SCENE 52

　翌日、卓也は妙子や静雄と顔を合わせる気になれず、朝食もとらないで部屋に籠もっていた。
　妙子に対する複雑な感情、そして夕べの出来事が頭の中を渦巻き、どうしていいのか分からなかった。
「卓也君。どうしたの？　開けていい？」
　９時過ぎになっても起きてこない卓也を心配して妙子がドアをノックした。
　卓也は返事もせず夏がけの布団を頭からかぶった。
「どうしたの？　具合でも悪いの？」
「なんでもない。一人にしといて」
　ドアを開けた妙子に、卓也は布団をかぶったまま答えた。
「ねえ、大丈夫？」
　妙子はベッドの傍らにしゃがんで布団を捲ろうとした。
　卓也は怒りにも似た感情に襲われ、我を忘れて妙子の腕を引き込んだ。
「きゃっ！」
「妙子おばさん‥‥叔父さんと‥‥したの‥‥？」
　ベッドへ倒れ込んだ妙子に覆い被さり肩を押さえ込むようにして卓也が言う。見開いている眼が激情を物語っていた。その迫力に圧倒され、妙子は息を飲むだけで何も言えない。
「おれ‥‥どうしていいか‥‥分かんないよう‥‥」
　卓也は涙声だ。
「卓也君‥‥まだ生理中なのよ‥‥」
　妙子は、やっとそれだけ言うことが出来た。
「そ‥‥そっか‥‥」
　卓也の力が抜ける。
「‥‥ごめん‥‥妙子おばさん‥‥分かってるつもりでも‥‥」
　妙子はしばらく考えてから言った。
「卓也君。わたしは卓也君のゆりかごのつもり。卓也君が大人になって飛び立つまで何でも教えてあげる。勉強だって、あのことだって‥‥わたしの出来ることなら何でもしてあげる。でも、分かってちょうだい。静雄さんとわたしは夫婦だし、卓也君とわたしの関係は誰にも秘密。だから、二人とも我慢しなくちゃならないことがあるの。そのかわり、二人きりのときは卓也君だけのわたしになってあげるから‥‥」
「ほんとに？　なんだか、叔父さんが帰ってきたら、このままになっちゃうんじゃないかって‥‥」
「大丈夫だから。安心して」
　妙子の言葉に、卓也は落ち着きを取り戻した。だが、恵美子のこともある。昨日のことを妙子に知られたらどうなるのだろう？　卓也は二重に秘密を持たなければならない立場に気付き、心の中にしこりが残った。

SCENE 53

　それから一週間ほどが過ぎた。
　静雄がいない日中、妙子との濃密な時間を過ごした卓也は、二人の絆を再確認して不安が消え、明るさを取り戻していった。情事の場所も卓也の部屋だったり、キッチンだったりと変化が生まれた。勉強の方もそれまで以上に効率が良くなった。
　そんなある日、卓也は恵美子と一緒に模擬試験を受けに行った。
　結果は上々だった。成績は飛躍的に伸び合格の確率も60パーセントから80パーセントにまで上がった。
　恵美子の方も同様で確実性が増した。
　この結果を見て恵美子の両親は大よろこびした。そして、わざわざお礼をするため卓也の家に訪れるという事態になった。恵美子の父親はお礼だと言って、妙子に高級温泉旅館のクーポンを渡した。最初は固辞した妙子だったが、旅行代理店に勤めている父親の「キャンセルされたもので予約日まで日がないので売れない」という説明を聞いて受け取ることに決めた。ストレスで滅入っている静雄を少しでも休ませたいと考えたからだ。

SCENE 54

「ねえ、あなた」
「ん？」
「こんどの土日は休めるんでしょ？」
「ああ‥‥」
「安藤さんのお父さんから伊豆にある温泉旅館のクーポンいただいたの。ドライブがてら行かない？」
「安藤さんって‥‥？」
「ほら、卓也君のガールフレンドよ。家庭教師やってるお礼だって。急なキャンセルだったんでクーポンだけ浮いちゃったらしいの。あなた、働き過ぎだから、少し休んだ方がいいと思って。あの車だってぜんぜん乗ってないじゃない」
「そうだな。気分を変えるのもいいか」
　最初は生返事ばかりだった静雄も、妙子の説明を聞いて乗り気になったようだ。考えてみれば好きで買った車の事も忘れるほど働いていた。不能になってしまったのも、その辺に原因があるのかもしれない。アルファロメオを駆って伊豆の山道を走り、のんびり温泉に浸かることを想像すると心が躍った。もしかしたら妙子を満足させることだって出来るかもしれない。
