３．年下の亭主と間違われて
　
　盆を迎えている。しかし、新十郎にはやることがない。
　盆には家にいて、ゆっくりと休みたいという者がいて、その者の代わりに、新十郎は、盆のあいだの、金山番所（派出所）の留守居をすることになった。
　夕刻、番所で、手持ち無沙汰にしていると、馬追い人夫頭の孫八がやってきた。
「槙坂の旦那、退屈そうじゃ、ありやせんか」
「まぁな」
「で、旦那、今晩、あっしに付き合ってくださいましな」
「番所を空けるわけにもなるまい」
「そんなぁ。番所には、他のお役人衆もおられるでしょう」
「おるには、おる。しかし、盆のあいだは、非番（休暇）の者が多い。わしが抜けると、差し障りがある」
「一晩中、というわけでもありませんぜ」
「そうか、それじゃ、仲間に聞いてみるか、二刻（４時間）くらい、番所を抜けてもいいか、と」

　新十郎は、孫八の後を付いて行く。
　今度は、何を見せてくれると言うのだろうか？
　やはり、前と同じような、金山の山道であった。
　山の中腹に差しかかる。すると、太鼓や笛の音が聞こえてきた。
　何とも、物寂しい山に、こんな、華やかなこともあることよ、と、新十郎の頬がゆるむ。
「孫八、こんな山の中でも、やはり、盆踊りをやっているのか」
「へい、旦那、そのとおりでございますよ」
　見ると、谷間になったところに、さほど広くはないが、畑地のようなものがあり、その畑地のところで、人が輪になっていた。中央には、櫓があった。櫓の上に、ふたり、居た。一人は、立って、盆踊り歌を歌っている。もう一人は座って太鼓を叩いている。櫓の下には、笛を吹いている者がいた。
「旦那、あっしも、輪に入って、踊って来やす」
「おい、待て」
　孫八は、一人、踊りの輪に入っていく。
　新十郎は、孫八の姿を追っている。
　孫八のやつ、なかなか、踊り達者であった。
　ようやく、目が慣れた。踊りの輪には、女もいた。もっとも、数が少ない。

「ちょっと、旦那、あちらに座って、踊りを見ましょうよ」
　そばに、女が立っていた。
　新十郎は、すぐそばに立っている、女の顔を見た。
　見覚えがないのだ。
「あちらに、座りましょうよ」
　新十郎は、袖を引っ張られていた。
「すまぬ、実は、わし、そなたのことが、わからぬ」
「そんなこと。ともかく、あちらに、行きましょう」
　新十郎は、仕方なく、足を前に進めた。
　女が座る。
　女が、座りながら、ここへ座れ、と言っている。
　新十郎も腰を降ろす。前を見る。なるほど、座り込んだ場所は、ちょっと、こんもりと小高くなっていて、踊りの輪の全体が見渡せる。踊りを見るには、よい場所である。
「さぁ、旦那、一杯、やりましょう」
　横を見遣る。女が、細長い竹筒を右手に、持ち上げている。
　そして、左手を伸ばしてきた。
　手の先には、さかづきのようなものが。竹の節を使った、盃であった。
　新十郎は、それを、左手で、女から受取った。すると、女が、その盃に、竹筒から、何かを、いや、酒を注いでいる。匂いで酒とわかる。
　新十郎は、一気にあおった。臓腑に沁みる。夜風も心地よかった。
「あれっ、あたしには？」
「いや、これは、失礼」
　新十郎は、女から竹筒を受取る。盃を女に渡し、女の盃に注いでやる。酒の匂いがし、女の化粧の匂いがした。
　しかし、新十郎は、わからないでいた。そばに座っている女が、誰なのか。

　誰かが、正面からこっちにやって来る。
　やっと、わかった、孫八であった。
「旦那、こちらに、いらっしゃったんですかい」
「あらっ、孫八さん」
　そばの女が、声を上げている。
「おお、サチさんじゃねぇか」
