SCENE 60

　翌朝、卓也は携帯の着信音で目を覚ました。
　ディスプレイに表示されたのは恵美子の名前と番号だった。
「おはよう！」
　元気のいい声が携帯から飛び出してくる。
「おはよう‥‥あ‥‥ふ‥‥」
「ひょっとして、まだ寝てた？」
「うん‥‥でも、もう起きる時間だから‥‥」
　時計を見ると七時を少しまわった時間だ。
「あのね。わたし、いま三上くん家の前にいるの」
「ええっ？」
「朝ご飯、一緒に食べよ。お弁当作ってきたの。いいでしょ。こんなことできるチャンスって、なかなかないんだもん」
「だって‥‥俺‥‥起きたばっかだし‥‥」
「だめ？」
　恵美子の声が曇る。
「わかった。三分だけ待って」
「うん」
　恵美子の哀しそうな顔を想像したら断ることなんか出来ない。気になるのは朝勃ち。思い切りトランクスを持ち上げている。このまま玄関を開けるわけにはいかない。卓也はトイレに駆け込んだ。
「おはよ」
　寝ていたときのTシャツの下にジーンズをはいて玄関を開けると、ふんわりとした淡いピンクのワンピースを着た恵美子がいた。
「あれ‥‥」
「この服‥‥変‥‥？」
　眼を白黒させている卓也を見て恵美子が心配そうに聞く。
「い、いや‥‥すっげー似合ってるってゆーか‥‥いい感じ。いつもと違うんでビックリしちゃった‥‥」
　卓也は上から下まで眺め回している。
「やだ、そんなに見られると恥ずかしい。ねえ、朝ご飯まだでしょ。作ってきたから一緒に食べようよ」
「うん‥‥いいけど‥‥」
　サンダルを脱ぐと、急いで玄関を上がりキッチンの方へ走っていく恵美子の後ろ姿を、覚め切っていない卓也は呆然と眺めていた。
　恵美子はダイニングで用意してきた弁当の包みを開いている。ふりかけをまぶした小さなおにぎりや、卵焼きなんかが並んでいる。
「これ、安藤が作ったの？」
　まだ現実感のない卓也が尋ねる。
「うん。だって、昨日の夜だってコンビニのお弁当でいいなんて悲しいこと言うから‥‥ほんとは、うちで一緒に食べたかったのに‥‥」
「だって、あんなことした後だから、恥ずかしくってお前の家なんて行けないだろ‥‥あれ‥‥」
　恵美子の顔が赤くなった。
「ごめん‥‥朝話すことじゃなかったかも‥‥」
「いいの‥‥」
　恵美子がうつむきながら答える。
　恥じらう恵美子の表情と、いつもと違うフェミニンな姿に、卓也は抑えがたい欲望を覚えた。やっと目が覚め、ゴクリとつばを飲む。
「安藤‥‥」
「えっ？」
　恵美子が顔を上げたとき、卓也は目の前に近づいていた。
「なんか、お前‥‥」
　そう言うなり卓也は恵美子のことを抱きしめる。
「ま、待って‥‥せっかく朝ご飯作ってきたんだから‥‥あんっ‥‥」
　息が止まるほど強く抱きしめられ全身が熱くなる。
「ダメって言われると、余計したくなっちゃったりして‥‥」
　卓也はわざと耳元でささやく。
「ああん‥‥」
　恵美子の身体が震え出す。
「その服、すごい似合ってる。かわいいよ。ドキドキしちゃう」
　唇を耳に触れさせながら言うと恵美子がしがみついてきた。
　昨日の出来事で、恵美子は自分が生まれ変わったような気持ちにになっていた。女になったという気持ちも大きいが、運命を共にする大事な人として卓也を意識するようになった。それに、まだ痛みはあったけど、セックスが思ったより甘美で幸せなものだという発見があった。だから、自分をそうしてくれた卓也に少しでも女らしい姿を見て欲しくてこんな服を着てきたのだ。だから、それを褒められただけで胸が熱くなってしまう。
　それに耳元からの刺激。どうしても昨日のことを思い出してしまう。もう、あそこが濡れてきたのが分かった。
　恵美子の息遣いが荒くなる。
「三上くん‥‥」
　恵美子は無意識に卓也のことを呼んでいた。もう朝ご飯のことなど忘れ、これから起こる事への期待だけが心を支配していた。
　一瞬が永遠に感じられる。
　卓也の抱きしめる力が弱くなったと思ったそのとき、身体が少し離れ、次の瞬間には唇が重ねられていた。
　卓也のために何かをしたい。そう思う気持ちは本当だった。だから早起きしてお弁当を作った。けど、本音を言えば卓也に抱かれたいと思ってここまで来たのだ。だから、情熱的な卓也の行動がうれしい。