「よし。行こう」
　静雄は晴々とした顔で言った。

SCENE 55

　土曜の朝早くから妙子と静雄は出かけてしまった。
　ひとり残された卓也はベッドに寝そべり天井を見ていた。
　なんとなく面白くない。妙子と静雄は夫婦なのだからと理屈では納得できても、気持ちの上ではそうは行かない。悶々と無為の時間を過ごしていると携帯が鳴った。
【なにしてる？】
　恵美子からのメールだった。
【なんにも】
　短く返す。
【遊びに行ってもいい？】
　その文面を見たとき、恵美子のことを抱きたいという衝動が芽生えた。あれから二人きりでは会っていないし、キスもしていない。しかし、恵美子のショーツに付いた蜜のシミは卓也の心に刻み込まれている。
【いいけど】
　そんな気持ちを隠すように、わざとぶっきらぼうに返信した。
　恵美子だってキスをされるのを望んでいるに違いないのだ。自分の部屋へ呼んでしまえば、その先の行為へ進むのは簡単に思えた。
【今からでも？】
　こういうときの恵美子は積極的だ。何も知らずに罠へ向かってくる獲物のようだ。妙子と交わっているとき、ときどき起こる征服欲と同じ種類の衝動を感じ、卓也は身震いした。
　無意識にだが、自分一人を残して出かけてしまった妙子に対する当てつけのような気持ちもあるのかもしれない。それに、妙子とどう違うのか、恵美子の身体にも興味がある。
【いいよ】
【じゃ、すぐ行く】
　文の最後にVサインを出す笑顔の顔文字があった。それがニッコリと笑う恵美子の顔と重なった。裸にしたら、あのときの恵美子はどんな顔をするんだろう？　卓也はハンターの気分になってゾクゾクした。
　10分ほどでチャイムが鳴る。
　ドアを開けると、いつものデニムのミニ、明るい色のTシャツを着た恵美子が肩で息をしている。急いで来たのが一目で分かる。
「どしたんだよ、そんな急いで」
「だって‥‥早く会いたかったから‥‥」
「毎日会ってるじゃん」
「今日は妙子さんいないんでしょ？」
　やはりそうだ。恵美子は卓也が一人だということを知って来たのだ。
「なんで？」
「三上くんにお昼ご飯作ってあげたいと思って‥‥渋谷でおごってもらっちゃったし‥‥」
「まあ、上がれよ。コーラと冷たいお茶、どっちがいい？」
　焦ることはない。時間はたっぷりある。できれば恵美子の方から身を委ねてくるように仕向けたい。そして、じっくりと恵美子の身体を堪能したいと思った。それは一般的な中学生とはかけ離れた欲望であることに卓也は気付いていない。
「ありがと。じゃあ、コーラにする」
「じゃ、上がって待ってて。それとも俺の部屋にする？」
「うん‥‥」
　恵美子は返事の後、言葉を続けず階段を登っていく。卓也は国語のテストにあった「飛んで火に入る夏の虫」という言葉を思い出していた。
　コーラのグラスをトレーに乗せ、卓也が部屋に入ると、恵美子はベッドに座っていた。脚をきっちりと揃えて流している。
　かなり意識してるな、と卓也は思った。
「毎日会ってるのに、なんか久しぶりみたいな感じだな」
　卓也がそう言ってトレーを机の上に置く。
「うん‥‥」
　恵美子が目を伏せる。
　二人とも公園での夜の出来事、そして窓辺の出来事を思い出していた。
「俺さ‥‥」
「うん‥‥」
「安藤が来てくれてうれしいよ」
「ほんと？」
「嘘だと思う？」
「ううん‥‥でも、わたし‥‥三上くんに会いたくなって‥‥我慢できなくなって‥‥でも、三上くんにウザイって思われるの怖くって‥‥」
「なんで？　俺が安藤のことウザイなんて思うわけないだろ」
「だって‥‥急に押しかけたら迷惑かなって思うんだけど‥‥我慢できなくって‥‥メールしちゃって‥‥」
「お前にアドレス教えたのは俺だって‥‥」
　卓也はごく自然に恵美子の隣に座る。
「俺さ‥‥今日なんにもすることなくってクサってたんだ。お前からメールが来てうれしかったよ‥‥」
「ほんとに？」
　恵美子が卓也を見上げる。真っ直ぐな視線がまぶしいくらいだ。そんな恵美子に卓也は軽く唇を重ね、すぐに離す。