「孫八さん、相変わらず、踊りが上手だこと」
「そうかい、そうかい、ありがとうよ」
「孫八さん、一杯、どうだい？」
「そんじゃ、いただこうか」
（何と、隣にすわっている女が、孫八の知り合いだったとは！）
　新十郎は、驚きながら、女の前の草むらに、座り込んでいる孫八の顔を見ている。
　女が、孫八の、竹の盃に、酒を注いでやっている。
　女と孫八は、かなり親しそうであった。
　で、新十郎は、女をしげしげと見遣っている。
『あっ、なんか、見覚えがあるぞ』
　新十郎は、顔を、膝を組んで座っている足元に下げ、目を瞑った。
『あっ、この女、あのときの…』
　新十郎は、やっと思い出したのだ。
仰向けになりながらも、腰を振り上げ、胸元を持ち上げるように、頭のてっぺんを支えに、さかさまの顔をして、こっちをにらむように見ていた、金掘りの女房だ、と。
　新十郎は、胸が高鳴ってきたような。
　あのときの目は、怖かったが、それにしても、うらむような、それでいて、ひどく色っぽい目ではあった。
　それに、こうして、まともに見ると、顔は、なかなかの美形である。しかも、なんとなく、からだから、色気が滲み出ているような。
　しかし、新十郎は、なぜか、深入りするのが怖かった。それに、えらく、孫八と女は親しそうなのだ。
　孫八の楽しみを奪ってはならないような気がした。
「よぉーっ、孫八よ、わしは、用事を思い出した。番所へ、引き返すぞ」
「旦那、盆に事件なんぞ、起こりっこ、ありやせんぜ」
「そうよ、旦那、もう少し、踊りを見ていましょうよ」
「しかし…」
「旦那、サチも、ああ言っているんですから、もう、しばらく。それに、あっしは、また踊りの輪に入らせていただきやす」
　見ると、孫八は、草むらから、尻を上げ、背を向け、踊りの輪の方へ、戻っていく。
「サチさんとやら、わしも、ここらで」
　新十郎は、腰を上げようとした。しかし、袖を引っ張られる。
「旦那、いいじゃ、ありませんか」
　新十郎は、腰を降ろす。そのとき、正面から、まともに女の顔を見た。なかなかの美人である。
　しかし、新十郎は、テレながら、女の方を見ずに言った。
「いや、しかし、孫八の話だと、あんたには、ご亭主もおられるし、家では、ご亭主が待っておられるのでは？」
「まぁっ、孫八さん、そんなこと、旦那に？」
「ああ、そう、孫八に聞いたが」
「でもね、旦那。うちの亭主はふたりとも、今夜は、女郎屋に行っているんでございますよ」
「えっ？！」
「だって、いつも、あたしみたいな、おばあちゃん相手じゃ、かわいそうで。たまには、息抜きをさせてやりたくて、ねぇー」
「えっ、そんなこたぁー、ねぇーだろうよ〜」
「旦那、あたし、いくつに見えます？」
「うーん、三十をふたつ、みっつ、越えたところ、かな？」
「まぁっ、そんな、お口のうまいこと！」
「ウン？」
「あたしは、とっくに、四十の坂を越しておりますわよ」
「えっ？　そうは見えねぇーなぁー」
「そんなことばっかり　言ってぇぇー」
　そばの女を、目の端で見ると、何とも、色っぽく、身をよじっているような。
　新十郎は、なにやら、胸が沸き立つような。それで、ちょっと、心を引き締めようと、女に言った。
「しかし、あんたも、度量が大きいというか、大したものだ」
「だって、仕方がないじゃ、ありませんか。いつも、暗い穴の中で、つらい仕事をしているんでございますよ。盆と正月ぐらい、気晴らしをさせてやらなくては…」
「うーん、なるほどなぁー。しかし、あんたも、なかなか、できた女房殿だ」
「あらっ、そんな風に見えまして？」
「ああ、そう、見えるよ、わしには、な」
