女性の名は柳澤秀美。23歳である。ナイトクラブ「ル・メール」のホステスであり、女性雑誌「RinRin」のモデルでもある。
　夏彦とは仕事の関係から知り合った。RinRinの編集委員をやっている男から秀美の話をきき、是非彼女を使ってくれとの依頼からであった。
　秀美とル・メールで話すうち、彼女の強い情熱にひかれていった。彼女としては将来的に海外でブティックを経営したいという夢があった。そのためには、自分を海外で世話してくれるパトロンが必要であった。夏彦は資力もあり、海外の事情にも通じているということで自分の探している人間としてぴったりであった。
　秀美とはすぐにでも関係に持ち込める状態であったが夏彦は思いとどまった。
　そして、将来的な話をしようということで別荘へ誘ったのだ。
　執事がテーブルにグラスを2本載せて現れた。
「お待たせいたしました。…サマルカンド・ブルーでございます。」
　カクテル・グラスに注がれたサマルカンド・ブルーは見事なまでに青い輝きを放っていた。秀美は目を潤ませながらグラスの青を見つめていた。
「君の心そのものの色だね。」
「どうしてそんなにあなたは女心を掴むのがうまいの？」
「正直にものを語っているだけさ。」
「…私、あなたにほれてゆくのを感じるわ。」
「ところで、将来的な話なんだけど…」
　夏彦は切り出した。
　秀美は夏彦の目をじっと見ている。
「君を全面的にバックアップすることに決めたよ。…君は来月からイタリアに行ってもらう。そこで雑誌のモデルをしてもらい、ファッションの勉強をする。向こうのナイトクラブのホステスの口も見つけておくから、そこでお金を稼ぐんだ。３年後にブティックオープンの段取りだ。もちろん資金の援助は心配しなくていいよ。…それでいいかい？」
　秀美は眼に涙を溜めていたかと思うと、ポロポロと泣き出してしまった。
「信じられない話だわ。…まるでおとぎ話…」
　夏彦は席を立ち、秀美のそばに立った。スーツのポケットからハンカチを取り出し、秀美の涙を拭いてやる。
「君のような美人に涙は似合わないよ。」
　秀美は夏彦の頭の後ろに手をやると自分の顔に引き寄せる。
　二人の唇と唇が触れ合った。舌を絡ませたが、夏彦が自分から離れた。
「夜はまだ早いよ。」
　秀美はすぐにでもベッドインしたい様子であったが、夏彦はじらさせた。
　二人でサマルカンド・ブルーを乾杯し、将来の夢についていろいろ話し合った。
　それから、二人とも水着に着替え、プールで泳ぎ、夕食のディナーを食べた。
　食べ終わったとき時計は夜の８時をまわっていた。
「さあ、お腹も満たされたことだし、これからどうしようか？」
　夏彦は意地悪くきいた。
「まあ、ほんとに意地悪なのね。…あたし、もう欲しくてたまらないわ。」
　秀美は夏彦にもたれかかった。
　夏彦は秀美を部屋の１室に案内した。
　ディスコボールが部屋を照らし出し、ダブルベッドが中央に置かれてあった。夏彦は秀美をその中に案内し、言った。
「ぼくは用があって、すぐ戻ってくるからここでおとなしくしてるんだよ。」
「んもう…いつもあなたったら、そうやってじらすんだから…」
　そういって、夏彦は部屋を後にした。
　夏彦は部屋を出て、隠し通路を通り、秘密の小部屋に入った。そこからは秀美のいる部屋がマジックミラーでのぞけるようになっており、夏彦は椅子に腰掛けた。
　秀美は最初、じっとしていたが、５分もたつとミニスカートを自分から引き上げ、パンティの上から自慰をし出した。
　夏彦はそんな様子を見て、バージニア・スリムに火をつけながらつぶやいた。
「はしたない女だ。…ふ、ぼく好みだ。」
　夏彦にはすべてお見通しだったのである。秀美に近づいたのも秀美のマゾ特性に気付いていたからである。ル・メールでＳＭ緊縛ショーの写真を見せ、芸術としてどう思うか意見を求めたところ、顔を上気させ興奮していた。「恥ずかしいわ…」の意見に秀美が倒錯の世界に引き込まれてしまったことを夏彦は見抜いた。
夏彦は壁にあるボタンの一つを押した。
　催眠ガスである。
　秀美は自慰にふけっていたが、催眠ガスの効果がきいてきたのか、股に手をあてたまま眠ってしまった。