「あ‥‥」
　恵美子がため息のような声を漏らす。
「いつもの安藤らしくないぞ」
「うん‥‥」
　恵美子がちょっと笑う。
　すかさず、卓也が唇を重ねる。
「ん‥‥んん‥‥」
　侵入してきた舌に戸惑い、呻く恵美子。それでも抵抗はしない。卓也はゆっくりと歯茎の裏側をなぞるようにして舌を動かす。
　恵美子は心臓が爆発するのではないかと思うくらい興奮していた。二人の他、誰もいない卓也の部屋、しかもベッドの上でキスされているのだ。家に来るまでは、たしかに卓也にキスされることを望んでいた。あの夜のことが忘れられなかった。しかし、実際にキスされると、この後どうなってしまうのか不安にもなる。それでも恵美子は必死になって卓也の舌に応える。
　柔らかい生き物が口の中を愛撫しているようで、たまらなくエロティックな気分になってしまう。下半身が熱くなり潤ってきているのが分かった。自然に息が荒くなっていく。それでも卓也のキスは終わらない。次第に何も考えられなくなり、絡まる舌だけしか意識できなくなった。
　キスは長く続いた。
　もう、どうなってもいい。恵美子はそう思った。
　そのとき唇が離れ、抱きしめられた。あの夜と同じだ。全身で卓也を感じ喘ぐ恵美子。
「安藤‥‥」
　耳元で囁かれ全身に甘い感覚が走った。思わず身体が震える。
「俺‥‥お前が欲しい‥‥」
　唇で耳を愛撫するように卓也が言う。
　強く抱きしめられた身体がビクンと震えた。秘所に直接響くような感じがした。全身が熱くなって、もう卓也のことしか考えられない。
　気が付くと両肩をつかまれ、目の前に真剣な卓也の目があった。
「いいだろ？」
　卓也の真剣な気持ちが伝わってくるようで拒否する事なんてできそうもなかった。ここで拒んだら卓也が離れていってしまうのではないかという恐怖感もあったしが、もうパニック状態で正常な判断が出来ない。それに、身体が卓也のことを望んでいた。
　恵美子は意を決してうなずいた。
　次の瞬間、ふたたび唇が重ねられた。
　また長いキス。
　恵美子の身体から力が抜ける。それを待っていたかのように、Tシャツの裾が捲り上げられ、あっという間に脱がされてしまった。卓也の指が素早く動きブラジャーのホックも外される。抵抗する余裕もないほどの早業だった。
　まだ硬さの残る膨らみと淡い色の乳首が露わになる。
「安藤‥‥おまえ‥‥きれいだな‥‥」
　実際、青い果実を連想させる身体は美しかった。
「なんか、おれ‥‥感動しちゃった‥‥」
　恥ずかしさで恵美子の白い肌が朱に染まる。いや、半分以上はうれしかった。その表情から、卓也が本気で言っているのが分かったからだ。
　卓也の顔が吸い寄せられるようにバストの頂点へ近づいていく。
「や‥‥あんっ‥‥」
　その頂を優しく口に含まれたとき、全身に電流が走ったような気がして、恵美子は喘いだ。
「あ‥‥ああんっ‥‥」
　もう甘い声しか漏らすことが出来ない。
　卓也の舌技は絶妙だった。あくまでも優しく的確に恵美子の官能を掘り起こしていく。恵美子は我を忘れて宙に浮かぶ感覚に身を委ねる。
　背中にあった卓也の手が滑るように降りてきてスカートのボタンが外された。
「安藤の全部が見たいんだ。いいだろ？」
　それが何を意味するかも分からず恵美子はうなずく。
「ありがと。うれしいよ」
　卓也はそう言って恵美子を押し倒すとスカートと一緒にショーツまで脱がせてしまった。
　何も分からぬまま、恵美子は生まれたままの姿にされベッドに横たわっていた。
　まだ薄い感じのする腰、その中心には淡い茂みが見える。全体的に幼さが残る印象だ。スリムな恵美子だが要所要所には肉が付き、女らしい曲線で身体が覆われている。白い肌はきめが細かく、大理石のような光沢がある。そんな恵美子の裸体を見て、乱暴に扱ってはいけないと卓也は本能的に悟った。秘所からメスの匂いが立ち昇っているのがアンバランスな感じだった。
　卓也の手が膝に添えられ脚が開かれたとき、恵美子は自分の置かれている状況にやっと気が付いた。
「だ‥‥だめ‥‥三上くん‥‥恥ずかしい‥‥」
　濡れきっているであろう秘所を見られるのがたまらなく恥ずかしかった。