「でも、旦那、正直を言いますとね、あたしだって、妬けますのよ」
「えっ？。そんなことはないだろう。相手は、商売女なんだ。妬くなんざぁ、おかしいぜ」
「そうなんでございましょうか？」
「……」
「あたしは、やはり、だめだわ。今夜は、とても眠れそうにない。亭主たちが心をはずませて、若い女を抱いているなんて、思ったら…」
「まぁっ、そのぉー、単なるお遊びなんだから…。あんたも気を楽にしなすって」
「ねぇー、旦那、うちに来て、あたしの話し相手になってくださいましな」
「いや、そうは行くまい。番所じゃ、わしの帰りを待っておる」
「孫八さんに、ことづけを頼んできますわ」
「おい、待て！」
　女は、立ち上がって、もう、踊りの輪の方に、向かっている。
　新十郎は、ふて腐れて、草むらに、仰向けになった。
　実際、あの女の小屋に行って、どうなるっていうのだ。
　話を聞くだけで、済むはずがないではないか。
　女とふたりだけなのだ。わしが、アレを、がまんできるはずがない。
「さぁ、旦那、起きてくださいな」
　新十郎は、手を引っ張られた。起き上がる。そして、女の後を、のこのこと付いて行くのだ。
（わしは、何という、仕様がない、おとこなんだ）
　新十郎は、立ち止まって、夜空を仰ぎ、ため息をついた。
「旦那、はやく！」

　女が立ち止まった。見ると、小屋の前だった。
　格子戸を見遣る。見覚えのある、格子戸であった。あそこから、小屋の中を覗いたことがある。新十郎は、薄闇の中で、顔を赤らめていた。
「旦那、さぁ、入っておくんなさいましな」
　新十郎は、なぜか、躊躇している。
「なぁ、サチさんとやら、わしは、このとおり、面白くも、おかしくもない男じゃ。ここまで付いてきて、こう言うのも、何じゃが、わしなんぞ、話し相手には、なるまいて」
「まぁ、いやな、旦那だこと。あたしが誘ったんだから、そんな野暮なこと、言いませんよ」
「そうかい？」
　新十郎は、まんざらでもない顔になっている。
　女に、手を取られ、小屋の内に、もう入っているのだ。
　小屋に入ると、女は、火打ち石を叩き、灯心に火を灯した。
　そして、酒のとっくりを持ち出してきた。
　ふたりで、酒盛りをしている。
　話とて、新十郎から、あるわけはない。
　しかし、女がさっきから、黙っているのだ。こっちから、話さざるを得ない。さっきの話を蒸し返すしかなかった。
「しかし、驚いたね、女にも、焼き餅を焼くことがあるなんて…」
「そりゃ、亭主ですからね」
「そうか、女房としては、それがあたりまえなんだ、なぁー。いくら、相手が女郎屋の女であろうと…」
「確かに、色恋の話じゃなくて、銭カネの話でございますよ。でも、それにしても…」
「そうかい、あんたでも、妬くことがあるんだな」
「旦那、それは、どういうことで、ございます？」
　小屋の中には、灯心の炎が揺らめいている。
　女の目が、いやに真剣そうである。
「しかし、考えてもみなよ。あんたにゃ、ふたりの亭主がいるんだぜ。片方の男と、やっている時には、片方の男は、そばで寝ているんだぜ。そりゃ、あんたより、亭主の方が大変だと思うが、ねぇー」
「旦那、山の仕事は、三交代制なんでございますよ。かち合うことはないんですからね」
「それにしてもだ、片方の亭主としては、金掘りの仕事をしていた、って、家じゃ、女房のやつ、非番になったあいつに抱かれているんだろうな、と思えば、焼き餅だって、焼くだろう」
「旦那でも、そうなんでございますか？」
「まぁー、どうでもいい女房なら焼き餅も焼かねぇだろうが、惚れた女房なら、そうもいかねぇーだろぉなぁ」
