SCENE 56

「ねえ‥‥男の人って不思議だね」
「どして？」
「だって、さっきまであんなに大きかったのに‥‥」
　恵美子が卓也のうなだれたものを見ながら言った。
　場所は脱衣場。卓也がシャワーの用意をしていると、恵美子が興味津々といった感じで覗き込んできた。
「ちょっと触ってもいい？」
　そう言いながら、もう手を伸ばしてくる。
「えっ？　うそ‥‥」
「なにが？」
「やわらかい‥‥ねえ、どうして？」
　口調もキラキラとした瞳も、いつもの好奇心旺盛で闊達な恵美子に戻ったみたいで卓也はホッとした。
「そんなふうにいじってると、また大きくなっちゃうぞ」
「そうなの？」
「見たかったら、あとで見せてやるから。ちゃんと身体洗わないと」
「うん‥‥三上くん、やっぱりやさしいね‥‥」
「そんなことないよ」
　経験の違いが卓也に余裕をもたらしていることを恵美子は知らない。恵美子にとって卓也は同い年なのに頼もしくてやさしい理想的な彼氏だった。そんな卓也と結ばれたことをうれしく思う恵美子だった。
「ほら、来いよ」
　気が付くと卓也がバスルームに入って手招きしている。
「洗ってやるよ」
　卓也がスポンジを手にしている。
「自分で出来るから‥‥」
「ほんと言うとさ‥‥」
「なに？」
「洗いたいんだ。安藤の身体ってすっごくきれいだし、見たいし、触りたいし、洗いたい」
「エッチ‥‥」
　そう言って卓也の顔を見る。卓也は微笑んでいた。なんだか暖かい感じで、ちっともイヤらしくなかった。
「いやなら、いいけど‥‥」
「やっぱり‥‥」
「えっ？」
「あ、洗って‥‥」
「いいのか？」
　恵美子がうなずく。
「じゃあ、ここに立って」
「うん」
　恵美子は言われた通りにする。それがなぜか気持ちが良かった。
　卓也はスポンジにボディソープをたっぷり付けて恵美子の内腿にある処女の証をやさしく洗いはじめる。
「ごめんな。こんなにしちゃって。痛かった？」
「ちょっとだけ‥‥でも、三上くんとひとつになれたから‥‥」
「俺たち、エッチしたんじゃないんだよ」
「えっ？」
「メイク・ラブしたんだ」
「うん‥‥」
　恵美子にとって心も身体も溶とろけていくような一言だった。
　卓也は、妙子としたときと同じ感覚を恵美子に対しても感じていた。
　二人の女性を同時に愛するのは罪なのだろうか？　そう考えたとき、妙子が言った「なるようにしかならない」という言葉を思い出した。初めて卓也はその言葉の意味が分かった。今の卓也の立場は、妙子の卓也に対する立場と同じなのだ。身勝手かもしれないが、自分の気持ちを裏切ることなしに、精一杯恵美子を愛したいと思った。
　スポンジが秘所に触れると恵美子はピクンと痙攣した。
「あ、ごめん。そんなつもりじゃ‥‥」
「いいの。三上くん、優しいから‥‥ちゃんと、洗って。そのかわり‥‥」
「なに？」
「三上くんのも洗ってあげたいの‥‥わたしが‥‥」
「いいけどさ。まずはこっちが先」
「だって、三上くんばっかり‥‥ずるい‥‥」
「わかった。わかったよ。でもさ‥‥」
「なに？」
「おまえって、ほんときれいだな‥‥」
　たしかに恵美子の肢体は少女だけが持つ美しさをすべて備えていた。張りがある白い肌がシャワーの水滴を弾いて輝いている。まだ硬さの残る胸の膨らみは半分に切った果実のようだし、小さくて丸いヒップもキュッと持ち上がった感じで美しい。
「そんなふうに言われたら急に恥ずかしくなっちゃった‥‥」
「大事にしないとな‥‥」
　卓也は薄いガラスのコップを扱うように恵美子の肌を洗う。
「や‥‥あん‥‥」
　卓也の言葉と行為は愛撫と同じだった。
