、番所にやって来た。
「槙坂の旦那、退屈していなさるんでは？」
「まぁーな。飯を食いに行かなくてはな。孫八、いい飯屋を、知らんか」
「ああ、いいですよ。ご案内しますぜ」
「たのむ」

　飯屋に入る。
　新十郎は、飯屋の主人に、酒を頼んだ。
「しかし、孫八よ、穴の支えが崩れたというんじゃ、ねぇか」
「まぁ、このところ、雨も降りやしたからね。まんざら、穴大工たちを責められませんぜ」
「そうか」
「藤次のやつ、あれで、しっかりとした仕事をしますからねぇ」
　新十郎は、笑っている。
　藤次を、早目に、穴大工として復帰させてやるか、とも思う。
「ところで、孫八、今日も、山では野焼きがあったなぁー」
「そうでございましたな。因果なことにございます」
「３０に成らぬか成らぬかで、あの世に、行かねばならんとはな」
「まぁ、あっしらより、金掘りたちは、はるかに実入りはいいんでございますが、ああいう仕事をいていちゃ、長生きはできませんな」

　とっくりが、４，５本も、ひっくり返っている。
「旦那、今夜は、ちっと、遅くなっても、ええんでしょ？」
「うーん、明日、荷はそろわんかな？」
「明日の出立は、無理でございますよ」
「そうか、仕方あるまい」
「そういうことで、今夜は、あっしが、旦那を、おもしろいところに、案内いたしますよ」
「孫八よ、女郎屋ではあるまいな」
「旦那、そういうところは、いつでも、行けますがな」
「……」
「女郎屋より、おもしろいところへ、案内いたしやす」
「ほぉー、この山あいに、そんな、おもしろいところがのぉー」
「ちょっと、遠くまで、山道を歩かにゃ、なりませんが」

　孫八は、どこで用意してきたのか、提灯を持っている。
　孫八が提灯を持って、先に歩く。新十郎は、後を付いていく。
　山道を登っていく。月夜だが、やはり、提灯は要る。
　と、山の中腹に、いくつかの、ぼんやりとした明かりが見えた。
　中腹には、金掘りたちの小屋がある。明かりはその小屋のものだろう。
　小屋の輪郭がおぼろげに見えてくる。
「旦那、明かりを消しやすぜ」
　孫八の、落としたような声がした。
　新十郎も、孫八に習って、声を落として言った。
「まさか、盗人（ぬすっと）に入るわけじゃ、ねぇだろぉうなぁ」
「いや、まさか」
「孫八よ、俺は、こう見えて、卑しくも役人の身だからな、変なことはさせるなよ」
「わかっておりますよ」
　孫八の、ひょうきんなのか、真面目なのか、わからぬような顔がおかしかった。
「ほら、旦那、あそこに小屋が見えてまいりましたよ」
「はて？、あれは、金掘りたちの棲む小屋ではないか」
「そうでございます。あそこは、今日、野焼きにあった金掘りの棲んでいた小屋にございます」
「ふ〜ん？。孫八よ、骨になった金掘りの供養でもしてやろうと言うのか？。おまえは、そんなに愁傷な奴だったかな？」
「まぁっ、手短に言やぁー、覗きをさせていただいて、仏さんの前に香典でも置いて行く、ってことでございますかね」
　新十郎は、頭をひねっている。
　しかし、孫八は、自分には、よく仕えている。あいつは、ああ見えて、馬追いの人夫たちの中では人望があり、人足たちを、をきっちりと、束ねてくれてもいる。よもや、わしを窮地に追いやることをするわけでもあるまい、と新十郎は思った。
　それで、孫八が腰をかがめながら、前を歩いていくのに、新十郎も、付いて行く。
　月夜のせいか、孫八の背が見える。新十郎も、これから何かわるいことでもしでかすように、少し背を丸めて、孫八の後を付いていく。
　小屋の前に来た。
　孫八が、さっと、すばやく板壁の辺りに取り付いていく。新十郎は、ボケーッと突っ立っていた。
　孫八が、手を振って、『こっちに来い』と、言っているような。
　新十郎が、壁に近づく。
　近くに来て、孫八が、『ここ、ここ』とでも言うように、壁の格子戸のところを指差しているのだ。
　見ると、格子戸の内側の戸が開いて、間がすいている。
　真夏の暑い時分ではない。この小屋に寝る者は、内戸を締めるのを忘れて寝てしまったのであろうか。
　なおも、孫八が、そこを指差している。
　新十郎は、薄闇の中で、やっと、得心した。
　孫八のやつ、『この格子戸から、中を覗け』と、言っているのだ。
　新十郎は、格子戸に顔を近づけ、中を覗く。
　中は薄暗いようなので、眼を凝らす。
　燈芯が見えた。と、なにやら、人の背中らしいものがぼんやりと目に入る。
　目が慣れる。人の背は女の背のようであった。そして、どうも、女は、顔を向こう側にして、頭を垂れ下げているような。
　ひょっとしたら、女の前には、今日の昼間、野辺で焼かれた男の遺骨が置いてあるのかもしれない。
　新十郎は、小屋の中の女とともに、金掘りのために、手を合わせてやった。