　卓也の長い舌が歯茎をなぞるように動く。
　それだけで頭の中が真っ白になってしまい身体の力が抜けた。それでも必死で舌を絡めて応える。まるで自分が舌だけの存在になってしまったようだった。
　そんな恵美子の反応に卓也も我慢ができなくなってきた。
「安藤‥‥こっち‥‥」
　唇を離し背中を抱くようにしてリビングのソファーへ誘う。
　恵美子は酔ったような足取りで卓也に従う。
　肩を押すと恵美子はストンとソファーへ座り込んだ。
　床にひざまずいた卓也は、ふたたび唇を重ねる。自然と恵美子はソファーに横になる。
　卓也は、膝のあたりから内腿へ滑らせるようにして手をスカートの中へ入れた。
　柔らかいくせに弾くような生足の感触。
　指先がクロッチの部分に触れたとき恵美子の身体がビクンと跳ねた。
　ヌルッと布地が秘肉の上を滑るような感触から、卓也は、もう恵美子が潤っている事を知る。
　恵美子は無意識に脚を半ば開いて卓也の愛撫を受け入れようとする。
　卓也の指先が敏感な部分に触れるたび恵美子の身体が跳ねる。
「んっ！　んっ！」
　声にならない喘ぎを上げる恵美子がたまらなく愛おしい。
　そうして愛撫を続けていると恵美子の身体がブルブルと震えだした。
　それを機に卓也は唇を離す。
「いい？」
　卓也が聞く。
　恵美子がうなずく。
　服を脱ごうと立ち上がる卓也。
　ふと、恵美子を見下ろす。上気して桜色に染まった頬、潤んだ瞳、しどけなく脱力した姿態。そして、淡いピンクのワンピースから伸びた白い脚。
　卓也は酔って帰ってきたときの妙子のことを思い出していた。
　恵美子の姿があのときの妙子のそれと重なる。そう、父親を一緒に送っていったときも妙子はここでうたた寝をしていた。
　何もかもが、このソファーの上から始まったような気がした。いまでも、あのときに撮った写メを見ることがあるのだ。
　卓也は横になっている恵美子のスカートを捲り上げる。
　あのとき妙子にしたかったことを、この場所で恵美子にするのだと思うと異様に興奮した。
　ワンピースと同じピンクのショーツが一瞬見えた。
「は‥‥恥ずかしい‥‥」
　恵美子は反射的に両手で股間を押さえる。
　それにかまわず、卓也はヒップの方へ手をまわしてショーツを剥き取ってしまった。ヒップの膨らみを越してしまうと、膝のあたりまで脱がせるのは簡単だった。卓也は引っ張るようにしてショーツを足首から抜き取ってしまい、ソファーの背に置いた。
「見せて」
　卓也は股間を押さえる手をどかそうとする。
　恵美子は潤んだ眼で首を振った。
　無理もない。昨日が初めてだったのだから、いくら卓也の頼みとはいえ、そこまで奔放になれるはずはない。
　乱れた服から見える太股と素足が艶めかしい。
　それを見たとき、卓也に、あの「征服したい」という凶暴な衝動を感じた。初めて妙子と交わった後、二度目に挑むとき「徹底的に感じさせ自分の存在を刻み込みたい」と思ったのと同じ気分だった。ここで無理矢理挿入して欲望を満たすのは簡単だが、それだけじゃつまらない。できるだけ恵美子を感じさせて、自分のものにしたかった。
「安藤‥‥」
　卓也はそうつぶやくと、恵美子の膝に唇を押しあて舌を這わせる。そして頭を膝の間に割り込ませ、唇を内腿へと移動させる。同時に指先を脚の付け根に滑り込ませた。
「ああっ‥‥そんな‥‥とこ‥‥ああんっ‥‥」
　くすぐったさとは違うゾクゾクとした感覚に襲われ恵美子は身をよじって悶える。
「ああっ！」
　卓也の指先が秘肉を捉えたとき恵美子は高い声を上げた。
　体勢が不自然なので思うように指先が動かせず、卓也は親指を使って、溢れ出る蜜を塗り拡げるように襞をなぞる。
　クチュ、クチュ、と濡れた肉が音を立てた。
「ああんっ‥‥あんっ‥‥だめぇ‥‥」
　恵美子は腰を浮かせ、ワンピースの生地を握りしめながら喘いだ。卓也の頭を挟むようにしていた力が緩む。
　これで、ずいぶんやりやすくなった。卓也は硬くなった一番敏感な部分を親指の腹で円を描くようになぞった。
