また例の地下室で、縛られている。後ろ手に組まれ、高手小手という縛り方で、身動きが取れないでいる。ただ、上半身だけ拘束されているので、下半身は自由がきく。
「どうするつもりだよ」
「これさ」
　そういうと、９尾の狐と言われるムチを手に持ち、パシンと自分の手に叩きつけた。小気味いい音が響き、部屋の空気が緊張で締まる感じがする。
「そんなもので、あたしを叩いて、お前ってほんとヘンタイだね」
「おれには１人の女がいる。……彼女はムチを浴びたとしても、それを喜びに変えてしまうだろう。まあ、ムチを浴びせようとは思わないがね」
　夏彦は椅子に腰掛け、目を遠くの方へ向けさせ、自分だけの世界に浸る。
「そんなにその女のことがいいんなら、さっさと行っておま○こでも舐めさせてもらえよ」
「全然、分かってない……」
　目がキラッと光り、一瞬鋭い視線で睨みつけたが、また遠くの方に目をやって自分の世界へ戻る。
「彼女は君とは全然違う。羞恥の心を持ち合わせ、言葉遣いも丁寧だ。何よりも、どうすれば僕に好かれるか、好かれるためにはどうすればいいか、いつも考え、女として牝として最も美しい姿を見せようと彼女は必死に考えている」
「そんなにすごいのなら、さっさと女のもとへ行けっつってるだろ」
「幻影だ……」
　また夏彦の目がリカを捕らえ、凝視する。まるで魔物でも住んでいるような目に睨まれると、リカは身体がすくみ、普段なら絶対感じるはずのない恥ずかしさが湧きあがってくる。まるで母親の前で何もできない赤子のような気分だった。
「彼女には大きな夢があり、僕はそれをかなえてやりたい。そうすることで彼女はもっと美しくなり、愛は深まる。しかし皮肉なことだが、会えなければ会えないほど、彼女を抱きたくなる。その彼女への思いが、君を調教することによって昇華されてゆくんだ。僕のわがままかも知れないが、君を彼女、秀美に仕立てあげたい」
「……」
　夏彦の強い口調に何も言い返すことができない。強い思いが自分に向けられれば向けられるほど、秀美の人物像が気になってきた。夏彦は立ちあがり、ムチをしならせながら、こちらに近づいてくる。
「秀美って女、よっぽど凄いんだね」
　妙なライバル意識が浮かんできた。関心などないはずなのだが、気になってしまう。夏彦をここまで惚れさせる女というのが、一体どういう女なのか。女として第一線で活躍し、流行にも敏感だと自負しているリカにとって、得体の知れない女に負けるのは絶対嫌だ。
　ああ、と言って、夏彦はムチを振りかぶり、胸の谷間へ振り下ろした。パシーンと高い音がして、胸に鋭い痛みが走った。
「痛ってぇぇ、痛えじゃねえか、クソヤロウ」
「まだ言葉が治らないな」
　恐ろしい形相で睨むリカを正面から見返し、夏彦はまた振りかぶった。
　振り下ろされ、今度は背中を直撃した。
「くそっ、痛えぇ」
　痛がるリカに構わず、ムチを振り下ろす。パシン、パシンと部屋の中に響き渡り、肌色の肌に、ミミズ腫れのような赤い筋を無数に刻んでゆく。最初はなんとか我慢できたリカだったが、容赦のないムチが振り下ろされ、思わずを悲鳴をあげていた。
「いやああぁぁぁ！」
「どうしたんだ。これくらいで音をあげるのか？」
「うるせぇ、ちきしょう」
　夏彦のムチがさらに激しさを増す。あまりの痛みのため、立ち上がって逃げ出そうとするが、足を引っ掛けられ、床に前のめりに転んだ。そこを追い討ちをかけるように、ムチの雨が襲ってくる。
「ち、ちょっ……ちょっと……」
　ムチを振るう手を止め、夏彦は聞き返す。
「ちょっと、なんだ？」
「……痛い……んです」
　そういった途端、涙がポロポロ溢れ出す。ムチの痛みではなく、夏彦の仕置きに屈する自分に対しての悲しさ。ただ悔しい、それだけだった。
「素直になったじゃないか。これからは丁寧な言葉を遣い、言うことをちゃんときくか？」
「……うん」
「うん、じゃないだろう」
「……はい」
　涙がとめどなく溢れてくる。
「じゃ、お尻をこちらに向けて……あと100叩きで許してやろう」
「はい」
　リカは夏彦にお尻を向け、屈辱の涙を流しながら、言うことに従う。今のリカには夏彦に逆らうだけの力は残されていなかった。いつか隙があれば、脱出し、夏彦を刺し殺してでも復讐してやる、そんな気持ちは心のどこかにはあったが、浣腸といいムチといい、どうしようもない惨めな境遇の中で、牝として夏彦に従う自分に満足している部分もあった。
「１、 バシッ……２、バシッ……３、バシッ……」
　夏彦の声とともにムチが双臀に振り下ろされる。形のいい尻たぼはみるみる桜色に染まり、いつしか痛みとは違う、艶かしい声をあげていた。
「100、バシッ！」
　数え終わると、リカはうつ伏せに倒れ、呆然と眠ったように動かない。夏彦はそんなリカの股間に手を入れ、秘部を指でなぞった。
「リカ、ムチで感じるなんて淫乱になったな」
「……」
　夏彦に愛液で濡れた指を頬に塗られ、知らぬうちに感じてしまったことを知った。もしかしてあたしってマゾかも……そんな考えが頭の中をよぎる。すぐに否定するが、感じてしまっている自分がいたことも確かだ。分からなくなってきた。このまま堕ちてしまっていいのか。