【　宅配便は二度ベルを鳴らす・�@　】*** 三話完結 ***

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〜あらすじ〜

　３６歳の独身男・伏見一雄は通勤電車内の痴漢の冤罪で検挙・逮捕された。冤罪をでっちあげたのは２７歳の独身女性・三栗日登美(めぐりひとみ)であった。日登美は痴漢の冤罪をでっちあげた上で告訴を取り下げる示談金目当てで詐欺をするという、今の時代の新手(あらて)のビジネスを生業の一部としていた。昼間の正業に就けずに夜にバーのホステスをするような人種である。

　伏見一雄は示談金の支払いを拒絶しただけでなく検察とまっこうから勝負して無罪を勝ち取ったが、その係争期間中に伏見を待っていたものは会社からの解雇通告であった。世の無情を痛感した伏見であったが、とにかくもメシは喰わねばなるまい…。場つなぎ的に「白猫ヤマトの宅急便」のアルバイト・ドライバーとして勤務することになった。

　伏見は日登美に関しては恨みを持っていなかった。というより、復讐しようにも証拠もないし復讐が成功したところで元の会社には戻れないのである…。そして、根っからの実直・努力肌の伏見を評価した「白猫ヤマトの宅急便」は彼を正社員にして現場指導者として厚遇してやった。伏見はそういう会社の期待と誠意に答えるべく日々汗を流して勤務に精進していた…。

　そんなある日…。

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１．【 痴漢冤罪被害者・一乗寺堅二の入社… 】


　伏見一雄の勤務ぶりは素晴らしく、「白猫ヤマトの宅急便」営業所において新人ドライバーの研修を任されるまでに会社側から信頼される人材となっていた。既に、運輸系の国家資格も取得して、「白猫ヤマトの宅急便」菊名営業所の幹部候補生となっていた。そして、新人アルバイターの面接も担当してドライバーとの同行も実地訓練する日々の中で、自分と似た雰囲気を持つ一乗寺堅二(３８歳・既婚者)という男が入社した。アルバイトとしての試用期間も一乗寺は難なくこなし、３ケ月目に入った時に、伏見は一乗寺の慰労とお祝いを兼ねてささやかながら酒の席に招待した。

　一乗寺も伏見の人柄に敬意を表し、酒の席は男同士の気さくな飲み会に発展する…。


「伏見さん…。色々と私を可愛がって下さって感謝してます…」
「一乗寺さんこそ、前向きな勤務姿勢は会社から評価されてますよ…。まあ、今日は無礼講です！どんどん、飲んで下さい！ハハハ…」

「ところで、伏見さん…。失礼なことを伺っていいですか？…」
「ええ。答えられる範囲なら…」

「前の仕事は何をされていたので？…」
「ええ。商事会社の営業部門におりました…。でも、クビになりました！ハハハ…」


　伏見一雄は痴漢冤罪なんて話は他人にするつもりは毛頭ないし、既に過去の"不幸な事故"として割り切っていた。だから、一乗寺に"不幸な事故"の話などしない。伏見も一乗寺も自分の過去の不慮の冤罪への同情を求めたりする気風の男ではない。そういう気風の持ち主であることをお互い悟った両名は、気心の深密度を爽やかに深くした。


「ところで…。一乗寺さん…。私が思うに、あなたこそ、なんかスゴイ・優秀な仕事をされてたんではないですか…？私はそんな気がします…。他のアルバイターとは二枚も三枚も役者、というか、能力が違う気がする…」


　一乗寺は笑った。一乗寺のほうからも伏見は自分と同じニオイがする男だと思ったからだ…。


「いえ…。伏見さん…。たまたま、偶然ですが私も"不幸な事故"で会社をリストラされました…」
「…」

「伏見さん。私の話を聞いて下さいますか？…」
「聞かせてもらってもいいが…、私はお喋りですよ！…。直ぐに他人に喋りますよ…(笑)」

「いえ、伏見さん。私の目は節穴ではありません。あなたは口が堅い。そのあなたに他言されたとなれば、私は神と仏に見放されたということで諦めもつきます！笑」
「…。そんなに、お話しをされたけりゃ…、どうぞ…」