　恵美子の身体が震え出す。
「気持ちいいの？」
「や‥‥そんなこと聞かないで‥‥」
「じゃ、これは？」
　卓也はスポンジを置き、手のひらで恵美子を洗いはじめた。
「あ‥‥やん‥‥」
　絶妙な卓也のタッチに恵美子が震え出す。
「や‥‥そ、そこは‥‥あんっ‥‥」
「きれいにしないとね」
　微笑みながら卓也は秘所を丁寧に、撫でるように洗う。
「あっ‥‥だめ‥‥ヘンになっちゃう‥‥」
「流すよ」
「ああんっ」
　シャワーが秘所を直撃する。その刺激に恵美子はしゃがみ込んでしまった。
「あ‥‥」
「なに？」
「三上くんの大きくなってる‥‥」
「安藤が感じたからだよ」
「すごい‥‥」
　恵美子が手を伸ばす。
「硬くって、熱い‥‥こんなになっちゃうんだ‥‥うそみたい‥‥」
　恵美子は卓也のものを握ったり撫でたりする。
　その刺激でビクンと硬度が増す。
「きゃっ‥‥」
「こいつも安藤のことが好きだってさ」
「そうなの？」
「そうさ。持ち主が言うんだから間違いないよ」
「よろしくね。おちんちんちゃん」
　恵美子はそう言って先端に一瞬だけキスした。
「安藤‥‥」
「なに？」
「我慢できなくなってきた‥‥部屋に戻ろう」
　恵美子の大胆な行動に、卓也の心が弾けた。
　二人は身体を拭き合って二階へ上がる。

SCENE 57

　部屋に入ると卓也は恵美子を抱きしめながら言った。
「痛くてもいいのか？」
　恵美子がうなずく。
「痛かったら言うんだぞ」
「いいんだもん‥‥」
　下腹部にあたる卓也の熱いものを感じながら恵美子が言う。
「そのかわり‥‥ちゃんと‥‥最後までしてね‥‥」
「分かった」
　卓也は恵美子の肩を押すようにしてベッドへ横たえる。そして、そのまま覆い被さると、やさしくキスをした。
「うん‥‥」
　それだけで激しく潤ってきたのを感じた恵美子が喘ぐ。
　あの日、恵美子は卓也にキスされてから、こうなることを具体的に意識しはじめていた。妙子が旅行に行くと分かり、その日が安全日だということも運命のように感じていた。単なる願望で終わるだろうと思っていたのに、理想的な卓也のリードで結ばれた。でも、ひとつだけ不満だった。卓也の出したものを自分の身体で受け止めたかったのだ。それを卓也が理解してくれた。恵美子にとって、これは神聖な儀式のようなものだった。だから、どんなに痛くても最後まで我慢しようと思った。
　恵美子にとっての誤算は卓也が自分の官能を的確に引き出したことだ。挿入されるのは、まだ恐怖があるが、それにいたる行為がこれほど感じるものとは夢にも思っていなかった。
　期待と不安が交錯しながら恵美子は眼をつぶった。
　滑るように卓也の手のひらがバストを覆い、先端が静かに撫でられる。
「んっ‥‥んんっ‥‥」
　恵美子の身体が跳ねるように反応する。むず痒さにも似た感覚が電気のように走り全身が熱くなる。
　恵美子のバストは張りというより硬さがある。それでいて柔らかい。恵美子の反応に魚のつかみ取りを思い浮かべながら、卓也は熟しきっていないバストの独特の感触を楽しんだ。
　無理をせず、なるだけ恵美子を感じさせたい。そうしてから最後の行為に移る方がいい。卓也はそう思って慎重に愛撫を続ける。
　そんな卓也の気持ちは「やさしさ」という形で恵美子にも伝わり、未熟な身体の反応を後押しするような結果になっていた。どんどん秘肉が熱くなり、一刻も早く卓也とひとつになりたいと願う。卓也が言った「ひとつになりたい」という言葉が心に刻まれてしまっていた。
「ああんっ」
　卓也の唇がもう片方のバストに移動した。同時に手のひらが秘所へと滑り降りていく。そして中指と人差し指の間で敏感な部分を軽く挟まれた。
