SCENE 37

　午後になると恵美子がやってきた。
　ダイニングテーブルに卓也と並んで座り、妙子は向かい側に座って教えはじめた。
　妙子は卓也の集中力が上がっているのに驚いた。以前なら難しい問題にあたると煮詰まってしまうことが多かったのに、今日は黙々とペンを走らせている。思い当たることはひとつしかない。この状態が続けば合格は間違いないだろう。
（こんな効果があるなんて‥‥）
　むしろ集中力が続かないのは妙子の方だった。今朝のことを思い出してしまい顔が赤くなってしまう。
　しかし、変化は妙子の方にもあった。気分が晴れやかだし化粧ののりもいいのだ。
　恵美子など、その成熟した色香に圧倒されてしまったほどだ。これは卓也が初めて妙子に抱いた印象と共通するものがあるのかもしれない。
「そろそろ休憩にしましょ。根を詰めると、かえって効率が悪くなるから。美味しい紅茶を淹れてあげるわ」
　そう言って妙子が立ち上がったとき
「ねえ、三上くん。妙子さんのことおばさんって呼んでるでしょ？」
　と恵美子が小さな声で言った。
「なんで？」
「うん。なんか、ちょっと変な感じ‥‥」
「だって、それ以外の呼び方、思いつかないんだ。俺が妙子さんって呼ぶのも変だろ？」
「そうよねぇ‥‥でも、おばさんって感じしないじゃない。お姉さんとか」
「そっちの方が変だよ」
　二人はクスクスと笑い合った。
「でもさ。教え方うまいと思わない？」
「うん。びっくりしちゃった。ほんとのこと言うと三上くんと一緒にいられるからやろうって思ったんだけど、得しちゃった気分」
　恵美子はいつも、こうやって想いをぶつけてくる。
　卓也はそんな恵美子を妙子と重ね合わせて考えてみた。今日の恵美子は普通のジーンズをはいている。でも、かえってそれが身体の線を意識するものと卓也には映る。今朝見た妙子の身体とはどう違うんだろう？　そんなことを、つい考えてしまう。
「でも、ほんと、妙子さんって格好いいわよねぇ。なんだか憧れちゃう」
　恵美子は、そう言ってキッチンで紅茶の用意をしている妙子を見ている。
　卓也は襟ぐりの大きいTシャツを着た恵美子の首筋を見ながら、あの日、寄り添ってきたときの感触を思い出していた。
「はい。紅茶にクッキーよ。安藤さんのお母さんからいただいたんだけど、これからは気を遣わないで下さいって伝えといてね」
　妙子がトレーを手に戻ってきた。
「いま、三上くんと話をしてたんですが、すっごく分かりやすく教えてくれるから、とっても感謝してるんです。塾に行くよりずっといいみたい。さっき、出題者が何を考えてこの問題を作ったのか、その意図を見抜けば答えが出てくるって教わったとき目からウロコが落ちたみたいな気分になりました」
「試験はゲームだって考えた方が楽しいでしょ？」
「ええ。それも目からウロコ。こんなに楽しく勉強できたの初めて」
　恵美子は、すっかり妙子に心酔してしまったようだ。
　国語、数学、英語と一時間ずつやって休憩を織り交ぜると夕方になる。その間に、三人ともすっかり打ち解けていいムードで勉強会は終わった。

SCENE 38

「卓也君。今日はずいぶん真剣にやってたけど」
　夕食を食べながら妙子が言う。
「うん。妙子おばさんの言うことがいつもより頭に入ってくる感じだった。頭の中がスッキリしてる感じ」
「この調子でいけば安心ね」
「そうかな？」
「やればできるって自信を持たなくっちゃ。スポーツ選手なんかが自己暗示をかけるでしょ。あれと同じ」
「そっかぁ‥‥なんとなく分かる。俺、今朝、妙子おばさんとしてて自信ついちゃったもん」
「もう‥‥ご飯食べてるときに、そんなこと言っちゃだめ」
「ごめん。でも、勉強のことも、それと関係あるって思うんだ。それだけ」
「わたしも、そう思うわ。こんな話になっちゃったから先に言うけど‥‥」
「なに？」
「さっきから生理がはじまっちゃったの」
「えっ？」
「ごめんね。でも、これから気をつけなくっちゃ。今回は良かったけど‥‥」
「そうだね。あんまり考えてなかった。ごめん」
「いいのよ。こういうことはわたしの責任なんだから」
「ねえ」
「なあに？」
「今日からできないんだよね？」
　卓也は心底ガッカリした顔になる。
「一緒に寝るのもなし？」
「一緒に寝てて我慢できる？」
「分かんない‥‥けど‥‥一緒に寝たい‥‥」
　卓也のあまりの落胆ぶりに、妙子はあることを決めた。
「いいわ」
「ほんと？」
　妙子がうなずいた。