　一乗寺堅二は通勤電車内の痴漢の冤罪で検挙・逮捕された過去を全て、包み隠さず伏見一郎に話をした。伏見は絶句した…。伏見は一乗寺に同情を禁じえなかったことは(自分と違って)、一乗寺は妻有る身だったことである。独身の自分でも痴漢の冤罪に対する偏見に対しての闘争には、相当な決意と精神力を要したのに、妻帯の身となると想像を絶する偏見の目が注がれるのである…。


　伏見は、場所を変えようと一乗寺に提案した。
　お互い、明日は非番である。東横線菊名駅近くで最近オープンした本式のバーテンダーのいるバーに一乗寺を案内した。バーで二人とも薄めのウイスキーの水割りを注文した。伏見一郎は口を開いた。


「一乗寺さん。実は私もあなたと同じ目に合いました。私は東横線です…」
「ま、まさか…。わ、私は京浜急行です…」

「ハハハ…。私の場合は無罪放免となりましたが、拘置中に会社から解雇を通告されまして…」
「わ、私もです…。しかし、私の場合は痴漢の被害者側からの示談の話がありまして…。１５０万円払ったので告訴は取り下げでした。しかし、私の会社はここのところ景気が悪くてね…、それを理由に私も会社を解雇になったんです」

「し、しかし…。なんか似たような話だな…。もしかしたら、通勤途中のサラリーマンを狙った示談金目当ての詐欺じゃないですかね…」
「伏見さん。私もそう思うんです。実は…、私に痴漢の濡れ衣を被せた女の家に、偶然にも先週私は荷物を配達したんです…」

「ほ、本当ですか？それ！」
「ええ。向こうは気が付いてませんでしたが、私には一生忘れられない顔ですし…。ええっと、神奈川区赤島町の４丁目のマンションです」

「…」
「それに、女の側が私の顔に見覚えが無いというのも気になりましてね…。本当に痴漢されたら、憎い男の顔を見忘れたりしますかね？…」

「ああ。言われてみると一乗寺さんの言うとおりだよ…。で、その女の名前は？」
「白川日登美です」


　日登美と聞いて伏見は一瞬、自分を陥れた三栗日登美を思い出したが、苗字が違ったので別の事に話題を変えた。


「で、一乗寺さん。白川日登美って女は美人ですかね？笑。いや、失礼…。私を陥れた女もそこそこの美人でしたしね…(笑)」
「ええ、まあ。見方によっては美人でしょうね…。巨乳でロングヘアでまあまあスタイルもいいし…。まあ、私の好みではないですが…」

「歳はいくつくらいの女です？それと独身ですか？」
「歳は知りませんが、３０前という感じですかね。それと…、最近結婚したばかりみたいですよ！」

「結婚したばっかり、って、なんで分るの？」
「ええ。お祝い物が多いんです、荷物は…。それに、旧姓宛での荷物も時々届けてますしね…」

「き、旧姓って…？」
「はあ、確か…、三栗でしたっけ…。漢字の"三"に"栗"と書いて"メグリ"と読むようです…」


　伏見一郎は絶句した。
　こんな偶然があろう筈が無い…。


　第一、痴漢に対して示談金などを求めてくる例は極めて稀である。
　〜それを、伏見と一乗寺は両名揃って要求されたし、金額も１５０万円である〜

　それに、痴漢の被害に何度も合うというのもオカシイし、被害に合った鉄道会社が違うというのも不自然である。〜東横線と京浜急行では(同じ東京方面行でも)終着駅は違うのだ!!〜