「すごい‥‥きれいだよ‥‥安藤‥‥」
「だめ‥‥恥ずかしいから‥‥」
　恵美子は両手で秘所を隠す。その指先の感覚で蜜が溢れているのがあらためて分かる。
　卓也はそんなことを気にする様子もなく内腿に唇を這わせた。
「ああんっ！」
　恵美子が叫ぶ。
「見せて‥‥」
「だ‥‥だめ‥‥そんなとこ‥‥」
「安藤のが見たいんだ‥‥」
「だって‥‥汚いから‥‥」
「安藤に汚いところなんてないよ」
　卓也は恵美子の手を静かにどける。
　瑞々しい恵美子の秘所が露わになった。ふっくらとした大陰唇にまばらに生えたヘアーが蜜でへばり付いている。秘貝の合わせ目が白濁した蜜で光って見える。
「きれいだよ」
「いや‥‥恥ずかしい‥‥あんっ‥‥」
　卓也に秘貝を開かれ最後は喘いでしまう。
　ピンクの肉襞が幾重にも重なった蜜口は硬い印象で、まだ処女であることを主張しているようだった。秘貝の色も薄めだ。これから、ここに自分のものが入るのだと思うと、たまらなく愛しくなった。
「安藤‥‥ほんとにきれいだよ‥‥」
　卓也はそう言って秘所に口を近づける。
「や‥‥ああんっ！」
　恵美子の身体がバウンドした。
　考える暇も与えられず裸にされ、なんだか分からないうちに秘所にキスされていた。そして、一番敏感な部分に舌が這ったとき、堰を切ったように圧倒的な官能の波が押し寄せた。
「ああっ‥‥だめ‥‥みかみくん‥‥こわいの‥‥あんっ‥‥」
　意味のない言葉の羅列が喘ぎと共に漏れる。
　卓也の舌は的確にクリトリスを捉えている。
「ああっ‥‥こんなのって‥‥いや‥‥いやぁ〜っ！」
　興奮の極みにあった恵美子はあっという間に絶頂を迎えてしまった。白くて長い脚が真っ直ぐに伸び、指先が鍵型に曲がるほど全身が硬直する。
「み、みかみくん‥‥たすけて‥‥だめ‥‥だめなの‥‥」
　卓也の責めは終わらない。それどころか、蜜口からクリトリスまで舌が這う範囲が広くなっていた。たまに、長い舌が蜜壺まで侵入する。
「だめ‥‥だめぇ〜っ‥‥」
　恵美子は卓也の頭を両手で押さえ、足を使って身体を上へずらして責めから逃れようとする。しかし、その抵抗も壁に頭がつかえてできなくなってしまう。
　卓也は両手でがっしりと恵美子の太股を抱えた。
「あんっ！　ああんっ！」
　ふたたび恵美子の身体が硬直する。
　卓也は上目遣いで、オルガスムスの波に翻弄され背中を仰け反らせて悶える恵美子を観察していた。
　もういいだろう。そう判断した卓也は立ち上がり、着ているものを脱ぎはじめた。
　恵美子は、痙攣が収まらない自分の身体が恨めしかった。立ち上がろうとしても身体がいうことを聞かない。それでも目を開き、卓也の方を見た。ちょうどズボンを脱ぐところだった。トランクスも一緒に降ろされる。天を向いた異様に大きな屹立に息を飲む。
　卓也がこちらを見て微笑んだ。そして覆い被さってくる。
「いいね？」
　耳元で囁かれる。
「そんなに大きいの‥‥こわい‥‥無理よ‥‥」
「いや？」
「わからない‥‥こわいの‥‥」
「おれ‥‥安藤とひとつになりたい‥‥」
「みかみくんと‥‥ひとつになるの？」
「そうだよ。いや？」
　恵美子は首を振って答えた。
　ひとつになるという言葉が胸にしみた。卓也とひとつになりたかった。
「やさしくして‥‥」
「いいんだね？」
　卓也を見つめコクンとうなずく恵美子。
　卓也は屹立に手を添え先端を蜜口にあてがった。
「ああんっ！」
　ものすごい熱さを感じ恵美子は大声で喘いだ。
「いくよ」
　その言葉と共にジリッと先端が潜り込んだ。
「あうっ！」
　恵美子が叫ぶ。
「痛い？」
　恵美子が首を振る。実際、痛みはなかったが熱さと圧迫感で息ができないほどだ。
　卓也は慎重に進んでいく。
「い、いたぁい‥‥」
　ズルリとした感覚があって亀頭が完全に収まったとき痛みがやってきた。
「大丈夫？　やめようか？」
　卓也がやさしい眼差しで聞いてくる。その眼を見たとき、恵美子は決心した。
「や、やめないで‥‥痛くてもいいから、三上くんとひとつになりたいの‥‥おねがい‥‥」
「安藤‥‥」