「あんっ！　あんっ！」
　喘ぎ声とシンクロして恵美子の身体が跳ねる。ワンピースを握りしめた手を離し、こんどはソファーに手をついて身体を支えている。
　それを見た卓也は空いた手でワンピースを腹のあたりまで捲り上げた。
　布地のピンク、白い腹部の肌、そしてヘアーの翳り、その刺激的な眺めに卓也はいっそう昂ぶる。
「見せて」
　そう言いながら両膝を押すようにして脚を広げた。
「恥ずかしい‥‥ああ‥‥」
「こんなにきれいなのに？」
　裸の恵美子も魅力的だが、こうして服を着たまま秘部を晒している姿は扇情的で、否が応でも興奮をそそる。
「だって‥‥」
「いやなの？」
　恵美子は答えに窮してしまう。
「昨日みたいに、ここにキスするよ」
　言うと同時に、卓也は秘部へ顔を近づける。
「ああんっ！」
　ほんの少し舌先がクリトリスに触れただけで恵美子は大きく喘いだ。
「痛い？」
　恵美子は首を振る。
「そう‥‥じゃ、これは？」
　卓也は蜜口からクリトリスまでを舐め上げる。
「あうんっ！」
　腹筋を収縮させながら恵美子が悶えた。
　恵美子の蜜はほとんど匂いもなく舌触りも爽やかな感じがした。
　こうされることを望んで洗ってきたんじゃないかと卓也は思った。
「気持ちいい？」
「‥‥いや‥‥恥ずかしいから‥‥言わないで‥‥」
「じゃ、やめちゃうよ。だって、俺、安藤が気持ちよくなきゃやだもん」
「いじわる‥‥」
　恵美子は瞳に涙をためている。
「俺、安藤のこと好きだから、ここもよく見たいんだ。いいだろ？」
「ほんとに？」
「うん」
「ほんとに、私のこと好き？」
「大好きだよ」
　二人は見つめ合った。そして、ほんの少しの沈黙。
「わたしも‥‥三上くんのこと好きだから‥‥いいよ‥‥三上くんがしたいことして‥‥」
　顔を真っ赤にしながら、それだけ言うと、恵美子は両手で顔を隠した。
「安藤‥‥」
「は、恥ずかしいから‥‥こうしてるの‥‥だから、いいの‥‥わたし‥‥三上くんのためなら、なんでもする‥‥」
「ありがとう。好きだよ‥‥安藤‥‥」
　卓也はそう言うと、両手で内腿を押し秘部を拡げた。
　若干赤みがかった秘貝が開くと、内部の鮮やかなコーラルピンクの肉が顔を出す。ポッカリと開いた蜜口は濡れて光り、その上の尿道口まで見てとれた。そして秘貝の合わせ目には少し尖ったクリトリスが顔を覗かせている。後の方にひっそりとたたずむ薄茶色のアヌスさえ蠱惑的に見えた。
　恥垢ひとつない秘部。やはり入念に手入れしてきたに違いない。卓也はそう思った。
「昨日は夢中だったけど、ほんとにきれいだよ。俺、安藤にこんなことできるなんて夢みたいだ」
「うそ、そんなとこ‥‥きれいだなんて‥‥」
「ほんとさ。ここなんか特に‥‥」
「ああんっ！」
　卓也は中指をゆっくりと蜜口に挿入した。
　柔肉がしっとりと卓也の指に絡みつく。
「大丈夫？　痛くない？」
「う‥‥うん‥‥なんか、おかしくなっちゃいそう‥‥」
「ここは？」
　中指を挿れたまま、親指でクリトリスを撫でる。
「だ、だめぇ‥‥そこ‥‥ああっ‥‥」
「感じる？」
「いや‥‥恥ずかしいから‥‥あんっ‥‥」
「ちゃんと教えてよ」
　卓也は指を振動させるように動かす。
「ああっ‥‥あんっ‥‥すごい‥‥ヘンになっちゃう‥‥」
「気持ちいい？」
「う‥‥うん‥‥気持ち‥‥いいの‥‥み、三上くん‥‥ああっ！」
「すごいよ。どんどん溢れてきてる」
　濡れた肉が立てる卑猥な音色からも蜜が溢れているのが分かる。
「いや‥‥恥ずかしい‥‥こんなの‥‥」
「安藤が感じてると、俺、うれしいよ‥‥だから、もっと感じさせたい。どうして欲しいか教えて」
「い、いいの‥‥このまま‥‥あんっ‥‥三上くんの‥‥したいように‥‥してくれれば‥‥いいの‥‥」
　恵美子は両手で顔を塞いだまま、荒い息の中から、やっとという感じで言う。
「じゃあ、もっとよく見せてくれる？」
「う、うん‥‥三上くんがしたいなら‥‥恥ずかしいけど‥‥三上くんの好きにして欲しいの‥‥」
「じゃあ、見るよ」
　卓也はそう言うと親指を秘肉の両脇にあてて蜜口を拡げた。
「やぁん‥‥」