　伏見は飲みかけの水割りをゴクリと一気飲みしてウイスキーロックをバーテンダーに注文した。
　そして、一乗寺の話もうわの空で、考え事に耽った…。

「やはり…、そうか。三栗日登美は冤罪をでっちあげた上で示談金目当ての詐欺で稼いでいたのだ…。自分も一乗寺も被害者だ…」という結論に至った…。
「伏見さん！どうかしましたか？酔いがまわりましたか？」という一乗寺の声で我にかえった。


「一乗寺さん。すみません…。話は聞いてます。ところで、一つ教えて下さい。答えたくなければ黙秘でけっこうです…」
「はあ、なんでしょうか…」

「あなたをヒドイめに合わせた白川日登美の痴漢ですが…、もし、示談金目当ての詐欺だったらどうします？…」
「殺したい…。というのは嘘ですが(笑)、そうですね…。レイプくらいはしてやりたいですね…(笑)」

「本気ですか？」
「いえ。実際には無理でしょう…」





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２．【 第三の痴漢冤罪被害者登場… 】


　菊名のショットバーでの「痴漢冤罪」の話はその店・その場限りであった。
　迷惑防止条例違反程度の痴漢と違って、強姦や輪姦となれば刑法の重罪である。伏見も一乗寺もいざ実行となれば自分に身にどれだけ危険が伴うかくらいは理解していた。たがら、日登美の話題は早々に切り上げて、もっと建設的な人生や仕事の話に夢中になって、その日の飲み会はお開きにした。

　それから一ヶ月後、またもや、伏見や一乗寺に似た雰囲気を持つ男が入社した。年齢は４１歳の妻帯者で、やはりリストラ組で時給の良いドライバー志望であった。名は福井善三。福井は一乗寺が現場教育を担当することになり、福井も真面目な勤務態度で会社の同僚から好感された。二ヶ月後、伏見が一乗寺に酒の席に誘ってやったように、一乗寺も福井を酒の席を用意したのである。

　そして、伏見と一乗寺が飲んだ時のような話の展開となり、なんと、福井善三も痴漢冤罪がもとで会社を解雇されたということが判明した…。


　一乗寺は驚いた。そして、福井と飲んだ翌日に早速、一乗寺は伏見にその話をしたのだ…。
　福井を訴えたのは、やはり、白川日登美であったのだ！！


　福井善三の痴漢(冤罪)の現場は、ＪＲ東海道線の京浜東北線車輌の車中であった。
　しかも、その後荷物の配達状況などで分った事は、白川日登美は会社勤めをしない専業主婦であった…。伏見と一乗寺は菊名のショットバーで密談を開いた。



「伏見さん…。会社勤めもしない女がなんで好き好んで地獄の通勤電車に乗るんですかね(笑)、どうやら、日登美はプロのようですね…」
「ああ、俺もそう思う…」

　伏見は、自分の事を社会人の通用語である「私」とは言わずに「俺」という言葉を無意識に使っていた。

「しかも、伏見さん…。現場の路線が全て違うというのが、真っ黒な証拠ですよ…」
「ああ、そうだな…。何回も同じ鉄道会社だと怪しまれるからな…、逆に…」

「ええ。しかし、まあ、全て横浜から東京方面ってとこが笑えますよ…(笑)」
「ああ。下り方面だと車内が空いてるから痴漢は少ないしな、日登美も考えとるのよ！(苦笑)」

「伏見さん…。俺はちょっと本気で怒りはじめて来ましたよ…。殺人まではするつもりないですが、日登美の詐欺を暴きたいし、それが、無理ならせめてレイプくらいはしたくなって来ました…(笑)」
「ああ、一乗寺さん…。俺も同感です…」

「やりますか？白川日登美を犯しますか？二人で…」
「ああ…。しかし、待ってくれ。レイプなんてその気になればいつでもできる…。それより詐欺というのは暴けんか？」

「いえ。俺も考えましたが、それをやるには我々の面(ツラ)を見せんといかんでしょう。調査などしようものなら金もかかります。探偵に頼むしかないですしね…。が、そこまでして日登美の詐欺を暴いても金は戻らんでしょうし、それに…、日登美が初犯なら執行猶予が付いて終わりですよ…(笑)」
「そうか…。じゃ、やっぱり犯るしかないか…」