「まぁっ、どうでもいい女房、だなんて、おっしゃって！」
「そうだろぉ、侍（さむらい）といったって、商家の女に惚れたって、女房にはできねぇんだ。親同士が決めた、縁戚関係の女と、夫婦にされるんだ。いやいやながら、しようことなしにもらった女房とて、いるわサぁー」
「では、旦那は、惚れた女と、夫婦になりたいわけでございますか？」
「まぁ、そりゃ、そうだろう」
「マァッ、粋なだんな、だこと！」
「…？…」
　新十郎は、目の前の女が、何を言ったのか、わからない。しかし、女に、色っぽいまなざしで見つめられているので、気恥ずかしかった。
「ねぇ、あたしじゃ、だめですか？」
「なに？」
「だって、あたしの惚れた亭主が、他の女を抱いて眠るんですよ。あたし、今夜は、眠れそうにないわ。旦那、あたしを抱いておくんなさいましな」
「しかし、なあー、あんたの亭主に、わるいよ」
「わるか、ありませんよ、あたしの亭主は、あたしなんかに、惚れちゃ、いないんですから」
「そうでもないと思うが…」
「まぁー、旦那って、見かけによらず、性根のやさしいお方なんで、ございますね」
「そうかなぁー？」
「だから、今夜は、あたしの騒ぐ胸を、旦那の手で、慰めておくなんさいましな」
「しかし、あんたは、亭主持ち。そんな浮気をしてもいいのかね？」
「だって、亭主がそうしているんでございますから」
「まぁ、そうは言っても、男と女は、違うもんだから、ねぇー」
「どこが、どう違うんでございますか？」
「男は、銭を払って、ただ、楽しみを追うだけ。それは、浮気なんてもんじゃない」
「まぁっ、勝手な理屈！」
「そうは言っても、男は、あそこが溜まれば、惚れた、はれたとは別に、女のからだを抱きたくなるもので…」
「女だって、そうで、ございますよ」
「えっ？　女に限って、そんなことは、ねぇーだろぉ」
「女だって、心とは別に、いい男なら、抱いてもらいたい、ってことだって、ありますよ」
「へぇー、そういうもんかい？。スケベイなのは、てっきり、男ばかりだと思っていたのに。女も男と一緒で、スケベイだとは、つゆ、知らなんだなぁ」
「じゃあ、旦那も、しかめっ面なさっているけど、スケベイな男なんでございますか？」
「まぁ、そうなんだろぉー。女郎屋で、女を買うぐらいだから」
「じゃ、旦那、あたしを買ってくださいましな」
「いいのかい？」
「もちろんでございますよ。こんなおばぁちゃんですから、御代は安くっても…」
「そんなこたぁーねぇーよ、なかなかのものだ」
「まぁっ、うれしいっ！」
　女が、抱きついてきた。
「ちょっと、待ってくれよ。抱くのは、御代を払ってから…」
「どうして？」
「で、ねぇーと、なんか、あんたの亭主に、わるくって、ね」
「まぁっ！」
　女は、目を丸くして、驚いているような。
　そんな驚くようなことなんだろうか？、新十郎は、小首をかしげている。
　でも、女が体を摺り寄せてくる。
　新十郎には、それでも、小雪という、それでも惚れた女がいるというのに、悲しい男の佐賀（？）、股ぐらの間のモノが、反応しはじめている。
　女の肩を優しく抱き寄せて、鬢のあたりの、生え際に、唇を這わせる。
「ア〜ン、だんな、そんなこと、なさっちゃぁー」
「おサチさん、こんなことしたら、いけないかい？」
「まぁっ、野暮なだんな！」
　新十郎は、女のなで肩をなでながら、耳たぶに唇を這わせている。
　しかし、なんとも、こんなことを、女郎屋の小雪という女にもして、今、サチとかという女にも、しているおのれが、浅ましい。
　その浅ましいという思いがあるのか、おんなの、おっぱいに手を添えても、何か、しらけている。
