第６章 クロスポイント

　その日は縛られたまま、バイブを入れられ、菊門を責められ、数限りなくいった。セックスがこんなにも奥深く、官能を呼び覚ましてくれるものだとは全く思わなかった。
　プレイが終わり、温室の入口にあるバスルームで身体を流し、化粧台の鏡で自分の身体をじっと見つめていた。
「どうしたんだい、ぼんやりして」
「ねえ、あたしってやっぱりオバサン？」
　後ろから抱き込むように覆いかぶさってきた夏彦に対し、下を向きながら少女のようにすねる。夏彦の若く艶のある手を触り、めぐみは張りを少し失った手を見て、さらにたるんだ下腹の脂肪を見ていると自然と涙がポトリと夏彦の手に落ちた。
「泣いているのかい？」
「ううん……」
「身体は老いてくる。それはどうしようもないことなんだよ。まして、めぐみのように２人の子を育てていればなおさらだ。でも君の心は瑞々しい、その心が廃れない限り、ぼくは愛することができるし、欲情してしまう。自分に自信を持ってくれ」
　気が付いたときは夏彦の胸の中で泣いていた。小さいころ悪いことをしてお母さんに叩かれて泣いたときよりももっと泣いてしまった。そんなめぐみの髪を優しく撫で、接吻をしてくる夏彦にただ甘えることしかできなかった。
「帰りたくない……」
「帰らないと子どもたちが待ってるよ。ぼくは家庭を犠牲にしてまで愛欲にのめり込む女は嫌いだ。頑張ってみてどうしてもダメで疲れて泣きたいときはぼくの胸に飛び込んでおいで。分かったかい？」
「うん」
　夏彦が父のように見えた。現実の父は優しいことはひとつもしてくれなかった。信一も同じだった。汗と爽やかなコロンと恥ずかしいおしっこ……、ギュッと抱きしめると夏彦も同じくらいきつく抱きしめてくれた。

　それから１ヶ月してまた夏彦と会うこととなった。ちょうど秀美と冬彦が来ていて、冬彦は気まずい表情で目にしわを寄せ、机をトントンと指先で叩いていた。
　そこへめぐみが現れる。めぐみは応接室に通される。
「来たかい。まあ、そこに座ってくれ」
　秀美の隣に座らされる。見たこともない美人の横に座り、緊張してしまった。やはり、彼女がいたんだ、そう思うと自分は遊ばれていて、当たり前のことに気づかない自分が悲しく、美しすぎる彼女に嫉妬した。
「兄貴、女を囲っていい気なもんだな。自慢しにおれを呼んだのか？」
「囲ってるわけじゃない。彼女には自由にさせているし、立派に仕事もこなしている」
「要点を言ってくれ！兄貴の説明は口説い！」
　冬彦の荒々しい態度は秀美とめぐみを閉口させてしまう。同じ兄弟とは思えないほど性格も容姿も違う。独特の個性的なキャラクターを持っていることは同じなのだが。
「冬彦よ、一度時間も仕事も忘れて女を抱いてみる気はないか？」
「なんだと？」
「焦ってばかりだと仕事は空回りする。そういうときはアポを全てキャンセルして思いっきり遊んでみるんだ。そうすれば素晴らしいアイデアが浮かんでくる」
「馬鹿言うな！おれを兄貴と一緒にするな。女などビジネスには不用だ。おれはもう帰るっ！」
　そういって席を立った冬彦の前に秀美が立ちはだかる。チラッと夏彦に視線を送ると夏彦もウインクして返した。すでに話しはできあがっているようだ。
「どうしても帰るの？」
　秀美が甘い声を出し、冬彦のスーツのボタンを外す。明るく染めた髪からはほんのりとグッチの香水が漂ってくる。
「馬鹿っ、やめるんだ！」
　それでも秀美はボタンをすべて外すと、下半身にあるふにゃふにゃした物を優しく掴んで揉んだ。さすがに冬彦も力ずくで秀美を押しのけるわけにはいかない。彼女の柔らかい胸の谷間がドレス越しに見え、乳首がシャツの上から感じられる。
「夏彦、親父が見ると嘆くぜ。女に骨抜きにされたってよう」
「それじゃ親父に電話してみるか。親父も少しは休めって言うだろうぜ」
　冬彦はうぬぬ、と呻くと秀美を軽々と抱きかかえた。
「どこですりゃいいんだ？」
「一緒に行こう」
　夏彦はめぐみに立つように言い、一緒に例の温室ルームへ向かった。室温は22度、快適に自動調整されている。夏彦の身長は180あるが冬彦はそれよりも高い。190近くはあるだろう。さらにガタイもいいので、プロレスラーが歩いているようだった。
「負けたよ、今日はすべて忘れて遊んでみるか。それにしてもいい女だな、兄貴」
　シャワー室で軽く浴びたあと４人はプレイの準備にかかった。冬彦は大きくベッドで寝そべっている。秀美はそんな冬彦にソープランド嬢がするように優しく身体を撫で、乳房で男根を挟み込むと陰部を冬彦に見えやすいように尻を突き出して見せる。冬彦は無表情に秀美の陰部をごつい指でなぞりあげると痛がる犬よりもか細く締めあがった声でああん、と喘いだ。
　夏彦はめぐみの傍によると言った。
「今、めぐみの一番したいことをしてごらん」
　めぐみは我を忘れたようにあそこに手を持ってゆき自慰をはじめ、それから夏彦の股間に潜り込んでまだ萎えている男根を口に優しく包み込んだ。
「夏彦、あたし、どれだけ我慢したのかわかる？」
「いっぱい我慢した？」
「泣きたいくらい……」
　そう言いながら飢えた獣のように男根にむしゃぶりついた。このまま彼を占有したい、しかし、目の前に秀美という極上の美人を見せられて嫉妬が何倍にも湧きかえり、余計に夏彦を感じ、その姿を秀美に見せてやりたい気持ちになる。
　冬彦は気持ちが高揚してくると立ち上がってそのまま挿入しようとする。
「待って」
「うん？何かあるのか？」
　秀美は優しく冬彦を寝かせ、指で男根が萎えないように軽く愛撫しながら耳元で囁いた。
「ばかね、女はデリケートな生き物なのよ。そんなに強引に行こうとしちゃだめ、優しい言葉のひとつでもないと受け入れられないの……」
「セックスなんて行為に言葉などいるのか？」
「いるわ、言葉ひとつで感じ方が全然違うの」
「そうか、じゃおれはお前に何て言えばいいんだ」
「気の利いたことをお願い」
　冬彦は眉間にしわを寄せ、腕時計を見る。しかし、秀美は腕時計の盤面を隠し、吸い込む目付きで冬彦の目を覗いた。しわが引き、少年のような初々しい顔になって呟く。
「大好きだ」