「と、俺は思いますが…」
「で、どういうふうに犯りますか一乗寺さん。ただ、犯すんじゃ、我々がヤバイですよ…」

「そうですね…。レイプの現場の一部始終をビデオに納めて、日登美を脅せば黙るでしょう…。元々、スネに傷のある女です…」
「旦那が怒らんかな？」

「いや…。旦那にも分るように、旦那もまとめて脅せばいいんですよ…」
「って、旦那の会社にも女房の陵辱ビデオをバラまく、って脅すわけ？…」

「ええ。そうです」
「離婚まで行きついたらどうする？そんな事にでもなれば旦那はマジで怒るぜ！…」


　一乗寺は不敵に笑った…。痴漢冤罪のお陰で自分の家庭は離婚寸前なのである…。

「いいじゃないですか、そうなっても…。伏見さん…。被害者はもっといると思いますよ…。俺と伏見さんと福井さん以外にも沢山いる筈です…」
「分りました…。一乗寺さん。どうせやるなら、日登美を破滅させましょうよ…。それくらいされても仕方ないことをしたワケだ、あの女は…」



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３．【 三者同盟成立 】


　その翌日に、福井とのコミュニケーションが深いほうの一乗寺が菊名のショットバーに福井を誘った。福井は無論付き合った。そして、二人はビールで乾杯したあと、早速濃い目のウイスキーをやり始めた。二人がバーに入店して30分程してから伏見がやって来た…。福井は突然の伏見という社内の先輩の登場に一瞬身構えたが、伏見の温厚な表情と態度を見て安心してリラックスしウイスキーのお替りをした。

　一乗寺が痴漢冤罪事件の一連の話を詳細に福井に説明した。伏見も被害者であることに福井は驚愕した。驚愕してつい本音を呟いた…。

「ま、まさか…。伏見さんまで同じ女に嵌められてなんて…。こうなったら白川日登美に復讐するしかない…」


　伏見も一乗寺も、福井の呟きに反応した。伏見は「実は、その事で私は福井さん話があって参りました」と福井の目の奥を覗いて呟き、一乗寺は「福井さんに折り入ってお話があります」と、こちらも福井の目の奥を覗いて呟いた。

　福井は、（伏見と一乗寺の）両名の意図は大体は理解できた。自分も含めた三人で白川日登美に性的暴行を加えるのだろう、と察知できた。福井善三の冤罪による損害は一乗寺よりも深刻であった。妻子は夫を頭っから性犯罪者扱いして無実を信じようともせず、福井の妻は子供を連れて荷物をまとめて自分の実家に引き上げた。籍はそのままであるが、それは福井が満足な慰謝料を提示した協議離婚に応じてはじめて妻は籍を抜くつもりであった。


　ゆえに、福井はこの両名の話には（詳細を聞くまでもなく）乗り気の態度を示した。それが証拠に、白川日登美の輪姦計画の下準備ともなるべく日登美の身辺調査や日登美の夫の日常行動などの調べ役を自ら買ってでたのだ。


「で、伏見さん、一乗寺さん。"Ｘディ"(計画実行日)はいつにしますか？…」
「それは早いに越したほうがいいが、その前に十分に日登美夫婦の日常を詳細に調べる必要があります…。一乗寺さん、福井さん、それに私も万が一にでも逮捕されるような事があってはなりません…」
「ええ。ですから日登美夫妻のことは私に任せて下さい。２週間もあれば"計画"を無事遂行できるような調査を私はやります、責任を持って…」