「あんっ！」
　それだけで恵美子は硬直してしまう。
「ここ触ってもいい？　痛くない？」
　卓也は挟んだ部分をゆっくりとまさぐりながら言う。
　しかし、恵美子は喘ぐだけで答えられるような状態ではなかった。これなら大丈夫だと判断した卓也は、ふたたび乳首を口に含み、指の動きを早めた。
　濡れた肉が立てる音が大きくなる。
「ああっ！　もう‥‥おかしくなるぅ‥‥おかしくなっちゃうぅ‥‥」
　恵美子の身体が反り返った。そして何度も痙攣する。
　指先が蜜でふやけている。
「いれるよ‥‥」
　もう大丈夫だろうと判断した卓也は、まだ震えている恵美子の脚を開いて、その間に入り、屹立を蜜口にあてがう。そこは溢れるくらい潤っていた。
　そして、上半身を起こしたまま恵美子の腰を引き寄せるようにしてゆっくりと挿入を開始した。
　恵美子が、その瞬間、どんな顔をするのか見てみたかった。
「あう‥‥」
　喘ぎと共に恵美子の顔が歪む。
「痛い？」
　ものすごい熱さと充満感に堪えながら、恵美子は必死で首を振って答える。
　耐えながら悶える恵美子の顔はエロティックで愛おしかった。
「安藤の中って‥‥すごく気持ちいいよ‥‥」
　締まりがいいと言うより、未熟な秘肉がまとわりつき押し戻そうとしてくるような感覚は、卓也にとって征服したのだという気持ちを強いものにしている。
「ほ‥‥ほんとに？」
「うん‥‥」
　うなずく卓也の微笑みがうれしい。痛みなど気にならなくなる。
「三上くん‥‥わたしの身体で‥‥もっと‥‥もっと気持ちよくなって‥‥」
「安藤‥‥」
　あまりの愛おしさについ力が入り、屹立が根本まで収まる。
「あううっ！」
　恵美子が歯を食いしばり仰け反る。
「ごめん。痛かった？」
「ううん‥‥いいの‥‥でも‥‥」
「なに？」
「こ、このまま‥‥抱きしめて‥‥三上くんのでいっぱいになったまま‥‥」
「うん」
　肌が密着した。恵美子の小鳥のような鼓動が伝わってくる。
「うれしい‥‥三上くんとひとつになってるって感じる‥‥」
　恵美子が背中に手をまわしてきた。
　そのけなげさに、卓也の胸も熱くなる。
「動かしても大丈夫？」
「いいの‥‥三上くんが気持ちいいなら‥‥いっぱい‥‥いっぱいメイク・ラブして‥‥」
「安藤‥‥好きだよ‥‥」
　卓也が耳元でささやく。
「わ、わたしも‥‥大好き‥‥ああんっ！」
　卓也が腰が動かすと、恵美子は大きな声で喘いだ。
「ああっ！　三上くん‥‥みかみくぅん‥‥」
　恵美子は必死で卓也にしがみつく。
　そんな恵美子の反応に卓也の興奮も高まる。
「あ‥‥安藤‥‥で、出る‥‥」
「さ、最後まで‥‥おねがい‥‥ああ〜んっ！」
　卓也は腰を押しつけるようにして結合を深め、最深部で長く放出した。
　蜜壺の中が溶岩で満たされた。恵美子はそんなふうに感じた。それほど卓也の射精は衝撃的だった。
「う‥‥うう‥‥」
　卓也の身体も震える。なんだか心までもが恵美子の中へ入っていったようだ。
　すべてを出し切ってしまったような感じがする。だから、抜くのは惜しい。そう思って、すでに感覚が無くなったものを収めたまま、卓也は恵美子を抱きしめた。
「三上くん‥‥」
「ん？」
「好き‥‥」
「おれも‥‥」
「わたしで‥‥」
「なに？」
「気持ちよかった？」
「もちろんさ。安藤だから最高だった‥‥」
「ほんと？」
「あたりまえだろ」
「うれしい‥‥あっ‥‥」
「なに？」
「まだ中に三上くんがいる‥‥」
「いや？」
「ううん‥‥これくらいなら‥‥気持ちいいかも‥‥」