　乳首を指先でいじくるが、小雪のように、固くならぬ。
　しかし、男の佐賀（？）、女の首筋に手をやりながら、やわらかい乳首を口に含んでいる。
「アレっー、いいわ」
　ふと、新十郎は、あえいでいる小雪の顔が思い浮かんだ。
（今日は、盆だ。近隣から、若い男衆たちが、あの女郎屋に押しかけているだろう。今夜は、小雪のやつも、あそこが、ヒリヒリするまで、相手をさせられるんだろうな）

　なんで、男は、銭を払ってまでも、女のからだを欲しがるのだろう？
　なんで、女は、惚れてもいない男に、からだをあずけられるのだろう？
　
　下にいる女が、手を股間に伸ばしている。
「いや〜ん、だんな、ふにゃふにゃよ。気を入れておくんなさいよ」
「あっ、わるい、わるい。考え事、しておったわ」
「まぁっ、いやっ。惚れた女のこと、考えていたんでしょ」
「惚れた、ねぇー。惚れたって、一体、何なんだろう」
「馬鹿ねぇー。抱きたくなるって、ことでしょ」
「あっ、そうか。そう言やぁー、そんなやつが、ひとり、おるなぁー、わしにも」
「馬鹿馬鹿。で、その女（ひと）って、もしかして、商家の娘さん？」
「そんなんじゃ、ねぇーよ。女郎屋の女さ」
「だんな、そんな女、やめておきなさいまし」
「どうして？」
「情がないからですよ」
「だから、サァ、相手のことじゃなくて、わしが抱きたくなる女の話をしているだけのことよ」
「そんなの、もったいない。相手に情がないのに、こっちから情を掛けたって、無駄、というもんでございますよ」
「まぁ、いいじゃねぇか。相手の心がどうだろうと、こっちとしては、惚れた女と、乳○り合いたいだけで」
「まったく、だんなも、馬鹿なお人だねぇー」
「じゃ、ひとまず、これで、終わりとするかな」
「いやいや」
「でも…」
「あたし、ゼニが欲しいし…」
「ふ〜ん、そうかい。わしも、そんな正直なおんなは、きらいではない」
「あらっ、旦那も、粋なところ、あるじゃない」
「なんだ、そりゃー？」
「あそび心、というもんでございますよ」
「なるほど、遊び心か」
「旦那、あたしは、ね、お○んこしている最中は、しきりに、声を出すんですよ。それでもって、お○んこをすることに気持ちが集中して、いい気持ちになれるんですよ」
「ほぉーっ、そういうもんかい？」
「だから、旦那も、気を入れて、抱いておくんなさいましな」
「しかし、なぁー、おめぇの亭主にわるい気がしてよぉ〜」
「そんなぁー。死んだ亭主にやきもち、焼かせてみたいんでございますよ」
「そりゃ、しかし、屁理屈ってもんだろぉ？」
「死んだ亭主は、いい人でしたよ。２年も気絶え（けだえ＝じん肺）で苦しんでいましたよ。でも、あたしが、背中をさすってやると、『すまねぇ、すまねぇ』と言っていましたよ。
　そして、『わしが死んだら、おまえも、ちったぁー、楽しいことも、しておくれよ』と言っておりました…」
「そうかい。そりゃ、出来た亭主だのぉ。わしなんぞにゃ、とても真似ができぬわ」
「どうして？」
「焼き餅が先にたつ」
「まぁっ、小粋なこと、おっしゃって！」
「ウン？」
「旦那、女はね、いくつになっても、男に、焼き餅を焼いてもらいたいものなんで、ございますよ」
「なんで？」
「だって、飯をつくったり、着物のほころびを縫ったりはしますよ。でも、男にね、キラキラと燃える目で、あたしの方を見て欲しいんでございますよ。まるで、そんじょそこらに、ころがっている石でも見るように見られたら、生きる張り合いもなくなるってもんでございますからねぇー」