　福井はやる気満々であった…。伏見はそれを確認してから自分の計画のプランの一部を話した。
「実は、一乗寺さんと福井さん。あなた方お二人は不幸にも日登美に示談金を巻き上げられた。私はお二人には悪いですが、示談金の損害はありません。150万円には満たないですが、私はその分のお金を探偵屋に投入して日登美の事を徹底的に調べあげました。ですので、福井さんに日登美の調査をして頂くには及びません…」

　伏見は興信所に提出させた「白川日登美に関する報告書」というＡ４バインダーの資料を一乗寺と福井の前に披露した。一乗寺も福井も生唾をゴクリと飲み込んでバイダーを開いて資料に食い入った。

　資料の中でも特に価値があるものは、三栗日登美の銀行口座の取引明細のコピーであった…。
　この一年間に８件もの（男と思われる）全て別人名義で150万円づつ振込みがされている。その中には一乗寺と福井の名も含まれていた。すなわち「イチジョウジケンジ」と「フクイゼンゾウである。福井が怒りに任せて持っていたウイスキーグラスをテーブルに叩き付けた。グラスは勿論割れた。一乗寺が店側に詫びた上で、替わりのグラスを持ってこさせた。


「ふ、福井さん…。落ち着いてください…。それにしても…、伏見さん、これは見事な証拠ですね…。これなら、痴漢冤罪詐欺の証拠として立派に通用しますよ！」

　と、一乗寺は伏見に迫った。たが、伏見は冷静に一乗寺に応答した。

「ええ。一乗寺さん、立派な証拠にはなりますが、取引明細をよく見て下さい。詐欺による入金合計は1,200万円ですが、その都度出金されて残高は１０万円しかありません…」
「それは、どっかに別の口座を持っていて、そっちにプールしとるんでしょう？」

「いえ…。それは違います。その次の(報告書の)ページを見て下さい…。その都度、宝石屋なり一流ブランド店なりで日登美は集めた金を散財しています…。ですから…」

　という伏見の言葉の先を福井が呟くように代弁した。自分が額に汗して稼いだ金が湯水のように散在されたのだ。悔しさを通り越えた福井は夢遊病者のように呟いたのである。


「つ、つまり…。詐欺の証拠にはなって、立証できて日登美は有罪になるが、金は戻らんし、多分…、日登美は執行猶予が付ついてそれまで！という事ですな？伏見さん…」


　さっきまで冷静を務めていた一乗寺であったが、(送金者名の)「イチジョウジケンジ」と金の浪費先を知っては一乗寺も冷静でいられなくなった。ただ、福井のようにグラスを叩きつけたりしないで、ウイスキーのストレートを自分で作って３口ほどで飲み干した…。




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４．【 詳細な日登美輪姦計画 】


　そして、伏見はさらに報告書のページを先にすすめて一乗寺と福井に説明した。

「一乗寺さん、福井さん。問題はですね…。輪姦された日登美が亭主に泣きつくかどうかですよ…(笑)」
「つまりどういう事ですか？分かり易く説明して下さい」

「いえ。簡単な話、日登美が詐欺以外の弱味を持っているかどうかです。亭主に内緒の…。というか、結論から言いますと、この報告書にもあるように日登美は亭主以外の男と不倫関係にあります。厳密に言うと、独身時代の男といまだに肉体関係の交際を続けています…」


　ここまで、伏見の説明を聞いてはじめて一乗寺は伏見の意図を理解した。そして、伏見に確認を求めた。

「という事は、伏見さん。日登美を脅すネタは痴漢冤罪の件ではなくて、昔の男との現在進行形の不倫をネタにして脅す、というか口止めをするワケですか？」
「そういう事です。報告書の調べては日登美の夫は良家のボンボンです。悪い言い方をすれば、日登美の夫は日登美に首ったけで骨抜き状態です。そんな男なら妻が強姦されたくらいの陵辱なら耐えて妻を許すでしょう…。銀行の不自然な入金明細だって、日登美が本当に痴漢に合ったのだ、その示談金なのだ、と言い張れば夫は妻の味方になるでしょう…。たが、昔の男との不倫継続はいくら馬鹿なお坊ちゃまでも許さんでしょう…」