　新十郎は、すぐそばで、中を覗いている、孫八の肩を叩いた。
『もう、帰るぞ』とでも言うように、隣りの孫八に、顎をしゃくってみせた。
　と、孫八が体を寄せてくる。
　そして、耳打ちをしながら、孫八がささやく。
「旦那、今、しばらく。これからがいいところで」
「ウン？」
　新十郎が、小首を傾げると、孫八が耳元に手を当てながら、ささやく。
「やっかい者が死んだんでさぁー、後に残った男たちが、じっとはしておらんでしょう」
「？」
　新十郎は、孫八の耳打ちの言葉の意味がわからない。
　しかし、横の孫八の目を見ると、なにやら、爛々と光っているような。それで、また、さっきの格子戸の隙間から、小屋の中を覗く。
　なんと、男が這いながら女の背中に、とりすがろうとしているではないか。しかも、男がふたりいる！。
　新十郎は、状況がよく飲み込めず、ポカーンと口を開け、息を止めていた。
　この小屋の亭主は、死んだのだ。
　このふたりの男たちは何者なのだ。
　他の小屋から夜這いに来たのであろうか？
　しかし、先ほど来、戸口辺りから、この小屋に侵入した者はいないはずだ。
　新十郎は、奇妙に思えて、そばの孫八の耳にささやいた。
「あいつらは？」
「亭主で」
「ふたりも、か？」
「いいんや、三人」
「ふたりしか、おらん」
「ひとりは、今日、死にやした」
　新十郎は、身震いした。
　一人の女に、三人もの男が、群がるのか？
　男たちは、互いに、焼き餅を焼かぬのだろうか？

「いや〜ん、弥助さんが死んだばっかりなのよ」
　中から、女の声がした。びっくりして、新十郎は、孫八の横顔から、おのれの顔を格子戸に押しつけている。目を凝らした。
　男たちが、女の両側にとりすがっているのだ。女は、あちら向きになっていて、顔が見えぬ。しかし、女の両側にいる男たちは、その横顔を見せている。
　夜目に慣れた目で、男たちは、若いような。
　向かって左側の男は、ひどく若い、年の功は１７か１８くらいか。そして、右側の男は、やや年上か。それにしても、俺よりは若い、と新十郎は思っている。
　男たちは、いやいやをして、身をよじっている女の肩から、着物を剥ぎ取ろうとしている。左手にいた年下の男が、女の上半身から着物を剥ぎ取る。女の白い背中が見えた。
「ゴクリッ」
　なにやら、生唾を飲む音が。そばを見ると、孫八の咽喉が蠢いている。新十郎は笑った。しかし、すぐに、おのれも視線を小屋の中に戻す。
　一方、女の右手にいた年上の方の男は、女の前に回っている。と、男の顔が見えなくなった。たぶん、女の胸をとらまえに行ったのだろう。
　女の背中に取り付いた年下の男の方は、両手を、はだかになった女の両肩に置き、なにやら、女の背中に、くちびるを、這わせているような。
「アン、甚平、だめよ」
　女の声がよく通る。
　新十郎は、不思議な気がした。この女は、俺と孫八に見られていることを知っているのだろうか？
　しかし、新十郎は、はしたなくも、おのれの股ぐらのモノが、女の、その声で硬くなったのを感じていた。
「ハァン、もう、いや、いや〜ん」
　前に回った奴、女の乳房にでも、しゃぶりついているのか、と新十郎は、勝手に想像している。
　と、後ろの男が、女の肩を手前に引いて、座っていた女を寝かせつけたようとしているではないか。
　女が仰向きに倒れた。しかし、残念だが、こちらからでは、女の顔がよく見えぬ。
　女を引き倒した年下の男は、女のからだの左手に回ろうとしている。
　が、なんと、頭のてっぺんを見せながら、女の前にいた年上の男は、女の股ぐらに、顔をくっつけているではないか。
（こやつ、女のオ○んこに、むしゃぼりついて、いやぁーがる）
　新十郎は、おのれの股ぐらのモノが、ビクンッとおっ立ったのを感じた。そして、なおも、おのれの顔を、格子戸のすき間に、より、摺り寄せているのだった。
　左手の年下の男が、横顔を見せながら、その顔を女のおっぱいに近づけようとしている。と、その男、左手を伸ばして、女の片方の乳房を、ぎゅっと、にぎっているではないか。
　その年下の男、女の左のおっぱいに、口を吸いつけている。
『あっあっあー』
　新十郎こそ、声が漏れそうなる。
「ハぁ、ウ〜ン、佐助や、口を吸っておくれ、おまえのお口が欲しいわ」
（年下の男は、佐助と言うのか）
　と、新十郎は生唾を飲む。
　佐助と呼ばれた男は、女の胸元から自分の唇をはずし、唇を女の口へ持って行っている。
　待っていましたとばかりと新十郎には思えるように、寝転がった女は、佐助という男の首の後ろに腕を回し、自分の頭を持ち上げるようにして、佐助の唇を吸っている。
　女のからだが、左上の方向にずれたのか、股座に顔をくっつけていた男が、女の腰に手を当てがいながら、女のからだを、元の仰向きに戻そうとしているような。
　その年上の男、確か、佐助でなければ、甚平とかいう男だろうか。ともかく、甚平という男の顔は見えぬが、その舌が、不思議と、外からでも、よく見えるのだ。
　甚平は、頭を上下に振りながら、舌を口から、大きく出している。