　新十郎は、しんみりとしてしまった。確かに、小雪に対して、近頃は、焼き餅を焼かなくなったと思うのだ。
　慣れ、ってやつだ。
　はじめの頃は、小雪に会いに行くときには、胸の中に、ときめきがあったのに。
　近頃は、そいつがなくなり、愛撫だって、おざなりで、こっちが出してしまえば、それで終わり、みたいなところがある。感動ってやつがないのだ。
　たとえ、どこぞの女と所帯を持ったにせよ、二、三年もすりゃー、情熱ってやつも、冷めてしまうんだろぉーか？
「ところで、おサチさんよ、あんた、年下の亭主と、年上の亭主と、どっちが好きなんだ？」
「そんな。そんなこと、急に、聞かれても…」
「どっちかに、決めてくれよ。そうなりゃ、わしは、そのどっちかに、焼き餅を焼き、元気になるかもしれん」
「それじゃ、年下の方」
「そうかい。佐助の方かい？」
「まぁっ、旦那は、よく、ご存知で」
「そんじゃ、わしは、佐助に、焼き餅を焼いてみるか」
　新十郎は、あの、覗き見をした夜のことを思い出している。
　佐助は、若いがゆえに、夢中であった。あんな風にまぐわいに、夢中になってみたい。
　わしなんぞ、近頃は、金鉱運びの警護の仕事もいいかげん。女郎屋に揚がっても、おざなりのまぐわい。何か、芯のある生き方をしていないような。
　もう少し早く、戦国の世にでも、生まれておれば、兜首（敵の大将の首）のひとつでもねらって、心がはずむような生き方ができたかもしれぬのに…。

　新十郎は、女の左のおっぱいを揉みながら、右のおっぱいの乳首を舌で、舐めはじめた。
「アン、旦那、いいよ〜」
「そうかい。わしも、佐助のように、夢中になってみようぞ」
「ウン、ばかばか、今、佐助のことは、言わないでぇー」
　そうなのだ、わしは、佐助ではない。わしは、あくまで、わしなのだ。
　新十郎は、おのれなりに、この女を抱こうと思った。女がイクかどうかなど、わしの知ったことではない。わしがイクことが大事なのだ。
　新十郎が好きなのは、乳首を舌で、チロチロと舐めながら、指を女のお○ンチョに差し入れ、今度は、おんなのおつゆで濡れた中指の先で、オサネ（陰核）を撫でることだ。
　それをさっそく実行した。
　手をおなかから下へずらせる。腰巻をはだける。そして、女のドテのあたりをまさぐるのだ。手に、陰モウとやらが、からみつく。で、ちょっと、○ケ毛をまさぐる。
「アン、いじわるぅぅ」
　手がすべったとでも言うように、指の先っぽを、女の○めちょの間に、すべり込ませる。
「ハァ、い〜ん」
　中指の先が、女のおつゆで、しっかりと濡れている。
　その濡れた指先を引っこ抜き、オサネを、中指の、濡れそぼった腹の辺りで、まさぐるように、撫でまわす。
「アン、アン、いいーっ」
　で、悪さついでに、おさねから、中指を下にずらせ、中指の先を内側に曲げて、お○ちょの中の、上っ面の部分を掻いてやる。
「ハァッ、ウン」
　新十郎は、乳首から口をはずす。体を少し起こしながら、右手に気持ちを集中する。
　中に入れた中指をかきまぜる。すると、中が、俄然、濡れてきた。
　指で、中をまる〜く、ゆっくり、かきまぜてやる。
「フンフン、とっても、いいわ」
「そうか、中は、洪水のように濡れてきたよ。それに、中は、とても熱くなってきた」
「いやいや、ばっかぁ〜ん！」
　どうも、女は、オ○ちょの中の、上っ面の襞肉のあたりが、感じやすいようであった。
　と、部屋が暗くなる。灯心の菜種油が、切れたようだ。
　あたりが、暗闇になる。
　新十郎に、集中力が芽生えてくる。
　指で、おんなの、○めちょの中をかきまぜながら、口をオサネ（陰核）のところに持っていき、そのオサネを、チュウチュウと吸ってやる。