　今度は、一乗寺がその(伏見の)物語の先を代弁した。
「つまり、"昔の男との不倫継続"のネタ一本に絞って日登美を脅すというわけですね！」


　伏見は一応同意して、福井も「なるほど」と頷いた…。


　が、面白い事実の続きが、「白川日登美に関する報告書」には記されていた。実は、日登美の独身時代からの交際相手というのは、三栗日登美がおこした痴漢告発に対して、告発された男達に示談交渉を担当してきた弁護士・淡路善治であったのだ！


　この弁護士まで絡めた陰謀の証拠を目の当たりにした福井と一乗寺はにわかに興奮した。福井までウイスキーのストレートを自分で作ってゴクリと平らげた…。福井と一乗寺は興奮と感動と尊敬の眼差しで伏見を見つめた。そして、うやうやしい気持ちで一乗寺が伏見に尋ねた…。

「伏見さん…。よくぞここまで調べて下さいました。ビックリしましたよ…。これでたけ調べるには費用も随分とかかったんでしょう…。一体幾ら興信所に払ったんです？…」
「１００万円です…」

「へっ？ひゃ、１００万も…」
「本当は、１５０万円まで出すつもりでしたがね…(笑)。担当してくれた探偵が我々に同情してくれて値引きしてくれたんです…(笑)」

「で、でもいいんですか？我々の為にもなる事ですよ、幾らか私が払いますよ、伏見さん…」

　福井も今の一乗寺の意見に同調して喋った。一乗寺も福井も酔いがまわって気が大きくなっていた。それにこれだけの証拠と日登美の弱味さえ握れば殺人でもしない限りは、日登美をどういう扱いにして痛めつけても訴えられることはないだろう…。

「伏見さん。私にもお金を分担させて下さい…。いえ、キリの良いところで三人で三等分しましょうよ！３３万づつ、というふうにしましょう！」


　一乗寺も福井の３３万円負担説に同意した。考えてみれば150万円までは出費する覚悟でいた、という伏見の言う１５０万円とは、自分と福井が日登美に巻き上げられた150万円と同額にする為に伏見が覚悟した出費額であることを一乗寺も理解した。共に戦う同志なのである…。

「伏見さん。私も福井さんと同意見です。今はありませんが来月と再来月に分割して３３万円をお支払いします。いや、払わせて下さい！」


　伏見も両名の意見に感謝した。たが、伏見には"日登美輪姦だけ"というプランだけではなくて、日登美の共犯者である弁護士・淡路善治の恐喝まで視野に入れてのプランである…。伏見は満面の笑みで二人に語りかけた…。


「一乗寺さん、福井さん、ありがとうこざいます…。３３万円はお気持ちだけ有り難く頂戴します。ですが、私の負担した１００万円は直ぐに戻るお金です…。いえ、あなた方が騙し取られた１５０万円も事が全て済めば戻るでしょう…。残念ながら以前の会社への復職というわけには私も含めて叶いませんが…」


　一乗寺も福井も息を飲んで伏見の話の続きに聞き入った。


「ここまで、お話しをすれば、もうお分かりでしょう…。憎い日登美は勿論、輪姦します。
　できればその輪姦で日登美を妊娠させてもいいと考えるくらい私は日登美を憎んでます。そして、憎しみを通り越えて許してはならないのは日登美の共犯者である弁護士・淡路善治です！！コイツからはまず示談金詐欺で手した金を放出させます。そして、その金が我々の手に戻ったのを確認してから、しかるべき方法で淡路善治を破滅に追い込みます…」

　ここまで、聞いて一乗寺と福井はテーブルの上の伏見の両手を熱く握りしめた…。
　あとは、伏見のプラン通り実行するだけである…。