「‥‥？」
「好きだよ‥‥」
　恵美子を見ていたら自然にそう言っていた。嘘ではなかった。本気で愛おしかった。
「三上くん‥‥」
　恵美子の眼から涙がこぼれる。
　卓也は恵美子に唇を重ねながら根本まで挿入した。
「あう‥‥んんっ‥‥」
　言葉にならない喘ぎ。
　痛みと熱さ、圧迫感に耐えながら、恵美子は両手を卓也の背中にまわし、必死でしがみついた。
　あそこが裂けてしまったように感じる。それでも恵美子は幸せだった。「好きだ」と言われ、いま卓也とひとつになっている、もうどうなってもいいと思った。
　やがて、ゆっくりとした抽送がはじまる。
「んっ！　んんっ！」
　恵美子は卓也の背中に爪を立て必死に耐える。しかし、そうしている内、痛みが和らぎ、熱い何かが押し寄せてきた。
（三上くん‥‥三上くん‥‥）
　恵美子は卓也の名前を心の中で唱える。
　やがて、卓也はキスしたまま抽送する不自然な姿勢を諦め、唇を離した。そして、あらためて奥深くまで挿入する。
「あうぅ‥‥」
　喘ぐ恵美子をかばうように抱きしめる。
　下腹部から胸までぴったりと肌が密着する。体温が伝わり、お互いの鼓動が一緒になったように恵美子は感じていた。もう、痛みもそれほどではない。卓也と一体になった悦びの方が大きい。
「安藤‥‥動いても大丈夫か？」
「み、三上くん‥‥好き‥‥大好き‥‥」
　恵美子はさらにしがみついてくる。
　そんな恵美子に愛おしさが増す。
「安藤‥‥おまえ、最高だよ‥‥」
　卓也はそう言いながら腰を動かす。
「ああっ‥‥あうっ‥‥」
　恵美子の喘ぎ声にも甘さが帯びてきたように感じる。
「あっ‥‥すごい‥‥三上くんが‥‥」
　恵美子は、卓也のものがさらに大きく熱く膨れあがっていくような感覚に喘いだ。
「大丈夫？　痛くない？」
「いいの‥‥三上くんの好きにして‥‥三上くんと‥‥三上くんとひとつになるの‥‥あうっ‥‥」
　恵美子のいじらしさに卓也も限界にきた。
　卓也は屹立を引き抜き手で擦った。
　すごい勢いで飛び出した精液が恵美子の胸や顔にまで届く。
「あ‥‥わ‥‥ごめん」
　ティッシュの箱を取ろうとした卓也は恵美子の股間をみて驚いた。内腿からシーツまで、うっすらと血に染まっているのだ。なにか、ひどく罪深いことをしてしまった感じだ。
「安藤‥‥おまえ‥‥」
　後に何て続けていいのか言葉が浮かばない。
「ごめんな」
　卓也はそう言いながらティッシュで自分の出したものを拭く。
「どうして‥‥？」
「え？」
「どうして中でしてくれなかったの？」
　思いがけない恵美子の問いに卓也は戸惑った。
「だって‥‥」
「わたし‥‥今日は大丈夫な日だったんだもん‥‥ちゃんと、最後まで‥‥三上くんとひとつになりたかったのに‥‥」
　恵美子の瞳から大粒の涙がこぼれた。
　恵美子の想いに圧倒され卓也は二の句が継げない。
「分かった‥‥ごめん。こんどは、ちゃんとひとつになろうな」
　しばらくして、卓也は恵美子を抱きしめながら言った。
「いつ？」
「いつだっていいよ」
「わたし‥‥今日は大丈夫な日だよ‥‥」
「だって、痛かったんだろ‥‥」
「いいんだもん‥‥」
　普段はしっかりした感じの恵美子が甘えてきている。卓也は自分が男であることを再認識した。思い切り甘えさせてあげたかった。
「まずは身体を洗わなくっちゃ。シーツもこのままじゃヤバいしさ。一緒にシャワー浴びるの嫌か？」
　恵美子が首を振る。
「じゃあ、決まり。立てる？」
「うん」
　そうは言ってみたものの、まだあそこに違和感がある。
「よし！」
「きゃっ」
　卓也が恵美子を抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこだ。
「こういうの、やってみたかったんだ」
　恵美子は何も言わず卓也にしがみついた。
　バスケットボールで鍛えた卓也だから、恵美子を抱いて階段を降りるくらいなんでもない。
「三上くん‥‥」
「ん？」
「ありがとう‥‥」
「なにが？」
「わたし‥‥女になっちゃった‥‥」
　意味深な言葉、いつもと違う恵美子の艶っぽさに卓也の欲望が蘇った。