「ハァッ、いいー」
　今度は、舌の先っぽでもって、オサネをペロリッと、舐め上げてやる。
「アンアン、そんな、遊ばないで！ きて きて、はやくぅん！」
　そうはおっしゃっても、新十郎としては、闇の中で、遊びにふけりたい。
　人指し指で、こりこりと、オサネを掻きながら、薬指と小指で、オ○ちょの入り口の辺りを、ちょこちょこと、かまってヤル。
「ハン、いいわ、いいわ、佐助、来て来て」
　暗闇の中で、新十郎は、目を丸くしている。
（こやつ、佐助と、まちがえ、やーがぁって）
　そうは思うが、股間のせがれの奴は、ビックンと反応している。
　新十郎は、いたずらッ気を出した。
（佐助ではないことを、わからせてやろう。むしろ、あの年上の、甚平とかいう男のように、股ぐらを大きく開いて、わしのモノをぶち込んでやろう、そうすれば、佐助ではないと、わかるだろう）
　新十郎は、身を起こして、女の股ぐらの間に入り込む。
　足を開かせ、膝のところで折り曲げさせる。
　ちょっと、人指し指と中指の指先で、○メちょの中をいじくる。十分濡れそぼっている。
　おのれの硬く、天を仰いでいるモノを、押し下げるようにして、ねじり込む。
「あっ、ああっ、イっいーっ」
　少し、抜き差しをしてみる。小雪より、中が、少しゆるめかな、と思うが、中のおつゆは多（おお）そうな。
「アンアン、佐助、いいよ、いいよ」
　まだ、女は、若い佐助が抜き差しをしていると思っているらしい。
　にくらしくなって、硬いモノを、グリグリッと、中で、ヒネくってやった。
「ハァン、いやっー、もぉー」
　新十郎は、今、攻めている相手が、佐助でもなく、甚平でもないことを女にわからせてやろうと、硬いモノを奥までねじ込みながら、ねじ込んだままで、腰を大きく回して、中を掻き回し、一方では、オサネを親指の腹のところで、こすってやった。
「ハン、ハン、いいよ、イキそうよ、イキそうよ。佐助、一緒に、一緒にね」
　闇の中なので、わからないが、女が、腕を伸ばしてきたような気配がする。
　佐助を求めている女が、かわいそうになった。
　それで、反らしていた上半身を、ゆっくりと、女の上体にあずけていく。
　女と、胸と胸とが合う。
　胸のあたりに、女の柔らかい胸を感じるのは、いい。
　そして、新十郎は、女と重なり合って、女の首根ッ子のあたりに、おのれの顔をくっつける格好になった。
「ハァ、ア〜ン、やっと来てくれたのね、佐助」
（わしは、佐助ではない）
　新十郎は、そう思うのだが、股間のせがれの奴は、女の中で、ますます、大きく膨らんでいくのだ。
　そして、動きたくなって、上体を女の胸にあずけながら、尻だけを少し持ち上げるようにして、小刻みに動く。
「アッン、いいわ、いいわ、佐助。お口を、お口を吸っておくれ」
　仕方がない、新十郎は、女の肩口のあたりに置いていた顔を正面に移動させる。そして、おのれの口で、女の口をふさぐ。
　と、なんと、女の口に、おのれの口をつけたとたん、女の方が、口を吸ってくるのだ。
　その吸い方の上手なこと。
　新十郎は、小雪に、こんなことをされた覚えがない。
　口唇を女に吸われながら、目の中が熱くなり、頭の中がジーンとしてくる。
　新十郎は、思わず、腰の上下動を速めている。
「アンアン、イクイク、イクーッ」
　新十郎は、手をすばやく女の腋から下へ差し込み、女を背中から抱きかかえるようにして、女の唇を吸い上げた。
　ドクドクドックーーッ！
　腰から背中に突き抜ける激情の嵐が、頭の脳味噌まで痺れさせたと思うや、新十郎は、女の中に、したたかに、吐いていた。