　すべてを晒し出した気分、恥ずかしさと同時に、見られていることで秘肉が熱くなるような不思議な快感を感じてしまう。
「すごい‥‥中まできれいなピンクだよ‥‥」
「恥ずかしい‥‥」
　レースのカーテン越しに差し込む朝の光が恵美子の内部を照らし出していた。
　濡れて光る複雑な肉襞が蠢いている。
　卓也は妙子の秘部を思い出し、いま目の前にある恵美子のそれと比べていた。構造は同じでも、色や形に違いがある。卓也は、それぞれに美しいと思った。ふっくらと熟した感のある妙子のものと比べて、恵美子のものは切ったばかりの果実を思わせる。しかし、甲乙などつけられない。両方ともたまらなく魅力的なのだ。
　卓也は開いた蜜口に舌を挿し入れた。
　恵美子のすべてを味わいたかった。
　蜜壺の内部は驚くほど熱かった。卓也は舌先を硬くして肉襞の一本一本をなぞるように舌を動かす。
「だ、だめぇ‥‥おかしく‥‥おかしくなるぅ‥‥」
　そう言いながら恵美子が震える。
　卓也が鼻の先でクリトリスをこすると恵美子の喘ぎはいっそう高いものになった。
「す‥‥すごい‥‥も、もう‥‥あっ‥‥ああんっ‥‥」
　喘ぎ声の間隔が短くなる。
　卓也は舌を蜜壺からクリトリスへと移動させ、その先端を細かく振動させるように舐める。
「だ、だめっ‥‥ああっ‥‥もう、だめぇぇ‥‥」
　卓也をはじき飛ばすように、恵美子は腰をバウンドさせ、硬直と痙攣を繰り返した。あまりの勢いに卓也は顔を離す。
　もう恵美子は手で顔を覆うのをやめ、両手でソファーを握りしめながら襲ってくる波に耐えていた、苦悶にも似たその表情が艶めかしい。
　秘部に目をやると緩く開いた秘貝がヒクヒクと縦方向に痙攣している。それと同時にアヌスもキュッとすぼまったり開いたりしている。その光景を見て、卓也はここも味わってみたいと思った。
「どう？　気持ちよかった？」
「ず、ずるい‥‥わたしばっかり‥‥」
　荒い息のまま恵美子が言う。
「まだまだだよ」
「えっ？」
「まだ安藤を感じさせたい。俺のしたいようにしていいんだろ？」
「いいけど‥‥」
「だったら、もうちょっと舐めさせて」
「あんっ！」
　そう言うなり、卓也は恵美子の秘部を口にふくんでいた。
「ああっ‥‥だめぇ‥‥そんなにしたら‥‥ああんっ‥‥」
　余韻が残っている恵美子は前にも増して悶えはじめる。
　最初は蜜口からクリトリスを往復していた舌先が徐々に下がっていく。
　もう下半身がドロドロに溶けたように感じている恵美子はまだ、それに気がつかず、喘ぎ、悶えている。
　卓也は親指でクリトリスを愛撫しながら蜜口を舐めまわしていた。やがて、その舌先がアヌスから蜜口までを往復するようになった。最初は軽いタッチだったし、クリトリスへの刺激が勝っていたから、そんなところを舐められているとは分からなかったが、舌先がアヌスへ侵入する段になって、その妖しい感覚に驚いた。
「み、三上くん‥‥だめ‥‥そんなとこ‥‥きたないから‥‥」
　恵美子は喘ぎながら懇願する。お尻の穴など汚いだけだと思っていたから、卓也にそんなところを舐められるのは顔から火が出るほど恥ずかしい。反面、クリトリスを責められているせいか、快感が勝ってしまって思うように抵抗ができない。
「だめぇ‥‥だめよ‥‥ゆるして‥‥あうっ！」
　クリトリスへの的確な愛撫でまた大きな波がやってきた。
「いや‥‥いやぁ‥‥あん‥‥ああんっ！」
　身体が硬直する。甘く切ない感覚の後、身体の力が抜ける。そのとき、尿意にも似た何とも言えない感覚とともに卓也の舌が深くアヌスへ侵入してきた。
「いや‥‥おねがい‥‥そこはだめ‥‥ああっ‥‥」
　言葉では抵抗するものの、アヌスへの刺激は甘美なものだった。
　まだクリトリスへの愛撫は止まない。
　最も恥ずかしいところを責められていること、なのに感じてしまっている自分に理性が砕けていくように感じた。
　卓也がしたいなら、もう、どうなってもいいと思った。
　恵美子の中で何かが弾けた。
「だめ‥‥だめぇ‥‥またよ‥‥いく‥‥いっちゃう‥‥」
　もう限界だった。恵美子は我を忘れてオルガスムスの到来を高らかに叫んでいた。