　まだ萎えきっていないが、硬度は失われている、それくらいのものがいまの恵美子にとっては抵抗がない。
「ねえ」
「ん？」
「このままでいて」
「いいよ」
「なんか‥‥」
「えっ？」
「感じてるみたい‥‥」
「ほんとに？」
「うん‥‥気持ちいい‥‥」
「これは？」
　卓也が少し腰を動かす。
「あん‥‥」
　恵美子の口から甘い声が漏れた。
「かわいいな‥‥おまえ‥‥」
「ばか‥‥」
　恵美子の顔が赤くなる。
「俺もこのままずっといたいんだけどさ‥‥」
「うん‥‥」
「なんだか、すっごくいっぱい出ちゃったみたいだから‥‥後始末しなきゃ、やばいかも‥‥」
「おねがい‥‥」
「なに？」
「それが済んでも、また、こうしていたいの‥‥」
「オッケー」
　卓也は立ち上がるとティッシュの箱に手をかける。
「拭いてやろうか？」
「いい‥‥自分でやるから‥‥」
　卓也の言った通り、かなり大量に蜜口から溢れてきているのが分かった。恵美子はそれをティッシュで受ける。
「もったいない‥‥せっかく三上くんが‥‥」
　なんだか愛の証がこぼれていくような感じがした。
　涙がひとしずくこぼれる。
「後悔してる？」
「ちがうの‥‥でも‥‥なんか涙が出てきちゃう‥‥」
　潤んでキラキラ光る瞳に胸が締め付けられる。
「そっか‥‥」
　卓也には恵美子が何を考えているのか分からない。けど、そばにいた方がいいと思った。恵美子の肩を抱き寄せる。
　そして、そのままの姿勢で時間だけが過ぎていった。

SCENE 58

　沈黙を破ったのは恵美子の携帯電話だった。
「あっ、おかあさんだ」
　着メロで分かるらしい。恵美子はあわてて立ち上がり、床に置いてあったバッグから携帯電話を取り出す。
「もしもし‥‥あっ、うん‥‥友達のところ‥‥うん‥‥分かった。じゃあ、電話してみる‥‥はーい、じゃね」
「どしたの？」
「おかあさんが、三上くんを夕食に呼びたいんだって」
「え〜、なんで？」
「だって、妙子さんがいないから」
「やだよ、おれ‥‥」
「そうなの？　そしたら、ずっと一緒にいられるのに‥‥」
「だってさ、こんなことした後で、おれ、安藤のおかあさんの顔見られないよ。緊張しちゃう」
　まだ二人とも裸なのだ。
「そういえば、まだ私たち、ご飯食べてない‥‥三上くん、ごめん。作ってあげるって言ったのに‥‥お腹空いてるでしょ」
　気が付けば、もうとっくに昼を過ぎている。
「おまえは？」
「分かんない‥‥」
「おれも‥‥へへ‥‥」
「うふふ」
　二人は顔を見合わせて笑った。
「でもさ‥‥」
「えっ？」
「外、行こうか？」
「なんで？」
「このシーツ、洗濯しなきゃならないし‥‥このままいたら、おれ、またおまえのこと欲しくなっちゃう」
「いいよ‥‥わたし‥‥」
「無理すんなよ。痛かったくせに」
「三上くんが気持ちいいなら、どうなったっていいんだもん‥‥」
「俺もおんなじ‥‥」
「えっ？」
「おまえが気持ちよくなきゃやだ」
「うん‥‥」
　卓也のやさしさが心に沁みる。
「だからさ」
「うん」
「少し休んだ方がいいよ」
「でもね‥‥」
「うん」
「痛かったけど‥‥気持ちよかった‥‥三上くん、やさしくしてくれたし‥‥うれしかった‥‥」
「明日も朝から来れる？」
「うん‥‥」
「だったら、安藤はシャワーで、俺はシーツの洗濯。その後、なんか食べに行こうぜ」
「うん」
　恵美子は卓也の言うことを聞くことにもよろこびを感じていた。あのとき、渋谷でランチに連れて行かれたときと同じ感覚だ。ぐいぐいリードしてくれる卓也が頼もしくて愛おしい。
「三上くん‥‥」
　卓也にもたれかかった恵美子はこのまま時間が止まってしまえばいいのにと思った。