「そんな、約束が違うじゃねえか」
「すぐに……とは誰も言ってないが」
　涼しい顔をして、リカの顔を眺めながら、道具を片付け、椅子に座った。
「君は今まで何度、嘘をついてきたのかね。今日も僕から金だけ巻き上げ、トンズラするつもりだったのだろう。１時間、今までの自分の態度を反省するんだ」
　そういうとバージニア・スリムに火を点け、仕事の後の一服を楽しむ。その間にもリカの状態はいよいよ緊急事態の様相を呈し、身体をくねらせながら必死に便意を堪える。
「どうした、まだ５分も経っていないぞ」
「うう……悔しいよ。なんで、あたしがこんな目に……」
　目に涙を滲ませて、自分の境遇を嘆くが、それで縄目を解いてトイレに行かせるほど夏彦は甘くなかった。
「そうやって涙を流して反省するんだ。人の涙の味が分かるくらいにな」
　冷たく言い放った夏彦の言葉には、単なる陵辱だけでなく、リカへの戒めの気持ちが含まれていた。強気な性格の裏に隠された女の弱さ、それを見抜いていた。
「だめ、トイレに行かせて」
「だめだ……」
　リカの状態が尋常ではなくなってきて、激しく身体を揺する。よく見ると、鳥肌が立っているようで、我慢の限界を超えていることが伺える。肛門からプププと空気の泡が立ち、漏れ出た黄色い液体が秘部の方へ垂れてゆく。
「だめ、ほんと、漏れちゃう、漏れちゃうよぉ」
　もう泣き声だった。強気なリカは完全に成りを潜め、弱く無邪気なリカが眼前に迫る絶望に向かって、一生懸命立ち向かっている。
「あっ、あああ……いやっっ！」
　チューーッと一筋の液体が肛門から放物線を描きながら飛び、夏彦の足にかかった。
「まだ、トイレに行っていいとは言ってないが、我慢できなかったのか？」
「ああ……あああ……」
　ただ痴呆のように呻いて、必死に便意を耐えているだけだ。肛門から垂れた液体が陰毛からポタポタと落ちている。
「漏らしたら、もっときついお仕置きが待っているぞ」
「あ、ああ……いや……」
　リカの腸の中は限界を超えた液体が外に出たがり、暴れまわっていた。いつしか、我慢は吐き気まで催し、脂汗でベトベトの顔は、青白く死人に近くなっていた。
　プププ、またリカの肛門から空気が漏れ、液体が少し漏れ出る。しかし、それも次の瞬間、大きく崩壊した。一瞬、身体が痙攣し、肛門がピクと盛り上がった感じがした。
「あっ、いやっ、あああぁぁぁぁぁ……」
　絶叫とともに、大量の液体が少量の固体を混ぜながら、肛門から噴火した。ビュビューッと音を立て、床を汚したのを皮切りに、散発的にブブーーッ、などと下品な音を立てながら床に、黄色い液体と、茶色の固体を撒き散らし続ける。ププププププと、泡を出しながら肛門が崩壊の余韻を呻かせているのは、リカの女としてのプライドをズタズタにするには十分だった。
　静寂が訪れ、泣き崩れた女の姿と、恐ろしいほどの臭気を放ちながら拡がっている糞便だけが、光りを帯びて、絶望の風景を醸し出していた。

　夏彦はリカの顔を上げさせ、糞便の方へ向き直らせる。
「見ろよ」
「……」
「これがお前の姿なんだ。分かるか」
「……」
　横を向いて、目をそむけるが、それは糞便に対する嫌悪ではなく、自分の行為に対する嫌悪だった。
「自分と向き合うのもいいかもしれない」
　夏彦はそういうと、糞便の海の真ん中へリカを押しやり、固体が盛り上がっているところへ顔ごと突っ込ませた。
「いっ……うっ、うっぷ……」
　むせ返り、思わず咳込むリカ。
「自分に対してそれはないだろう。いい匂いだとは思わないかね」
「……くそ」
「しばらくそうしているんだな」
　そういうと、背を向け、部屋を後にする。地下室のドアがバタンと閉まり、臭気だけを閉じ込めて、リカを孤独の淵に追いやった。
「くそ……くそ……」
　涙を流しながら、ひたすら低く呻き続ける。臭気は密度を増し、息をするのさえ困難だった。さらに追い討ちをかけるように、部屋のむし暑さが体力を極度に消耗させる。

　どれくらい時間が経ったか、部屋の換気扇が回り、臭気を外へ追い出す。冷たい水が放水され、糞便をどこかに押しやってゆく。縄目を解かれ、暖かいシャワーの感覚を感じ、フカフカのベッドの上に横たえさせられた。それを夢うつつの中で感じていた。
「うっ、おえぇぇっ……」
　胃の中がむせ返り、吐こうとするが、すでに吐くものがなく、胃液と唾の混じった粘液だけが涎のように口から滴る。
「まだ、後遺症が残っているな」
　背中を優しくさすりながら、震えてうなされているリカに声をかけた。
「くそ……」
　まだ夢うつつの中で、さ迷っている。そんなリカを優しく抱きしめ、身体を撫でた。

　気付いたときは夏彦の胸の中にいた。吐き気もなんとか治まり、意識もしっかりしてきた。それに従って、自分が夏彦に抱かれていることに気付き、股間に手を当ててみる。レイプされた形跡はないし、夢うつつの中でも暖かく包んでくれる感覚があっただけだ。
「どうしてやらないんだよ？」
　リカの言葉に気付き、夏彦は手を離し、ベッドの横に腰かけた。
「そのために君にあんなお灸をすえたんじゃない。自分を分かってもらいたかっただけだ。それよりも喉が渇いたろう。お茶を持ってくるから、そこで寝ていなさい」
　夏彦は立ち上がり、部屋をあとにしようとする。その後ろ姿にリカは思わず声をかけた。
「待って……」
「なんだい？」
「ありがと」
　小さな声だったが、言った途端、顔が赤くなってしまった。なぜそのような事を言ったのか、自分でも全く見当がつかない。ただ夏彦が悪人でないことが分かった。今まで接してきた身体目当ての男たちとはどこかが違う。夏彦に背中を撫でられた感触を思い出しながら、彼氏にそんなことをしてもらったことがあったのだろうか、と思い返してみた。
　夏彦がお茶を持ってくると、手に取って、口に持ってゆく。薄いハーブ・ティーで、胃の調子の悪いリカにはちょうどよかった。飲み終わると、ベッドに横たわる。とてもいい気持ち。夏彦がバラけた髪を優しく撫でてくれる。一瞬、笑みがこぼれた。そんなこと有り得ないのに。