（甚平のやつ、どこを舐めているのか？）
　新十郎は、板壁に手をつきながら、つま先立って、格子戸の中を覗いている始末だった。
　もっと、明かりがほしいものよ、と、新十郎は思う。
　しかし、新十郎には、わかってきた、甚平は、女のオサネ（陰核）を舐めているのにちがいない、と。
「ハぁ、う〜ん、甚平、気持ち、イっいっー、気持ち、いい、よぉ〜ン」
　女は、いつのまにか、左側から取りついている年下の男から、くちびるをはずし、背伸びをしつつ、顔をのけぞるようにしながら、頭を左右に振っている。
　左側の年下の男はと、みれば、こっちも、舌を大きく口から突き出し、女の乳首といい、大きめのもっちゃりとしたおっぱいを、舐めまくっているのだ。
「アン、アン、来て、来て」
　女が、腕を上に持ち上げている。そして、おっぱいにくっついている若い男の頭を、掻き抱いている。
　
　と、女の股座を攻めていた、年上の男が顔を起こした。
　年上の男の顔がよく見える。浅黒い顔だ。年は、やはり、頭を女の胸に抱えられている若い男よりは、行っているようだ。
　その年上の男が、上半身を起こす。
　自分の手を広げるように、女の股を押し開いている。そして、女の足首をつかみ、女の股ぐらを大きく、広げた。
　男は、顔をうつむかせながら、腰を前に進めようとしている。
なにやら、男の股に、太くて黒々としたモノが、おっ立っているような。それに、男が、自分の手を添えている。
　そして、それを女の股ぐらに、差し込もうと、腰を浮かしつつ、前かがみになる。一気に押し込む。
「ハァ、グゥー、イッイッー！！」
　男は、顎を挙げながら、硬くなったモノを、まだ奥に押し込もうとしているようだ。
　男の眉間に皺が寄っている。しかし、苦しげではあって、何とも、気持ちよさそうな顔ではないか。
　おのれも、女に突っ込むとき、あんな顔をするのだろうか、と格子戸に取り付いている新十郎は思う。
　格子戸の上の、横木に掛けているおのれの手が、汗ばんでいる。
　頭を胸に抱え込まれた若い男は、それでも、窮屈な格好ながら、頭を上下に動かしながら、ちゅぶちゅぶと、女の、豊かで、やわらかそうなおっぱいを吸っている。
　女の股ぐらに、腰を入れ込んだ男は、両手で、しっかりと女の足を取り、広げながら、腰を後ろに引く。そして、また、自分の腰を、女の股ぐら間に、一気に押し込む。
　抜く、差す。
　年の割りに、見事なものだ、と、外から覗いている新十郎は、妙なところで、感心している。
「アッアッ、アッ〜ン、気持ちいいよー、もっと、もっとよ」
　女のあえぎ声が聞こえる。
「サチ、もう、いけん、もう、わしゃ、ダメだぁー」
　と、年上の男は、上半身を反らせた。女の足を握っている男の二の腕が震えている。
「アッ、わしゃ、イク、イク」
　股ぐらの間にいた年上の男は、女の膝元に倒れ伏している。その男の股ぐらのモノは見えない。しかし、なにやら、女の太ももには、ベットリと、白い液状のものがついているようにも見える…。
「アンアン、甚平ったら、辛抱が足りないんだからぁー。さぁ、佐助、来て来て！」
　胸に抱かれていた佐助とかいう男、飛び跳ねて、起きたような。そして、広げた女の足もとにすばやく、身を移している。
　白いチ○こが、若い男の股のあいだから表れる。細いが、えらく長そうな…。
　女の手が下の方へ伸びていく。女の指が、男の、白くて長いモノをつかんだような。