SCENE 39

　その日、卓也は薬を飲まなかった。正確に言うと飲んだ振りをした。自分が倒れた理由を分かっていたから必要ないと思った。寝るときに意識が朦朧としてしまって妙子が隣にいる実感が湧かないのだ。
　妙子と一緒にベッドへ入る。
　卓也は妙子に寄り添いボディシャンプーの香りが残る肌に顔を押しつける。
　できれば抱きしめたい。でも、そうすれば、どうしてもセックスしたくなる。だから、それだけで我慢していた。でも、徐々に股間が膨らんできた。
　妙子は卓也の変化に気がついていた。
「どうしたの？　今日は眠れないの？」
「うん‥‥大丈夫‥‥」
　15才の少年の体力を考えれば仕方のないことだろう。妙子は高校時代に付き合っていた彼氏のことを思い出していた。あのときは執拗に求められて嫌だった。でも、いまは違う。求めてやまない気持ちと生理に理解が生じていたし、なにより卓也が可愛い。男と女を超えた愛情を感じている。それに熟した身体が卓也を求めていた。
「妙子おばさん‥‥」
「なあに？」
「ちょっとだけ触っていい？」
「我慢できないんでしょ。いいわよ」
「ありがと‥‥」
　卓也はTシャツの裾から手を入れてきた。
　感触を確かめるようにバストをゆっくりとまさぐられると、妙子はうっとりとした気分になる。
「気持ちいいわ」
「ほんと？」
「ええ‥‥上手よ‥‥したいんでしょ？」
「だって‥‥」
「卓也君。服脱いで。今朝のお返ししてあげる」
「なにそれ？」
「いいから、早く」
「うん‥‥」
　卓也は言われた通りにする。
「そしたら、横になって」
　ベッドに寝た卓也に妙子が覆い被さってくる。
　両手で頬を挟まれ唇が重ねられた。
　舌を差し込むと卓也が応えてくる。
　あのときみたいに手でしてくれるらしい。妙子の気持ちがうれしい。卓也は妙子の手が伸びてくるのを待ち望んでいた。キスしたまま手でしてくれれば、満足できるだろうと思った。
　ところが、妙子の唇が離れ、卓也の乳首に移動した。
「あっ‥‥くすぐったいよ‥‥」
　そこは、それほど気持ちよくない。
「おとなしくして」
「だって‥‥」
「いいから」
　こんどは脇腹を舐められる。
「く、くすぐったい‥‥」
　卓也が身をよじらせる。
「こら、おとなしくしなさい」
　妙子が嫣然と言う。上目遣いの表情が艶めかしい。
　そして、ついに屹立が握られた。
　細くしなやかな指の感覚に心がときめく。
「あっ！」
　卓也が驚きの声を上げる。
「た‥‥妙子おばさん‥‥」
　屹立がくわえられていた。
「た‥‥妙子おばさん‥‥す、すごい‥‥」
　もちろん、卓也だってフェラチオのことくらい知っている。しかし、それは知識だけで遠い世界のことだと思っていた。妙子に口でしてもらうことなど想像もしてなかっただけに、衝撃とよろこびが大きい。
　くわえられながら、屹立のいろんなところへ舌が這っているのが分かる。
「ああっ‥‥」
　卓也は女のように喘いでいた。
　妙子も夢中だった。屹立の熱さを口の中で感じると自分の身体までが熱くなる。先端が喉の奥へあたるほど深く、あるいは浅くくわえて舐めまわすと愛おしいという気持ちが高まってくる。
「だ‥‥だめだ‥‥もう、出ちゃうよ‥‥」
　その声を聞いた妙子は、指で屹立の中程を挟んでしごきながら、唇を細めて亀頭部分を浅くくわえて出し入れする。
「あっ‥‥ああっ‥‥」
　卓也の尻の筋肉が引き締まる。
　妙子の舌先が尿道口へ差し込むようにあてられ素早く動く。
「ああっ！」
　卓也が硬直した。
　二度、三度と続く放出が喉の方まで届き、妙子の口の中が熱いもので満たされる。そのたびに卓也の筋肉が収縮した。
「ふぅ〜」
　目の前が真っ白になるような快感。卓也は思わずため息をつく。
　ゴクリッ
　妙子の喉が鳴った。
「えっ‥‥妙子おばさん‥‥」
　妙子が自分の精液を飲み込んだのだと察して卓也の胸が熱くなる。妙子の気持ちが初めて分かったような気がした。
　妙子自身もオルガスムスとは違う満足感を味わっていた。生臭い匂いも、ちょっとした苦みも気にならない。それどころか、もっと舐めていたいとさえ思うのだ。
「すごすぎる〜」
　卓也は力が入らず、仰向けのまま言った。
「満足した？」
「それどころか‥‥大感激。俺、妙子おばさんの気持ちがうれしくって‥‥」
「わたしもよかったわ。今朝のお返しができて」
「妙子おばさん、俺も妙子おばさんのためなら何でもするよ」
「かわいいこと言っちゃって‥‥でも、うれしいわ」
　卓也は薬の力も借りずにぐっすりと眠った。