　女は、からだを下の方にずらしながら、自分の股の中に、男の白いモノを差し込もうとしているようだ。
「アっ！」
　若い男が、うめき声を発した。
「佐助、がまんして！」
　女は、なんと、佐助という男の腰に、自分の両足を巻きつけているではないか。
　しかも、自分の方から、腰を上へ上へと、振り上げている。
「佐助、来て、来て。ついて、しっかり、ついておくれ」
　佐助の腰が、飛び跳ねるように、上下に動いている。
「アンアン、もっと、ゆっくり、ゆっくりよ」
「オラ、だめだ、気持ち良すぎて」
「バカバカ、もっと、がまんして」
「あっ、もう、がまんできない」
　佐助は、バタンと、上体を倒して、女のからだにしがみついている。男の肩がふるえている。
「アン、イっちゃったのね」
　女は、それでも、佐助という、若い男の頭を自分の胸に掻き抱いている。
　そして、なおも、下から足を上げ、男の腰にその足をからませながら、自分の腰を押しつけている。
　女は、顔を持ち上げるようにして、若い男を下から抱き込みながら、しきりに、腰をグリグリと動かし続けている。
　と、右側の方で、寝そべっていた年上の方の男が、むっくりと起き上がったような。そして、まだ重なっているふたりのそばへ近寄る。
　そして、年上の男は、折り重なっているふたりを、押しながら横向きにしている。
　その、空いた女の背中に、年上の男がしがみつく。
「イヤイヤ、甚平、あたしは、佐助と今、やっているんだから」
　年上の甚平とかいう男、女の言葉なんぞ、お構いもなしに、女の背中に、喰らいつき、唇を這わせているようだ。
　と、よく見ると、甚平は、右の手を、女の尻の方に突っ込んでいるような。
「アン、そんなとこ、さわって！。いや〜ん」
　甚平の奴、どこをさわっているのだろう、と外にいる、新十郎は思う。
　と、女が、横向きから、また、仰向けにされている。
　年上の甚平が、年下の佐助を、女から引き離し、女を仰向けにしたらしい。
　そして、その甚平という男、女の股ぐらの方に、体を移し、上半身を起こしている。
　甚平という男、自分の股の間に、手をやっている。
（あっ、こいつ、回復したのだ）
　新十郎は、そう心の中で叫び、思わず、格子戸の上に置いた手に力を込めている。
「アンアン、いい、いいよ」
　見ると、今度は、再び、甚平という男が、黒々として硬いモノを抜き差ししているのだ。
　そして、年下の佐助という男は、また、起き出し、口から舌を出して、ペロペロと女の乳首を舐めている。
「あ〜ん、いいよ、いいよ」
　甚平という男、上半身を反らし気味にしながら、顔を挙げ、真剣な顔つきをしながら、体全体を前後に揺らして、抜き差ししている。
「あっ、来て来て、イクイク、イクよーー」
　女が足を突っぱねている。頭がのけぞり、胸の乳房が震えている。
　と、女が、胸をせりあげた。
「アッ、アグウゥッーーー！」

　女が、ダラリと、両の腕をからだの横に投げ出したような。
　女の髪が乱れ、額が汗ばんでいるような。
　と、そのとき、女が、からだを右上方向によじりながら、頭のてっぺんをテコにして、顎を持ち上げた。
　女が、逆さまになった顔で、上目遣いに、こっちを見ているではないか。
　新十郎は、その、おそろしくも、艶かしい女の視線に耐え切れず、格子戸に顔をつけたまま、視線を伏せていた。